こんにちは、石川と申します。普段はデイリーポータルZというサイトで編集をやっております。
今回はプロジェクターを使って「子供のお着替えを爆速化する方法」を紹介させていただきます。
子供を抱える家庭にとって朝は修羅場じゃないですか。
時間がない中で、超高速で朝食・歯磨き・着替え・持ち物の準備等をこなす必要があり、僕の場合は自分と子供2人の3人分です。この修羅場ぶりはよく「戦場」等と比喩されます。そんな戦場の様子を写真でごらんください。
読書熱心なのはいいことですが、着替えを中断していま読まなくてもいいのではと思うのと、あとよく見ると左にいる次男は室内で長靴を履いてますね。就学前にしてもう学級崩壊です。
しかし戦場というにはちょっとのどかな風景ですよね。そうなんですよ。僕は戦場なんですけど、当の子供たちは大抵ゆっくりのんびりと人生を謳歌しています。言い方を変えると「やる気なし」。
このギャップが問題で、これを放置しておくと無限に出勤時間が遅れていきます。これはたまったもんじゃねえぞということで、今回はテクノロジーを使ってこの問題を解決していこうと思います。
人生最大の敵は己(おのれ)である
とはいえすべて一気に改善するのは難しそうなので、今回は特に時間がかかりがちな「お着替え」に的を絞ることにしました。ボトルネックを見つけて重点的に改善していくのは問題解決の基本ですね。
実はいい手があるんです。お着替えレースの開催です。うちは2人とも男子で勝負心旺盛なので、そこをうまく刺激してやる。ただ問題があって、下の子はまだ1人で着替えができないんです。これじゃあ競争にならない。
そこでお父さんは考えました。こういう場で生きてくるのが大人の人生経験ですよ。人生における最大の敵は誰だと思いますか?それは己(おのれ)なんです。
着替えとキッチンタイマーを用意しました。作戦はこうです。
今日、着替えにかかる時間を測っておきます。で、明日はそのタイムより速く着替える。そうやってタイムアタックをすることで、日々の身支度を高速化していくわけです。シンプルにして名案。
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さっそく試してみた結果がこちらです。
うまくいくと思いました? ダメなんですね、これが。特撮ヒーローをこよなく愛する園児の前ではタイムなんて抽象概念は無力です。最初こそ張り切りましたが、2回目ですでに飽きました。
「敵が見える」こと
やはり子供をだます……いや、やる気にさせるには、可視化が重要です。
仮面ライダーの敵が「時間」だったらどうでしょうか。ちょっと難解じゃないですか。目の前に怪人や悪役ライダーが出てくるから子供は燃えるんですよ。タイマーの液晶に出てくる数字のような抽象概念でなく、目の前の敵と戦ってこそ燃えるのです。それを踏まえて……
単にタイマーでタイムを計るのではなく、こうすることにしました。
- 着替えの様子を動画に撮る
- 次に着替えるときに、動画を見ながら、過去の自分と競争をする
過去の着替えという「敵」が、目の前に出現するわけです。
みなさんはマリオカートをやったことがありますか? タイムアタックをするとき、コース上に以前のプレイを表示させて、それと競争できるようにすることが可能です。半透明の車が、当時自分が操作したのと同じように動いて表示されるんです(ゴーストとかと呼ばれます)。このゴーストに近いことが、動画を使えばできるはずです。
「敵」の撮影
まずは「敵」となる動画を撮影しましょう。ちょっと時間に余裕のありそうな朝、カメラとキッチンタイマーを用意して、その前で着替えてもらいました。
タイマーに2:11と表示されていますね。これは5分からカウントダウンした残り時間なので、今回は2分49秒で着替え終わったことになります。めちゃくちゃ速い。遅いときは15分でも20分でもかかるお着替えがですよ。3分以下!
実はカメラに撮られていることで張り切ってしまい、すごいスピードで着替えてしまいました。途中、Tシャツを前後逆に着てしまいタイムロスしたものの、動作速度としては最速に近い。
敵としてはかなり手ごわいゴーストができてしまいました。果たして次回の彼は、今日の彼に勝てるのか?
等身大というリアリティ
そういえば、動画をどうやって見せるかを考えていませんでした。カメラの液晶画面だとちょっと小さすぎですね。テレビにつないでもいいのですが、せっかくなので等身大で見られるとライバルとしてのリアリティが増し、レースも盛り上がるでしょう。そうなると、必然的に、これです。
「コンパクトプロジェクター」です。「Exquizon T5 小型LEDプロジェクター」というものを買いました。
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今回のために購入したのですが、僕が知らない間に小さく、そして軽くなってて驚きました。しかも想像よりかなり安い。そのうえ……
入力が豊富。HDMI入力はもちろん、SDカードやUSBメモリの動画をそのまま再生できます。あと入力とは別に電源用のUSBポートもついていて、たとえばHDMI出力のついたデバイスをこのUSBから電源を取りつつ再生することもできる。
家にあったChromecastをつないでみました。写真はAndroidスマートフォンの画面を転送しています。Chromecastとプロジェクターの相性は抜群で、他にもYoutubeを見たり動画配信サービスで映画を見たり、用途の宝石箱や~。
細かい話になりますが、Chromecastの電源をプロジェクターのUSB端子から取れるのが地味にいいです。
テンションが上がってしまい、意味なく昔撮影した味のある貼り紙を投影しているところです。撮影地はたしか松山のうどん屋です。家がうどん屋になったみたいで興奮する!
ライバルとの対面
余談でした。プロジェクターの準備が整った翌朝、いよいよ等身大のライバル「己」との対決当日です。
案の定ではありますが、プロジェクターが登場した時点でものすごい食いつきを見せました。「おとうさん、これ何!?」って言いながら真っ先にレンズをのぞきに来ます。そこ見ると目やられるぞ。
※プロジェクターの使用時は子供がレンズに顔面を押し付けていないことを確認してから電源を入れましょう
人生で初めて自宅の壁に絵が浮かび上がり、衝撃を受けています。壁に絵が浮き出るなんてこと、ある……!? 彼が法王なら即、奇跡認定でしょう。
カーテンを閉めて、できるだけ等身大になるようにサイズ合わせをしているところです。興奮のあまり踊り出したい気持ちを全く抑えきれていません。
かなりテンションが上がってしまいました。アドレナリンの出た状態は試合をするうえでも有利に働くかもしれません。
実践
さあ、いよいよ戦いの刻(とき)はきました。己に打ち勝つための戦いです。
動画を再生し、動画内の「スタート!」の声と同時に着替え始めました。
以下、手に汗握るレースの記録です。なお、文中の「ゴースト」は動画中の長男、「本人」は今日の長男です。
Ev. Safronov / Shutterstock.com
※拙宅では朝にシャワーを浴びる関係で全裸スタートとなるため、途中まではイメージ写真でいかせていただきます。
まずスタートと同時に両者くつ下に手をかけます。ほぼ同時に履き終えると、次はゴーストが肌着に、本人がパンツにそれぞれ手をかけました。この選択の違いが今後の試合展開にどう影響するか!?
※拙宅では朝にシャワーを浴びる関係で全裸スタートとなるため、途中まではイメージ写真でいかせていただきます。
肌着の前後の確認に手間取るゴースト。そのあいだに、本人はパンツを着用。続けざまに肌着も着用し、そのタイミングはなんとゴーストとほぼ同時。
ここまでに着用した衣類は以下です。
ゴースト…靴下、肌着
本人………靴下、パンツ、肌着
本人、一歩リード。
続いてゴーストがパンツを履く間に、本人はTシャツを着用。
そしてゴーストがTシャツを着始める頃には、本人は早くも長ズボンを履き始めます。ゴーストに対して衣服1枚分リードしている状況が続いています。
本人が長ズボンに手間取っているあいだにゴーストもTシャツを着終えますが、先ほどお伝えした通り、ゴーストは撮影時に痛恨のミスをしました。Tシャツが前後ろだったのです。着なおしで大きなタイムロス。そのあいだに本人はハンカチをポケットに入れ、お着替え完了!
(見づらいですが左側で本人がバンザイをしています)
(その後、ゆるやかに影絵あそびに移行……)
本人の勝利!!
結果は圧勝でした。ゴーストの撮影時もかなり張り切っていたので、正直そう簡単には勝てないのではないかと思ってたんですよ。しかしやってみると、タイムは前回の2分49秒から大幅に短縮され、1分52秒に!
すげえ。これは彼の人生の最速記録なのではないでしょうか。とにかく手際がよかったので、ゴーストの着まちがえがなかったとしても勝ってたと思います。完勝。
勝利の証としてトロフィーを贈呈しました。プレートには、己に打ち勝ったという意味で「克己」と書いておきました。
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ちなみにこの日は着替えこそ速かったものの、プロジェクターの設営、およびその後の影絵遊びで、普段よりだいぶ出かける時間が遅くなってしまいました。
「早く出かける」という目的から考えると完全に本末転倒ですが、親子のいい思い出ができたのでよかったのではないでしょうか。(詭弁)
意外と長持ちしそう
このレースはかなり楽しかったようで、翌日以降も「競争してお着替えしたい!」と何度もせがまれ、そのたびに2分前後のタイムを叩き出しています。初回に、がんばれば勝てるくらいのちょうどいい動画が撮れたのがよかったかもしれません。もちろん時間短縮効果もバッチリです。
この方法、朝の身支度以外にも、時間がかかってしまう場面にいろいろ応用できるかもしれませんね。プロジェクターがなければテレビでもできますので、みなさまぜひお試しください。
ちなみにプロジェクターは、その後も普通に子供たちのお気に入りになっています。
著者:石川大樹
デイリーポータルZ編集・ライター。
「しょうゆを自動でかけすぎる機械」「メガネに指紋をつける機械」など、嫌がらせ分野を中心として雑な電子工作を制作。DIYギャグ作家。
2014年7月にイベント「技術力の低い人 限定ロボコン(通称:ヘボコン)」を開催、以降ヘボコンマスターとしても活躍。現在25カ国にて130以上の大会が開催されています。趣味はワールドミュージック収集。
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