皆様こんにちは。日本のソムリエとしてワインはもちろん國酒「日本酒・焼酎・泡盛」をこよなく愛する伊藤寿彦と申します。
突然ですが、皆さん「IWC」というお酒の祭典をご存知ですか?
International Wine Challenge l IWC l Rigorous, Impartial & Influential
IWCとは、毎年イギリス・ロンドンで開催される世界最大規模、最高峰とされる酒類のコンペティション「International Wine Challenge(インターナショナル ワイン チャレンジ)」を指します。1984年から開催されています。
「最高峰」「最高権威」と称される理由は、
- 審査の「公平性」
- 審査員の「クオリティ」の高さ
- 今日までの「歩み・歴史」
などが、高く国際的評価を得ているからなのです。まさにインターナショナルな“お酒のオリンピック”です。しかも今年はなんと日本酒(SAKE)部門が日本で行われたんですよ!
www.iwc2016hyogo.com
各国から招聘(しょうへい)されるテイスティング審査員を取り仕切るのは、酒類に関する資格として世界最難関、地球上最も取得が難しいとされる「マスター・オブ・ワイン(MW)」の称号を手にした者たち。これもまた大きな信頼の証です。
この資格試験に合格した者はこの60年でたった320名程度。これは宇宙飛行士の数よりも少ない人数なんです。
僭越ながら私も、2013年からIWCのワイン部門と日本酒(SAKE)部門の両審査員を務めさせていただきました。
左上:大橋健一MW/右上:サム・ハロップMW/左下:アネット・スカーフMW/右下:ティム・アトキンMW
IWCの厳しい審査方法や、世界的にこの大会がスゴイと言われる所以について、実体験をもとに説明させていただき、IWCで受賞されたお酒の中からイマ飲むべき日本酒をご紹介したいと思います。
IWCの厳しい審査
公平性
現在、ワイン部門と日本酒(SAKE)部門が設置されています。日本酒部門は2007年に創設され、今年が記念すべき10周年記念大会となりました。
国際的な評価が高い理由として最初に「公平性」を挙げました。IWCは年2回開催され、毎年4月と11月に、1週間をかけてテイスティングを行います。これは南半球、北半球にワイン生産地があることや、おおよそ半年間のぶどう生育期間の違い、熟成期間による時差までも考慮しているためです。
審査方法
審査方法は「ワイン」「日本酒」共に、全く同じ方法を用います。
- Wine部門では、世界中から約300名の審査員が招聘される(うち、約40名ものマスター・オブ・ワインが参加)。
- テイスティングには専用のワイングラスを使用。より正確な審査を行うため、日本酒部門においても「利き猪口」は使用しない。
- アイテムのボトルラベルは一切見えないよう、専用のカバーがされている。特殊形状ボトルについては、事前に運営側の担当者により、主流となっている形状のボトルに詰め替えられる。
- テイスティングにふさわしいとされる室温、お酒の温度に設定されている。
- 審査当日、全体ミーティングで初めて自分が配置されるグループ(テーブル)の審査員5名の名前を知る。
- 趣向に偏りが出るのを防ぐため、同国出身/駐在の審査員が同じグループにならないよう事前に配慮されている。翌日の審査ではまた審査員がシャッフルされ、当日に発表される。
- すべてのアイテムについてグループ全員で英語でディスカッションする。意見しない、話さない、コミュニケーションを取らない審査員は外される。
- 意見が分かれた場合はパネル・チェアマン(リーダー)の意見などを聞き、全体で再テイスティングを実施。
- 品質にアクシデントがあると思われるアイテムが発生した場合は、パネル・チェアマンからさらに上級の審査員となるチェアマン(マスター・オブ・ワインなど)に提出。どのようなアクシデントがあると思われるのかを説明して、それが認められた場合のみ、予備ボトルが用意され、再テイスティングが許可される。
- 複写式のテイスティングシートにコメント、点数などを記載する。英語での記載しか認められない。テイスティングシートは全て回収される。
- 毎日、審査終了後にアンケート記載が義務付けられる。同じグループの審査員全員について、テイスティング能力、コミュニケーション能力を記載する。そして上長にあたるパネル・チェアマンの評価も記載する。成績、印象の悪い者は次の審査に招聘される事はない。
- 加点式で、100点満点中84点以上獲得すれば2回戦へと進むことができる。
- 審査は3回戦まで行われる。3回戦では「Gold Medal」「Silver Medal」「Bronze Medal」と推奨品「commend」に分類される。
- 最終日には、各グループのパネル・チェアマンとマスター・オブ・ワインなど最高責任者たちによって、「Gold Medal」受賞アイテムのみテイスティングを行う。ここでより優れていると判断されたアイテムにのみ、「Trophy」賞が与えられる。さらに各カテゴリーで生まれた「Trophy」アイテムの中から、最高峰の「Champion」が選出される。
- 審査員に任命されても一切のギャランティ(報酬)はない。往復の飛行機代、滞在期間中の宿泊費、食費、全て実費となる。
いかがですか? 選ばれし審査員までも日々審査される審査会なのです。こんなに厳しい審査基準を確立している酒類コンペティションを私は他に聞いたことがありません。
私は飲食店を経営しているのですが、期間中は店をお休みする必要があります。それでも世界中で、任命された者はこのオファーに応えます。それほどに名誉な任命であるのです。
日本ではまだまだIWCの認知度は低いものの、IWCの審査員に任命いただくと、やはりワイナリー関係者、蔵元、製造などに関わる方々からは高い評価をいただけます。その後「商品開発」「蔵での試飲」「ウェブサイトへのコメント提供」「講演・セミナー依頼」など、非常に多くのお声掛けをいただきます。
IWC 2016 日本酒部門
IWCの審査に使われた日本酒専用グラス
SAKE審査会は2016年5月16日、設立10周年を記念して、審査会場をワイン部門のロンドンから日本の兵庫県へと移しました。なぜ兵庫なのか? 全国の日本酒の1/3を生産する「灘」を擁すること。そして、酒造好適米で最高とされる「山田錦」の生誕地であり、山田錦の誕生80周年と重なったこと。そこから「地方創生」を掲げて開催地誘致に全力を挙げたのが兵庫県なのです。
2016年の日本酒部門への出品数は、346社(海外4社)で1282銘柄(海外7銘柄)。カテゴリーは以下の9部門です。
- 普通酒部門
- 本醸造部門
- 純米酒部門
- 純米吟醸部門
- 純米大吟醸部門
- 吟醸部門
- 大吟醸部門
- スパークリング部門
- 古酒部門
テイスティング審査員は14ヶ国から集まった総勢57名。Gold Medal受賞数は、1282銘柄のうち59のみ(約4.6%)。ワイン部門同様、日本酒においても世界最大級のコンペティション、世界で最も狭き門の審査会となりました。
2016年7月7日にロンドンのヒルトンパークレーンホテルでIWC2016授賞式が行われ、Trophy受賞銘柄と最高賞であるChampionが発表されました。
【各部門最優秀Trophy受賞銘柄】
「酒サムライ」公式Webサイト/SAKE SAMURAI Officaial Web Site
- 普通酒部門……蓬莱 天才杜氏の入魂酒/(有)渡辺酒造店(岐阜県)
- 本醸造部門……南部美人 本醸造/(株)南部美人(岩手県)
- 純米酒部門……出羽桜 出羽の里/出羽桜酒造(株)(山形県)
- 純米吟醸部門……御慶事 純米吟醸/青木酒造(株)(茨城県)
- 純米大吟醸部門……天の戸 純米大吟醸35/浅舞酒造(株)(秋田県)
- 吟醸部門……出羽桜 桜花吟醸/出羽桜酒造(株)(山形県)
- 大吟醸部門……陸奥八仙 大吟醸/八戸酒造(株)(青森県)
- スパークリング部門……スパークリング酒 匠/土佐酒造(株)(高知県)
- 古酒部門……古酒 永久の輝/宮下酒造(株)(岡山県)
【世界最高峰 Champion SAKE】
- 純米酒 出羽桜 出羽の里/出羽桜酒造(株)(山形県)
日本での認知度はまだまだですが、2016年には国税庁/農林水産省/内閣府/外務省/経済産業省/観光庁もバックアップしており、国として認められたコンペティションとなりました。
「伊勢志摩サミット」における各国大統領、首相へのお土産の品も、過去の大会で受賞した「IWC Champion SAKE」でした。
他にも歴代のチャンピオン酒は、世界基準で美味しいと認められた日本酒であり、毎年評価が変わってメーカーとの癒着もないなどの理由から、外務省で採用され、全世界の在外公館のレセプションなどで使用されています。
今、買うべき本当にうまいおすすめの酒3つ
2016年は、日本酒がとにかくアツいんです!! イマ飲むべき日本酒を3つご紹介します!
このたびの2016年IWC純米酒部門Gold Medal受賞酒。さらに愛媛県Trophy賞を受賞。
香り味わい共に「槽(ふね)搾り(垂直式圧搾)」からなる柔らかさ、優しさ、ふくらみが感じられる。
華やかさにしっとりと蒸米の香り、複雑性が存在。低めの酸に豊富な旨み。
丁寧さ、石鎚山系からなる美しい「うちぬき」と呼ばれる名水の良さが見事に表現できている素晴らしい作品。
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【2】 勝山 特別純米 LEI SAPPHIRE LABEL/仙台伊達家 勝山酒造(宮城県)
2016年IWC純米吟醸部門Gold Medal受賞「勝山 純米吟醸 献」の蔵の作品。高品質な日本酒を造る蔵元の新しい取り組みによって生まれたニュータイプの「SAKE」。
まず低アルコールに設定されていること。通常16度程度のアルコール度数がある日本酒だが、この作品は12度と、ワインと同等のアルコール度数。それでいて「甘口」。
世界的には現在低アルコール市場で、歴史ある酒造りをしっかりと理解した上で新しい日本酒造りに挑戦しており、醸造テクニックも含め非常に視野の広い運営である。
貴醸酒などとはまた異なる甘味豊かな酒でありながら、食中酒として楽しめる味わいを追求している1本。
この作品の2016年IWC吟醸部門Gold Medal受賞にはいくつかの驚きがあった。
受賞発表後のオープンテイスティングにて強く印象に残ったのは「芳香性豊か」。いやむしろ「強い」との感想を持った。味わいは「アルコール感、酸味、共に若い(荒い)」印象。つまりマイナスの印象をもっていたが……。
待てよ、これは味わいが変わるはずだ! 熟成可能なポテンシャルがあり、これは落ち着きとバランスを立て直す酒だ!と判断。
この状態でのGold Medal受賞は本当にスゴイ。海外からの審査員達の判断力もスゴイ!と思った逸品。3ヶ月ほど冷蔵庫で落ち着かせてからこの本来の良さを味わっていただきたい。
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世界最大級のコンペティションが「日本酒」部門を開設して10年も経過しているにもかかわらず、IWCへの認知がほぼ皆無状態である日本。ワイン、日本酒両部門の日本人審査員は4名のみ。
昨年、日本在住で日本人初のマスター・オブ・ワインとなった「Kenichi OHASHI (大橋健一)MW」。日本、そして世界のワイン史に名を刻みました。大橋MWと平出淑恵氏(日本酒を世界に拡げたキーパーソン)が長年続けてきた日本酒販促への啓蒙活動が、IWC日本酒部門の設立への大きな後押しになりました。
日本のソムリエと、マスター・オブ・ワインは、しっかりとタッグを組んで酒類の販促に貢献していくべきだと私は考えます。
ソムリエは、「食、人、酒、空間」を繋ぐ豊かな環境提案をするエンターテイナーでもあります。酒は、人生をより楽しむためのコミュニケーションツール。日本のソムリエは、今こそ日本の「SAKE」を学び、理解していかなくてはならないと考えています。自国文化を知ることこそが「もてなし」につながります。
日本が世界に誇る「SAKE」は、ちょっとした旅先でも身近な存在。これからも皆さんに手頃な価格で楽しめる日本酒を伝え、ますます豊かで笑顔と発見ある食空間を、わかりやすく演出していきたいと思います。日本のレストランや飲食店のお酒、ワインリストの1ページ目に、「日本のワイン、日本の酒」がならぶ日が来ることを願いながら。
10月1日は「日本酒の日」。ぜひこの機会に最高の日本酒を味わってみてください!
著者:伊藤寿彦(Toshihiko ITO)
愛知県名古屋市出身の元高校球児。ホテルドアマンを経て、ソムリエに。日本のソムリエ、愛猫家、経営者、西麻布のワインバー salon des saluts(サロン・デ・サリュー)のオーナーソムリエ。 IWC Wine部門 、SAKE部門の両審査員を務める現職ソムリエとして日本唯一の存在。トップテイスターの一人であり、ナチュラルワインの火付け役としても知られる。 日本人として、日本のソムリエとしてワインはもちろん國酒「日本酒・焼酎・泡盛」を深く理解し、自国飲食文化継承の為の活動、サービスマン育成に努めている。G8北海道洞爺湖サミットにおいて、各国大統領、首相などの接遇を任命担当する。
※記事公開時、「陸奥八仙 ピンクラベル」の受賞部門について誤りがありました。9月9日(金)18:00に修正いたしました。