こんにちは。ハンバーグ研究家の榎本稔と申します。『榎本ハンバーグ研究所』というハンバーグ専門店で日々ハンバーグを焼いています。
皆さん、ハンバーグは好きですか?
きっと多くの方が「好き!」と答えるのではないでしょうか。私も子供の頃からハンバーグが大好きで、夕食にハンバーグが登場した日はとてもうれしかったことを覚えています。
今回は、大人も子供も大好きな「ハンバーグの魅力」と「家でもできる私流のハンバーグの作り方」をお伝えできればと思います。
- 私とハンバーグ
- 毎日ハンバーグ! 365種類のハンバーグレシピを作ることにした
- 試行錯誤の末にたどり着いた私の理想のハンバーグ
- 自宅で失敗しないハンバーグの作り方
- まだまだハンバーグ愛が止まらない。こんな取り組みも
- 今後の野望
私とハンバーグ
まずは簡単に私の自己紹介をさせていただきます。
私が料理を始めたきっかけは、小学校の家庭科の調理実習です。習った料理を自宅で作ったり、母親の夕食作りを手伝ったりしながら、家族が美味しそうに食べる様子を見て喜びを覚えました。
夕食のメニューがハンバーグの日は、たくさん食べたいからと自分のハンバーグを大きくしたり、遊び心でボール型・細長・超ミニサイズにしてみたりと、子供ながらの好奇心でいろいろと試作。
この頃からハンバーグは調理するのも食べるのも大好きだったんだと思います。
そんな幼少期を経て飲食業界に就職。この頃も休憩時間にハンバーグをこね直してみたり、形を変えてみたり、どうしたらハンバーグがより美味しくなるかと試作していました。
その中で「自分で考案したものやアレンジしたものをお客さんにも食べてもらいたい」という思いが芽生え、両親が経営する実家の喫茶店『コーヒーエノモト』を引き継ぐことに。
もともとあった軽食メニューに洋食メニューを追加すると、ハンバーグの人気が高く、お客さまの要望に応える形でハンバーグメニューの種類が徐々に増えていきました。
そして、やがてはハンバーグ専門店として生まれ変わることになったのです。
毎日ハンバーグ! 365種類のハンバーグレシピを作ることにした
皆さんはハンバーグといったらどんなメニューを思い浮かべますか?
- デミグラスソースハンバーグ
- 和風ハンバーグ
- チーズハンバーグ
- トマトソースハンバーグ
- ガーリックハンバーグ
- クリームソースハンバーグ
- 煮込みハンバーグ
- チーズインハンバーグ
- オニオンソースハンバーグ
多くてこのくらいではないでしょうか。
しかし、ピザのデリバリーチラシを思い浮かべてみてください。季節のメニューやさまざまな工夫を凝らしたメニューが詰まっています。
スパゲッティー専門店のメニューだって、和風スパゲティーだけでも、和風ほうれん草、和風ガーリック、和風カルボナーラ、和風ツナ、和風トマトソースなど、まだまだあります。
子供はデミグラスソース、お父さんはガーリックソース、お母さんはチーズハンバーグ、おじいちゃんとおばあちゃんは和風ソース……こんなふうに、もっといろんなハンバーグを提供できたら喜んでもらえるのはないか。
そうして作り始めるとあっという間に100種類のハンバーグレシピが完成。その後、数年かけてついに300種類に到達し、やがて「もし365種類のハンバーグがあったら毎日違うハンバーグを楽しめるのではないか」と思い立ち、今では400種類近くのレシピがあります。
そうやって生まれたメニューの中には、お店の看板メニューになった「初代しるばーぐ」や「ご飯☆ばーぐ」もあります。
人気第1位のメニュー「初代しるばーぐ」
真夏の食欲がなくなる時期に、どうやったらハンバーグを食べやすくできるかをコンセプトに考案したメニューです。
2番目に好きな食べ物でもあるつけ麺(1番目は当然ハンバーグですね)を食べている時に、「スープの中にご飯を入れたら美味しいのでは?」「チャーシューの代わりに、同じ肉でもあるハンバーグを入れても美味しいのでは?」と思い付き、翌日にさっそく実験。
スープに浸かったハンバーグは出汁を吸い込み、ジューシーさを残しつつもあっさりとした味になり、とても食べやすくなりました。今ではこのメニューをきっかけに「味噌汁ばーぐ」なども生まれています。
外でもハンバーグを楽しめる「ご飯☆ばーぐ」
ハンバーガーやハンバーグサンドのようなファストフード的な「ハンバーグ+ごはん」のスタイルを考えた結果、ハンバーグの中にご飯を入れることになりました。
見た目は普通のハンバーグで、外からハンバーグは見えません。TBSテレビ『マツコの知らない世界』でも紹介され、「おはぎみたい!」というコメントをいただきました。
現在も新作ハンバーグの数は増え続けています。今はお店のスタッフも増えましたので、スタッフからもアイデアを募っています。
試行錯誤の末にたどり着いた私の理想のハンバーグ
このようにハンバーグメニューはさまざまありますが、肝心のベースとなるハンバーグはどのように作っているのか。
当店がある場所は、東京都北区にある「西ヶ原」という立地。昔から長く住み続けている方が多く、ご年配の方やファミリー層が多い住宅街です。
つまり幅広い年齢層に食べてもらうには、飽きのこない「あっさりとしたハンバーグ」が受け入れられるのではないかと考えました。
そんな理想のハンバーグを追い求めた結果、私のハンバーグ作りで欠かせないこだわりがいくつか出てきました。
1.肉の比率
当店のハンバーグは、牛肉:豚肉=6:4の割合になっています。
ビーフステーキを食べた後は口の中が脂っこくなりますよね。一方で豚肉は後味がサラリとしています。これは脂によるのもで、融点(溶ける温度)の違いがあります。
牛脂が40℃~50℃なのに対し、豚脂は30℃~40℃くらいです。つまり口の中の体温で溶けるのは豚脂であって、牛脂は冷めると固まりネトネトした食感になります。
そこでこれらを合びき肉にすることで融点を変化させ、口当たりをよくします。もしもビーフステーキのような「こってりした後味」を重視したければ牛肉の割合を増やし、「あっさりした後味」にしたければ豚肉の割合を3割~4割にするのがおすすめです。
逆に豚肉だけのハンバーグですと、かなりあっさりとした味になります。上質な豚脂であれば手で触っただけでも溶けます。
当店では、この上質な脂をわざわざ新潟から取り寄せてハンバーグに加えています。簡単に手に入るものではありませんが、これらはハンバーグの味、そして肉汁の味を決定付けます。ハンバーグを口に入れた時に最高の体験を得らえるよう、こだわっています。
2.塩
最近はさまざまな塩が手に入りやすくなっていますね。私が試行錯誤の末に行き着いたのは、オーストラリアの塩湖で採れる“500万年前の塩”とも言われる「ミネラルハーヴェスト塩」です。
塩の分量もなかなか苦労しました……。ハンバーグの専門書やレシピサイトを見ると、ひき肉の分量に対して0.8%~1.0%くらいが多いです。それに対して当店では0.7%とかなり少なめの塩分です。
この理由は、いろいろな種類のメニューに対応するためです。例えば、チーズハンバーグの場合は、チーズに塩分が含まれるため、薄味のハンバーグがちょうどいいのです。逆に塩気を強くしたい場合は、焼く前のハンバーグの両面に塩を振りかけてから焼きます。
3.玉ねぎ
調理法によってさまざまな顔を見せる優秀な食材です。
生の玉ねぎは、辛くてシャキシャキとした食感がありますね。そのためハンバーグに生玉ねぎのみじん切りを使うと、その食感を活かした野菜感の強い家庭的なハンバーグになります。私が子供の頃によく食べていたハンバーグもこのタイプです。
飲食店で多く使われているのは、みじん切りにした玉ねぎを色が付くまで軽く炒めたものです。玉ねぎは加熱すると辛さが消え、甘さが出てきます。ひき肉と混ぜると食感はほとんどありません。
最後は数時間かけて飴色になるまでじっくりと炒めた玉ねぎです。そのまま食べても食感はほとんどなく、苦みがあります。そして、濃縮された玉ねぎの旨みがあります。
私のおすすめは2つ目の軽く炒めた玉ねぎをメインに、飴色に炒めた玉ねぎを少し加えることです。炒めた玉ねぎの甘さと濃縮された旨みの両方を加えているというわけです。
4.つなぎ
ハンバーグのつなぎで代表的なものといえばパン粉です。ハンバーグをふんわりと仕上げてくれる効果があり、パン粉の割合を少なめにすると肉々しい食感に、多めにすると柔らかい食感になります。また肉汁を吸うため、ジューシーなハンバーグに仕上がります。
そんないい仕事をするパン粉、私もずっと使っていました。しかし5年程前に、おからや豆腐など、つなぎをいろいろと試してみたことがあります。
その時に発見したのがお麩でした。お吸い物などに浮かんでいる、あのお麩です。
簡単に言うと、お麩はパン粉よりも吸水力が高く、肉汁をハンバーグの中に閉じ込めてくれるんです。ハンバーグは、焼いている間にも肉汁がどんどん流れ出てしまいます。皿に盛られてナイフでカットすると、さらに肉汁が出てしまいます。口の中に届くまでの間にどれだけの肉汁が逃げてしまうことか……!
できるだけハンバーグの中にずっと閉じ込めておいて、食べた瞬間に肉汁がバーッと口の中いっぱいに溢れ出てきたらどうでしょうか。想像してみてください。
……もう言葉では言い表すことができないレベルの至福のひと時です。
もう1つは卵で、これもつなぎです。効果としては、
- 卵白の効果で生地をなめらかにして、成型しやすくする
- 卵黄に含まれるレシチンが脂分を乳化させ、肉汁を口当たりよくまろやかに仕上げてくれる
- 卵のたんぱく質の凝固作用で、バラバラの状態のひき肉をくっつける
- フワフワ感を出す
最近では「ハンバーグには卵を入れる必要はない。昔の肉は鮮度が悪かったから、卵で補っていた」と主張する料理家もいますが、卵は鮮度を補うために入れるんじゃないんです。美味しくするための理由がちゃんとあるんですね。
5.焼き方
よく「ハンバーグをすぐに焦がしてしまうので何かいい方法はないか」という質問を受けます。
焦がす原因は火力にあり、ハンバーグに強火は厳禁です。中火と弱火しか使いません。しかし、この絶妙な火加減がなかなか難しいんです。コツは以下の通り。
- 中火で焼き始めて、徐々に弱火にしていく
- ひっくり返したら中火に戻して、徐々に弱火
- 最後は超弱火で中まで火を通す
実際に当店ではオーブンを使わずにフライパンのみで最後まで焼き上げています。
微妙な火加減やタイミングの見極めはオーブンではできません。フライパンで、最初から最後まで見守りながら、そのハンバーグの状態にあわせて微調整をしてあげるからこそ、最高のハンバーグになるんです。
ハンバーグというのは、焼く人の心が表れると思います。イライラしながら焼くと、焼き過ぎたり、硬くなったりします。鼻歌なんか歌いながらルンルン気分で焼くと、肉汁たっぷりのふっくらジューシーハンバーグが生まれます。
とはいえハンバーグの焼き方は、こだわればこだわるほど奥が深く難しいです。これ以上のことを知りたい人は、当店のキッチンで働いてみませんか(笑)
自宅で失敗しないハンバーグの作り方
ご家庭でハンバーグを作る際も、ちょっとしたポイントを押さえるだけでぐっと美味しく仕上がります。
ポイント1:材料を冷やす
ジューシーなハンバーグを作るには、ハンバーグパテの温度を冷たい状態で維持することが重要です。
材料も常温で放置せずに、できるだけ冷蔵庫で冷やしておき、夏は氷水を張ったボウルで作ります。炒めた熱々の玉ねぎもあら熱をとって冷蔵庫で十分に冷やしておいたものを使います。
ひき肉に混ぜる他の材料も冷やすことで、ひき肉の脂が溶けることを防ぎ、焼いている時の肉汁の流出を抑えてよりジューシーなハンバーグになります。
ポイント2:最初は塩だけで肉をこねる
大きめのボウルに、まず合挽肉と塩を入れ、粘り気が出るまでよく混ぜます。塩にはタンパク質分解作用があり、短時間で挽肉をつなげることができます。手の体温で挽肉の脂が溶けることを最小限に抑えます。
ポイント3:焼くときは強火厳禁
先ほどの通り強火は使わず、中火と弱火だけで焼くこと。
- 中火で焼き始めて、徐々に弱火にしていく
- ひっくり返したら中火に戻して、徐々に弱火
- 最後は超弱火で中まで火を通す
ポイント4:つなぎにお麩を使う
家庭でも、パン粉の代わりにお麩を使ったハンバーグができます。ハンバーグ1人前に対してお麩3g(3個くらい)を細かく砕き、牛乳10ccを加えます。おろし器があると、お麩を簡単に擦りおろすことができるので、大変便利です。
まだまだハンバーグ愛が止まらない。こんな取り組みも
究極の「肉の比率」を実験
ハンバーグ好きが集まる「一般社団法人日本ハンバーグ協会」なるものがあり、私もそこのメンバーとして設立当初より参加しています。
そこでの取り組みがなかなか面白いんです。過去の取り組みでは、「究極のハンバーグ」をみんなで考えるイベントがありました。
牛と豚の挽肉の割合を「1:9」「3:7」「5:5」などと変え、さらに粗挽きとほそ挽きそれぞれのハンバーグをハンバーグマニアの皆さんが食べ比べして投票する、といった内容です。
出張講習会
こちらは、ハンバーグ調理講習会です。美味しいハンバーグを自宅でも食べてほしい、という思いから実施しました。
即興ハンバーグ作り
自分のお店では、お客さまにハンバーグのサイズ・ソース・トッピングを選んでもらい、さらに名前も考えてもらいます。これをもとに世界に1つだけのハンバーグを作るという「オーダーメイドハンバーグ」を2017年の秋からスタート。
400レシピを作成した経験をもとに、その場のひらめきで作っています。
今後の野望
私の経験上、ハンバーグが好きな人に悪い人はいません。だから、私の使命は、世の中のハンバーグ好きを1人でも多く増やすことだと思っています。そうなれば、世界はもっと平和になると信じています。
ちょっと大きなことを言ってみましたが、まずは榎本ハンバーグ研究所の店をもう少し増やしたいですね。現在は東京の北区西ヶ原という場所に1店舗のみ。今後は「榎本チーズハンバーグ研究所」とか、「榎本和風ハンバーグ研究所」とか、もっと細分化したハンバーグ超専門店があってもいいかなと思います。
あとは、寿司や天ぷらなどと並ぶ「和食としてのハンバーグ」を世界へ発信していきたいと思います。外国人観光客の皆さんが、日本に来たらハンバーグを食べようとなってくれたら、うれしいですね。
余談ですが、今の最新作ハンバーグがこちら。「祝・令和ハンバーグ」です。これが、外国人のお客さまにとても喜ばれています。
長々と書きつづってきましたが、いかがでしたでしょうか。榎本ワールドに興味を持っていただけましたか? 「ハンバーグで世界平和」を一緒に目指してくださる方いらっしゃいましたら、お待ちしております。
著者:榎本稔
株式会社榎研代表取締役。一般社団法人日本ハンバーグ協会アドバイザー。 1974年生まれ。ハンバーグ研究家。調理師、ジュニア野菜ソムリエ。子供の頃から、ハンバーグが食卓に並ぶのが楽しみ。小学生の頃から料理にハマる。以来、「自分が食べたくなるものを作る」ことを基本として調理の腕を磨く。ファミリーレストラン「ジョナサン」に就職するが、個性的な食へのこだわりから退職。両親の経営する喫茶店「コーヒーエノモト」を継ぎ、数々の新作ハンバーグを生み出す。2015年、ハンバーグ専門店「榎本ハンバーグ研究所」を設立し、テレビ、雑誌でも度々取り上げられている。 現在のオリジナルハンバーグレシピ数は400種類以上。東京都北区/榎本ハンバーグ研究所(旧コーヒーエノモト)
榎本ハンバーグ大学
今回紹介した商品
【楽天市場】 ミネラルハーヴェスト塩
【楽天市場】 おろし器
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