こんにちは。イカを愛するライター、佐野まいけるです。
皆さんは「船凍イカ」をご存じでしょうか?
釣り上げてすぐ船で急速冷凍したイカのことなのですが、新鮮でおいしくて良いことだらけなのです。冷凍したイカは生にはない甘みやねっとり感があって、それはもうおいしい……!
特に一尾ずつ凍結された船凍イカはイカ界の大発明とも呼べる存在なんです。
この偉大な発明がなされたのが、「イカの町」である石川県能登町!
……なのですが、全国的な知名度はイマイチで、実際に今この記事を読んでいる方もピンときていないのではないでしょうか。
こんな偉大な町が認知されていないなんて……! もっと多くの人にスゴさを知ってもらわねばと勝手に使命感を抱いてしまい、この記事を書いています!
2020年にオープンしたてのイカマニア的激アツスポット「つくモール」にて、能登のイカを世界に発信するべく奮闘する名物公務員さんに案内していただきましたよ。
この記事をきっかけに、いかに能登がイカに熱い町なのかを知ってもらえるとうれしいです!
※取材は、緊急事態宣言が解除されたタイミングで行い、新型コロナウイルス感染対策を徹底した上で実施しました
能登のイカのように、知られざる地域の魅力を発見できるかも?
この記事は日本全国のいいもの、美味しいものを紹介している楽天市場「まち楽」の提供でお届けします!
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実はすごいのに全然知られていない「能登のイカ」
今日はイカ愛がものすごい名物公務員さん、灰谷貴光さんに能登のイカについて教えていただきます。イカ界隈では超有名な方なのでお名前は聞き及んでおりました! よろしくお願いします。
光栄です(笑)。こちらこそよろしくお願いします!
石川県能登町役場 ふるさと振興課 地域戦略推進室 主幹。「地方公務員アワード2020」受賞。能登町のイカをあの手この手でアピールしようと奮闘している。
まずは自己紹介がてら、お互いのイカとのなれ初めなどお話しできたらと思います。
私は大人になってから水族館でアオリイカを見たことがきっかけでイカの美しさに目覚めて、生き物としてのイカに取り憑かれている感じです。最近は解剖でイカの中身を観察することにハマっています。
私はまいけるさんとは「イカ沼」への入り方が違いますね。
我が家は、父も祖父も、多分その前もずっとイカ釣り漁師をやってきた家系で、気付いたときにはもうイカ好きでした。いつでもイカが身近にあって、イカがなりわい。イカで大きくなったようなものです。
うらやまし過ぎる! イカ釣り漁師のご家庭なんて、いつでも新鮮なイカが解剖できそう……。
お互いイカ愛が深い者同士というのがわかったところで、能登町のイカについて教えてください。実はお恥ずかしながら……私自身も最近知ったのですが、能登町の小木は「イカの町」なんですよね。
おっしゃるとおり、イカの町です! 1年を通じていろんなイカが見られるのですが、小木はイカの中でもやっぱりスルメイカですね。
スルメイカだと函館や八戸が特に有名ですが、小木はどれくらい獲れるのでしょうか?
実は函館や八戸に次ぐ漁獲量です(※参考:食品データ館「スルメイカの産地・漁獲量ランキング」)。能登町の小木港は、函館、八戸と並んで「イカ三大漁港」に数えられているんですよ。
三大漁港すごい! ……ただ、こんなことを言っては本当に失礼なのですが、正直スルメイカの漁獲地というと函館や八戸が有名で小木港はちょっと印象が薄いような……知らない方が結構多いと思います。なぜなんでしょう?
小木港は能登半島の先端部にあって、海と山の距離がすごく近いんですね。山が海岸線まで迫って来ていて、平地が少ない。そういう地形ですから獲れたイカをその場で加工する場がなくて、どんどんよそへ出荷されていったんです。だから皆さんからしたら「イカの町」というイメージがしづらいのかもしれませんね……。
▲海のすぐ近くまで山が迫っている九十九湾(まいける撮影)
なるほど。函館だとその場で加工できる加工屋さんがあるけれど、小木にはそれがなかったと。
はい。なので、ここで獲れたイカが函館や八戸に出荷されていますね。
え! そうなんですか?! それは加工の原材料として?
原材料もありますし、函館や八戸の一般のご家庭で食べられているイカの中に、小木のイカもあるんですよ。加工用なら何匹かまとめたブロック凍結でいいけど、家庭だと一尾凍結じゃないと不便なので……
あ! それって一尾凍結の「船凍イカ」の話ですよね!? 小木の偉大な発明という……初歩からじっくり聞かせてください!
イカ界の発明だった「一尾凍結」
「船凍イカ」というのは獲れたてのイカを船の上で急速冷凍したものです。特に一尾ずつ冷凍したというのが発明なんです。
昭和40年代半ばくらいまでは、生イカだけだったと聞いています。船は氷を積んでいって、生のイカを冷やしながら持って帰ってきた。
そこから昭和40年代後半にかけて冷凍設備を備えた冷凍船が出てきました。獲ってすぐに「冷凍パン」という四角い容器に入れて凍らせるんですね。それが「船凍イカ」です。
先ほどおっしゃっていた「ブロック凍結」のものですね。
昔は8kgをひとかたまりにしてブロック状に凍結させた船凍イカしかなくて、それがほかの地域へ出荷されていたわけです。加工屋さんへ卸すならそれで問題なかった。
でも首都圏のスーパーにも家庭用としてブロック状の船凍イカを卸していて。皆さんがその8kgの塊をどうされたかというと、分けるために地面に叩きつけて割っていたっていうんですよ。
▲ブロック状の船凍イカ。これを地面に……と思うと悲しいものがありますね(まいける撮影)
イカを地面に叩きつけて割る! それは衝撃的ですね……。
漁師さんからしたらショッキングな話ですよね。それで、家庭用として使いやすいように一尾ごとに冷凍できないかと。昭和50年ごろから試行錯誤して、昭和55年から本格的に一尾凍結した船凍イカが出荷できるようになりました。
▲一尾ずつバラで凍結されたイカ。なんてかわいいんでしょう
一尾凍結の船凍イカが小木発祥といううわさをイカ友から聞いていたんですが、本当だったんですね! イカ界の偉大な発明だ……!
一尾ずつ「波型の冷凍パン」に入れて凍らせていくという方法が小木で確立されました。今ではいろんな地域で使われています。
▲波型の冷凍パンを見せてくれた灰谷さん
これが波型の冷凍パン! 実物見てみたかったんですよ。
え? 真ん中の物体は、もしかしてスルメイカのプラスティネーション標本ですか?? うおおお!!!
▲冷凍パンの底を波型にすることで、一尾凍結が可能になりました。真ん中に置いてあるのがプラスティネーション標本
- プラスティネーション標本……本物の生き物の水分や脂質を合成樹脂に置き換えてあるので、細胞組織を保ったまま保存でき、素手で触れる標本。とても高価。
は、はは(苦笑)。
船凍イカは「冷凍だから」おいしい!
はっ。興奮して取り乱してしまいました……。話を戻します。
小木の船凍イカは少しお値段張りますけど、ブランドものですもんね。イカ仲間でそれぞれ小木の船凍イカを取り寄せて食べたのですが、おいしいのはもちろん、イカのかわいらしい外見も損なわれていなくて大人気でした。
▲船凍イカ出荷用の段ボールには「おぎ、おぎ、おぎ……」の文字
「小木物」として付加価値をつけています。一尾凍結の技術がなかったら、今の小木のイカ釣り漁はこの形になっていたか分からないですね。
また解剖の話になってしまうんですが、小木の船凍イカ、解剖に便利なんですよ。
たくさん買って冷凍庫に忍ばせておけば、いつでも一匹ずつ解剖できる。それに、めちゃめちゃ新鮮なんですよね。新鮮なスルメイカは背中の黒い帯が濃くはっきりしているんですけど、小木の船凍イカはまさにその色のまま凍っている。
普通イカの血って色がないように見えるんですけど、生きて酸素を含んでいるときれいな青色なんです。船凍イカを解剖すると、なんと青いんですよ、血が!
▲船凍イカの解剖。血管の中に青い血液が見える(まいける撮影)
なるほど。その観点では見ていなかったです。新鮮さのアピールとして使えるかも。
もちろん私も解剖の後に食べるのですが、船凍イカを食べて冷凍イカへの考え方が変わりましたよ。「冷凍のイカ、おいしいじゃん!」って。
少し前までは「生」信仰というか、「冷凍より生の方がおいしい」「新鮮で価値が高い」といった風潮が世間的にもあったじゃないですか。
そうですね。以前テレビの取材で「船凍イカは刺し身で食べられるんですか?」って聞かれたんです。「もちろん食べられますよ」と答えましたけど、やっぱり皆さん「冷凍」というと一段下がるようなイメージがあるみたいですね。
私の方が熱くなっちゃいますけど、声を大にして言いたい。「冷凍なのに」おいしいんじゃなくて、「冷凍だから」おいしいぞ、と。
業務用の冷凍設備でしっかり冷凍されているからアニサキスの心配がないし、むしろ安心して刺し身で食べられますね。保存状態が悪い生イカを食べるくらいなら、船凍イカの方がおいしい。
- アニサキス……寄生虫の一種。アニサキス幼虫が寄生している生鮮魚介類を生で食べることで、 食中毒(アニサキス症)を引き起こす。アニサキスの幼虫はマイナス20°Cで24時間以上冷凍すると死滅すると言われている。
獲れたての生イカを食べるとやっぱりおいしいなぁって思いますけど、船凍イカはまた違った良さがあります。ねっとりとした甘み、うまみがあって。このへんは好みなので、小木でも生イカ派と船凍イカ派がいますよ。
私はすっかり船凍イカ派になってしまいました。お酒との相性もいいし。
能登で獲れたイカを能登で食べられるように
イカの駅 つくモール
▲つくモールの外観。イカのマークがかわいい
能登町といえば、観光名所的な「イカの駅 つくモール」ができましたね。オープン前からイカ仲間の間ではその話題で持ち切りでした。この施設についても教えてください。
- イカの駅 つくモール……2020年6月に能登町の情報発信拠点として誕生した観光交流センター。レストランや特産品の直売所、イカ漁展示コーナーなどがある。「日本観光特産大賞2020」で金賞ニューウェーブ賞に選ばれた。
皆さん「能登を観光しよう」となると、輪島市とか珠洲(すず)市とか少し北の方なんですね。
▲能登半島の地図
能登町のあたりは地元の方は来るけど、外からの人の流れがなかったんです。町としても、ここに人の流れが生まれるような拠点を作りたいという狙いがありました。
▲つくモール内の照明は、イカ釣り漁船の集魚灯をイメージしたデザイン(まいける撮影)
▲つくモールから出ている遊覧船。ここにもイカの姿が(まいける撮影)
つくモールではどんなことができますか?
イカ漁の歴史も学べますし、SUPなどのマリンレジャーもでき、九十九湾を一周する遊覧船も出ています。
でも一番大きいのは食ですね。これまで観光で来てくださった方が小木のイカを食べられるようなお店が全然なかったんです。それがつくモールで可能になりました。「船凍イカ丼」も食べられます。
▲「船凍イカ丼」は1番人気のメニュー。船凍イカのねっとりした甘みとごま油の香りがご飯にめちゃめちゃ合います!
▲新メニューの「船凍イカの醤油漬け丼」
地元ではイカをどのように食べるか
お、おいしそう~! つくモールで食べられるメニューもとっても魅力的なんですが、地元の皆さんは、普段どんなふうにイカを召し上がるんですか。
船凍イカでも生イカでも、一番は刺し身ですね。釣ったイカを沖で塩に漬けて、それをさっと焼いて食べる「塩イカ」もすごくおいしいです。塩辛もよく食べます。
▲能登のスーパーでみかけた「汐いか」。灰谷さんがおっしゃっていた「塩いか」はこれのことかな(まいける撮影)
能登の有名な調味料(魚醤)「いしり」もイカの内臓が原料ですよね。私の住んでいる関東ではあまりメジャーな調味料ではないんですけど、やっぱり地元ではよく使われるんでしょうか?
- いしり(いしる)……能登半島に古くから伝わる魚醤。能登町など富山湾に面した内浦地区ではイカの内臓(ゴロ)を原料とし、日本海に面した外浦地区ではイワシ・サバを主な原料としている。日本三大魚醤に数えられている。
スーパーにも売っていますし、普通に使いますよ。たくさん入れるというより隠し味的に使います。鍋とか汁ものが多いですかね。
▲スーパーに売っていた「いしる」。「いしり」と言ったり「いしる」と言ったりするそうです(まいける撮影)
あ~おいしそう。たしかに私も前にいしりをいただいたことがあって、鍋の締めにちょろっと入れて食べたんですが、味に深みが出てとってもおいしいですよね!
いしり自体もそうですが、「いしりラーメン」というのも最近できて、つくモールで買えますよ。こちらもおいしいです。
買いたいものが増えていく……! あと「酢イカ」という郷土料理があると小耳に挟んで気になっているのですが……
さっと茹でたイカにキャベツとか人参とかしょうがとかを詰めて酢に漬けた料理ですね。
手間がかかるので、日常食というよりは晴れの日とかお祭りとかで昔は出されるようなものです。今ではあまり食べられていないですね。
酢イカを食べてみたくていろいろ検索したんですが、お店で食べるようなものじゃないからか見つからなくて……
なんと酢イカもつくモールで買えます! オープンに合わせて商品化したんです。
「イカす会」というイベントがありまして、それを一緒にやっている地元の料理上手な「宮下のおばちゃん」って方がいらっしゃるんですけど。おばちゃんの頭の中のレシピを見える化して商品にしたんです。それで料理が後世に伝わっていくことにもなるし。
▲つくモールで買ってきた「酢イカ」。小豆色の皮と、中に詰められたゲソと野菜が模様になって華やか(まいける撮影)
うれしい! 買えるんですね! レシピが残っていくのもすばらしい……。
つくモールができたおかげで、今まで拠出しているだけだった小木のイカを地元で一次加工して、付加価値を付けて売るという流れができました。家庭で食べていたものを商品化したり、イカに特化した商品を新たに作ったり。
ほかの「イカの町」でも町全体でイカの商品は売っていますが、一つの場所で全部買えるのは珍しいかも。
お客さんの顔が見えるのもいいところです。よそへ出荷しちゃうと誰が買っているか分からないけど、つくモールなら商品を補充したときにお客さんの生の声を聞ける。
作り手にとっても、やる気が出る施設なのですね。お客さん側の視点としては、ここにしかないものがたくさんあって、そしてここに来れば全部買える! というのがありがたいです。
話題になった巨大イカのモニュメントの背景には切実な理由が
ほかにもイカの町、小木ならではというイカスポットなどありますか?
これはもしかして振りですか……?
話しづらいかもしれませんが……(目をじっと見つめて)。
……小木ならではのスポットといえば、やっぱり2021年3月にできたスルメイカの巨大モニュメントですね。
主に県外の方からいろんなご意見をいただきました。私は直接の担当ではないのですが、隣でいろいろと聞いていました。
- スルメイカの巨大モニュメント……能登町が「つくモール」に設置。高さ4メートル、全長13メートル、幅は最大9メートル、重さ5トン。財源に新型コロナウイルス感染症対策の国の地方創生臨時交付金6億8,000万円のうち約2,500万円を充てたことが物議を醸し、国内外のニュースで取り上げられる。6月に「イカキング」と命名された。
▲6月に「イカキング」と命名されたばかり
ニュースなどで全国的にもかなり注目されましたよね。ずっと前からモニュメントができるのを知っていて、私は実物を見られるのをすごく楽しみにしてたんですが。
能登町には大きな工場みたいな製造業がないわけですよ。なおかつ一次産業の割合も16%と高い。石川県の平均は3%ですよ。そんな状態の中で外貨を稼げるのは飲食と宿泊、漁業かなと思うんですね。
コロナの中で旅館もダメ、飲食もダメ、じゃあどうする? と出てきたアイデアが巨大モニュメントだったんです。
「イカの町」小木をもっと全国に知ってもらって、人を呼び込みたいということですね。
コロナ禍のなか、命を守るところと、地域経済の疲弊に対して手当をするところ、どちらもやらないといけない。いろいろと考えた結果(事業)の一つとしてモニュメントでした。
まいけるさんがおっしゃっていた通り、イカというと函館、八戸、そして呼子などのイメージが強いわけです。まずは小木のイカのことを知っていただくという意図です。
あの大きさのモニュメントならインパクト大ですね。一度見たら忘れられない。
遊びに来ていただいた皆さんに、少しでも心に残していただきたいという思いです。
▲巨大イカに捕らえられたポーズ。意外と楽しい!
▲家族連れや小さい子どもたちに大人気の撮影スポットになっていました
つくモールだけじゃない! 能登のイカスポット
イカの町に旅行するときはその土地のイカと出会えるスポットを巡るのが趣味なんですが、つくモール以外に何かおすすめの場所はありますか?
「ここへ行けば変わったイカ料理があるよ」とか「イカ釣り漁船が見られるよ」とか。
例えば7、8月だったら海辺の遊歩道からアオリイカの子どもが見られたり、冬場なら大型イカ釣り漁船が見られたりとかですかね。
アオリイカの子どもかわいいですよね……スルメイカ以外のイカとも出会えるわけですね?
スルメイカ以外だと、釣りをされる方にはやっぱりアオリイカが人気ですね。秋になると町外からもたくさんの人が釣りにいらっしゃいます。
あと地域によって名前が違うかもしれませんが、夏は赤いか、冬は白いかとか……。それから漁師さんがタルイカやソデイカを釣ってくるときもありますね。
その季節だと多分赤いかがケンサキイカで、冬の白いかはヤリイカですかね。ソデイカも釣れるんですね! スルメ、アオリ、ケンサキ、ヤリ、ソデ、これだけで5種類! イカ天国じゃないですか!
ただまあ……まだまだイカを食べられるお店も少ないですし、「ここだ」っていうイカ観光スポットがそんなにない。まさにこれからの課題だと思ってます。
これからどんどんスポットが増えていくとしたら、とても楽しみです。
小木のイカスポットマップをぜひ作りたいですね。季節によって会えるイカも変わってくると思うので、次は晩秋にでも伺いたい!
▲取材後に訪れた「うみとさかなの科学館」。イカ釣りの様子の動画も見られ、イカマニア的にはたまりませんでした!(まいける撮影)
「イカ釣り漁船」を詳しく見る
「アオリイカ」を詳しく見る
「ケンサキイカ」を詳しく見る
「ヤリイカ」を詳しく見る
「ソデイカ」を詳しく見る
イカの全てを体験できるクレイジーな祭り「イカす会」
イカスポットもそうですが、小木といえば「イカす会」というお祭りもあると聞いています。これはどんなお祭りなんでしょうか? 存在を知ったときはすでにコロナ禍で中止になってしまって……
コロナ禍により今年もまた残念ながら中止になっていますが、実は一度途絶えていたものをまた復活させたという経緯があります。
復活する際に「少しクレイジーで凄くおいしい、イカの祭」というキャッチフレーズを考えてもらいました。
イカのつかみ取り、イカ釣り漁船の見学やイカ漁の体験航海、イカの解剖ワークショップ。もちろん模擬店もあってイカを食べられます。イカのつかみ取りは大きなプールにイカを泳がせて、それを捕まえるんですよ。
▲プールで泳ぐイカ! イカ! イカ! イカ! イカ!
生きた! イカを! つかみ取る! 興奮で失神しそうです。ただ、それ準備がめちゃめちゃ大変じゃないですか?
大変です!! イカを生かした状態で持って帰るには、まずいけすが必要。でも大量に入れてもダメ、酸素も入れないとダメ、直接触るとやけどしてしまうので手袋をして扱わないとダメ……
イカを泳がせるプールを作って、そこにポンプを入れて水流を作って、日に焼けないようにカバーをして……と、そういうことを一つひとつクリアしていって、軌道に乗せるのにすごく苦労しました。
本当にすごいことだと思います。イカってそもそもデリケートな生き物ですし、特にスルメイカのような外洋性のイカは狭いところで生かしておくのはすごく難しいんですよね……。
漁師さんにも最初の頃はずいぶん怒られもしました。苦労して生かして獲ってきてもらったイカが、目の前で弱っていくわけです。
でも毎年やるうちにだんだんノウハウが貯まってきましたし、漁師さんもどんどん協力してくださるようになりました。
そこまでしてイカのつかみ取りをするっていう執念がすごい。こんな経験できるのは小木だけですね。地元の子どもたちがうらやましいです!
イカのつかみ取りは他県からも人が集まるくらい人気です。ほかにも「白山丸」という調査船で実際に海に出て、実際の漁のように自動イカ釣り機を回すところを見学できます。
▲調査船「白山丸」
私なんてイカ漁師の息子ですけど、実際にイカ釣り機が回っているところを見たことありませんでしたからね。子どもたちにはよい機会だと思います。
イカ博士によるイカの解剖ワークショップもありますし。イカの釣り方も分かるし、イカの生態も分かるし、食べられるし、触ることもできる。本当にイカの全てが体験できます。
▲過去の「イカす会」の様子。会場はたくさんの人であふれていた
学んでいくことで、子どもたちの中で地域愛、イカ愛が育まれて、将来小木を背負っていく大人になっていくのかな。そのサイクルが回っていったら、どんどん地域が活性化されていきそうですね。私も参加したい!
コロナが落ち着いたら、ぜひ皆さんに来ていただきたいです。
灰谷さんはなぜここまで地元のためにがんばれるの?
いまさらではあるのですが(笑)、そのイカのかぶりものは……?
このかぶりものは2015年くらいからですね。2015年は北陸新幹線が開通して、能登が朝ドラ(2015年放送の「まれ」)の舞台にもなって、NHKから「イカ大王」まで来てくださった。能登が盛り上がってきた感触がありました。
その「イカ大王」を見た子どもたちがすごく喜んでいたんです。
- イカ大王……NHKのバラエティ番組「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」でドランクドラゴンの塚地武雅さんが扮した名物キャラクター。イカの着ぐるみをまとっていた。
大喜びしそう! ちょうどそのころ、ダイオウイカブームが来てましたしね。
で、我々も何か欲しいなと。
なるほど(笑)。イカ大王リスペクトなんですね。
町の人からも私はこのイカのイメージで受け入れられています。
地域創生担当として小中学校の授業もこの状態で出てますからね。イカの町でずっと生きてきた誇りというか、アイデンティティ。これが自分の本当の姿って感じです。
▲「最初は戸惑いましたが、かぶってしまえば自分では見えないから恥ずかしくないんですよ。みんなイカの方の目を見るので目も合わないし……」と灰谷さん。言われてみればたしかに!
かぶりもの、プロモーションにもなるんですよ。よそへ行ったときに、「なんでかぶってるの?」と聞いてもらったのをとっかかりにして「実は能登はイカの町なんですよ」とアピールできます!
抜け目がない! アイスブレイクにも宣伝にもなって、効果抜群だ。
ところで、今は地域創生担当として活躍されていらっしゃいますが、灰谷さん自身はイカ釣り漁師になろうとは思わなかったのでしょうか?
中学時代に出会った先生に憧れて中学教師になりたいと思って、大学まで行ったんですよ。その流れで、漁師になる選択はなかったですね。父も「イカ漁師になれ」とは言わなかったので。
なるほど。でもこうして今はイカに関わっていますよね。
そうですね、結局役場の仕事に就いたんですが……そうこうする内に町からスーパーがなくなって、銀行がなくなって、という感じで一つずつ店が消えていってしまって。
町のシンボルの「イカす会」も1988年から続いていたのに資金難で2008年でいったん終わってしまって。このまま自分は傍観者でいいのだろうかと悩みました。
自分が生まれ育った町が、そんなふうになったら悲しいでしょうね……。
小木地区の同級生たちと「なんとかしないといけないよね」って。自分たちの無力さを感じつつも、それでも地域のために何か一歩踏み出さないといけない。
最初は通学路の草刈りから始まったんですが(笑)、その翌年には「能登小木港スマイルプロジェクト」を発足させて、イカす会の復活に向けて動き出しました。
えっ、行動が早い! それはもしかして、お仕事ではなく、プライベートの時間を使ってですか……?
プライベートでしたね。私は生まれたときからイカと共に暮らしていて、イカを食べて、イカに育てられた。その町の宝に対して恩返しをしたかったんです。
どこの地域にも根付かずに育って暮らしている私からすると、何もかもが違う感覚です。地域愛がすごい。
イカ釣り漁船を見せてもらった
最後に、今日はイカ釣り漁船を見られるように手配しているので行ってみましょうか!
うわー! うれしい!
- イカ釣り漁業……自動イカ釣り機によりイカ針(疑似餌)を海中に投入し、引き上げるときにイカを漁獲する。夜間の場合は漁灯を点灯させ、光に集まるイカを漁獲する。特殊なイカ針を使用するため、イカ以外の魚を混獲することが全くなく、環境や資源にやさしい漁法だという。
こちら、いつも大変お世話になっている漁師さんの太田さんです。
▲笑顔が素敵な太田さん。後ろにイカ釣り漁船が!
▲「船内の魚群探知機とソナーでイカの群れを探します。群れが見つかったら集魚灯でイカを集めて、操作盤で自動イカ釣り機を動かします」(太田さん)。指を指しているのは魚群探知機(まいける撮影)
▲この集魚灯でイカを集める
▲「このカラフルな擬餌針が糸1本あたり20個くらいついていて、それを上下に揺り動かしてイカを誘うんです。自動イカ釣り機だから、マイコン制御で全部やってくれる」(太田さん)
自動イカ釣り機といっても、しゃくりの間隔や強さは、人間が調整するんですよね? そこが漁師さんの腕の見せどころになるわけか……
そうです。うまく群れを見つけて当たったときは、引き上げる針全部にイカがかかっていたこともありました。あのときは興奮しましたね。
小木の漁師さんは皆さん開拓精神があるんですよ。
昔は帆掛け船で北海道まで行ったと聞いています。小木の漁師さんたちは「地域を背負っている」という思いが強いですね。
大漁で帰ってくるときとあまり釣れなかったときとでは、町の雰囲気が全然違うので。「自分たちが稼いでくるぞ」という意識を強く持っていらっしゃいます。
自分たちの町への思いが強いんですね。
最近はイカの量も減ってきていて……。いろんな原因がありますけど、やっぱり能登の里山里海、自然を大切にして海を豊かにするのが大事かなと思っています。
最近のイカ不漁のニュースを読んで、すごく心配しています。
小木も厳しい条件の漁が続いていますね……。
思えば、小木のイカ漁はこれまでも厳しい状況がありましたが、先人の方々は開拓精神で乗り越えてきました。今も漁師さんたちはそれを受け継ぎ頑張っておられます。
私たちもイカをイカしてイカの町に笑顔をつくっていきます。
以上、「イカの町」能登からお届けしました。灰谷さんのただならぬ地元愛とイカ愛に圧倒されっぱなしでした……
▲運が良ければつくモールで生きたスルメイカが見られることも。季節限定かな(まいける撮影)
私は今回ですっかり小木が好きになってしまったので、旅行できるようになったらイカ仲間を連れてまた行きたいと思っています。
今はこのような状況ですが、ぜひ一度、小木の船凍イカを食べてみてほしい! ねっとりとして甘みがあって、本当においしいですよ。落ち着いたらぜひ、能登町にも訪れてイカに浸ってみてほしいです!
おいしい魚介類を食べたくなったあなたへ
著者:佐野まいける
イカを愛する会社員。イカの生き物としての魅力に取り憑かれ、イカの同人誌「いか生活」をvol. 2まで発行。日本いか連合のメンバーとしてイカの魅力を発信している。イカの解剖が趣味。ブログ:キリンはハマグリのなかま
Twitter:@_maicos_
撮影:吉岡栄一(ツキノオト)
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