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『3月のライオン』(羽海野チカ)モモちゃん考案の「サンダル錦玉羹」を再現してみた

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普段は「マンガ食堂」というブログで、好きな漫画に出てくる料理を勝手に再現しています。

せっかく寄稿の機会をいただいたので、今回は長年作ってみたかった『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)5巻に登場する「サンダル錦玉羹(きんぎょくかん)」に挑んでみました。

ファンの方はご存じだと思いますが、そもそもどんなものかというと……。
本作の主要登場人物は、主人公で高校生プロ棋士の「桐山零(れい)」と、彼が世話になっている川本家の3姉妹「あかり」「ひなた」「モモ」です。川本家の祖父は和菓子屋「三日月堂」を営んでおり、たびたび彼女たちに「新作和菓子」のアイデアを募っています。

よく夏になると、金魚や鮎をあしらった涼しげな寒天の和菓子「錦玉羹」が出回りますよね。「夏の和菓子」のアイデアを求められた3姉妹も錦玉羹(作中では「水辺シリーズ」として紹介)を提案。「何が浮いていると楽しい?」と聞かれた末っ子のモモちゃんは、こんなアバンギャルドな錦玉羹を考案します。


(C)羽海野チカ/白泉社

水底に沈む片っぽだけのサンダル。水面からワイルドにのぞく水草と葦(あし)。こんなに「夏の夕暮れ」の郷愁を感じさせる風景があるでしょうか。ベテラン職人の祖父も驚愕の発想力です。
作中では商品化はされなかったようですが、もし実現すれば日本の自然や四季を表現してきた和菓子の歴史に新たな1ページが刻まれる……かもしれません。

設計

必要な材料やレシピを整理するため、いったん紙に書き出してみます。
イメージ図を見る限り寒天は2層になっているので、上部は透明な錦玉羹、下部(水底)は小豆羹に。サンダルと水泡は、色をつけた練り切りで再現します。水底の小石は大徳寺納豆、水草と葦はバランと乾麺で……と、書いているうちにイメージが固まってきました。

材料

設計が終われば、次は道具や材料を集めます。

錦玉羹用の型は、浅草の合羽橋で水紋の模様がある丸い容器を購入しました。右の白い容器3つはみんな同じに見えますが、それぞれ微妙にサイズや模様が違います。

しかしどれもお猪口くらいのサイズで、思ったより小さい。果たしてこの容器内にサンダル+水草+葦+小石、という盛りだくさんな世界は表現できるのだろうか……と心配になり、店員のおじさんに「もっと大きなサイズはないか」と聞いてみるも「和菓子は小ぶりが上品なんだから!」と一蹴され、妙に納得しました。

和菓子に使うおもな材料は、新宿の製菓材料店で買いそろえました。粉寒天、こしあん、白こしあん、白玉粉、食紅各種、水あめ。

水底の小石に見立てる大徳寺納豆は、中華食材の豆豉(トウチ)によく似た発酵大豆です。独特の塩味とうま味があり、和菓子のアクセントとして使われることが多いそう。

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水面から飛び出たワイルドな水草と葦は迷った末、お弁当用のバランと素麺(乾麺)で表現してみることに。

練り切りで作るサンダルの見本として、ネットでリカちゃん人形のシューズセットも購入。こんなニッチな商品が一発で手に入るなんて、ありがたい時代ですね。写真のストラップシューズが、作中のサンダルに近いデザインでした。小さくても、なかなか精巧です。

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和菓子作りはほとんど初めてなので、勉強用に参考書籍も買ってみました。
『決定版 和菓子教本』(誠文堂新光社)は全国和菓子協会が監修した本格的な教本。『道具なしで始められる かわいい和菓子』(講談社)は書名の通り、初心者向けのわかりやすい内容でした。本をぱらぱら眺めるだけでも、和菓子ってビジュアルアートの世界だ、と実感しました。洋菓子と比べて材料や製法に制限があるなかで、職人たちはアイデアと技巧を競ってきたんだろうなあ。そう考えると、今回のサンダルも和菓子界を照らす光明になるのかもしれない……。

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作り方

まずは練り切りから作ります。白玉粉、砂糖、水を「1:2:2」の配分で作るのが基本らしい。

耐熱容器に白玉粉(2g)、水(4g)を入れてよく溶き、グラニュー糖(4g)を加えてさらにかき混ぜる。電子レンジで20~30秒かけて、透明な餅状の求肥(ぎゅうひ)を作ります。

混ぜながら火にかけ水分を飛ばした白こしあん(100g)に、上記の求肥を加え、全体がまとまるまでよく混ぜます。

まとまった後は、熱が抜けるまでよく揉みます。ここで空気を含ませることで、生地が白っぽくなり着色映えするそう。完成した生地は乾燥を防ぐため、ラップにくるんでおきます。

次は着色です。生地を小分けにして、それぞれに赤、ピンク、水色の食紅を少量ずつ入れて練り上げます。

これはサンダル用。パン作りなどで使う「スケッパー」で練り上げると、こんなに鮮やかな色に。

水色とピンクは水泡用。これで3色の練り切り生地ができました。

リカちゃんシューズを傍らに、赤い生地でサンダルを作ります。あまり凝った細工にすると寒天に入れたとき潰れて見えてしまうので、サンダルと分かるレベルのシンプルな形状でOKです。(一度失敗しました……)

続いて寒天を作ります。鍋に水(300cc)と粉寒天(4g)を入れて火にかけ、ヘラで混ぜながら数分沸騰させる。火を止め、グラニュー糖(200g)と水あめ(100g)を入れてよく混ぜます。和菓子、イメージと違って全然ヘルシーちゃう……とビビるほどの砂糖の量ですが、透明度の高い錦玉羹を作るにはこのくらい入れる必要があるようです。

水底の部分は、上記の寒天を別の小鍋に1/4ほど取り分け、こしあん(大さじ1~2)を溶かして作ります。

透明な寒天液を型の1/4程度注ぎ、半止まり(液が固まりかけの状態)で小さく丸めたピンクor水色の練り切りを入れます。

続いて寒天液を型の2/3程度まで入れたら、同じく半止まりの状態で練り切りのサンダル、大徳寺納豆を入れます。最後に容器をひっくり返すので、天地逆になるよう注意。一番手前の黒い型にリカちゃんシューズがそのまま突っ込まれていますが、気にしないでください。(そういえばリカちゃんの靴は、子供が誤飲しないように苦い味がすると聞いたことがあります)。

最後にこしあんの寒天液を注いで、固まるまで常温で待ちます。

いよいよ、完成

固まったあと、ひっくり返したのがこちら。

仕上げに水草(お弁当用のバラン)、葦(素麺をオーブンで焼いたもの)をあしらえば、モモちゃんの「サンダル錦玉羹」完成です。

フラッシュをたいて撮影したら、ちょっぴり不穏な感じに……。見た目はかなり個性的ですが、安心してください。味はノーマルな錦玉羹と変わらないので、おいしく食べられます。大納言納豆の塩気がいいアクセントになりました。

ちなみに、モモちゃんの考えた和菓子には、ちゃんとキュートなものもあるんです。

アヒルをあしらった錦玉羹。

アヒルが沈没した錦玉羹(キュ、キュート……)。

モモちゃんの水辺シリーズ、オールスターズです。


「3月のライオン」に関しては、アニメ化と実写映画化が決まっています。三日月堂のお菓子も登場するのかもしれないと思うと、キャストと合わせて今から楽しみです!

著者:梅本ゆうこ

梅本ゆうこ

1979年大阪府生まれ、関東在住。
会社勤めのかたわら、2008年よりブログで漫画に登場する料理(マンガ飯)の再現に取り組む。2012年にリトルモアより書籍「マンガ食堂」を刊行。

ブログ:マンガ食堂
Twitter:@pootan