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美術展初心者も怖くない! 絵画に潜むサイドストーリーから読み解くアートの楽しみ方

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はじめまして。アートブログ「青い日記帳」主宰のTak(タケ)です。普段は会社員として働きながら、少しでも時間が空けば展覧会に足を運ぶ毎日を送っています。最近ではブログ執筆の傍ら、『カフェのある美術館 素敵な時間を楽しむ』(世界文化社)や『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)など、書籍の執筆や編集協力もさせていただいています。

ルーブル美術館

ルーブル美術館

私がアートにハマったのは、大学へ入学してからでした。それまでさほどアートには関心がなかったのですが、大学の授業で教授に「学生時代にたくさんの芸術に触れておきなさい、それが後々大きな財産になる」と言われてから、美術館へ通うスイッチが入りました。

当然、はじめはよく分からなかったのですが、観続けているうちに当時の作家を取り巻いていた時代背景など、作品に紐付くサイドストーリーに興味を持ちました。すると、それまで点と点でしかなかった作品同士が一つの線として有機的につながり、ますます展覧会にのめり込み、今では年間約300回ほど展覧会に足を運ぶまでになりました。

そんな私が、今回はこの秋から開催される「フェルメール展」「ルーベンス展-バロックの誕生」に出展の作品を例に、作品の背景を知る楽しさ、そして複数の展覧会を対比することで見えてくる"美術の立体的な楽しみ方”の一端をご紹介できればと思います。展覧会に持っていくと便利なグッズも紹介するので、ぜひ最後まで読んでくださいね。

ヨハネス・フェルメール(1632 - 1675)

オランダのデルフトに生まれる。主に日常風景を題材にした風俗画を描き、その独特な色使いや余白の活かし方は世界的に評価が高く、"光の魔術師"とも称される。現存する作品はわずか35点とも言われており、そのうち過去最大の9点が今回の「フェルメール展」には出展される。

ピーテル・パウル・ルーベンス(1577 - 1640)

ベルギーのアントウェルペンで育つ。華麗かつ動的な作風を特徴とするバロック絵画の代表的な画家。王侯貴族をパトロンに持ち、そのダイナミックな作品は人気を博し、“王の画家にして画家の王”と称される。「ルーベンス展-バロックの誕生」では、バロック絵画の中心地であったイタリアとルーベンスの関係に焦点を当てる。

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“何気ない庶民の生活風景を描いた”フェルメール「牛乳を注ぐ女」

フェルメール「牛乳を注ぐ女」

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》
1658年-1660年頃 アムステルダム国立美術館所蔵

17世紀前半のヨーロッパ諸国は、未だに王侯貴族が権力を握っており、絵画はもっぱら一握りのお金持ちのために描かれるのが主流でした。しかし、オランダだけはいち早く市民社会を実現し、絵画の顧客も貴族から身近な市民に移りました。

当時、絵画にはヒエラルキーがあり、一番上が歴史画(宗教画)、日常のヒトコマを描いた風俗画はそれよりも下位に属していました。しかし社会の変化により、はじめのころは宗教画を描いていたフェルメールも、顧客である市民に受け入れられるように風俗画に挑戦し、その過程で生まれたのが「牛乳を注ぐ女」です。

当時のオランダは、質素倹約をモットーとするキリスト教プロテスタントが支配的だったため、食事は質素なものが好まれていました。そのためこの作品でも、乾燥して硬いパンを牛乳に浸そうとしている様子が描かれています。

風俗画の中でもフェルメールが新しかったのは、かつて貴族のために描かれていた宗教画によく使われていた高級な絵の具を風俗画にも用いたことです。例えば、この作品に使われている青は、とても独特な色合いを醸し出していますが、ここにはラピスラズリという貴石が使われています。

このラピスラズリは、中東でしか手に入らないため、非常に高価な代物でしたが、当時のオランダは海洋貿易に積極的にチャレンジしていました。そのため比較的容易に入手できたのではないかと考えられ、まさに当時の先進的なオランダ情勢が生み出したのが、この作品と言えるです。

“当時の最先端の風俗を描いた”フェルメール「手紙を書く女」

フェルメール「手紙を書く女」

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》
1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵

17世紀のオランダが海洋技術に長け、世界を股にかけて活躍していたことは先ほどお話した通りです。グローバル化はこの時代のオランダから始まったと言っても決して過言ではありません。

同時にもう一点、当時のオランダが長けていたのが新しい通信技術である「手紙」の存在です。つまりこの時代にすでに郵便制度が整っていたこと、そして市民が文字を読み書きできたこと(識字率は抜群に高かったそうです)が分かります。

フェルメールの作品には、この「手紙を書く女」を始め、しばしば手紙が登場しますが、それは当時の最先端の通信技術であったからに他なりません。今の時代にフェルメールが存在したなら「パソコンに向かう女」「スマホでメールを読む女」なんて作品を残したことでしょう。

絵画作品と向かい合う時は、当時のその国の文化や宗教だけでなく、こうした生活をとりまく諸事情も頭に入れておくと、より一層楽しめるものです。

オランダの歴史を学ぶには、『フェルメールの帽子――作品から読み解くグローバル化の夜明け』がおすすめ。手前みそですが、拙著『フェルメール会議』でもオランダの歴史を解説しています。

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“貴族相手にゴージャス感満載”ルーベンス「パエトンの墜落」

ルーベンス「パエトンの墜落」

ペーテル・パウル・ルーベンス「パエトンの墜落」
1604-05年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵

一方で、ルーベンスが活躍した17世紀初頭のベルギーは未だに市民社会が成立していませんでした。絵画の顧客は、主に王侯貴族などのお金持ちで、彼らは自分で楽しむだけでなく、人に見せて楽しむものとして絵画を捉えていました。

オランダと対照的なのは、それだけではありません。当時のベルギーでは、華やかな教会を特徴とするキリスト教カトリック派が主流でした。そのため、教会では豪華なステンドグラスや華やかでダイナミックなキリストの生涯を描いた祭壇画を必要としました。

その祭壇画を描いていた人物こそ、ルーベンスなのです。日本で根強い人気を誇るアニメ『フランダースの犬』の終盤、ネロが教会で見上げる作品は、ルーベンスがアントワープ大聖堂に描いた祭壇画「キリストの降架」です。

そんな時代背景から、ルーベンスは王侯貴族や教会をパトロンに持ち、彼らに好まれるために、この「パエトンの墜落」のように派手な色を使い、ダイナミックな構図の作品を大量に描いたのです。

テレビもスマホも、ましてはプロジェクションマッピングもなかった時代(日本では江戸時代初期)に、ルーベンスの描いたダイナミックな作品を目にした人々は、どれほど大きく心を揺さぶられたことか想像に難くありません。「ああ、神様は存在するんだ…」と思わせるに十分な画力と迫力を持った作品です。

”あくまで伝統的なテーマを選ぶ”ルーベンス「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」

ルーベンス「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」

ペーテル・パウル・ルーベンス「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」
1615-16年頃 リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

そして、やはりルーベンスはフェルメールのように、市民の日常生活のヒトコマを描くことはまずしませんでした。一貫して、権力者が好むような歴史画を描きました。

この「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」は、ギリシャ神話のワンシーンを描いたもので、同時代のヨルダーンスほか多くの画家が手がけています。

中央の籠に大事そうに入れられている赤ちゃんをよく見てください。なんと蛇が描かれていますね。この蛇と人間の姿をしている赤ちゃんがエリクトニオス、この奇怪な姿をした赤ん坊を大事に育てようと手を差し伸べているのがアテナです。この後、周囲に描かれているケクロプスの娘たちへ赤ん坊を託し、秘密裏に育ててもらうことを画策しますが……。

ただ、作品を見るだけでは、こんなこと分かりませんよね。ルーベンスがよく描いた歴史画は、ちょっとした事前知識を入れるとグッと楽しく鑑賞できるのです。また歴史画は同じテーマを違う画家が手がけているので、作者によってどのように表現の違いがあるのか比較してみるのも楽しみの一つ。

取っつきにくいと思われがちですが、『名画の謎 ギリシャ神話篇』『名画で読み解く「ギリシア神話」』『イラストで読む ギリシア神話の神々』などは読みやすく、宗教画を学ぶにはうってつけです。

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展覧会に持っていくと便利なグッズたち

一目で観て何が描かれているのか一目瞭然なフェルメール作品に対し、ルーベンス作品はじっくりと時間をかけ調べあげることにより、じわじわと楽しみが得られます。あなたはどちらがお好みでしたでしょうか?

ここで、読者の皆さんの足が美術館の方に向いてきたと信じて、展覧会に持っていくと便利なグッズをいくつか紹介できればと思います。

筆記用具

スマホでもいいかもしれませんが、私は直感で観てグッときた作品や妙に心に響いた作品などをサッとノートにメモしています。

ノート

断片的なキーワードでも、あるのとないのとでは後で振り返る時に雲泥の差です。面倒な人は、展覧会会場にある作品リストに印をつけるだけでも便利ですよ。

トートバッグ

たまに大きなリュックやキャリーケースを美術館に持ち込んでいる方を見かけますが、できれば避けた方が良いと思います。混雑する展覧会などで大きなリュックを背負っている人がいると、そのぶんスペースが取られてしまいますし、本人も荷物が重くて作品にじっくり集中できないのではないでしょうか。

私は展覧会には、スペースを取らず、筆記用具をサッと取り出せるトートバッグがピッタリだと思っています。

トートバッグ

単眼鏡(双眼鏡)

展覧会に行くと、たまに何かを手に持ち、じっくりと絵と向き合っている人がいますよね。それは、おそらく単眼鏡を使っているのでしょう。単眼鏡を使えば、作家の細かな筆使いや筆致が感じられるため、ここぞという場面で活躍します。今、おすすめなのは「Kenko 単眼鏡 ギャラリーEYE」でしょうか。

また双眼鏡もさらに上をいく鑑賞にはお勧めです。私はRICHOの「Papilio 6.5x21」を持ち歩いています。全ての作品に使っていると疲れてしまいますが、好きな作品は双眼鏡で両目でじっくり味わいたいものです。

単眼鏡(双眼鏡)

クリアファイル

展覧会会場に設置されているチラシは、オールカラーで情報も豊富です。しかも一流のデザイナーが手掛けているので、センスの良いものばかり。

そんなチラシを折り畳んでしまうのはもったいないので、展覧会に行くときはA4判のクリアファイルを鞄に忍ばせておきましょう。帰宅したらそのまま保存できますし、これから開催される展覧会の大切な情報源として重宝しますよ。

クリアファイル

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この秋は展覧会に足を運んでみよう

皆さんは意外に思うかもしれませんが、日本は企画展の数が非常に多く、世界的にみてもまれな展覧会大国です。ここで紹介した「フェルメール展」「ルーベンス展-バロックの誕生」は、共に上野公園内の美術館で開催されます。オーバーでもなんでもなく、この秋の上野は世界一贅沢な場所となります。

もちろん、はじめは魅力が分からない作品も多々あるかと思います。ただ、それらが後々つながりを持ち、立体的な鑑賞ができるようになってくるのです。次第に自分なりの見方が確立できれば、ますます展覧会に行くことが楽しくなり、気が付けば美術館に足を向けている自分がいる! となるはずです。

この秋、思いきりおしゃれして展覧会へ出かけてみませんか。

フェルメール展

東京展

会期:2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)
※日時指定入場制
休館日:12月13日(土)
開館時間:開館時間は9:30~20:30(入場は閉館の30分前まで)※日によって異なる場合あり
会場:上野の森美術館 〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2
問い合わせ:0570-008-035(インフォメーションダイヤル)
URL:www.vermeer.jp/

大阪展

会期:2019年2月16日(土)~5月12日(日)
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館、翌日休館)
開館時間:9:30〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
会場:大阪市立美術館 〒543-0063 大阪市天王寺区茶臼山町1-82
問い合わせ:06-4301-7285(大阪市総合コールセンターなにわコール)
URL:vermeer.osaka.jp/

ルーベンス展-バロックの誕生

会期:2018年10月16日(火)〜2019年1月20日(日)
休館日:月曜日(ただし12月24日、1月14日は開館)、2018年12月28日(金)~2019年1月1日(火)、1月15日(火)
開館時間:9時30分〜17時30分(入館は閉館の30分前まで)
※毎週金・土曜日:9:30~20:00(ただし11月17日は9:30~17:30まで)
会場:国立西洋美術館 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
URL: http://www.tbs.co.jp/rubens2018/

著者:Tak(タケ)

Tak

「青い日記帳」主宰。休みともなれば美術館・博物館へ足を運んでいる。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する美術ブロガー。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)、『カフェのある美術館 素敵な時間を楽しむ』(世界文化社)ほか、『美術展の手帖』(小学館)、『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版社)などの編集・執筆も行う。

ブログ:青い日記帳 Twitter:@taktwi

アート入門にも。芸術の世界がグッと身近になる他の話

https://soredoko.jp/entry/2018/05/23/110000

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