ダ・ヴィンチ・恐山と申します。
浜辺にいる理由はあとで説明します。ぬか漬けの話をさせてください。
「ぬか漬け」って美味しいですよね。「美味しくないよ」という人は、さようなら。
皆さんは、ぬか漬けがただの漬け物より美味しいのはなぜだと思いますか?
「ぬかに埋まっているから」です。
「ぬかの栄養が染みこむ」とか、そういうことを言いたいのではありません。
こういうことです。
ぬかに埋めた食べ物を掘り出す時のワクワク感ブーストが、ぬか漬けを美味しくしているのではないでしょうか?
そして、この理論が正しいとすれば、どんな食べ物も一回埋めて掘り出せばもっと美味しくなるのではないでしょうか?
すみません、この記事は以上のような雰囲気だけで進行します。
そういうわけで、人たちを浜辺に連れてきました。
第一回「発掘メシの集い」
●参加者
ダ・ヴィンチ・恐山:Webライター/作家
放置されてシナシナになったポテトが好き。
加藤:Webディレクター
おかずを平皿に華状に盛り付けて食べるだけで三割増しで美味しく感じる。
ARuFa:ブロガー
ご飯を口いっぱいにほおばって味噌汁で流し込む食べ方が好き。
マンスーン:発明家ライター
なんでもポン酢をつけて食べるのが好きで、ポン酢があれば靴下でも食べられる。
私の仮説が正しければ、この方法で食べるメシは5~18倍は美味くなります。
いまだに趣旨があやふやなんだけど、結局メシを埋めて掘り出して食うだけってこと?
どうなったら勝ちなんですか?
勝ちとか負けじゃないんですよ。なんにもわかってないなあARuFaさんは。これからもそうやって人生の大事なことをみんな取り逃がして生きていくつもりですか? とりあえずやってみればわかりますよ。
なんでそんな僕に辛辣なの?
掘削道具を決めよう
発掘メシで、箸の次に重要なのがスコップ。
4人にはくじ引きでそれぞれ別の道具が与えられます。
恐山のスコップ、ちっちゃ。でかめのスプーンじゃん。
いやいやいや……でかけりゃいいってもんじゃないんですよ。繊細さも大事なんだから。それに言うほど小さくないし。
いや、ちっちゃいでしょ。加藤さんのやつと比べると1/5くらいだし。
そういう表面上の優劣にこだわっていると、いつか足元をすくわれることになるんですよ、ARuFaさん。そして、もがけばもがくほど足をとられて身動きできなくなっていく。まるで流砂に飲まれるアリのように。
僕、なんかしました?
さて、準備は整いました。持ってきた食べ物を埋めに行きましょう!
4人は本日のディナーテーブルとなる砂浜へ駆け出していきました。
発掘メシ……スタート!
スコップを置いて無意味に走ってしまったのですぐに戻ってきた。
まずは埋めてみる
それぞれが思い思いの場所に食べ物を埋めていきます。もちろん衛生面を考慮して、食べ物は密閉した容器に入れています。発掘メシにおける最低限のマナーです。
みんな埋めましたね? どうでしたか、食べ物を埋めてみた感想は。
なんか、埋めてて脳がカクつく感じがした。普段絶対やらない動作だから。
食べ物が砂に埋もれてくの見ながら「こんなことしていいのかな」と思った。
そういう罪悪感も一回埋めちゃえばどんどん薄れて平気になるから。
新兵にレクチャーする瞳の濁った軍人かよ。
埋めた場所は砂の色が変わるので、なんとなく目印とすることに。
しかしこれが後に大きな波乱を招くことになるとは、このときは知るよしもなかったのです……。
じゃあ、さっそく掘り返して食べましょう。
もう掘り返すの? 今埋めたばっかなのに。
なんなんだ、この営みは。
掘り返す ~1巡目~
まずはマンスーンが発掘を始めます。
全部で8つの食べ物が眠っているので、チャンスは2回。もちろん自分で埋めたやつはダメです。
果たして宝を掘り当てることはできるのか……?
「メシを食べるぞ」ってモチベーションが穴掘りにつながってることの意味が自分でぜんぜん分からない。
あ! なんか埋まってる! タッパーだ!
さっき埋めたんだから出てくるのは当たり前なんだけどワクワクはするなあ。
待って、タッパーのほかにも埋まってる!
牛乳だー!!
じゃあ、タッパーの中身は……
グラノーラ的なやつだーー!!
おがくずじゃん。
おめでとうございます! さっそく食べちゃってください!
地中から出てきたグラノーラに、地中から出てきた牛乳をかけるマンスーン。
なんだこれ。
いただきます。もぐもぐ……
どうですか? 美味しくなってますか?
埋めたおかげで美味しくなったかっていうと……うーん。
いや、絶対美味しくなってるはずですよ。その舌は飾りですか?
厳しいなあ。
マンスーンの反応が芳しくないので次の発掘に移ります。
次に発掘するのは加藤。最大サイズのスコップでやすやすと掘り進めていきます。
やっぱこれ掘りやすいな~。あっ! もうなんかあった!
ガチャポンのカプセル……?
開けてみてください。
おはぎだ……。
うわ~。うわ~。
大丈夫? これ食べて大丈夫なやつ?
ちゃんと洗浄して穴も塞いであるので大丈夫です。
美味いっちゃ美味いけど、シチュエーションが異常すぎて味に意識がいかない。
おかしいな……理論上は美味いはずなんだけど……。
続いてARuFaが発掘に挑みます。掘りつつ終始「なんなんだ」とつぶやいていました。
うわっ。
土の重みでベッコベコになった平べったい箱が出てきた。
だいたい察しがついた。
ピザだーーー!!
おおー! これは「当たり」じゃないですか!?
やっと発掘メシの楽しみ方がわかってきたみたいですね。
あ、ウマい! シーフードピザ!
海辺ですからね。
海辺だとシーフードなの?
一巡目の最後は恐山。言い出しっぺなので、自然と掘削にも力が入ります。
しかし、なかなか思うように掘り進められません。
スコップちっちゃ。なにこれ。ぜんぜん掘れん。
ついに認めた。
くそう……なんでこんな目に……。
全部自分でやったことだろ。
すると……
あ!!
これは……SUSHI!?
穴の奥から「完成した寿司」がチラ見えしている状況がよくわからなくて、このあとみんなでしばらく笑いました。
なぜこんなところに寿司が……核戦争から生き延びようとしたのでしょうか?
どうですか?
美味しい……寿司の旨味が土中で熟成して普通より完全に美味しくなっている……
もうそういうことにしときましょう。
掘り返す ~2巡目~
そんなこんなで二巡目がスタート。
上空のトンビが物欲しげに下を狙っていますが、食べ物は土中にあるので手も足も出せません。トンビ対策にも有効、発掘メシ!
マンスーンが鍋を掘り出しました。
もしかして汁物? 汁物はやだなぁ……。
放置されてスープを完全に吸い込んだブヨブヨのチキンラーメンでした。
結果的に汁物ではなくてよかったですね。
もう自分の中の基準が揺らぎすぎてて、これが当たりなのか外れなのかわからない。
おそるおそるブヨブヨラーメンを口にするマンスーン。
……あれ! 意外とうまい。むしろ、かなり美味しい!
おお! これは「10分どん兵衛」ならぬ「1時間地中チキンラーメン」として流行するんじゃないですか!?
地中の要素が余計。
かたや、ARuFaはかりんとうを掘り出しました。「この見た目、『完全に』じゃん」とよくわからないことを言っていましたが、食べてもらいました。
うわ~……これ、地熱で人肌にほんのりあったかくなってて……何とは言わないけど「完全に」だよこれ~。うわ~。
これ、周りの知らない人たちが見たらどう思うんだろうね。
やめてよ。
次の宝物を探してザクザクと掘り進める加藤。
やっぱりこのスコップ、便利だわ。掘れる土の量が違うもん。
ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、パキッ。
あ。
…………。
何かが「終わる音」が聞こえ、凍りつく一同。恐る恐るスコップの矛先にあるものを取り出してみることに。
砂まみれのチャーシュー……。
ブシャーーーーー!
うめえ。
なんの迷いもなく洗って食べた……。これが「発掘メシ」の世界……。
何がおかしくて、何がおかしくないのか。一度土に埋めて掘り返して食べるだけで、そんな簡単なことが全くわからなくなってしまう。この頃になると、全員のテンションが妙なことになっていた気がします。
残る品は1品。恐山がラスト掘削を開始します。
やっぱりスコップは小さいほうが宝を壊すリスクもないですね。
しかし……出てこない。どこを掘ってもまったく出てくる気配がない。
穴を掘って変わった砂の色を目印にしていたのに、時間経過で砂が乾いて同化してしまったのです。
このままでは日が暮れてしまうので、急きょ総動員体制で探します。埋めたのはマンスーンでしたが、正確な場所は忘れてしまったそうです。
ちなみに、何を埋めたんですか。
コーヒー牛乳です……。
「おかしいなあ、このへんにコーヒー牛乳が埋まってるはずなんだけどなあ……」と言いながらそこらじゅうを掘り返すマンスーン。これまでの経緯がなければサイコ野郎にしか見えません。
出てきませんね、コーヒー牛乳……。
一回土に埋めるだけで、事態ってこんなに複雑になるんですね。
地中に生息する「土トンビ」に飲まれちゃったんじゃない?
そうかもしれませんね……。
あきらめムードが漂い始めたその時……
ここ! なんか黒っぽいものが埋まってる……!
来たーー!! ついにコーヒー牛乳を発見……。
待って。
待って。
ピュッ! ピュッ!
うぁ~~~!! …………量が少なくてよくわからない!
フタを外して飲んでみる恐山。
あ、美味しくなってる!
マジか……!
すごいな……発掘メシ……!
待てよ……?
埋めたままっていうのもイケるのでは? このココアを……。
砂に埋めてストローだけ出せば……。
チュ~。
…………!
すごい! 地球を飲んでるみたいでめちゃくちゃ楽しい!
え~!? 地球はココア味ってこと?
ちょっとやらせてみてくださいよ!
あはははは。なにこれ。なんか笑っちゃう。なんだこれ。めっちゃ面白い。
え~? どういうこと?
ハハハハハハハ。
何が起きてるの~?
あはははは。すげえ。笑っちゃうし、量が無限にあるような気がする。
「すごいなー、埋めるだけなのに」「なんでだろう」
「アハハハハハハ」「アハハハハハハハ」「ハハハハハハ」
ハハハハハ。ハハハハハハ。ハハハハハ……。
ハハハ……。
【結論】発掘メシをやると、人はおかしくなる。
著者:ダ・ヴィンチ・恐山
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。作家名義は品田遊。
乾電池の購入やドリンクバーの利用など、多方面で活躍中。
ブログ→品田遊ブログ
Twitterアカウント→@d_v_osorezan