今年で6回目となる、地味な仮装イベント「地味ハロウィン」。
ある日、ソレドコ編集部の担当者から「地味ハロウィン、めっちゃ参加したくないですか? ちなみに、今年は楽天が協賛しているんですよ。取材って名目で行きません?」というお誘いがあった。
かくいう筆者も、毎年参加したいとは思っているものの、いざとなると二の足を踏んでしまう。地味な仮装を考えるのは意外と難しいのだ。一度、考え始めてしまうとなにが派手でなにが地味なのか、そしてなにが面白いのかが分からなくなってくる。
そんな悩みを正直に告白したところ、「じゃあ、一緒に教えてもらいましょうよ!」と、地味ハロウィンを主催するデイリーポータルZ(以下、DPZ)の林さんの元へアドバイスを請いに行くことになった。
ゾンビや魔女のように派手な仮装ではなく、「こんな人いるいる~!」といった微妙なポイントをついた仮装を楽しむイベント。
毎年イベント開催時には「#地味ハロウィン」がTwitterでトレンド入りするなど、めちゃくちゃ盛り上がっている。
規模は年々大きくなっていて、昨年2018年はなんと800人以上が参加したそう。ちなみに、2019年は10月27日に渋谷の「東京カルチャーカルチャー」にて開催される。
地味な仮装はこじつけでもOK!
そんなわけで、DPZ編集部がある「イッツ・コミュニケーションズ」にソレドコ編集部とやってきた。
今回は林さん(中央)をはじめ、DPZ編集部の古賀さん(右)と藤原さん(左)にも地味ハロウィンの仮装について、アドバイスを請う。
——さっそくなんですけど、地味ハロウィンってどんな仮装をすればいいんですかね?
「特に明確なルールは設けてないんですけど、本家のハロウィンみたいな派手な仮装は禁止しています。例えば、渋谷の街だったらゾンビや魔女などが当たり前ですが、地味ハロウィンではそういうのは避けてもらってますね」
——みなさん、日常生活の中で『あぁ~こういう人いるわ~』っていう絶妙なところをついてきますよね。
「そうですね。初めは何の仮装か分からなくても、説明されると妙に納得してしまう。ただスーツを着ているだけでも『〇〇の時のサラリーマン』とかシーンを限定してしまえば、その仮装に見えちゃうわけですから」
――日常のワンシーンをいかに切り取るかがポイント、なんですかね。
「昨日、UberEATSの人がしゃがみこんで休憩してたんですよ。それを見て、この人、地味ハロウィンにいそうだなって思いました。UberEATSの配達中に休憩する人の仮装」
――そんなセンスのいい視点や発想が僕にはないんですが……。
「そんなに難しく考えなくて大丈夫ですよ。そうだな、ちょっと小野さん立ってもらえますか? その手ぬぐいも頭に巻いてもらって……」
——???
「ほら、スパゲッティを作ってそうな人になりました。カルボナーラが得意」
「独立して、お店を1人で切り盛りしてるタイプですね」
「うどん屋さんっぽさもありますよ」
「オリジナルメニューを創作してそうな雰囲気もある」
「そうなると、うどんカルボナーラ専門店ですか」
「それだね」
「というわけで、小野さんが今日の格好で地味ハロウィンに来ていたら『うどんカルボナーラ専門店の店主』で参加ができますよ」
——言われてみると、しっくりきちゃいますね。まずは服装ありきで、こじつけてしまえばいいと。
「けっこう言ったもん勝ちのところはあります。だから、仮装に合ったネーミングさえしてしまえば、地味ハロウィンはOKなわけです」
——そんなもんですか……。
「今の説明だけでは伝わらないですよね。ちょっと出かけますか」
——え?
「せっかく距離的に近いし*1、ソレドコ編集部も一緒なので楽天へ行きましょう」
楽天社員(40人)を地味ハロウィンに仕立てる
そんなこんなで「楽天」のオフィスへ来てしまった。なんでも、ここで働く「普通の人」たちを捕まえて、地味ハロウィン風の名前をつけていく様子を披露してくれるという。それを参考に、筆者は地味ハロウィン当日に何を着ていくか考えられるというわけだ。
さっそく、めぼしい楽天社員をスカウトすべく待ち構える。
林さん「名前つけさせて」
社員さん「いいよ」
と、フランクに交渉が成立したように書いてしまったが、実際はきちんと関係者が事前に根回しをして、協力を仰いでいたようだ。根回しし過ぎて協力者が集まり過ぎてしまい、最終的には40名にネーミングするという大仕事になった。
その中から、特に地味ハロウィンの趣旨にかなった人たちをピックアップしていこう。
【1人目】
まずはこの方。ごく普通の服装で、常識的なオフィスワーカーである。少なくとも、何かの仮装をしている感じではないが、果たして……?
「ガタイが良い。体育教師っぽくないですか?」
「色合い的には、引っ越し業者もありかと」
「でも、ガジェット系も詳しそうだね」
と、ズバズバ特徴を見出していく3人。勝手なイメージでしゃべっているだけなのに、本当にそういう人に見えてくるから不思議だ。
そして協議の結果、この人の「仮装」はこうなった。
「彫りの深い顔立ちとガジェットが好きそうな雰囲気から決めました。ポロシャツの色もそれっぽいですよね」
(はじめはオフィスワーカーにしか見えなかったのに、いまはどう見てもアップルストアの人だ……!)
この世のガジェットを全て知り尽くしたような頼もしさ、そして、あふれ出るクアラルンプール感。
おそらく参加者の大多数はクアラルンプールのアップルストアがどんなだか知らないだろうから、「言ったもん勝ち」というのは確かにそうかもしれない。
【2人目】
「帰国子女の雰囲気もありますね。『明日からハワイ』とかは?」
「海外志向ですよね。『1杯目からワイン』なんていかがでしょう?」
「久しぶりに会った時に『変わったね〜』って言う人じゃないですか?」
「もしくは、『変わったね〜』って言われるパターンもありそう」
そして、こうなった。
「上京してどんどん綺麗になる従姉妹にしました。都会でバリバリ働いて垢抜けてしまったので、親族の七回忌とかで会ったら緊張しちゃいます」
友人ではなく、「いとこ」と設定をより細かく具体化することで、より仮装とのマッチング度が上がった。なるほど、こうやって仮装の解像度を高めていくわけか。だんだん分かってきたぞ。
以下、どんどん見ていこう。
【3人目】
「ライブハウスの店員っぽい。ロフトプラスワンにいる」
「ヘアメイクさんの雰囲気もありますね」
「そうですね。髪といい、服装といい」
「拠点は海外」
「化粧品のアドバイザーもやってますね。ブランドは、NARSかメイベリン ニューヨーク、M・A・Cあたりか……」
「化粧品ブランドで悩んだ末に、ボビイ ブラウンが一番しっくり来ました。今度、メイクの仕方を教えてほしいですね」
「海外拠点のヘアメイク」というだけでなく、ブランドまで限定することでよりプロフェッショナルな迫力が出た。筆者はボビイ ブラウンを知らないが、あのボビイ ブラウンと契約するくらいだから腕前は確かなのだろう。
【4人目】
「ヒゲがありますけど、爽やかですね」
「充実した土日を過ごしそう」
「アウトドア派ですよね。キャンプ料理が得意」
「カレーにこだわるタイプ」
というわけで、キャンプ料理好きが高じて、ついにダッチオーブンに手を出した人になった。職業ではなく趣味から攻める、こういうアプローチもあるのか。
「ちなみにキャンプはお好きですか?」
ダッチオーブン買った人:「これから好きになります(笑)。次の楽天スーパーセールでダッチオーブン買おうかな」
しっかりコマーシャルをねじこんでくる。デキる社員だ。
【5人目】
「丁寧な暮らし系ですね」
「フリマや骨董市も好きそう。藤原はどう思う?」
「これじゃないですか?」(ホワイトボードに書きながら)
「なるほど。それだ」
「明るい雰囲気と、やはりヘアバンドが大きかったですね。ちょっと商品を紹介する感じをお願いしてもいいですか?」
藤原さん曰く、美容系YouTuberは商品紹介を行う際、顔ではなく化粧品にピントが合うようにこのようなポーズを取るそうだ。なんで詳しいの?
【6人目】
「インテリヤクザの休日?」
「ん〜『eスポーツ』でもいいかもな」
「世界チャンピオン?」
「いや、関東とか茨城とか地域を限定した方が面白いかも」
「ゲームも限定しますか? 最近だと荒野行動とかかな」
「あえて、テトリスの大会とかは?」
「いいですね。なにかのゲームのチャンピオンにしましょう」
eスポーツどこいった?
「一見、文化的な外見なんですけど、どこかスポーティな雰囲気も持ち合わせているんですよね。eスポーツのチャンピオンと最後まで迷いました」
【7人目】
「外科医風ですね」
「服の色がね。う〜ん、難しい。今回はダッチオーブン感がないんだよな〜」
「人生を楽しんでる感じはあるんだけどね」
悩みつつ、こうなった。
せっかくなので、そのシチュエーションを再現。
熱唱中に知らない人が入ってきた時の気まずさがよく出ている。悩んだ時は、こういう誰にでも当てはまりそうなことで強引に突破してしまうのもありみたいだ。
【8人目】
「小道具の缶詰をどう見るかですね」
「防災意識が高い人?」
(小物を持参すれば、それさえも仮装のヒントになるのか……なるほど……!)
「これじゃないですか?」
「特に理由はなく、見たまんまです」
缶詰にあえて意味を持たせず、状況をありのまま語っている。シンプルながら、「缶切りがない人なんだなあ」という妙な納得感がある作品だ。本人に特に困っている感じがなく、あっけらかんとしているのも平和でいい。
【9人目】
「華道とか書道の有段者みたいですね」
「日本舞踊の師匠っぽさも」
「姿勢が良いし、芝居やってそうですよね。小劇場かな?」
「そっち系ですよね。運動神経も良さそうだし、体幹もしっかりしてますもんね」
「舞台俳優っぽいな〜」
「どこか劇団に入れちゃっていいと思うんですよね」
「野田秀樹さんのところにしよう」
「野田秀樹の舞台って、けっこう歌舞伎役者とか能とかの俳優さんを使うんですよね。だから、伝統芸能の俳優として出演するタイプです」
【10人目】
「軽音部のOGじゃない?」
「ボーカルかな。昔は高音が出た」
「海系の感じもありますよね」
「そうだね。海の家の人かな」
「夫はライフガード」
「Facebookの投稿が長い人は?」
「SNS系ね、それは取っておこう。生まれはやっぱり湘南かな〜」
「藤沢……江ノ島……水族館……」
「イルカの調教師ですかね?」
「なんか違うな。彼女は海辺のシェアハウスに住んでるんだよね。で、ビーチの清掃活動をしている」
熟慮の末、こうなった。
「彼女は元サーファーなんですけど、育ててくれた海に恩返しがしたいんですよ。だから、海を綺麗にするNPO法人に入社したんだと思います」
海が似合うという印象を手掛かりに、その人の半生まで透けて見える壮大な仮装になった。勝手なことを言っているが、もちろん彼女はNPOの人ではなく楽天の社員さんである。
【11人目】
「優秀さが漂っていますね。カリフォルニア大学バークレー校またはアイビーリーグ出身」
「ネットワークビジネスの売り上げがすごい人はどうですか?」
「小道具で紙を持ってますけど、何か大事な書類なのかな?」
「登記? 住宅ローン? 過払い金?」
「トレンド的には、変な名前から改名した人じゃないですか?」
「確かに、それにしよう」
トレンドや話題の人を題材にするパターン。世間を揺るがした大事件ではなく「ああ~そういえばそんなことあったね」というくらいのものをチョイスすると、絶妙にちょうどいいラインの仮装になりそうだ。
ほかにもこんなネーミングをしました
パソコンの場合はクリックで拡大します。スマートフォンの場合はピンチアウトしてご覧ください!






























ネーミングを終えて……
こうして普通の人に名前をつけるという、高難度の大喜利が終了。本当におつかれさまです。
――おかげさまで、地味ハロウィンの仮装のコツやポイントが分かりました。
「それは良かったです。コスプレで披露するほどでもない地味な格好、というか普段着でも捉え方次第で立派な仮装になります。それっぽくネーミングさえしてしまえばそういうふうに見えてきますから。きっと共感がもらえるはずですよ」
――なんとなくイケる気がしてきました! さっそく今日帰ったら地味ハロウィン仮装を考えてみます。今日はありがとうございました!
というわけで、本番に向けて仮装を考えているところである。これで「今年こそ、あの熱狂に参加できる……! 地味ハロウィンの沼にはまりそうだ……」とワクワクしています。
2019年の地味ハロウィン
関連特集
プロフィール
著者:小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれの埼玉育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。最近は浅草地下街にハマっています。
Twitter:@onoberkon
やじろべえ:https://www.yajirobe.me/
ソレドコでTwitterやってます!
*1:楽天は二子玉川、DPZ編集部があるイッツ・コミュニケーションズは用賀、と近い