こんにちは、イシゲスズコです。
小学校の「読み聞かせボランティア」をはじめて3年目になります。
週1~3日ほどいくつかの小学校で、出勤前の朝15分程度を使って、教室で絵本を読むボランティア活動に参加しています。
「読み聞かせの時間」として、同学年の子供たち20~30名程度を対象に、学年やクラスのカラーに合わせた本をセレクトして読んでいます。本の内容によりますが、1回で2~3冊程度読むことが多いです。
活字中毒だった独身時代
図書室や図書館にこもる中高生時代、本を買うお金がなくて持ち帰れない本を眺めては書店に住みたいと本気で思っていた大学生時代、好きな本を買える喜びに溺れて仕事帰りに大型書店や古書店を巡っては浪費していた社会人時代……。
そんな活字中毒だった私が妊娠出産を経て買い集めるようになったのが、絵本でした。
意識高くのぞんだ読み聞かせが……
「絵本を開いたら子供がそれに魅了されて一緒に絵本の世界を堪能できる……」
長男が産まれて少しして、そろそろかしらと低月齢向けの絵本を手に、さあベッドで絵本を読みましょう……と挑んだ私を待っていたのは、こちらの聞かせたいペースはがっつり無視してどんどんページをめくったり、戻したり、突然絵本を閉じたりする傍若無人な息子……。
私の妄想は脆くも崩れ去り、そこに残ったのは絵本をかじったり振り回したり、文字通り「絵本を楽しんでいる」息子の笑顔だけでした。
五味太郎さんのエッセイで触れた言葉
その頃に目にした、絵本作家・五味太郎さんのエッセイの中で、絵本について触れた文章がありました。うろ覚えですが「本は子供が楽しむためのもの、自由にさせていたら後ろから読む子も、ぱらぱらめくる感覚を楽しむ子も、好きな絵を切り抜いて持ち歩く子もいる、それでいい」という主旨のことが書かれていて、目からウロコだったのを覚えています。
<絵本は子供のためのもの、子供が自由に楽しむもの>
これが、今も家や教室で子供たちに絵本を読むときにいつも意識している、私の中のルールのひとつになっています。
「子供たちが楽しむ」絵本を求めて
読み聞かせボランティアを始めてから、毎週どんな本を読もうかと書店や図書館を巡ることが増えました。ネットでいろんな本の書評を読みながら探したり、遠出したときに珍しい本がないか古書店をウロウロしたり。
そんな中、たまたま録画していた番組の中で目にしたのが、絵本作家マック・バーネットさんの講演でした。
マック・バーネット: 良い本が秘密の扉である理由 | TED Talk
彼はこの講演の中で「真実と嘘がうっすらと重なっている部分が芸術、子供たちはこの本当でも嘘でもある不思議な物語の世界の住人であり、大人も芸術を通してその世界にアクセスすることができる」と話しています。
子供と一緒に絵本を開くことはその不思議な世界を生きる子供と大人の間にある、扉を開くようなものなのかもしれません。
パラレルワールドの中で
講演を見て最初に手にしたマック・バーネットさんの絵本が「サムとデイブ、あなをほる」でした。
ストーリーはとてもシンプル。文字通り「サムとデイブがただただ穴を掘る」という絵本なのです。でも、文字では描かれていない部分に大騒ぎする子供たち。起承転結ははっきりしていません、読み終えて悶々とします。その、悶々とする雰囲気の中で子供たちは叫びます。
「もういっかいよんで!」
サムとデイブは、最初は自分と同じような世界に住んでいる住人のように見えます。自分たちと同じような少年2人と、普通っぽい住宅。
でも読み進めていくうちに、虚構の世界がじわりじわりと広がっていきます。
マック・バーネットさんの絵本の中には、子供が自然と入り込むことができるパラレルワールドが広がっています。教室でそれを読むとじわじわとその空気が教室中に広がっていき、気づいたら私もそれを覗かせてもらっている、不思議な空気が流れる絵本です。
日常の中のパラレルワールド
絵本読みで子供の世界を垣間見ていると、子供たちが真実と偽の狭間で生きていることも見えてきます。
大人には組み立てたレゴにしか見えないその塊は飛行機や恐竜として彼らの目には映っていたり、縁石の上を歩いているときにはそこは道路ではなく魔王の神殿に向かう断崖絶壁だったりする。
子供により程度はさまざまですが、その子なりの虚構の世界が日常の中に不思議にリンクしながら、子供たちは生きているのかもしれません。
教室の中で絵本を開くこと
そんな、虚構の扉である絵本を教室の中で開くこと、その意味を最近考えたりしています。
教室は子供たちのリアル中のリアルです。お勉強と、しつけと、生々しい人間関係が渦巻くところ。学年が上がるごとにそのリアル度は増していきます。
そんな子供たちのリアルが詰まった教室、絵本を持ってドアの前に立つとそれぞれのクラスの空気を感じることができます。
楽しそうな雰囲気が伝わるクラスもあれば、殺伐とした空気がドアの向こうから漂ってくるクラスも。そんな教室の中で絵本を開く。毛糸が無限に出てくる不思議な箱が出て来たり、鳥たちが話していたり……。
「アナベルとふしぎなけいと」
どこかはわからないけれど異国だということはわかる、そんなちょっと魅力的な世界が舞台です。
寒く、暗い国、そこで少女アナベルが偶然手に入れた不思議な毛糸とアナベルの手で編み出されていくニットでだんだんと町の人たちが、動物たちが、家や車が変わっていく……。
おとぎ話のような、でもちょっと新しい、そんな不思議な世界に出会える絵本です。
文字が多い絵本なので読み聞かせのときは中~高学年向けかな、おうちで読んであげるなら小さい子にも楽しめると思います。
「でんごんでーす」
こちらは小さい子や小学校低学年の子たちにうけそうな絵本。
舞台は電線に止まった鳥の世界、でもそこに広がっているのは遊びに行った子供と、それを呼ぶお母さん鳥という、ごくありふれた日常です。
電線に止まった鳥たちが、お母さんの伝言を順番に伝えていきます。
伝わるたびに少しずつニュアンスの変わっていく言葉……最後はどうなるんだろう……とドキドキする絵本です。
2冊とも、マック・バーネットさんの絵本らしい、沈黙のページがあります。
文字のない、絵だけのページです。
そのページを開いた時に教室の中がしん……として、絵に子供たちが引き込まれているのを感じることがあります。絵本の世界にみんなで入り込んでいるのかな……と感じる瞬間です。
教室という現実の中でほんの数分間、子供たちが小さかった頃から自分が生きてきたパラレルワールドに戻る瞬間かもしれません。
絵本という、電源もモニターもWi-Fiも要らないメディア。
一冊の本を持ち込むだけで、教室全体が不思議な空間に変わっていく、そしてその時間に触れた絵本の世界にまた戻りたかったら、何度でも自分でその扉をいつでも開くことができる。
そのリンクを子供たちに経験してほしいと思い、学校の司書さんと協力して読み聞かせボランティアが読んだ本のコーナーを図書室に設けたり、家庭向けのおたよりに読んだ本を掲載してもらうなどの試みにも挑戦しています。
手に入れた私の新しい「扉」
この記事を書かせていただくにあたり手に入れた本があります。
まだ日本では翻訳出版されていないバーネット氏の最初の絵本「Billy Twitters and His Blue Whale Problem」(ビリー・ツイッターとシロナガスクジラ問題)。
Billy Twitters and His Blue Whale Problem
英語なのでこのまま子供たちに手渡して読ませることはまだ難しい。
でも絵は見ることができます。
家で子供たちと絵を一緒に見て、お話をそれぞれが想像しながら読んでみるのも楽しそうです。これまでにも「おさるのジョージ」やディズニーのものなど簡単な洋書絵本を子供たちと読んできましたが、五味太郎さんのように子供たちは英語が読めなくてもそれぞれに絵を眺めたり、お話を想像したりしながら、読めない絵本を楽しんでいます。
これから読み聞かせに使えるように、日本語に訳してみようと企んでいます。
おわりに
絵本を読み聞かせる、というと、大人が子供に伝えたいメッセージが込められているものをつい選びがちです。
親として大人として、子供に伝えたいことが私たちの中にはあふれています。それをガミガミ言いたくないから、言葉にするのが難しいからしんどいから、その代わりに絵本を使おうとしてしまうのかもしれません。
もちろん、教訓めいたものや歴史を知らせるものなど、学びにつなげるための本の中にも良い本はたくさんあります。
でも、与える立場として忘れてはいけないと思うのです。
<絵本は子供のためのもの、子供が自由に楽しむもの>
自分が小さい頃に絵本の中の外国のお菓子や素敵なドレスや冒険にワクワクしたように、ちょっと怖い昔話にドキドキしたように、そのドキドキやワクワクを求めて何度も同じ絵本をめくったように、子供たちにとっての楽しいパラレルワールドである絵本を、子供たちが十分に楽しめるための環境を整える、それが読み聞かせボランティアの本当の仕事かもしれない、と最近は思っています。
読み聞かせボランティア活動は子供たちのための活動だという名目ではありますが、実際のところはそんな不思議な世界が大好きな子供だった私が、その世界にお邪魔して一緒に経験させてもらうための自分の楽しみの部分もかなり大きいなぁと感じています。
著者:イシゲスズコ (id:suminotiger)
ぼちぼち働く4児のははです。
色々考えたり、ブログ書いたり、子供たちとあたふたしたりの毎日です。
ブログ:スズコ、考える。 / 読み聞かせしながら、考える。
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