タコの刺身ってどうしてあんなにもおいしいのでしょうか。
僕はとにかくタコの刺身が好きで、なんというのでしょうか、あの絶妙な歯ごたえにツルンとした感触、それでいて味加減も絶妙。特にその味わいは主張しすぎるわけでもなく、かといって淡白なわけでもなく、いうなれば“海”がそのままギュッと凝縮されたような味わい、それがタコの刺身。そこまで言っても過言ではないのです。
さて、そんな極上においしいタコの刺身ですが、それを彩る味わいとして“醤油”が重要になってきます。
もう1年半ほど前になるでしょうか、他サイトの話で恐縮ですが、あまりにタコの刺身が好きすぎるので、それを味わうには何が最良の醤油なのか気になりまして、100本の醤油を買ってきて延々と味比べをするという狂気の沙汰みたいなことをやったのです。それを記事にして大変な反響をいただきました。
あれから1年半、今回、ソレドコさんから「もう一度、うちのサイトで狂気に身を委ねて踊ってみないか?」とちょっとよく分からない遠回しな提案を受けることになり、そこまでいうならもう一度踊ってみるか、と狂気の輪舞(ロンド)に身を沈めようと決意しかけたのです。いやいや待てよ。100本の醤油をレビューをする、というあの行為は端的に言って地獄でした。歩いても歩いても終わらない醤油ロード、徐々にバカになって来る舌、ジワジワと悲鳴をあげる腎臓(塩分は腎臓で分解されます)、キーボードを打ち続けてパンパンに腫れた手首。あの地獄をもう一度味わえというのか、こいつはバカなんじゃないか、塩分過多と腱鞘炎で殺す気か、腱鞘炎で初の死者を出す気なのか、そう思ったのです。
そんな時にソレドコの担当者は言いました。
「僕が知っている〇〇という醤油がなかったんですよね」
そう、前回は鹿児島にある化け物のような品ぞろえを誇るスーパー、A-Zさんに陳列されている醤油100本を購入したため、結果として多く陳列されていた南九州の醤油を中心に試すこととなりました。つまり、東日本の醤油などが手薄であったわけです。
一説によると、この日本国内には大小さまざま、1000を超える醤油メーカーがあるそうです。それらの会社が複数本の醤油を生み出しているわけですから、その数は何千種類にもなるでしょう。その中から100本となると微々たるものですが、それでも、なんとかタコの刺身に最高に合う醤油を探したい。そう思っているわけです。
つまり、今回はソレドコバージョンということで、前回は試すことができなかった醤油を今回こそ試せ、ということです。マジで頭おかしい。蓋が開きつつある地獄の窯の気配を感じながら、楽天市場を中心に比較的手に入れやすいものをピックアップして入手したものを用いていきたいと思います。
ガチでまた100本買いました。楽天市場で購入したので、連日連夜、狂ったように宅配便で醤油が届き続けるという悪夢のような状態になりましたが、なんとか100本入手しました。そしてテイスティングへと移っていきます。
地道な作業ですが、100本分、延々と繰り返していきます。こうしてテイスティングを行い、レビューを書いてみました。ということでさっそく100本レビュー、行ってみましょう。
ちなみに前回同様、味の評価はあくまでも「ぼく個人がタコの刺身に合うと感じた」という点だけです。醤油の優劣を判定するものではありません。また、5点満点の各項目も優劣ではなく、度合いを示すものです。あと付け加えると僕は驚異的な味音痴です。皆さんが感じる感覚と大きく異なることがありますので、ご了承ください。
No. 001 ヤマサ しょうゆ(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、食塩、大豆(遺伝子組み換えでない)/アルコール
容器………3
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……2
醤油とは習慣だ。そういった意味では、口にする機会が多い醤油こそが、その人が持つ記憶の醤油となる。そしてそれは必然的に家庭で多く用いられていた醤油か、お店によく置かれている醤油、ということになる。僕の場合、その味は前回取り上げたキッコーマンのこいくち醤油になるが、ヤマサのこの醤油もその記憶の味に近いものがある。重要となるポイントは塩味の強さだ。
この醤油は塩味が強いが雑味はない。ただ、絶妙な旨味があり、ある意味安心する味のバランスとなっている。舌触りも良好で、つるんとタコが口の中で滑るのを手助けしている感覚すらある。おそらく万能タイプを目指した味わいなのだろう。大手のメーカーはこういった塩味強めの万能タイプをスタンダード商品として投入してくる。それは業務用など万人向けに必要とされる場面が多いからだろう。
食べ終わった後もしばらく醤油の味が口の中に残る。その味わいに誘発されるようにもう1切れいっちゃおうか、という感じになる。それは醤油に期待されている役割を卒なくこなしているということなのだろう。習慣の中にある味、ヤマサのこの醤油もまさしくその味わいだ。
塩味…4
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 002 ヤマサ 新味醤油(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:食塩、脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、大豆(遺伝子組み換えでない)/アルコール、調味料(アミノ酸等)
容器………1(でかい)
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
いろいろと探してみたが、楽天市場においてはこの業務用かと思うほどの1.8リットルバージョンしか販売していなかった。めちゃくちゃでかい。本当はもうちょっと小さいやつがよかった。
ヤマサのスタンダード醤油に旨味を加えた「まろやかな味わい」という触れ込み。同時に香りと色味も抑えめになっていると感じた。色味の方は、料理を鮮やかに見せるためにわざと薄くしている、みたいなことがラベルに書いてあった。
原材料を見てみると、先ほど取り上げたNo. 001の醤油もそうだが、こちらも脱脂加工大豆を用いている。醤油の原料となる大豆にはおおよそ20%の油分が含まれている。これらを大豆の段階からあらかじめ除いて生産効率を高める、そのために生まれたのが脱脂加工大豆だ。
実に国内流通される醤油の80%が脱脂加工大豆を使っているともいわれている。この種の大豆を用いると醤油の味わいにおいて重要なファクターである「旨味」も出やすいとされている。そんな旨味の出やすい製法に、さらに調味料によって「旨味」をプラスしたのがこの醤油だ。
なるほど、確かに強烈に旨味を足している。もともと塩の味が強いしょうゆにドカンと旨味を足しているので、塩と旨味が衝突している。触れ込みにある「まろやか」とは程遠い味わいだが、個人的にはこの濃い味は好き。濃い味付けを好む人ならきっと気に入ると思う。もちろん、もともと淡白な味わいであるタコの刺身にもあうが、それがタコ本来の味わいかというと疑問符だ。
むしろこれは揚げ物などの主張の強い素材にうまくマッチするように作られたものだろう。1.8リットルで554円(2020年1月現在)とかなりリーズナブルなものになっている。この値段でこの味は完全にお買い得だ。
塩味…4
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 003 鮮度生活 丸大豆しょうゆ 特選(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、食塩
容器………4(注ぎやすい、鮮度キープ)
香り………1
色の濃さ…2(やや赤い)
粘り気……1
鮮度ボトルを使用したヤマサの丸大豆しょうゆだ。しょうゆの天敵は酸化である。つまり、開封からいかにして酸化を防ぐかが重要となる。この鮮度ボトルは開封後も90日間、常温でも酸化を防いで鮮度をキープするという触れ込みだ。
おそらく開発過程でさまざまな試行錯誤やこだわりがあったのだろうと予想できる。その現れなのかラベルにいろいろと書いてある。
これは珍しいことではなく、なぜか醤油の多くはラベルにいろいろ書きがちだ。情報過多になりがちなのだ。ここもこだわった、ここもこだわった、これも書いておこう、となりやすいのだろう。なぜか「ず~っと赤い」とかまで書いてある。おそらく酸化を防いでずっと赤いよ! と言いたいのだろうけど、本当に絶対に記載せねばならない情報なのか疑問が残るところだ。
小皿に出してみると、醤油自体は別にそこまで赤くはなかった。確かにやや赤みを感じるが「ず~っと赤い」と大々的に持ち上げるほどの赤みではないように感じた。
味わいの方は、かなり塩味を強めに仕立てている印象。調味料等が入っていないにもかかわらず旨味も感じるので、これは醤油本来の味わいともいえる。このあたりは丸大豆を原料に使用しているからだろう。脱脂加工大豆に対して、そういった加工をせずに原料に用いることを「丸大豆」で表現する。決して強くないが、まろやかな旨味は丸大豆特有のものだろう。
決して出すぎず、あくまでもタコは主役であるという立ち位置で引き立てるように塩味を浸透させてくる。良い味わいだ。
塩味…4
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 004 鮮度生活 塩分控えめしょうゆ(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、食塩、みりん、大豆(遺伝子組み換えでない)、アルコール
容器………4(注ぎやすい、鮮度キープ、ず~っと赤い)
香り………1
色の濃さ…2(やや赤い)
粘り気……1
こちらも鮮度ボトルを用いたものだ。No.003の醤油の減塩バージョンだろう。また懲りずに、「ず~っと赤い」と書いてあるがやはり醤油自体はとりたてて赤いわけではない。
健康志向の増加によって「減塩」という考え方はかなり重要になっている。醤油においてもその考えが浸透してきているようで、減塩醤油の販売数は多い。ただし、その味わいは難しいところだ。
明らかに薄い素っ気ない味わいでは「やはり減塩だしな」と思われてしまうのだ。そこで多くの醤油メーカーは「減塩なのに普通以上に塩味を感じる」を心がけているように思う。つまり、塩の投入を控えて、そのぶん他の原料で塩味を感じるように工夫されている。この商品においては「みりん」がそれにあたるのだろうと予想できる。
この醤油も例に漏れず減塩と思えないほどに濃厚な塩の風味が口の中を包む。ただ、本来の塩味ではなく、その味は残ることなくすっと引いていき、あとにはみりん的な味わいが残る。おそらくではあるが、微量のみりんを投入することにより、みりんが持つほのかな甘味でわずかばかりの塩味を引き立たせているのではないだろうか。塩をかけるとスイカが甘くなるのと同じ理論だ。
これらの塩を減らして塩味を感じさせる調合は、全体的にまろやかに整った味を実現する。その味わいはタコの刺身にとてもよく合う。
塩味…4
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 005 マルキン こいくちしょうゆ(盛田)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、大豆(遺伝子組換えでない)、アルコール
容器………3
香り………2
色の濃さ…3
粘り気……1
6大しょうゆメーカーという括りがある。
- キッコーマン(千葉県野田市)
- ヤマサ醤油(千葉県銚子市)
- 正田醤油(群馬県館林市)
- ヒゲタ醤油(東京中央区、千葉県銚子市)
- ヒガシマル醤油(兵庫県たつの市)
- マルキン醤油(香川県小豆島)*1
この大手六社で国内流通するしょうゆの約60%を生産しているといわれている。その一角を担う「マルキン」の醤油だ。
香川県は全国5位の醤油生産量を誇っており、そのうちの半数近くが小豆島産だ。その中でもマルキン醤油はかなりの生産量を担っている。
この醤油も大手メーカーが必ずラインアップに加えてくる万能な味わいのものだ。つまり塩味を意図的に強くすることであらゆる味わいにマッチするようにしてある。しかしながら、キッコーマンやヤマサが出すそれらのスタンダード醤油と異なり、後味があまり残らないという大きな特徴がある。
口に運んだ瞬間に独特の風味を持った塩味が広がるが、すっとその味わいが消える。まったく後味が残らない。爽やかさすら感じる口当たりだが、タコの刺身を食べることを考えると、その消え方が少し早すぎる感じがする。その一瞬が過ぎた後の大部分をタコの刺身だけで戦わなくてはならなくなってしまうのだ。
そして、僕はこの味わいをどこかで経験したことがある。ただ、それがどこだったのかは思い出せない。それでも僕はこの味わいを知っている気がするのだ。
塩味…4
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 006 マルキン うすくちしょうゆ(盛田)
品名:うすくちしょうゆ(本醸造)
原材料:食塩、脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、砂糖、大豆(遺伝子組み換えでない)、米、アルコール
容器………3
香り………1
色の濃さ…1
粘り気……1
こちらも小豆島のマルキン醤油のものだ。No. 005の醤油の「うすくち」バージョンである。このことはパッケージデザインが共通していることからも分かる。
ここまでは最もスタンダードな分類である「こいくち」と呼ばれる醤油を取り上げてきた。それとは発酵や熟成の期間、原料が異なる「うすくち」という分類の登場だ。これらは「淡口」と書き、決して味が薄いことを表しているわけではない。
関西を中心に発展してきた分類で、京料理などで重宝されるが、素材の色合いや香りを損なわないよう、見た目の色が薄く香りも控えめな「うすくち」醤油が使われる。ただし、味の方は薄くなく、むしろ塩分が強い。
こちらも小豆島のマルキン醤油のものだが、その特徴をしっかりと引き継いでいる。つまり、「うすくち」の特徴である「強い塩味」「薄い色味」をしっかりと主張しながらも、やはりその味わいがスッと口の中で消える。本来、その強い塩味はタコの刺身の風味を引き出すのに最適だが、このあまりに早い消え方は少し物足りなさを感じてしまう。
ただ、僕はすでにこの醤油のことを知っている。数年前の話になるが、この醤油を抱えていた女性を見たのだ。丸いテーブルの向こう側に座る彼女は、まさしくこの醤油を持っていた。
「マイ醤油を持参する女って変ですかね? でも、ふるさとの味なんですよ」
そう笑った彼女、その時は分からなかったが、きっと小豆島出身だったのだろう。この会話から始まった彼女との時間は、すっと味が消えるこの醤油のように僕にとって物足りなさを感じるものだったのかもしれない。けれども、確かにそこに彼女がいて、僕がいた。
「変ではないと思いますよ」
少しだけ間をおいて答える。いつの間にかゆっくりと船が動き出していた。
塩味…3
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 007 あごだししょうゆ(キッコーマン)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(大豆、小麦を含む)(国内製造)、砂糖、食塩、焼あご、みりん、発酵調味液(小麦、かつお節、おから(大豆を含む))、酵母エキス、にぼし、しいたけエキス、昆布/アルコール、酸味料、甘味料(ステビア)、ビタミンB1
容器………4(注ぎやすい)
香り………4
色の濃さ…1
粘り気……1
うすくち醤油をベースとし、「焼きあご」と「発酵だし」を加えて深い旨味を出そうとしたしょうゆ加工品だ。「焼きあご」とはトビウオを焼き干ししたものだ。白身魚であるトビウオからだしをとることで、上品であっさりとした味わいが得られるといわれている。
「発酵だし」とは、かつお節と“おから”をキッコーマンが独自に開発した麹の力で発酵させたものらしい。旨味とコクが深くなるとうたわれている。つまり、上品で深いコクと旨味を目指した商品なのだろうと思う。
まず、色味がかなり薄い。この見た目なら味わいもかなり薄いと予想したが、そうではなく、確かにコクと旨味がある。この感覚はベースとなっている「うすくち」醤油の特徴を大きく残しているのだろう。非常に味わい深く、さまざまなシーンで活躍できる味だろうと思う。
ただし、これがタコの刺身に合うかといえば疑問符が浮かぶ。アゴの味わいと、かつお節の味わいによってもたらされる魚介的な風味が、完全にタコの風味と衝突してしまうのだ。個性の衝突といってもいい。結果、これらがマッチすることなくそれぞれが別個に存在することになってしまう。つまり、これはタコの刺身にはあまり合わない。ただし、煮物などの味つけには絶大な力を発揮すると思われる。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★
No. 008 有機丸大豆の吟選しょうゆ(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:有機栽培大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、食塩
容器………3
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……2
有機栽培された大豆を原料にしたという触れ込みの商品だ。有機栽培とは、簡単に言ってしまうと化学的に合成された肥料や農薬を使用せず、遺伝子組み換え技術も使わない自然に近い形での栽培だ。
正直に言ってしまうと、有機栽培でそうそう味が変わるもんじゃないだろ、錯覚だろ、と思っていた。確かに有機栽培って手間のかかる栽培で、大変なことだろうと理解していたけど、別にできあがるものはそう変わらんだろ、と思っていた。それに僕は味音痴だ。そんな僕に違いなんて分かるもんか、という考えがあった。
しかしながら、実際に食べてみるとこれが有機栽培の実力かと唸るほどに旨味が強い。すごい。うまい。それもナチュラルな旨味。原料を見ると調味料等が入っていないのにこの旨味である。おそらく大豆が持つ本来の旨味が思いっきり発揮されているのだと思う。有機栽培というだけでこれだけ違うものなのだろうか、まだちょっと半信半疑だ。
単に旨味が強いだけでなく、その旨味が、タコの余韻としていつまでも口の中に響いている心地よさがある。間違いなくタコの刺身に合う。これはすごいぞ。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 009 福寿 国産丸大豆しょうゆ(浅利佐助商店)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(国産)、小麦(国産)、食塩(国産) ※遺伝子組換え大豆は使用しておりません。
容器………3
香り………2
色の濃さ…3
粘り気……2
秋田県の老舗醤油メーカー、浅利佐助商店の醤油。全ての原料で国産のものを使用したという触れ込みだ。
独特の旨味がある。やはり地方が変わるとその地方特有の旨味が味に表れる。その旨味がタコの持つ旨味とほぼ一致しているので口の中で味が一体化する。若干、塩味が強すぎるきらいもあるが、それが気にならないほどに味がマッチしている。ただし、タコが口の中を通り過ぎた後はやや強めの塩味が残る。タコ刺身を酒の肴として食べるならばその後味は心地良いものだ。酒が進む。タコだけを楽しむなら少し後味が強いが、それをカバーしてあまりあるほど旨味のマッチがある。
それにしても、旨味のマッチは重要なファクターだ。人間関係でもその人が持つ人間としての旨味みたいなものがマッチすることは大切なことだ。ちょうど僕と彼女もそういった何かがマッチしたのかもしれない。
数年前の話だ。当時僕は、鹿児島や熊本、宮崎といった南九州と東京を行き来する仕事をしていた。何度目かの往復に疲れ果て、飛行機や空港に飽き飽きしてきた頃、一つの交通手段が目に留まった。それがフェリーだ。
宮崎港から出港し、大阪南港(現在は神戸行き)までいくフェリーだ。夜7時に出港し、朝の7時に到着する12時間の船旅だ。あまり記憶が定かではないが、車を乗せず、人間だけ乗る場合の運賃は8,000円くらいだったと思う。格安航空もそこまで発達しておらず、フェリー後に大阪から東京まで移動する必要があることを考慮してもなかなかにリーズナブルだったと思う。
いち早くフェリーに乗り込み、出港を待った。それでもかなり時間がありそうだった。船内にはレストランがあり、バイキング形式の夕飯が食べられそうだったが、1,300円とまあまあお高かった。そういうこともあろうかと乗船前にコンビニで弁当やつまみ、お酒を買っていた。完全に正解だ。
もうこれらを出港前に食べてしまおうと思ったが、雑魚寝スタイルの二等室で食べるのはさすがにマナー違反だ。どこか食べる場所はないかと船内を物色した。すると、うってつけの場所があった。
バイキングレストランの前から伸びる長い通路は、甲板まで続いていた。その通路の一部はやや広くなっていて、そこに丸い机と椅子が置かれていた。船の揺れ対策のためか、机も椅子も固定されているのが印象的だった。
ここなら弁当を食べるのにうってつけと思ったが、どうやら多くの乗客が同じ考えだったらしく、数セットあるそれらの机はほぼ満員だった。家族連れやおじさんがすでに陣取っていたわけだ。
ただ、2人掛けの机に1つだけ空きがあった。レストランから見て一番奥にあるその机には既に女性が座っていて、まさに弁当を食べようとしているところだった。
「すいません、ここ、空いてますか?」
そう問いかけると、彼女はにっこり笑った。
「どうぞ」
彼女の対面に腰掛け、モゾモゾと弁当を食べていると、彼女がカバンから何かを取り出した。それが1リットルはあろうかという醤油だった。
僕の人生においてもこれほど大きな醤油を持ち歩く女性というのは、祭りの屋台で威勢よくイカを焼いているお姉さんくらいしかいない。明らかに珍しいのでウィンナーを口に運ぶのをやめ、ジッと見ていると彼女がその視線に気づいた。
「マイ醤油を持参する女って変ですか? ふるさとの味なんですよね」
彼女は言い訳するように、少しごまかすようにして笑いながらそう言った。
変ではないけど、それだけでかいのは変だよ、そう思ったが言わなかった。
「変ではないと思いますよ」
僕は知らない女性と気軽に話をするタイプの人間ではない。けれども彼女と僕は何かがマッチしたのかもしれない。そう思ったのだ。
いつの間にか、窓から見える宮崎港の景色が動いていた。船はゆっくりと湾内を進んでいたようだ。まるで何かの物語の始まりのように。
塩味…4
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 010 超特選減塩醤油(チョーコー醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(カナダ)、小麦、食塩
容器………2(でかい、おもい)
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……2
チョーコー醤油とは長崎の醤油会社である。“追い麹仕込み”という製法でしあげた“もろみ”を用いて、醤油本来の風味を損なうことなく塩分を下げているらしい。ホームページの記載によるとおいしさそのままに50%の減塩を達成しているようだ。
これまでの経験上、醤油の世界においては“減塩”をうたう商品は多いが、それらは決して薄味ではなかった。むしろ普通の醤油より強めに醤油的主張、それも塩味的な主張があることが多かった。この醤油もそうだろうと思ったが、そうではなく、若干ではあるが薄めの味付けと感じた。
“追い麹仕込み”という独自の製法が効いているのか、感じる風味は少し独特で、味が薄いだけにその風味を強く感じることになる。人によっては苦手と感じるかもしれない。ただし、タコ本来の旨味を引き出すという点では完全に仕事を果たしており、後味もしつこくない。濃い味付けが苦手で塩分も心配という人にはうってつけだ。
塩味…1
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 011 超特選 有機醤油 うすくち(チョーコー醤油)
品名:有機うすくちしょうゆ(本醸造)
原材料:有機小麦(アメリカ)、有機大豆、食塩、有機米
容器………2
香り………1
色の濃さ…1
粘り気……1
こちらも長崎のチョーコー醤油の商品。「うすくち」ということで、見た目は薄いが、かなり塩味が濃いことが予想される。おまけに、原料に用いている小麦、大豆、米が有機栽培ということだ。有機栽培原料で作った醤油は旨味がものすごいと既に予習済みなので、おそらくこれもかなりのものだと思う。
味わってみると、やはり予想通り旨味とコクが半端ない。完全に有機栽培原料によるものだろう。それでいて「うすくち」なので塩味もかなり強い。
これまでの経験上、「うすくち」はタコに合う。しかしながら有機栽培の力も乗っかり、かなり濃厚で深みのある味わいになっている。かなりおいしい。ただ、その濃厚さは欠点にもなり得る。強い旨味に強い塩味、それらの主張が少し強すぎる。対象が油ものなどの濃厚な食材ならいいが、比較的に淡白なタコではこの醤油を受け止めきれない部分がある。そういった点では一段評価が落ちる。
あまりに主張が強すぎるというのは味においてもそうだが、人間においてもそうだ。
目の前には1リットル容器のマイ醤油を持参する女性。波長が合う、人間的にマッチすると思ったが、冷静に考えると1リットルの醤油はかなり主張が強い。端的に言うとまあまあ頭おかしい。バッグがパンパンになっているじゃないか。
「お仕事ですか?」
それでも彼女はにこやかな笑顔を見せてきた。
「ええ、東京までなのですけど、飛行機に飽きちゃってこの船に乗ったんです。大阪からは新幹線に乗ります。そちらもお仕事ですか?」
そう質問を返すと、彼女は白身フライを弁当容器の端に溜まっていた醤油に押し付けながら笑顔で言った。
「いいえ、彼氏に会いに行くんです。でもしょっちゅう会いに行ってるわけじゃなくて、いつもは高速バスの乗り継ぎなんですけどね。フェリーで行くのは初めてなんですよ」
あ、そうなのね、遠距離恋愛なのね、そう思った。正直に言うと彼女は美人でとても魅力的だった。1リットル醤油と主張の強い部分があるがそれでも魅力的だった。だから何か発展があるかもと期待した部分が確かにあった。あった。うん、あった。
けれども、あらかじめ「それはないよ」と強い主張をされたような感覚がした。やはり強い主張はよくないなあと思う。
「フェリーで彼氏に会いに行くとは風流ですなあ」
動揺した僕は訳の分からないことを言っていた。なんだよ、風流って。
「ええ、風流です」
彼女はそう言って小さく笑った。その笑顔はやはり魅力的だった。フェリーはいつの間にか湾内を出ており、少し強くなった横波を受けて、小さく揺れていた。
塩味…4
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 012 フジダイ しょうゆ(富士大醤油)
品名:こいくちしょうゆ(混合)
原材料:脱脂加工大豆、小麦、食塩、アミノ酸液、糖類(砂糖、ぶどう糖加糖液糖)、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、甘味料(甘草、サッカリンNa)、保存料(安息香酸Na)
容器………3
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……3
こちらも小豆島の富士大醤油の商品だ。
味わいとしては特徴的に甘い。「あまくち」をうたっているわけでもなさそうなのに、とにかく甘い。南九州の醤油のように確信を持った完全なる甘さではなく、旨味の中に感じる甘味程度のものだが確かに甘い。この特徴的な甘みがタコの刺身によくマッチする。刺身を噛めば噛むほどその旨味と甘みが引き出される感覚すらあるのだ。これまでにさまざまな醤油を味わってきたが、このような味の引き出し方は記憶にない。しつこくない味わいはなかなかに好印象だ。
この独特の甘みは小豆島の醤油特有のものだろうか。ここまで味わってきた小豆島産の醤油はどれも特徴的だった。だからこそ、これじゃないとダメ、という人も多いのかもしれない。
塩味…1
甘さ…3
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 013 特級 正田のしょうゆ(正田醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(インド製造、遺伝子組み換えでない)、小麦、食塩、大豆(遺伝子組み換えでない)/アルコール
容器………4
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
前回、奇抜な「バターマヨネーズ」などのしょうゆを連発して猛威を振るった正田さんの正統派しょうゆ。
大手メーカーは必ず塩味強めの万能タイプな「こいくちしょうゆ」をラインアップに加えてくる。おそらくこれがそれにあたるのだろう。このしょうゆもその例に漏れず、スタンダードな味わいに仕上がっている。
塩味を強めにすることあらゆる料理に合うように、外れすぎないようにアジャストしていく。おそらくそれは大手メーカーに課せられた義務のようなものなのだろう。
そして、この味の記憶が僕にはある。それは習慣を超えた経験だ。これは味わったことあるやつだ。今回は「前回のレビューで取り扱わなかった醤油」というテーマで細心の注意を払ってチョイスした。だから、まさか醤油がかぶってるなんてないだろーと前回のレビューを確認した。
かぶってた。
容器の大きさが違うので気が付かなかったが、これ、同じ醤油だ。完全に同じ醤油だ。なんたる失態。まあ、せっかく買って食べたので、これもレビューに加えさせてください。
塩味…5
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 014 濃口醤油 錦(まるはら)
品名:こいくちしょうゆ(混合)
原材料:アミノ酸液(国内製造)、食塩、脱脂加工大豆、小麦、砂糖、果糖ぶどう糖液糖/カラメル色素、調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア、甘草)、保存料(パラオキシ安息香酸)
容器………3
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……3
色も濃く、香りもかなり強い。久々に醤油としての存在感を前面に出した醤油がきた。おまけにとろみまであるのでかなり独特な感じがする。
大分、天領日田のしょうゆのようだ。甘みと旨味を混ぜたような独特の風味がある。独特というと何か尖った味わいと思われがちだが、その逆で、甘みと旨味が良いバランスで存在している点で独特なのだ。その絶妙なバランスは甘いともしょっぱいとも言い切れないもので、不思議で魅惑的な味を実現している。はまる人はかなり深くはまり、これじゃないとダメ、みたいになると思う。
そういった意味では、恋も似たものかもしれない。はまる人は深くはまり、はまってしまうと「これじゃなきゃダメ」、それは恋なのかもしれない。
“彼氏に会いに行く”宣言によって恋になることも、はまることもなきように早い段階で宣言してくれた彼女だったが、特に会話もないまま弁当を食べ終わるとテキパキと片付けてそのままどこかに行ってしまった。
それから僕も船内をプラプラ散策し、15分くらい経過した頃だろうか、もうずいぶんと海の中を進んでいて、日が落ち、街の明かりも見えなくなりそうな頃合いだった。自動販売機のあたりに先ほどの彼女がいた。誰かと電話しているみたいだった。
自動販売機の辺りはけっこう声が響く。別に盗み聞きをするつもりはなかったが、聞こえてきてしまった。彼女はさきほど、マイ醤油を見せてきたときのような涼しい表情ではなく、なにか真剣な様子だった。
「はあ? もう船に乗っちゃったんだけど?」
なかなか強い口調だ。
「え? 別れる? そんなこといわれても困るんだけど!」
そう聞こえてきた。
とんでもないことになったことだけは理解できた。彼女のその必死の形相は恋にはまった人そのものだった。そしてそれが終わりを迎えようとしている、それが明白だった。
「あれ? ちょっと、もしもし?」
彼女の声とともに窓の外を見る。もうすっかり暗い海しか見えなくなっていた。夜の闇と黒い海、それはなんだか恐怖すら感じるものだった。
塩味…3
甘さ…3
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 015 北海道昆布しょうゆ 塩分カット(ヤマサ醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(小麦、大豆を含む)(国内製造)、水あめ、昆布エキス、果糖ぶどう糖液糖、醸造酢、小麦発酵調味料(大豆を含む)/アルコール、調味料(アミノ酸等)、酸味料、ビタミンB1
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
ヤマサの本醸造しょうゆに昆布だしを加え、さらに減塩を行った醤油だ。立ち位置としては「醤油」ではなく、醤油を使った加工品である「しょうゆ加工品」になる。
味わってみると、醤油というよりは、昆布味のつゆという味わいだ。たぶん醤油としての味わいとは別物なのだろうけど、不思議とタコの刺身に合う。
昆布エキスがもたらす特有の旨味はタコの身によく絡む。そして潤滑油のようにして喉の奥へとはこんでくれる。食べ終わった後には昆布とタコの芳醇な味わいが余韻のように残される。減塩であることはほとんど感じない、なぜなら芳醇な昆布の旨味がそれをカバーしているからだ。
塩味…2
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 016 九州醤油 うす塩(ホシサン)
品名:こいくちしょうゆ(混合)
原材料:脱脂加工大豆、ぶどう糖、小麦、食塩、アミノ酸液、砂糖、アルコール、調味料(核酸等)、甘味料(ステビア、甘草)、ビタミンB1
容器………3
香り………1
色の濃さ…1
粘り気……1
ここまでもいくつか出てきたが、減塩をうたう醤油の多くは、あの手この手でなんとか塩味を演出してくるため実際に食べてみるとそこまで減塩であると感じない。減塩しつつ減塩を感じさせない部分に心血を注いでいる。おそらくメーカー側もそれをテーマに減塩醤油を開発している。
しかしながらこの醤油は、おそらく意図的なのだろうけど、思いっきり薄い味付けに仕上げている。つまり、食べた際に、よし、これは減塩、と安心できる味わいにしてあるのだ。おそらく逆の発想で、減塩であると感じさせないよりも、減塩であると感じさせる方向に価値を見出しているわけだ。そして、それに安心する人が必ずいる。
ただ、そうなると、若干ではあるがタコの刺身に合わせた場合には味わいが物足りなくなってしまう。
物足りなさ、それは何かが不足していると感じることだ。それは決して無視してはいけない感情なのかもしれない。
「あれ? ちょっと、もしもし?」
彼氏に会いに行くためにフェリーに乗船した彼女だったが、おそらく電話でその彼氏から「別れる」と一方的に宣言されたと推察できる。もうフェリーに乗っちゃったのにと、別れ際にありがちな、押したり引いたりの問答がこれから始まると予想されたが、彼女の様子が少しおかしかった。なにやら渋い顔でスマホとにらめっこしているだけなのだ。
しばらくして、僕の姿を確認すると知った顔と安心したのかズンズンとなかなかの勢いで近づいてきた。
「すいません、船の中ってスマホ使えないんですか?」
そう言われて初めて気が付いた。たぶん、このフェリーはスマホ、使えない。
このフェリーは、宮崎港を出て四国の南の海上を航行し、和歌山と四国の間を抜けて大阪港に到着するルートだ。そして海上には携帯電話の電波はない。あくまでも陸地からの電波を拾うことしかできない。これまでは宮崎の電波を拾っていたのだけど、陸から大きく離れ、もうどこの電波も拾わなくなってしまったのだろう。
そしてたぶん、陸が近づいてくる明日の朝までつながらない。それはロビーのモニターに映し出されていた航行ルートからも予想できる。
「たぶん、朝までつながらないと思いますよ」
僕がそう告げると彼女はあからさまに狼狽した。
「そんな、困ります。いま別れるところなんです!」
彼女は何かが不足していると考えたわけだ。別れる場面において、もっと話し合いが必要だと考えたのかもしれない。すがりつく必要性を感じたのかもしれない。面と向かってそうする必要があると考えたのかもしれない。とにかく一方的に電話だけで宣言されることを不足に思った。それは軽く考えてはいけない感情だ。
ただ、その物足りない感情を僕にぶつけられても、僕には電波を増幅してあげることも、彼氏と別れないようにしてあげることもできない。とりあえず、先ほど弁当を食べたテーブルに座ってもらって話を聞くことにした。できることはそれだけだ。
塩味…1
甘さ…1
旨味…1
タコの刺身にオススメ…★★
No. 017 紫峰(柴沼醤油醸造)
品名:しょうゆ加工調味料
原材料:しょうゆ、米発酵調味料、還元水飴、かつお節エキス、かつおエキス、こんぶエキス、そうだかつお節、たんぱく加水分解物、醸造酢、アルコール、調味料(アミノ酸等)、酸味料、くん液、(原料の一部に大豆、小麦粉を含む)
容器………3
香り………1
色の濃さ…2
粘り気……1
「味にこだわる板前は醤油に独自の味を加えて醤油を作る。そんな板前さんの作る醤油を再現しました」との説明がある醤油だ。確かに、こだわりのある板前さんは、市販の醤油そのままでは満足しなさそうだ。自分なりに手を加えてオリジナルな醤油を作りそう。いままで考えもしなかった観点だが、高級な料亭とかなら当たり前の事なのかもしれない。これはそれを再現したものらしい。ちょっとワクワクしながら味わってみる。
なるほど、これは確かに一風変わった風味だ。まさにオリジナルだ。手を加えて作った感がある。醤油では表現できない種類の魚介系の旨味がわっとタコの刺身を包む。そのあとにギュッとタコの味わいが来る。それがなんとも心地よい。タコの刺身にも合うけれど、これは卵かけごはんとかにも使いたい醤油だ。それだけ、他の醤油では味わえない風味がやってくる。
塩味…3
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 018 九州 あまくち醤油 500ml くまモンラベル(ホシサン)
品名:こいくちしょうゆ(混合)
原材料:アミノ酸液、食塩、脱脂加工大豆、小麦、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、アルコール、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、甘味料(ステビア、甘草)、ビタミンB1
容器………3
香り………1
色の濃さ…3
粘り気……1
久々に味わう九州の甘い醤油だ。熊本の醤油メーカー「ホシサン」の醤油ということで、ラベルにもしっかりとくまモンが鎮座している。
南九州特有の甘みのある醤油ということで、少し構えて味わったが、予想外の味わいだった。なんというか、甘ったるいものではないのだ。甘い、と言い切れる甘さではないという表現が一番適切だろうか。その不思議な甘みが、タコの味を引き立たせる役割を担っている。
醤油本来の味の後に、強烈にタコの味わいが印象づく位。旨味もコクも深く、それに甘みと、必要な要素がバランスよく調合されているので、料理の味付けや、卵かけごはんなどにも向いていると思う。
塩味…2
甘さ…4
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 019 透明醤油(フンドーダイ五葉)
品名:しょうゆ風調味料
原材料:しょうゆ蒸留液、食塩、醸造酢/調味料(アミノ酸等)、トレハロース、アルコール(一部に大豆・小麦を含む)
容器………5
香り……… 2
色の濃さ…0(透明)
粘り気……2
透明な醤油。まったくもって醤油に見えず、水としか思えない。画像も皿に何も乗っていないように見えるかもしれないが、しっかりと液体が乗っている。それだけ透明ということだ。
水と区別がつかないレベルだが、しっかりと醤油の香りがするし、少しだけ粘り気もある。「醤油の味をそのままに色味だけを抜き取りました」という触れ込みだ。料理の色を損なわない、服が汚れないなどの大きなメリットがあるらしい。
見た目のインパクトは大きいが、味わい的にはやはり少し無理をしている印象だ。色素を抜いた影響なのか、なんともいえない雑味がある。これが味付け程度の使用だった場合は気にならないかもしれないが、タコの刺身と合わせた場合は明確にノイズとして感じ取れる。100mlで535円(2020年1月現在)とかなり高価なので、本当に色がないことにそれだけの価値を見出せるシーンで使う必要がある。少なくともそれはタコの刺身ではない。
ただ、容器のデザインがかっこよくて好きだ。たぶん、かっこいいものはみんな好きなのだ。
「私の彼氏ね、すごくかっこいいんですよ」
少しだけ落ち着いた彼女はそう言ってまたスマホの画面を凝視した。彼女もかっこいいものが好きなのだろう。彼女は先ほどと同じ椅子に腰掛けた。僕もその対面に座る。
「きっとそうなんでしょうね」
なんとなくそんな感じがした。彼女は美人で魅力的なので、その彼氏もイケメンでかっこいいのだろう、漠然とそう感じていた。
「でも、急に別れるだなんて……何か理由があるに違いないんです」
彼女はスマホを構え、窓際に持って行ったり高く掲げてみたりと忙しなく動いていた。たぶん電波が入らないか試行錯誤しているのだろう。それが無駄だと分かると彼女はサメザメ泣き始めた。
確かに、突如として一方的に別れを切り出され、12時間余り電波から切り離されるわけだ。どうしてと問い詰めたい、何が理由なのと詰め寄りたい、悪いところがあるなら直すからとすがりたい、けれどもそれすら許されないのだ。それもその彼氏に会うために乗船したフェリーの中でだ。その心理状態を考えるとこちらまで心が痛くなってくる。
彼女が流した涙は、透明であったけど、彼女のどす黒い何かが凝縮されて流れ落ちてきているようにも思えた。それは真っ黒な醤油が透明になったものに近いのかもしれない。
僕は少しだけ考えた後、ゆっくりと言葉を発した。
「そういえば僕の同級生だったやつの話なんですけど、名前を出すわけにはいかないからFとしましょうか、そのFの話なんですけど聞いてもらえますか?」
僕はこれを話すべきだと思った。そう思ったのだ。
彼女が深く頷く。
高い波が来たのか、船が大きくゆっくりと左右に揺れた。
塩味…3
甘さ…1
旨味…1
タコの刺身にオススメ…★★
No. 020 下総醤油(ちば醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩
容器………4
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……3
容器が細長くてなんかカッコイイ。さらには注ぐときにトクトクといい音がするので何か高級なワインを注いでいるような気分がしてくる。容器の判定を5としたかったが、密閉のためについている中蓋がなかなか外れなくて指が痛くなったので4とした。完全なる逆恨みだ。ただ、そこまで躍起になって密閉しているという気概を感じた。
高級なワインを注いでいるみたいだと表現したが、実際に高級なようで290mlのものが604円(2020年1月現在)とそこそこにお高い。
味の方だが、まず驚くほどの旨味だ。口の中に入れた瞬間にフワッと広がるまろやかな風味。これはタコの刺身を異次元の場所へと連れて行ってくれる。これだけの旨味なので調味料等が入っているかと思いきや、大豆、小麦、食塩だけという潔さ。つまり熟成だけでこの味を出しているわけだ。
かなり上品な味わいで、タコが口の中から消えると同時に風味も消える。余計な味は一切与えない。これぞ醤油の原点という味わいだ。完全にオススメ。唯一難点を挙げるとすると、やはりややお高いところだろうか。下手をしたらタコの刺身より高級かもしれない。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 021 鮮度生活 味なめらか絹しょうゆ(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:小麦、食塩、脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、大豆(遺伝子組換えでない)/アルコール
容器………5(注ぎやすい、鮮度キープ)
香り………3
色の濃さ…2
粘り気……1
パッケージにもある通り、火入れという工程を行っていない生しょうゆと、火入れした醤油をブレンドしたものらしい。生しょうゆのまろやかさ、火入れしょうゆの香りを両立させたとうたっている。ただし、開封してみてもそこまで香りが出てくるわけではないので、決して香りが強いというわけではない。
味わい的には、正直に言うとそこまで明確になめらかさを感じるわけではなかった。スタンダードな「こいくち」に近い味わいがあると思う。パッケージの上部、一番細いところになぜか「余韻のあるうま味」と書かれてあるが、そう言われるとちょっと余韻あるかも、と思う程度だ。
ただ、醤油自体は普通においしい基準を満たしており、タコの刺身に合う。ただラベルに書かれているほどの要素はあまり感じられない。
塩味…3
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 022 えんどうまめしょうゆ(キッコーマン)
品名:しょうゆ風調味料
原材料:えんどう豆(アメリカ)、食塩/アルコール
容器………4
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……2
大豆や小麦を使わずにえんどう豆で作ったしょうゆ。「アレルギー物質27品目不使用」とラベルにも大きくうたわれている。大豆や小麦などにアレルギーがある人でも醤油を楽しめるように配慮された商品だ。
独特の香りがあって、味わい的には醤油からは少し遠い。味わった瞬間にそう感じることはなく、なんか変わった味だなと思う程度だが、えんどう豆から作ったと言われれば、ああ、そうだね、だからか、と感じる味わいだ。臭みとまではいわないが、独特の雑味がある。ただ、大豆を使わずにここまで醤油の味を出せているのはすごいと思う。
そう、醤油とはやはり大豆なのだが、その重要な役割を担う大豆を使わずに醤油を表現する。その過程が大切なのだと思う。大豆を使わず醤油を表現する、そんなエピソードが僕の中に存在していた。
僕の友人にFという男がいる。Fと僕は同級生だった。
あれは春休みのことだったが、その時の僕はゲームセンターのコインゲームにはまっていた。コインをジャラジャラ入れていって、より多くのコインを落とすゲームだ。いま思うとなぜあそこまで熱中していたのか疑問だが、とにかく義務感すら覚えながら毎日ゲームセンターに通い、心を機械のようにしてコインを投入していた。
そうやってゲームに興じていると、Fがやってくる。
「よう」
「おう」
そう言葉を交わし、また一心不乱にコインを投入する。二人してコインを投入する。その毎日だった。外は桜の開花を待つ声や、新生活のワクワクが漏れ出す雰囲気すらある色めく季節、春。そこで僕らはただただコインを投入していた。本当に暇だったのだと思う。
ただ、その日だけは違った。
「よう」
「おう」
いつもの挨拶を交わし、メダルを投入する。いつもの流れかと思われたが、Fがふいに切り出した。
「おれ、留年したわ」
その衝撃から、その時のことを鮮明に覚えている。真っすぐと前を見てコインを投じ続けるF、留年という文字が頭の中で踊る。その背景ではclassの『夏の日の1993』が流れていた。
「大変じゃん」
あまりの衝撃に何と言っていいのかも分からずそう言ったと思う。けっこう他人事な反応をしてしまった。
「まあそんなに大変じゃないとは思うけど、親に言うのが嫌だな」
Fは留年したという事実をどうやって親に伝えるか悩んでいた。
「留年って言葉がダメなんだよ、『年』が『留まる』だからな。こう、年が止まった感じがしない? それってあまりに留年感が強い」
留年感が強いと言われても留年だからな、と返すわけにはいかなかった。留年という言葉を使わずに留年を表現する。それは大豆を使わずに醤油を表現することに近い試みなのかもしれない。いや、近くないのかもしれない。
「“もう一回”はどう?」
無難な提案をする。
「留年感あるなあ」
留年感という謎の概念が爆誕していることに戸惑いを隠せなかったが、それでもいくつか案を出した。
「“チャレンジ”はどう?」
「いいねえ、前向きでいい。でも、もうちょっと留年から遠い方がいいな」
その時、投じたコインがめったに入らないゲートを通過し、なんか「777」がそろってドカドカとコインが出てきた。上部にある「JACKPOT」ランプが点灯し、けたたましいファンファーレが鳴っていた。
「これだ!」
出てきた大量のコインをカップに収めながらFが叫んだ。
「ジャックポットで行こう。前向きだし留年からほど遠い」
ほど遠すぎてもはや意味が分からなくなっている。
「母さん、おれ成績悪かったろ、休みがちだったし、だからさ、きょう連絡あってさ、ジャックポットしたわ」
これでは意味が通じない。めちゃくちゃコインが出てきたのかな? くらいしか思わない。
「よしこれでいこう」
そう納得するF。そのバックで流れていた『夏の日の1993』の歌詞は「oh そうじゃないよ」の部分に差し掛かっていた。
塩味…2
甘さ…2
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★
No. 023 奇跡の醤(ひしお)(八木澤商店)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………4
香り………4
色の濃さ…3
粘り気……1
岩手県陸前高田市の醤油だ。まず容器がカッコイイ。高級感あふれるデザインだ。そして香りが強い。小皿に出した瞬間に醤油独特の香りが辺りに広がる。
2011年の東日本大震災によって大きな被害を受けた八木澤商店は、醤油造りで大切な「もろみ」を全て失ってしまった。しかしながら、震災前に研究用に預けていた「もろみ」が4kgだけ発見され、そこから増やしていき、震災から3年8カ月、ついに醤油が完成した。そういった意味で奇跡の醤(ひしお)という名称なのだろう。
全く雑味のない味わいで、強い旨味を感じる。この原料でこれだけの味わいを出しているのは驚きだ。その旨味は下総醤油(ちば醤油)に似ている。ただし、下総醤油をよりまろやかにした味わいになっている。
このように素晴らしい味わいを持つ醤油が震災によって焼失しなかったことはまさに奇跡だ。大きな感謝を感じる味わいだ。ただし、150mlで692円(2020年1月現在)となかなか値が張る。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 024 うすくちしょうゆ(ホシサン)
品名:うすくちしょうゆ(混合)
原材料:アミノ酸液、食塩、脱脂加工大豆、小麦、砂糖、ぶどう糖、アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア、甘草)、ビタミンB1
容器………3
香り………3
色の濃さ…1
粘り気……1
通販サイトではそう表記されていなかったが、届いたものは「くまモンラベル」だった。順次変更しているのかもしれない。
「うすくちしょうゆ」は色が薄いだけで塩味はかなり強いものであると予習済みである。しかしながら、このホシサンの「うすくちしょうゆ」は独特で、確かに塩味はやや強いが、全体的に味わいが薄い。清涼さすら感じるほのかな味わいが上品で好印象だ。ただし、タコの刺身に合わせる場合は若干ではあるが物足りなくなってしまう。ただ上品な味付けが必要な場面では大活躍すると思う。
塩味…2
甘さ…1
旨味…1
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 025 こいくちしょうゆ(ホシサン)
商品名:こいくちしょうゆ(混合)
原材料:アミノ酸液、食塩、脱脂加工大豆、小麦、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、アルコール、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、甘味料(ステビア、甘草)、ビタミンB1
容器………3
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……1
こちらもサイトでは普通のラベルだったが、届いたらくまモンラベルだった。原料のラインアップはNo. 019 の「あまくち」のものと変わらないので、それらの比率を変えることで味わいを変えていると予想できる。香りと色味はほかの味よりも強いと感じた。密封を解いた瞬間に醤油独特の香りが一気に広がってきた。
味の方だが、「あまくち」「うすくち」「こいくち」3種類の醤油全ての特徴を混ぜたような不思議な味わいだった。「あまくち」特有の甘みも感じるし、「うすくち」特有の強い塩味も感じる。それでいてスタンダード風な「こいくち」の風味も残している。多くの醤油メーカーは塩味を強くして万能でスタンダードな味を表現するが、ホシサンの場合はさまざまなベクトルの味を混ぜることによって別のスタンダードを表現しているのかもしれない。面白い味だ。味わいながらついつい「面白い」と唸ったほどだった。
「面白いですね」
彼女はそう言った。留年のことをジャックポットと表現したFの話を受けての反応だ。もしかしたら、僕が彼女を元気づけようと、単に面白いエピソードを披露しただけだと思っているのかもしれない。そういう意図がないわけではないが、本来の目的は別のところにあった。
「Fはちょっと愚かだと思うんですけど、留年を伝えた事務の人も良くなかったんですよ。もっと、今後の話とかすればよかったのに、ただ留年と伝えただけですから。それでFは錯乱してしまった」
少しだけFをフォローし、続ける。
「でも、留年という言葉を使わずに留年を表現するって前向きな心だと思うんですよね。脆い精神を守るにはそういう自衛も大切だと思います。だから、別れるってけっこうきつい表現じゃないですか、なにか別の表現を頭の中に置くといいかもしれませんね。さすがにジャックポット、はダメでしょうけど」
この話をあえてした意図を説明する。
彼女はまた確認するようにスマホの画面を凝視し、それから答えた。
「確かにそうですね。何か考えてみます」
またスマホの画面を一瞥し、さらに続ける。
「それでもやっぱりFさん、面白い人だと思います。なんだか元気になる。もっとFさんの話をしてもらえますか?」
僕は少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「じゃあもう一つだけ」
消灯時間になったらしく、照明が落とされ、小さな明かりに変わっていた。それでも眠れない人がたくさんいるみたいで、この通路に置かれたテーブルで読書する人が多くいた。僕は周りに気を使い、少しだけ声のトーンを落として話し始めた。
塩味…3
甘さ…3
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 026 有機純正醤油〈こいくち〉(丸島醤油)
品名:有機こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:有機大豆、有機小麦、食塩
容器………4
香り………3
色の濃さ…4
粘り気……1
こちらも小豆島の醤油だが、容器が独特で紙パックだった。お酒とかではこういうパックがあるが、醤油で採用しているものはあまりないような気がする。とても目新しくて良い。商品名だけでなく、原料に「有機大豆」「有機小麦」とわざわざ書いていることから有機栽培にかなりこだわった醤油だ。
これもかなりうまい。本当に有機栽培の実力を侮っていた。それを知れただけでも今回の一連のレビューは意義があったものだと思う。有機大豆、有機小麦、有機栽培の原料はこれだけの実力を持っているのだ。
唸るしかない深い旨味。そしてキレがある。口に入れた瞬間に強い塩味と日本酒的なアルコール風味が広がるが、それは一瞬で消え、深い旨味があとからかぶせるようにやってくる。果たしてタコの刺身を味わっているのか、それとも醤油を味わっているのか、それすらも分からなくなる極上の体験だ。
塩味…4
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 027 かけても、つけても。(シマヤ)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(国内加工)、醸造酢、砂糖、食塩、果糖ぶどう糖液糖、かつお節エキス、酢酸発酵調味料、こんぶエキス、にんにく、酵母エキス/調味料(アミノ酸等)、酸味料 (一部に小麦・大豆を含む)
ついに抽象的なネーミングの登場だ。「かけてもつけても」である。とても醤油のネーミングとは思えない。こういう物はキワモノであることがままある。
はじめに言いたいが、醤油なのか酢なのかはっきりしてほしい。販売ページの分類は「しょうゆ」なので安心して購入したが、後に販売ページを熟読したらとんでもないことが書いてあった。
「万能酢です」
腰を抜かした。酢って書いてあるじゃねえか。
醤油なのか、酢なのか、かけるのか、つけるのか、どっちなんだ。いったいどっちなんだ!
容器………1
香り………3(酢のそれ)
色の濃さ…1
粘り気……1
完全に酢だこれ! 絶対に酢だ、これ!
パッケージの写真にもあるようにサラダなどにかけると良さそうな味わい。特に強い味でなく、味の薄いポン酢風の味わいがある。ただ、醤油のそれではないのだけど、タコの刺身には合う。
醤油をつけて刺身を食べる、という味わいからは遠いけど、酢だこみたいな感じでなかなかタコの刺身に合う。ちょっと気の利いた居酒屋のお通しに出てきても何らおかしくない。とても優秀な味だ。もちろんそれは醤油としてではなく、酢として優秀ということだ。
塩味…2
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★★(酢だことして)
No. 028 伊賀越 天然醸造製法 ゆっくり熟成醤油(伊賀越)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(インド製造)、小麦、食塩、大豆/アルコール
容器………5
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
金色でとても目立つ高級感溢れるパッケージだが、実際にお値段を見てみるとそこまで高価というわけではなかった(450mlの2本セットで604円、2020年1月現在)。
三重県伊賀の醤油らしく、添加物や保存料、発酵促進物など使わない天然醸造製法で作られたとのこと。温度管理もせず、四季の気候でじっくりと300日かけて熟成させたようだ。
旨味がかなり強く、深みのある強い味わいがワッと口の中に広がる。一瞬強すぎると思ったが、それがスッと引いていき、そこからグラデーション的にタコの味わいがやってくる。こういったパターンの味変化は刺身に照準を合わせた醤油に多い。
もちろん照準を合わせているので確実にタコの刺身に合う。ただ、醤油としては完璧だが、タコの刺身向けと考えるともう一手、何かが足りない。おそらく照準の先は赤身魚とかそういったものなのだろうと思う。それが何なのかはちょっと分からないが、なんとなくだが、後味に残る甘みがもう少し強ければと思う。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 029 本醸造あまくち(ホシサン)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(インド製造)、小麦、食塩、砂糖/アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア、甘草)、ビタミンB1
容器………3
香り………3
色の濃さ…4
粘り気……2
またもやホシサンの「あまくち」だ。No. 018のくまモンバージョンのものと異なり、色味が強く黒い。若干の粘り気もある。
あまくちとうたってはいるが甘みはそこまで感じられず、むしろ塩味と旨味が強い。食べ終わったあとにほのかに甘みが香る程度なので、鹿児島などで多く作られる本当に甘い醤油に比べると少し拍子抜けする。ただこれは意図的に甘みを抑えているのだと思う。鹿児島と熊本では甘みを持った醤油の事情が少し異なり、そこに合わせた味わいではないだろうか。その地方の持つ特性に合わせる臨機応変さ、その大切さを感じた。
こうやって醤油の味わいを臨機応変に「合わせる」ことは大切だろう。けれども、世の中には合わせてはいけないこともある。
Fが留年、いやジャックポットをしてから、やはり会うことが少なくなって疎遠になっていた。そんなある日、Fから連絡があり、久々に一緒に遊ぼうということになった。
ただ、あのゲームセンターはとっくにつぶれていたので、地元の定食屋で会うことになった。
「やっぱさ、ジャックポットでは母ちゃんには通じなかったよ」
Fは唐揚げ定食を食べながらそう言った。
「そりゃそうだろうね」
そう反応したが、留年してからFが休みがちになっていることを知っていたので、ちゃんと出席した方がいい、さもなくばまた留年することになると忠告するつもりでいた。けれども、Fの話は意外な方向へと転がっていった。
「このあと、ついてきてほしい場所がある」
何か手助けが欲しいといったニュアンスの言葉だった。なんだろうと思ったが、Fの力になりたいという思いがあったので、それを承諾した。それを確認し、Fはゆっくり切り出した。
「じつは武田先輩に呼び出されているんだ」
武田先輩とは地元で名を轟かせている恐ろしい先輩だった。10人相手にちぎっては投げちぎっては投げの乱闘をしたとか、バイクを8台一気に盗んだだとか、そういったワル伝説が尽きない人だった。どういった理由で8台も一気に盗んだのかはよく分からないが、とにかく伝説のワルだった。
「え、武田先輩? すごく嫌なんだけど」
そんな暴力的な先輩に会いに行くなんて言われてテンションが上がるわけもなく、早くも後悔し始めていた。
「大丈夫、横で話を合わせてくれりゃいいから」
「話を合わせればいいのか」
大きな不安を抱えつつ、まあ、話を合わせるぐらいならいいのか、そう思ったのが間違いだった。決して安易に話を合わせてはいけない、後の僕はそれを痛いほど知るのだった。
塩味…3
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 030 ヤミー・ザ・パクチーのパクチー醤油(旭醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(小麦を含む)、ごま油(ごまを含む)、パクチー(国産)、醸造酢、にんにく(国産)、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、甘味料(甘草・ステビア)
容器………5
香り………5
色の濃さ…5
粘り気……5
容器もラベルもめちゃくちゃオシャレ。
愛媛の老舗蔵元である旭醤油による、一風変わった醤油。パクチー、醤油、そしてごま油の香りと、ほのかなガーリック風味が調和した全く新しいブレンド調味料とのこと。老舗がこういった攻めたオシャレ商品を出す時代なのだ。こういった試みは個人的に好印象だ。
まずビンを開けるとガーリック風の香ばしい香りが広がる。その体験は完全に醤油のそれではない。そして、パクチーが粉末状になって投入されているので、見た目の濃さと粘り気もマックスだ。どう見ても醤油のそれとは違う。果たしてどんな味わいなのか、ちょっとドキドキしながら味わってみた。
なるほど。これは醤油という枠組みではない。タコの刺身を醤油で食べる、という枠組みでは語れない。これを使って食べることでタコを使ったエスニック風の別の料理にしてくれるのだ。一気にオシャレな店でオシャレなマスターが出してくれる料理みたいな味わいになる。
パクチーの風味もそこそこに、決して乱暴ではない新しい味わいがやってくる。たぶんガーリックだ。調味料ひとつでここまで表現できるのだから、さまざまな料理に使うだけで新しい味わいができると思う。とても面白い体験をさせてもらえた。
塩味…1
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 031 茜醤油(オーサワジャパン)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
とてもまろやかな旨味。いつまでもしっかりと余韻のように残る味わいがなんともクセになる。一年以上かけてじっくり熟成させた醤油とのことなので、長い時間と手間暇をかけることでこの丁寧な味わいが実現しているのだと思う。
その丁寧さが、ある意味では器用な味として働いている感じがする。刺身の味わいに合わせて補う部分を変えてくる。たぶんこれはどの刺身にも合うのではないだろうか。いうなれば刺身専用セッティングと言っても過言じゃない醤油だ。もちろんタコの刺身にもしっかりと合う。
塩味…2
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 032 鶏たたき専用たたき醤油(五日市醤油製造)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ、醸造酢、砂糖、みりん、食塩、果糖、かつおエキス/調味料(アミノ酸など)、甘味料(甘草、ステビア)、アルコール
容器………2
香り………1
色の濃さ…1
粘り気……1
鶏のたたき専用ということだが、もしかしたらタコの刺身に合うかもしれない、という思いで購入してみた。かなり小さな容器で内容量も少なく希少な感じすらする。
こちらも醤油という枠組みからは大きく外れるのだろうと予想できる。原料に表記されている醸造酢、みりんの味わいが色濃く出ているので、おそらくこれらがかなりの分量で入っていると思われる。だから色味も薄い。
味わってみると、やはりほとんど醤油の味はしない。鶏のたたきにうってつけの味わいも納得だ。ただ、不思議とタコの刺身にも合う。淡白なタコの切り身から染み出る旨味を加速させ包み込むような味わいがあるのだ。
タコの刺身を食べているのに鶏のタタキを食べたくなる、そんな味わいだ。
塩味…1
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 033 削りたて一本釣り鰹 かけしょうゆ(チョーコー醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(小麦・大豆(遺伝子組換えでない)を含む)、みりん、砂糖、食塩、かつお節、醸造酢、酵母エキス、昆布、アルコール
容器………5
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
超特級むらさき醤油をベースに、近海一本釣りの鰹節を削りたてで使用した「かけ」専用だし醤油。
口に運んだ瞬間にカツオの風味が広がる。かなりだしが効いていて味わい深い。この醤油だけを舐めていてもいいくらいに、完成された味わいである。そしてこれがタコの刺身に組み合わさると、まったく違った味わいに連れて行ってくれる。いうなればタコとカツオのコンビネーションで、新しい旨味を作り出していく。
「タコとカツオのコンビネーション……」
武田先輩の家は大きな陸橋の横にあった。陸橋の下の空き地みたいな場所を勝手に自分ちの庭に使っている節があり、そこにバイクや車が置かれていた。たぶん盗んできたものもあったと思う。
僕とFがその中心の、廃タイヤが積み上げられている場所で待っていると、武田先輩がやってきた。
「おう、来たかよ」
武田先輩は完全にワル度が増しており、パンチパーマになっていた。どうみても堅気の人ではない風貌がその恐ろしさを増幅させていた。おまけに、なぜか右手にはカーペンターズのCDを持っており、なんだか意味不明だけどそれが異常なすごみみたいなものを演出していた。
「おめえ、嘘ついたよなあ?」
武田先輩が首でも折れた人みたいに首を曲げながらFに詰め寄った。
「嘘じゃありません! 確かに見ました!」
Fが声を張り上げる。どうも、何かを見たと武田先輩に報告したFだったが、それが全くのでたらめだった。それで武田先輩が怒っているという感じだった。
「でも、お前も見たよな?」
追い詰められたFが僕に話を振る。とにかく「話を合わせろ」と言われていたので、小刻みに何度か頷いた。
とにかく状況は緊迫していた。頭上では陸橋を通るダンプカーの音が響いていたが、それすらも遠い向こうに思えるほど緊迫していた。
「てめーがメローイエローがあるって言ったんだろが!」
メローイエロー? めちゃくちゃ強面の武田先輩の口からメローイエローという単語が出たことに驚いた。メローイエローとはコカ・コーラ社が販売していた柑橘風味の炭酸飲料だ。まっ黄色なラベルにポップな字体で「メロー・イエロー」と書かれていた。
このメローイエロー、それこそ僕が小学生くらいの頃は定番と呼べるほど販売されていてコカ・コーラやスプライトと同じくらいの立ち位置だった。けれども、大人になるにつれて見かけなくなってしまった。どうやらその後、2000年には生産終了してしまったらしい。
街の販売機やスーパーなどですっかり見かけなくなってしまったメローイエローだったが、武田先輩はそれが大好きらしく、常に探しているようだった。そこにFが「メローイエローを見た」と目撃証言を上げたようだった。
完全なる強面で人を2、3人くらい殺してそうな武田先輩の口から「メローイエロー」なんてファニーな単語が出てくることがおかしくてしょうがなかった。ただ、ここで笑ってしまうと「なに笑ってんだてめー」とぶん殴られること請け合いなので、ただただ耐えるしかなかった。
「本当にあったんですよ」
Fが食い下がる。それでも武田先輩は追及の手を緩めない。
「俺はすぐに確認しに行ったんだよ。イチゴハウスにな!」
もう限界だった。
イチゴハウスとは、女子中学生向けにファニーな雑貨や文房具などを売る店だ。ファンシーショップと言えばいいだろうか。田舎町には似つかわしくないめちゃくちゃメルヘンチックな外観で、女子中学生の社交場みたいな側面もあり、いつも女子中学生で溢れていた。
「テメエがイチゴハウスにメローイエローあるって言ったんだろが、ああん?」
本当に限界だった。あの10人相手に大乱闘をかましたという逸話が残る武田先輩、その口から「メローイエロー」と「イチゴハウス」という単語が次々と出てくるのだ。完全に限界で、両手で顔を覆って何とか耐えるしかなかった。「メローイエロー」と「イチゴハウス」がコンビネーションで笑わせにくる。その破壊力はすさまじいものだった。本当に限界だった。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 034 豆腐が旨い! だし醤油(盛田)
品名:しょうゆ加工品
原材料:醤油、ぶどう糖果糖液糖、砂糖、アミノ酸液、食塩、米発酵調味料、かつお節エキス、魚介エキス、かつお節、宗田かつお節、さば節、うるめ節エキス、たんぱく加水分解物、昆布エキス、アルコール、調味料(アミノ酸等)、(原材料の一部に大豆、小麦、豚肉、ゼラチンを含む)
容器………4
香り………2
色の濃さ…3
粘り気……2
ラベルにでかでかと「豆腐が旨い!」と書いている。大した自信だ。別に豆腐を食べるわけではなくタコを食べるんだけれども購入してみた。
考えてみると、豆腐も、醤油もその原料は大豆だ。大豆で大豆を食べる、その行為に特化したものと考えると非常に興味深い。この手の容器は注ぐときにトクトクといい音がするので個人的には好きだ。
味わってみると、かなり魚介寄りにセッティングしている風味だ。複数の魚介由来の旨味が一気に口の中を通り過ぎていく。おそらく、豆腐を彩る味わいとしてそれが正解と考えたのだろう。そしてそれはたぶん正解だ。なにせ大豆で大豆を食べるのは苦しい。そこに魚介の手を借りるわけだ。
ただ、タコの刺身と合わせる場合は、タコが持つ魚介的な味わいと完全に衝突するので、タコと醤油が別個の存在として口の中で住み分けてしまう。やはり「豆腐が旨い!」とあるだけあってこれは豆腐専用醤油だ。タコに合わせるのは少し違う。
塩味…2
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★
No. 035 純むらさき(チョーコー醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:小麦、大豆(遺伝子組換えでない)、食塩、米
容器………3
香り………3
色の濃さ…5
粘り気……3
まず、香りが強く色が濃い。ここまで黒い醤油は久々かもしれない。味わう前の印象としてはかなり硬派な醤油そのものだ。大多数の人が「醤油」と聞いて連想する特徴がそのまま存在する。
味の方だが、「しっかり熟成し、厳選した原料を使っている」ということで、かなり味わいが深い。ズシリとした旨味がある。ただ、一番の特徴はクセのなさだろうと思う。深い旨味の中で多くの人が想像する「しょうゆ」としての味わいを実現している。また、とろみがあるのでタコの刺身にもよく絡み、口の中でも味が分離することなく、ずっとタコに寄り添っている。それでいてクセがないのだ。
スタンダードで一本気な醤油、簡単そうに見えてこれを実現するのはかなり大変なことだ。
塩味…4
甘さ…2
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 036 生国産しょうゆ(イチビキ)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(国産100%)(遺伝子組換えでない)、小麦(国産100%)、食塩(国産100%)
容器………4
香り………1
色の濃さ…1
粘り気……1
国産の原料にこだわった生醤油だ。通常、醤油の製造工程では「火入れ」という処置が施される。加熱することにより醸造に使用した微生物を殺菌し、色を整え、香りを持たせる効果がある。これらの火入れ工程を経ていない生醤油は、まろやかな味わいになると言われている。そんな生醤油の登場だ。
なるほど、醤油自体はやや香りが少なく色味も薄い。味わってみると生醤油の特徴そのままで、かなり強い旨味が口の中に広がるが、まろやかに仕上がっている。これがタコの風味を阻害せず、優しく包み込む感覚すらある。ベースとなる味わいは「こいくちしょうゆ」であるということだが、その色の薄さや旨味は「うすくちしょうゆ」のそれに近い。「うすくち」的な「こいくち」と表現すればいいだろうか。そんな味わいだ。つまりタコの刺身に合う。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 037 ホシサンキッズ かけしょうゆ(ホシサン)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ,ぶどう糖,発酵分解調味液,ビタミンC,ナイアシン,パントテン酸Ca,
ビタミンB1,ビタミンB6,ビタミンB2,ビタミンB12(原材料の一部に大豆,小麦,乳を含む)
容器………2
香り………1
色の濃さ…3
粘り気……1
各種ビタミンなど、子供の成長に役立つ成分をふんだんに入れ込んだキッズ用醤油。そんなものがあるんだ、というのが率直な感想だ。
風味としては「こいくち」醤油に近いが、塩分をカットしているためそこまで味の主張を感じない。おそらく、あまり尖った味にすると子供が嫌がることを危惧しているのだろう。全体的にまろやかに仕上げてはいるが、薄めである印象は否めないので、タコの刺身に合うのかと言われれば疑問符だ。
ただし、容器の扱いやすさ、味の薄さなど、子供が「しょうゆをかける」という大人と同じ行動を経験することを重要視した商品なので、そう考えるとタコに合うかどうかなんてどうでもいい観点といえる。子供が大人の真似をして楽しんでくれればいい。
そう考えると、あの日の僕たちも子供のようにただ楽しんでいただけなのかもしれない。
僕とF、武田先輩の話を伝えると、彼女はうれしそうに笑った。眠れないのかトラックの運転手風のおじさんがパンツ姿で僕らの横を通り過ぎていった。
「本当に、メローイエローとイチゴハウスのコンビネーションにはまいりましたよ。笑いが堪えられなくて」
僕がそう告げるとまた彼女は笑った。
「でも、どうしてFさんはそんな嘘をついたんですか? イチゴハウスにメローイエローがあったなんて」
「ただ単に、恐ろしい武田先輩がイチゴハウスにいる姿を思い描いて楽しみたかっただけらしいです。子供みたいな無邪気な動機なんです」
その言葉に彼女は口元を隠して笑った。
「面白いですね。Fさん」
しかし、急に真顔になってこう続けた。
「わたしもそういう人がよかったのかなあ」
そうして思い出したようにスマホの画面を確認しだした。なんだか、僕はその物憂げな表情よりも、笑った顔が見たいと思って、さらに話をつづけた。
「実はこの話はまだ続きがあるんですよ」
その続きをゆっくりと話し始めた。
塩味…1
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★
No. 038 高級割烹しょうゆ 本膳(ヒゲタ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、大豆(遺伝子組換えでない)
容器………4
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
六大醤油メーカーの一角である「ヒゲタ」の醤油だ。高級割烹をうたっており、どこか高級感のあるラベルが期待を持たせてくれる。
味の方だが、印象に残るのは強い旨味だ。その強い旨味をベースとした深い味わいの後にフワッと甘みが来て心地よい。じつはこの後味の甘みは重要で、魚介類の生臭さを消すのに一役買っている。「高級割烹」を銘打っているだけあって日本料理、特に刺身に合うように作られている感じだ。もちろんタコの刺身にも合う。
塩味…2
甘さ…3
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 039 ハローキティ おいしいしょうゆ(ヤマモリ)
品名:しょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、食塩、小麦、砂糖、小麦グルテン、アルコール、調味料(アミノ酸等)
容器………3
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……1
キティちゃんの仕事を選ばない姿勢は有名な話だけど、まさかしょうゆ界にまで進出しているとは思わなかった。本来、製品ラベルには「こいくちしょうゆ」「さいしこみしょうゆ」などと製法や味が予想できる品名が書かれているが、これは「しょうゆ」とだけ書かれていた。よって全く味が予想できない。
予想外に濃い旨味と甘み、おそらく「こいくちしょうゆ」が味のベースだと思うけど、甘みと旨味をかなり強めに設定している。半面、塩味はかなり抑えた印象だ。このあたりは子供向けという意識だろうか。
キティちゃんなのでまろやかな味わいを予想していたが、思った以上に尖った味わいだった。むしろキャラモノとは思えない本格派な味わいすらある。完全に見くびっていた。何事も先入観を持って接してはいけないということだろう。
塩味…1
甘さ…3
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 040 ハローキティ 卵かけごはんしょうゆ(ヤマモリ)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(小麦・大豆を含む)、ぶどう糖果糖液糖、食塩、かえししょうゆ(小麦・大豆を含む)、米発酵調味料、かつおぶしエキス/ソルビトール、アルコール、調味料(アミノ酸等)
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
仕事を選ばないことで有名なキティさんが、卵かけごはん用しょうゆ界にまで進出していた。
味わいとしては、完全にスタンダードなNo. 039のキティしょうゆをベースにしている感じだ。そこに“だし”的な要素を加えて“だし醤油”に仕上げている。ただ、スタンダードの時点でそこそこに尖った味で旨味は強かったわけなので、そこにだし要素でさらに旨味を加えることで味の衝突が起きている。
名称通り、卵かけごはんに使用する場合はこの衝突がプラスに働きそうだが、タコの刺身と合わせた場合は、味のまとまりがなくなりとっちらかった印象となる。まさかキティちゃんの醤油で「味の衝突」なんて表現を使うとは思わなかったが、見た目以上に尖った味わいで唸るしかない。キャラクター醤油だと思って舐めていると手痛いしっぺ返しをくらうぞ。これはそんな醤油だ。
塩味…1
甘さ…3
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★
No. 041 ソイソルト 三年醸造(フリーズドライ醤油)(かめびし)
品名:フリーズドライ醤油
原材料:再仕込しょうゆ(大豆(国産)・小麦(国産)・塩)、澱粉(国産)、デキストリン(原材料の一部に小麦・大豆を含む)
容器………3
香り………1(醤油ではない香り)
色の濃さ…5(粉)
粘り気……0(粉なので)
旨味がかなり強い、三年醸造の再仕込み醤油をフリーズドライで粉末状にしたもの。ついに粉の醤油が登場してきた。「塩でもない、しょうゆでもない、新感覚シーズニング!」という触れ込みだ。
見た目的にはチョコケーキの上に乗っているチョコチップみたいな感じだ。サラサラとした粉でこれを醤油と思う人はいなさそう。香りもほとんどない。
見た目的にかなり濃い味の凝縮された醤油の味が襲ってくるかと思ったら、全くそういうことはなく拍子抜けするくらいに味がしなかった。味しないやんけと思っていたら後からグワッと正体不明の旨味みたいなものが襲ってきたので驚いた。
それでも、やはり味わい的にはかなり薄いので、液体の醤油的な味を求めるならかなり大量に使う必要がある。つまりこれ単体で働かせるのではなく、添える感じで働かせるものだ。ちょっともうひと味、みたいな使い方が適切だ。
粉なので完全にタコの刺身には合わないが、個人的には和風パスタにこれがかかっていたらめちゃくちゃうまいと思うし、予想外な味わいを提供できると思う。
塩味…1
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★
No. 042 さしみしょうゆ(ヤマサ醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、みりん、醸造酢(小麦を含む)、大豆(遺伝子組換えでない)/アルコール、調味料(核酸)
容器………5
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……4
やはりタコの刺身は刺身なので、「さしみしょうゆ」はかなり期待できるだろう。名前の通り刺身に特化して作られた醤油なのだから。
さしみしょうゆの特徴としては、色が濃くて香りも強く、とろみがある、というものだ。この醤油もその特徴を持っている。
かなり強い塩味に旨味がある。その後、刺身の臭みを消すための甘みがほのかに後味として口の中に残る。さらにとろみがあり、刺身片にかなりの量の醤油が絡むので、味わいがさらに深くなる。ただ、独特のアルコール的な雑味のようなものを感じた。これは濃厚なマグロなどの刺身であれば良い方に働くが、タコの刺身のように淡白なものの場合は少しだけ邪魔な味に感じられた。言うなればノイズだろう。けれどもかなりポテンシャルが高いことは間違いない。
ノイズ。
それは時にとんでもないものを演出する。
幻の飲料「メローイエロー」が女子中学生向けファンシーショップ「イチゴハウス」にあったと嘘をついたF、話を合わせるように言われた僕まで嘘をついた格好になってしまった。ただ僕は悪魔のような恐ろしさだった武田先輩の口から「メローイエロー」「イチゴハウス」という単語が出てくることが面白くて仕方なく、笑いを堪えられなくなっていた。
「本当に見たんです! 信じてください!」
「お前、一回殺されないと分からないのか? イチゴハウスにメローイエローはなかった」
「あったんです」
「しつけえ! お前は嘘をついたんだ! イチゴハウスにメローイエローはねえ! なかった! メローイエロー!」
もう何回も言うのやめてくれー、笑いを堪えることができない。やめてくれー。
とにかく必死になって笑いを堪えていると事態はさらに急転直下の様相を見せた。
「じゃあ今から見に行くべ」
武田先輩はそう言った。かなり危険だと思ったが、これにFは目を輝かせた。あの強面の武田先輩がイチゴハウスにいる光景を見ることができる、そう確信した目だった。
武田先輩の所有する下品な改造車に乗ってイチゴハウスに行くことになった。車内には「矢沢永吉」のステッカーと「長渕剛」のステッカーが競い合うようにして貼られていた。山のように貼られていた。ある意味、「E. YAZAWA」と「T. Nagabuchi」のせめぎ合いが展開される車内だった。
イチゴハウスに到着すると、そこにはやはり放課後の女子中学生たちがたむろしていた。ただ、意外なことがあった。それは飲料の自動販売機がなかったということだ。イチゴハウスのことはあまり知らなかったが、てっきり店先に自動販売機があって、そこにメローイエローがあったみたいな話だと思っていたのだ。
「すいません、メローイエローありますか?」
武田先輩は狭い店内を闊歩していき、女子中学生をかき分け、店の奥にあるレジに立っていた小太りな店主にそう尋ねた。あるわけないだろ。
「あるわけないでしょ」
店主はそう答えた。完全に同感だ。女子中学生すらねり消しとか選びながら小声で「販売機もないのにあるわけないじゃん」とヒソヒソと話していた。
「ほら見ろ、なかっただろ」
「本当にあったんですよ」
騙す方も騙される方もどっちもおかしいだろ、どう考えてもあるわけない。自動販売機すらないんだぞ。
帰りの車内で武田先輩が切り出した。
「今回は勘弁してやるけど次はないからな。メローイエロー見つけたらすぐに報告しろ」
「はい、肝に銘じます」
会話だけ聞いていると、金を持ち逃げした不届きな男を見つけて制裁するとか、裏切って暴走族を窮地に追い込んだ男を捕獲するとか、そういう物騒な話に聞こえるけど、メローイエローなんだよねえ。それがなんだかノイズ的で面白くもあった。
ふと気が付くと、車内に陣取り合戦のごとく大量に貼られていた「矢沢永吉」と「長渕剛」のステッカー、その中に一枚だけ「BOØWY」のステッカーがあることに気が付いてしまい、なんで一枚だけ、なんでここだけBOØWY!? と気が気じゃない状態になってしまった。これも言うなればノイズなのだ。
とにかくなんとか許してもらえたので、僕とFは解放されることとなったのだった。
塩味…4
甘さ…2
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 043 超特選むらさき生しょうゆ(チョーコー醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:小麦(カナダ)、大豆、食塩、米/アルコール
容器………4
香り………3
色の濃さ…4
粘り気……3
紫のパッケージがなんとも和風で雅な感じがする。醤油自体は、香りも強く色も濃い。粘り気もある。少し「さしみしょうゆ」を意識したように思える。
味わい的にも「さしみしょうゆ」に近づけた感じだ。少し塩味が抑えめなものの、強い旨味、後に残る甘みがある。それらが上品なバランスでまとまっているのでかなり心地よい。ただ、目指してそれに近づけただけで、明確にそれにしようとしたわけではないので、すこし朧げな印象を受ける。これならばどちらかに振り切ってしまった方がもっと好感が持てる味になるのだろう。
何事においても振り切ることは大切なのだろう。ただ彼女の場合、“振り切る”の意味合いが違っていた。Fと武田先輩、メローイエローの話が終わると、少し間をおいて彼女から切り出してきた。
「ちょっと甲板に出てみませんか?」
彼女はそう言った。笑顔を見せたのち、少し間をおいてそう言ったのだ。
レストラン前のこの通路は長く伸びていて、その先に扉がある。その扉を抜けると甲板に出られるようになっていた。
「そうですね、ちょっと気分転換しましょうか」
もう何時間も船内にいるので少し息が詰まる感覚があった。彼女の提案を受けてすぐに立ち上がり、通路の奥へと向かった。
扉を開けると、強い風が一気に船内へと流れ込んできた。エンジンの轟音と潮の香りが続けざまに入り込んでくる。甲板の床は深い緑色でその先には真っ黒な海が待ち構えていた。
「すごい、風が強い!」
波の音とエンジン音に負けないよう、叫ぶようにして彼女が言った。吹き付ける風は甲板の上を踊るようにして滑っていった。
「でもなんだか気持ちいいですね」
僕もそう叫んだ。冷たい風がなんとも心地よかったからだ。
「あっ、あれ何ですか?」
強風に弄ばれる長い髪を左手で押さえながら、彼女は右手で暗闇の先を指し示した。ポツンと、白く丸い光が遥か向こうにあった。
「方角的にどこか高知の岬かもしれないですね、足摺岬とか、そのへんの灯台かも。よく分かんないですけど」
時間的に見て、四国の南の海上、高知の下あたりを航行しているのだろう。方角的に北側なので、あの光は高知県の何かである可能性が高い。
「もしかしてスマホの電波が入ったりしないですかね」
陸地を感じたのか、また彼女は両手でスマホを握りしめ、少し足を開いてバランスを取りながら確認していた。
「やっぱりだめみたいです」
彼女はすぐに諦めた。彼氏と連絡が取りたくて仕方がないらしい。もちろん、仕方ない話だが、彼女の中でまだ彼氏のことは振り切れていないのだ。それはなんだか僕の心すら苦しめられているような感覚がした。
「すごく風が強かったですね。あと寒かった」
甲板から戻ると彼女が息を弾ませながらそう言った。僕は人差し指を口の前で立てて、声のトーンを落とすように彼女に伝えた。
戻るときに風の力でバタンと大きな音を立てて扉が閉まった。それがあまりに大音量だったので、もう就寝している人の迷惑にならないかとヒヤヒヤしたからだ。
またテーブルに戻り、乱れた長い髪を整えながら彼女が口を開いた。
「私は本当に付き合っていたのでしょうか?」
突拍子もないことを言い出した。ちょっと意味が分からなかった。彼氏と付き合っていなかった、とでも言いたいのだろうか。分からない。
なんだかその瞬間、彼女の思想が“振り切った”ように感じられた。それがどちらの意味なのかは分からなかった。レベルを振り切ったのか、それとも思いを振り切ったのか。
扉の向こうからはまだ風の音とエンジン音が聞こえていた。
塩味…3
甘さ…3
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 044 金笛 濃口醤油ボトル(笛木醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………3
香り………4
色の濃さ…5
粘り気……3
「創業寛政元年」と書かれたシールによって蓋が封印されていた。こういう封印をされるとなんだかワクワク感が高まってくる。醤油の外観としては、かなり色が濃いという印象を受けた。
かなりうまい。思わず「うおっ」って言ってしまったほど濃厚な旨味が襲ってくる。その後、口の中で2度ほど味わいが変わる。タコの刺身を食べながら、その少しずつ変わっていく旨味を楽しんでいける。かなり優秀な味わいだ。それこそ、寛政元年創業の老舗の貫禄というほかない味わいだった。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 045 特選丸大豆しょうゆ(イオントップバリュ)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩/アルコール
容器………4
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
イオンのプライベートブランドであるトップバリュの特選丸大豆しょうゆだ。二重構造ボトルで酸化を防いでいる。外観的には色と香りはやや薄い印象だ。
他メーカーのスタンダード商品と同じところを目指したと思う。塩味をやや強めに設定し、あらゆる食材に合う万能タイプを目指した味付けだ。独特の旨味もあり、深みのある味わいに仕立ててあるが、全体的にやや薄い印象が否めない。
これでは厚みのあるタコの刺身などではかなり物足りなくなってしまう。ただ、後に残る独特の風味はかなりタコの刺身に合うのではないだろうか。もうちょっと濃厚であればと思う。
塩味…3
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
「イオントップバリュ」を詳しく見る(2020年2月現在では醤油の取り扱いなし)
No. 046 特選 丸大豆減塩しょうゆ(イオントップバリュ)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩/アルコール、酸味料
容器………4
香り………2
色の濃さ…3
粘り気……1
こちらもトップバリュのしょうゆ。30%の塩分をカットした減塩醤油ということらしい。
これもやはり多くの減塩しょうゆと同じく、減塩をうたいながら塩味が減ったと感じにくいように作られている。口に入れた瞬間に強い塩味のようなものが口の中に広がるが、おそらく原材料中の「酸味料」でその味を演出していると予想される。かなり尖った部類の塩味だ。
それがいつまでも口の中に残っており、あまりにそれが強いので、おそらくタコの刺身に限らず何を食べてほぼ同じ味になってしまいそうな感じがする。ただ、塩分をカットしつつ、それを感じたくないという人には最良の選択かもしれない。
塩味…4
甘さ…1
旨味…1
タコの刺身にオススメ…★★★
「イオントップバリュ」を詳しく見る(2020年2月現在では醤油の取り扱いなし)
No. 047 超特選さしみしょうゆ(イオントップバリュ)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆、小麦、食塩、砂糖、大豆、醸造酢、みりん/調味料(アミノ酸等)、アルコール
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……2
トップバリュの「さしみしょうゆ」になる。トップバリュ三部作の最後を飾る醤油だ。
これまで試してきた「さしみしょうゆ」に比べてまろやかな味わいという印象を受ける。さらに若干の甘みがあるが、それも予想以上に弱い。通常のさしみしょうゆに比べて全体的な味わいがやや弱い印象だが、不思議とそれがタコの刺身に合わせると、バランスがとれておりマッチする。ただ、もう少しとろみをつけた方が刺身に絡む量が増えるので「さしみしょうゆ」として力を発揮できるはずだ。また見た目の面でももう少し濃い色合いにした方が良いと思う。
塩味…2
甘さ…2
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
「イオントップバリュ」を詳しく見る(2020年2月現在では醤油の取り扱いなし)
No. 048 ABC ケチャップマニス(ABC)
品名:醤油(甘口)
原材料:椰子糖、砂糖、食塩、大豆、小麦、カラメル色素、保存料(安息香酸Na)、酸味料、糊料(キサンタンガム)、酸化防止剤(亜硫酸塩)
容器………3
香り………1
色の濃さ…6
粘り気……7
これ本当に醤油なの? かなり困惑した。名前も「ケチャップマニス」って書いてあるし、ケチャップじゃないのこれ。
ラベルにある「ABC」とはインドネシアの代表的な調味料ブランドらしい。特にバリ島では最も有名といえるブランドだ。ナシゴレンやミーゴレンなどインドネシア料理に欠かせない調味料とのこと。分類的にはやはり醤油にあたるらしい。ここにきてついに世界の醤油に手を出すことになってしまった。
とろみがすごすぎてビンから出しながら笑ってしまった。ずっと5段階評価でつけていたのに、その評価枠を易々とぶち破ることになってしまい粘り気を「7」とした。それくらいのとろみだ。これ本当に醤油なんだろうか。
味わってみる。これは醤油じゃない気がする。アナゴのタレをさらに甘くしたような、どう表現していいのか分からないけど実に機械的な味がする。甘みだけがただただ口の中に広がっていき、しかもその甘味は旨味などから染み出す甘味というわけではなく、ただただスイーツ的な甘み。タコのスイーツを食べている気分になる。こういっちゃなんだが、きわめて海外的な味だ。海外で謎の調味料を口にするとだいたいこういう感想を抱く。それがこの醤油にはある。
もちろん、タコの刺身に絶対に合わないだけで、インドネシア料理には不可欠なのだろうと思う。
あと、粘り気がすごすぎてテイスティング後の皿の処理が大変だった。すごくベタベタして大惨事だ。使用される方はその点も注意されたい。
塩味…1
甘さ…7
旨味…1
タコの刺身にオススメ…★
No. 049 生詰無添加 丸大豆生しょうゆ(フンドーキン醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩
容器………4
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
フンドーキンの醤油。手書き文字のラベルが特徴的だ。何を思って手書き風にしたのかはちょっと分からないが、目立つことは目立つ。
醤油自体は色が薄く、香りもあまりない。今までで一番粘り気がないんじゃないかというほどにサラサラの液体だ。
その見た目の淡白さとは逆に、加熱処理をしていない生醤油ということで、旨味がまろやかでいて力強い。ただ、すっとその味わいが消えてしまうところがある。そして後味もほとんどない。これはあまりに弱い。結果、しょうゆの味わいなしでタコの刺身だけを味わう時間ができてしまう。そこが難点だろう。
もちろん、そういった味わいが必要な場面もあるし、そこに向いている醤油だと思うが、少なくともタコの刺身には少し物足りない。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 050 天然醸造木樽醤油(フンドーキン醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩
容器………3
香り………2
色の濃さ…3
粘り気……2
木樽仕込みとは、醤油の発酵の過程で木樽を用いる方法だ。江戸時代にはこの方法が主流だったが、年々減少し、昨今では全体の流通量の1%程度しか存在しない。それが木樽醤油だ。主な理由は費用対効果が合わないということだろう。
木樽の表面には無数の穴が開いており、そこに発酵の元となる微生物が住み着く。木樽自身も水分をため込んだり空気を通したりと呼吸する、そこでは蔵元ごとの、樽ごとの独自の生態系が形成されるそうだ。よって、近年では木樽製造が注目されるようになっている。
味わってみると、かなり濃厚で深みのある旨味がある。これが独特で何とも言えない味わいだ。さらに醤油自体の旨味だけでなく、タコが持つ旨味も無理やり引っ張り出すような力がある。これが木樽の実力だとしたらかなりのものだ。
ただ、あまりに味わいが深いものだから、これが一口だけだったらよいが、何口か食べると飽きが来るのも早い可能性がある。
ただ、大豆、小麦、食塩だけでこれだけの旨味を出せるので、木樽の実力はかなり高いのかもしれない。
塩味…2
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 051 トモエ 道民の醤油 北海道丸大豆(福山醸造)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(北海道産)、小麦(北海道産)、食塩、アルコール
容器………2
香り………2
色の濃さ…4
粘り気……4
大豆も小麦も国産どころか北海道産のものにこだわって作った醤油。まさしく道民の醤油といえるだろう。色が濃く、特徴的に粘り気が高い。特に増粘剤の類を添加しているわけではないのでどうやってこの粘り気を出しているのか不思議なくらいだ。
旨味がまろやかで上品。素材をふわっと包み込むような味わいがある。見た目から濃厚そうな味わいと予想したが、おそらく同量の醤油から見ると少し味が薄い。ただ、粘り気が高いので多くの醤油が刺身に絡む。それが適切な味わいを実現している。
これが北海道の味だと言わんばかりの存在感がある。そんな醤油だ。
「彼氏と北海道旅行に行ったんです」
まだ髪を整える仕草を見せながら彼女がそう言った。ともすれば幸せだった時代を振り返る内容、お惚気的な内容になりそうな話だが、先般の「私は本当に付き合っていたんでしょうか?」という発言からの言葉だ、多分そうではないのだろう。
彼女と彼氏は遠距離恋愛だった。詳しくは聞かなかったが、付き合ってから何らかの事情で遠距離になった、というわけではなく最初から遠距離だったようだ。関西に住む彼氏に会いに行くため、なんとか交通費を安く済ませようと考え、このフェリーに乗った。けれどもそのフェリーに乗ってすぐ「別れる」という言葉を最後に携帯電話の電波がなくなってしまった。
「どうしても旅行に行きたくて、彼氏を誘い、計画も私が立てて、全部手配したんです。でも、彼はあまり行きたくなかったのかもしれません」
いま思うと彼氏は北海道旅行に乗り気じゃなかった。そんな口ぶりだ。だから「付き合っていたんでしょうか?」みたいなことを言いだしたのだろうか。
「恋人と旅行に行くってなったらワクワクするものじゃないですか? 私はワクワクしました。でも、彼はそうじゃなかった。それってどうなんでしょう?」
彼女はスマホを裏側にしてテーブルの上に置いた。
「どうなんでしょう。人それぞれじゃないですか。いろいろな形がありますよ。ワクワクしていてもそれを表現できない人だっていますし」
僕がそう答えると、彼女は不満げに首を傾げて見せた。期待していた答えと違うらしい。
それはとんでもない野郎だ、絶対に気がないよ! そんな男やめな! 人間のクズさ! と言ってしまうのはなんだかフェアではない気がしたのだ。恋人に別れを切り出され、混乱にある人に、「それはこうだよ、別れるべきだよ」と決めつけで行動の指針を示すことはやはりフェアではないだろう。少なくとも逆の立場で僕がそれをやられたら後々になって「弱みに付け込みやがって」と思うかもしれないからだ。
「私がメールしてもぜんぜん返ってこないんですよね。下手したら何日も放置されちゃう。だから私も何日も放置してやろうって思うんですけど、メールが来るとすぐ返しちゃうんですよね」
テーブルの置かれた通路は真っ暗になっていた。眠れない何人かが通路に出てきて談笑していたが、とうに消灯時間は過ぎている。だから真っ暗だった。ゆえに彼女の表情が良く分からなかったが、力なく笑っているように思えた。
「いつかこうなるって分かっていたのかもしれません、心のどこかで分かっていたのかもしれません」
今度ははっきりと分かった。きっと彼女は泣いているように笑っている。そう確信した。
その横を眠れないのかパンツ姿のトラック運転手っぽい人がまた通り過ぎた。
360度全て暗闇の海に囲まれたフェリーが、妙に孤独な存在に思えた。
塩味…3
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 052 トモエ 道民の醤油 日高昆布(福山醸造)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(大豆(北海道産)、小麦(北海道産)、食塩)、砂糖、昆布(日高産)、酵母エキス、醸造酢、アルコール、ビタミンB1
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……4
北海道産の原料に、さらに北海道日高の昆布を加えた、原料から北海道にこだわったもの。
こちらもNo. 051同様にトモエのものだ。
外観的には通常の醤油に昆布だしを加えた形になるため色味が薄くなっている。ただし、粘り気はそのまま維持している。これはトモエ醤油の特徴なのか、それとも北海道醤油の特徴なのだろうか。
昆布だしからでる深い味がタコの刺身に絶妙にマッチする。このマッチング具合が絶妙だ。やはり、同じ量の醤油と比較した場合は若干味わいが薄い印象を受けるが、粘り気があるのでちょうどよいバランスになる。
これもきっと北海道の味なのだろうと思う。
「実際に行ってみると彼氏も北海道を楽しんでいたように見えました。私も楽しみました」
彼女はポツリポツリと北海道旅行の思い出を語り始めた。富良野とかに行ったらしい。札幌の時計台にはがっかりした、そんな話だ。こう言っちゃなんだが、ありきたりの北海道旅行のようにも聞こえた。
ただ、そこでちょっとした事件が起こった。いや、事件というほどのことではないのかもしれない。ただ、彼女の心の中にわだかまりのようなものが産まれた瞬間があった。
「どこかで夕食にしようと思ったんですけど、ホテルが思ったより何もない場所にあって、タクシーでも使わないとお店がない状態だったんですね。もう今日は疲れたし、コンビニ弁当でいいかってホテルの部屋で食べたんです」
そう言いながら、彼女はバッグの中をゴソゴソと探り、中から黒い塊を出してきた。最初にみたあの1リットルの醤油だ。
「その時もマイ醤油、持っていたんです。好きですから持っていたんです」
コンビニ弁当についていた小さな醤油より持ってきたマイ醤油が良かった。出してきてかけようかと思ったけど、それができなかった。彼女はそう言った。
「なんなんでしょう。見せられなかったですね。彼氏にマイ醤油は見せられないなってなんとなく思ったんです」
別にマイ醤油を持つことが悪いことではない。ただ、それは彼女にとって本質だった。彼女はその本質の自分を見せないことを選んだ。その時は何とも思わなかったが、今になって思うと醤油を見せられなかった心理がなんとなく理解できたらしい。
「結局、いいところだけを見せていたのかもしれませんね。遠距離恋愛で数カ月に一回しか会わないわけですから、自分のいいところだけを見せたかった。そういう意味では、私は彼と付き合っていなかったのかもしれません。本当の私ではなく、良い面の私が付き合っていただけなのかも」
最初から遠距離恋愛だった。滅多に会わなかった。日常を見せなかった。本心ではなかった。だから別れることになったと言っているように思えた。
「でもそれって普通なことじゃないですか? みんな相手にはいいとこだけ見せたいですよ。そこに遠距離恋愛とか関係ないと思います」
僕の言葉に彼女は押し黙った。机の上に置かれた醤油ボトルの液面だけが船の揺れに合わせて左右に動いているように思えた。
「またFの話で恐縮なんですけど、いいですか? いいところを見せたかったって話です」
彼女が頷くのを確認し、話し始めた。いつの間にか厚い雲がなくなり、明るい月が水面を照らしていた。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 053 芳醇天然かけ醤油(川中醤油)
品名:だし醤油
原材料:しょうゆ(脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩)(国内製造)、醸造調味料、食塩、ぶどう糖、砂糖、昆布エキス、鰹節、鰹エキス、昆布、醸造酢/調味料(アミノ酸等)、アルコール、カラメル色素、ビタミンB1
容器………3
香り………2
色の濃さ…1
粘り気……1
広島の川中醤油のだし醤油。かつおと昆布の一番だしを入れた芳醇な逸品というものだ。
“だし”を入れているので“だし”の風味が強く、その旨味がタコの刺身によく合っている。おそらくベースとなる醤油も旨味を強くまろやかに仕上げたものを使っているので、それらが“だし”と柔らかくマッチしている。
だしを投入した醤油にありがちな味の衝突が起こっていないので、濃厚でありながら落ち着いた品のある味を演出している。ただしこれも“だし”系の醤油の宿命だが、味が消え去るのがあまりに早いので、その点でタコの刺身には向かない。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 054 はじめての減塩 だし醤油(川中醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩)、米醸造調味料、ぶどう糖、食塩、昆布エキス、蛋白加水分解物、鰹節、砂糖、醸造酢、鰹節エキス、昆布/調味料(アミノ酸等)、アルコール、ビタミンB1
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
こちらも川中醤油の商品。「はじめての減塩しょうゆ」ということで、なにが「はじめて」なのかが気になった。この川中醤油が初めて出した減塩醤油ということだろうか。こういっちゃなんだが、それは僕らユーザーにとってはあまり知ったこっちゃない。ということは初心者向け減塩しょうゆ、ということだろう。「減塩初心者」そういった概念があるのだろう。
基本的には「だし醤油」なので、だしの味わいが口の中に広がる。本来はこのだしの風味で減塩であることを感じさせないようにするのだが、これは感じてしまう。だしの風味のバックに塩味があって、それが背骨のように支えているのだが、その支えがないので妙にあっさりと味が通り過ぎる。
ただ、味が薄いとは感じにくいので、そう言った意味では「減塩初心者」向きなのかもしれない。
塩味…1
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 055 にんにく醤油(だし醤油)(ユワキヤ醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(本醸造)、糖類(果糖ブドウ糖液糖、砂糖、はちみつ)、にんにく、魚醤、調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア、甘草)、香辛料 (原材料の一部に小麦・大豆を含む)
容器………5
香り………5
色の濃さ…5
粘り気……5
紙で包まれたパッケージ。只者じゃないオーラがプンプンしてくる。そう思うとこの紙も何か禍々しきものを封印しているようにも見える。開けてみると強いにんにくの香りが周囲に漂った。これは相当に“にんにく”入ってるぞ。
紙袋から出すと、攻撃的なにんにく臭を暴力的に発しているとは思えないファニーな容器が登場してくる。かわいい印象すら受けるが、よくよくみると固形状のにんにくが下に堆積しているので、かなり入っていることが分かる。暴力的だ。かなり沈殿しているのでよく振ってから使うべきだ。
味としては、完全に焼き肉のタレに近い。これで肉を食べたらめちゃくちゃうまいと思う。これはそういう味だ。にんにくの風味をフォローするはちみつの甘みが完全に肉に向いている。
だからといって、タコの刺身に合わないかというとそうではなくて、なぜかそこまで悪くない。ただ、タコの刺身がうまい! ではなくてタコ食べてるのに肉を食ってるみたいだ! となってしまう。個人的にはこのにんにくの味わいはかなり好きだが、やはりタコに合わせるのは違う。
塩味…3
甘さ…3
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 056 鮮度ボトル アルコールフリー醤油(伊賀越)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆、小麦、食塩、大豆
容器………4
香り………2
色の濃さ…5
粘り気……3
パッケージに大々的に「0」と書かれている。何がゼロかというと、アルコールがゼロということらしい。醤油はその熟成過程でアルコール発酵が起こりアルコールを含む。また日持ちさせるためにアルコールを添加することもある。市販品の醤油で平均2.82%程度のアルコールが含まれている*2といわれているが、それが「0」ということだ。それが原因なのか分からないが、色味が濃く、漆黒と言えるレベルでどす黒い。
同時に塩分もカットした醤油ということだが、味わってみると少しだけ味が薄いと感じた。おまけに、アルコールがないためなのか全体的に風味がクリアな気がする。言い換えると爽やかな味わいだ。
そういった味を求めるなら申し分ない醤油だが、タコの刺身などの刺身を対象とすると、魚介特有の臭みを消し去るまでいかず、醤油自体がまったく太刀打ちできなくなってしまう。爽やかすぎる味わいは魚介類にはあまり合わないのかもしれない。
塩味…1
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★
No. 057 木樽仕込 国産丸大豆使用醤油(チョーコー醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:小麦(国産)、大豆(国産)、食塩(国産)、米(国産)
容器………4
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……1
これぞ醤油といわんばかりの独特の香りが心地よい。ラベルもなんとなく日本的な雅と高級感があって良い。
味の方は極めて王道だ。旨味も強くまろやか、味のバランスも完全に正統派で、「こいくちしょうゆ」としての当たり前がここにある。丁寧に作られたんだろうなと思わずにはいられない味わいだ。奇をてらわない王道としての醤油のおいしさとでもいうべきだろうか。もちろんそれはタコの刺身にもしっかりマッチするし、安心する味わいだ。
奇をてらわない真っ当さは誠実さなのかしれない。半面、久々に会ったFは奇をてらっていた。わざとかと思うほどにトリッキーな言動が目立った。
Fが留年というかジャックポットしてから、やはり休みがちになっており、いつの間にか退学していた。当時はそうやってつながりの切れた友人と連絡を取るのが難しい時代だったので、そのまま疎遠になってしまった。
風の噂によるとどこかの工事現場で働いているとか聞いたが、会うことも連絡を取ることもなく、何年かが過ぎた。
ふと立ち寄った本屋でジャンプを立ち読みしていたFと再会した時にはお互いに20歳を超えていた。
「久しぶりじゃん」
「おう」
「おれ車を買ったんだよ」
そんな会話をした気がする。本屋の前に停めてあったFの車は、あの日の武田先輩の車にちょっと似ていたが、E.YAZAWAのステッカーは貼ってなかった。
エンジンをかけた車の中で談笑し、思い出話に花を咲かせていた。
Fは少しだけ変わっていて、昔から変な奴だったけど、さらに輪をかけて変なことを言うやつになっていた。
「結局、メローイエローは見つかったの? 武田先輩が探してたやつ」
と尋ねると
「メローイエローは概念だから」
と遠い目をしながら返答になっていない返答をするようになっていた。完全に奇をてらっている。
そんな訳の分からないことになっていたFが突如として切り出した。
「おれ、好きな人ができたんだわ」
僕はちょっと変わっているのかもしれないのだけど、友人とこういう話をするのがあまり好きではない。ただでさえセンシティブな恋愛関係の話を友人と交わしたくない、という考えが昔からある。だからFのトリッキーな発言に少しだけ動揺した。
「おれ、カレーを食べたら告白しようと思うんだ」
もう奇をてらいすぎて彼が何を言っているのか分からなかった。ただ、あくまでも本人は本気のようで、ハンドルを握りながらじっと前を見つめていた。
カーステレオからはE.YAZAWAが流れていた。
塩味…3
甘さ…2
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 058 カクダイ醤油 秘伝万能 だし これ一本(太田屋醤油店)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(本醸造:国内産)、風味調味液(食塩、砂糖、みりん、かつお節、昆布だし、乾椎茸だし、かつおエキス、魚醤、酵母エキス)、砂糖、食塩、みりん風調味料、デキストリン/アルコール (原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………3
香り………2
色の濃さ…5
粘り気……5
これまた「だし醤油」でありながらかなりの粘り気だ。原材料の中に「デキストリン」があるので、これを使って意図的に粘度を高めていると思われる。
恐ろしいほどにだしの味わいが強い。なんでこんなに粘度が高くて味が強いんだ、と思ってラベルを見たら
薄めて使うことを前提としているようだ。特に汁物のベースとして使うのを意識しているらしい。それならこの粘り気も味の強さも納得だ。ただし、ストレートで「だし醤油」として使う用途も意識しているようだが、そうなると、タコの刺身には完全に味が濃すぎる。おまけに粘り気も高いので大量に刺身に絡む、よって破壊的に濃厚な味わいになってしまう。
塩味…4
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★
No. 059 寺岡家の納豆にかけるお醤油(寺岡有機醸造)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(大豆、小麦を含む)、砂糖、かつお節エキス、本みりん、かきエキス、昆布エキス、食塩、レモン果汁、酵母エキス、椎茸エキス、アルコール
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……4
納豆にかけることに特化した醤油だ。
正直に言ってしまうと、僕は納豆を食べられないというか、納豆を食べた経験がないのでいまいちどういった味なのか分からない。よって、納豆専用醤油といわれてもちょっと味わいが想像できない。ただ、見た目や原料成分をみると、納豆のタレ的なものを目指した醤油ではないかと思う。
レモン汁だと思うけど、柑橘系の風味がブワッと口の中に広がる。それからみりんの味がして、旨味がやってくる。予想通り納豆のタレを目指したものだと言える。ただ、これが納豆に合うのか分からない。けれども、タコの刺身にはまあまあ合う。というか、他の醤油とは味の見せ方が違うので、少し新鮮に感じたくらいだ。
そう、納豆。問題は納豆なのだ。
「おれ、カレーを食べたら告白しようと思うんだ」
よく分からないことを言ったFだったが、よくよく話を聞いてみるとさらに訳の分からないことになっていた。1,300gのカレーを食べたら告白する。そう言ったのだ。
今でも全国に展開する某カレーチェーンは、当時、話題性の高いキャンペーンを全店舗で行っていた(現在は廃止)。それがライス1,300gを20分で食べきったら無料、というものだった。あくまでもライスが1,300gで、ルーは700gくらいあったらしいので、あわせて2,000g、2kgだ。基本的に成人男性の限界がライス900gと言われているのでそれを大きく上回る分量だ。
これがなかなか極悪なキャンペーンだった。
どれくらい極悪かというと、お金を持っていなくて腹を空かせていた別の友人が過去に挑戦し、食べきれないどころか血を吐く結果になってしまったのだ。さらには失敗すると無料にならないどころか2,000円近い料金を払うことになっていた。
とてもじゃないが、あまり大食いではないFに達成できるとは思えない。それどころか、その1,300gのカレーと好きな女の子に告白、二つの事象がつながらない。
話を聞いてみると、そのカレー屋で働いているアルバイトの子に恋をしたらしい。それで、1,300gを食べきってかっこいいところを見せて告白したい、となったそうなのだ。1,300g食べきった、カッコイイ! となるのかは疑問が残るところだが、それならなんとなく話が分かる。
「今から行こう! 挑戦だ!」
ひとりだと踏ん切りがつかなかったF。僕が居る今こそがチャンスだと思ったらしく、カレー屋へと車を走らせた。
本屋の近くにあったその店に到着すると、店の前には1,300gのカレーの食品サンプルがクリアケースに入った形で展示されていた。デカデカと「20分以内に完食で無料! 挑戦者募集中!」と煽り文句が書かれている。その横には完食した猛者どものポラロイド写真が貼られていた。いずれもめちゃくちゃ食いそうなメンツだ。この中にFが入る姿は想像できなかった。
店に入ると、Fが恋しているというアルバイトの女の子がいた。なるほど、活発で明るそうなかわいい女の子だ。ただ、その子はカウンターの奥にある丸見えの厨房みたいな場所で店長と思わしき男に説教されていた。Fはそれを気が気じゃない様子で見守っていた。
「俺が元気づけてあげないとな」
そう言って不敵に笑った。お客さんが1,300g食べた! 元気! となるのかは大きな疑問点で議論の余地があるが、Fは完全にやる気になっていた。
しばらくして、説教されたことなど微塵も感じさせない笑顔で彼女が注文を取りに来た。
「1,300g、辛さ普通で」
Fはめちゃくちゃ男前な顔で注文した。それを受けて彼女も表情が引き締まり、神妙な顔になった。
「挑戦でよろしいですか?」
その問いかけに間髪入れずに答える。
「挑戦で」
なんだかちょっとかっこよかった。ここだけエヴァの出撃前みたいなシリアスさがあった。僕はごくりと唾を飲み込むことしかできなかった。
オーダーを受けた彼女が踵を返し、厨房へと戻ろうとしたとき、Fが彼女を呼び止めた。まさか、ここで告白するのか!? まだ食べきってないじゃないか。そう思った。けれどもFの言葉は予想だにしないものだった。
「納豆トッピングで」
バカなんじゃないか。
そのカレーチェーンはトッピングによって自由にカレーをカスタマイズできるようになっていた。そこに「納豆」というトッピングがあったのだ。カレーに納豆など、僕からしたら信じられないが、けっこう人気があったと聞く。
ただ、この場面ではあきらかにおかしい。ライス1,300g、ルー700g、これを食べきれるかも疑問なのに、そこに追加で納豆まで増えるのだ。
「なんでわざわざ量を増やす真似をするんだよ」
僕がそう問いかけると、Fは涼しい顔をして言った。
「納豆トッピングまでした方がかっこいいだろ」
ちょっとよく理解できなかった。
結局、Fは彼女にいいところを見せたかったのだ。トッピングした納豆の分だけがFのかっこつけなのだ。いわば心のぜい肉だ。
納豆のトッピングまで! かっこいい! と彼女が感嘆するのかは甚だ疑問だが、いや、むしろならないと思うが、Fはいたって真剣だった。そう、そして、決死の挑戦が始まったのだった。
塩味…2
甘さ…2
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 060 超特選うすむらさき 生(チョーコー醤油)
品名:うすくちしょうゆ(本醸造)
原材料:小麦、大豆(遺伝子組換えでない)、食塩、米
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
まず驚くのが透明容器の中に見える醤油の色だ。小皿に出してみるとそうでもないが、容器に入った状態でみると品名にあるように本当に「うすむらさき」なのだ。画像では分かりづらいが、肉眼で見るとよく分かる。醤油のネーミングには「紫」が使われることが多く、ずっと謎だったが、薄い色味をした醤油は紫に見えることからきているのかもしれない。
味の方は「うすくちしょうゆ」の基本的味わいで、色味は薄いが味は濃く、強い塩味を感じる。「うすくちしょうゆ」はおおむねタコの刺身に合うが、これは特に後味のクリアさがあり、きっちりマッチする。強い塩味もそこまで攻撃的ではないので、ずっと口の中でゆったりと味わうことができる。バランスの良い味わいといった印象だ。
塩味…4
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 061 超特選有機醤油こいくち密封ボトル(チョーコー醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:有機小麦(アメリカ)、有機大豆、食塩、有機米
容器………4
香り………2
色の濃さ…4
粘り気……2
やはり有機栽培の原料ということで旨味が強い。ただ、これは若干、本当に少しだけだが、口に入れた瞬間に雑味のようなものを感じた。それは本当に些細な味なのだけど、何度か繰り返して味わってみたが、やはり雑味を感じる。
あと、甘みを少し感じたが、特に甘いものを原料として投入しているわけではないので、素材から上手に甘みを染み出させているのだと思う。もしかしたらそれが雑味とも関係があるのかもしれない。
塩味…2
甘さ…3
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 062 実生ゆずかけぽん(チョーコー醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(小麦・大豆を含む)(国内製造)、醸造酢、砂糖、ゆず果汁、みりん、魚貝エキス、酵母エキス、食塩
容器………4
香り………3
色の濃さ…1
粘り気……1
「ポン酢しょうゆ」という分類に入る商品だ。ポン酢とは正式には柑橘類系の果汁に酢酸を加えたものを指す。そのポン酢と醤油を混ぜたものが「ポン酢しょうゆ」であり、これも広い意味で「ポン酢」と呼ばれることがある。この商品はポン酢ということで醤油とは異なるかもしれないが、それでも醤油の仲間だろうと購入した。品名も「しょうゆ加工品」なのでしっかりと醤油の仲間に入るだろう。
味わってみる。うん、ポン酢だこれ。ポン酢だな、これ。当たり前だけど、ポン酢だな。
ただ、ポン酢とタコの刺身はかなり合う。合いすぎるほどに合う。それもこの商品がポン酢としてはやや薄めの味付けをしているからだと思う。ポン酢、合うな。タコに合うな。ただ、味わいとしては刺身を食べているというより、小鉢に入ったちょっと手の込んだ一品料理を食べているという感覚になる。ちょっとした小料理屋で最初に出てくる小鉢みたいな味わいになる。
塩味…3
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ ★★★
No. 063 男が使うにんにく醤油(川中醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(脱脂加工大豆[遺伝子組換えでない]、小麦、食塩)、醸造調味料、食塩、ぶどう糖、フライドガーリック、砂糖、昆布エキス、鰹節、鰹エキス、ジンジャーパウダー、昆布、醸造酢、調味料(アミノ酸等)、アルコール、カラメル色素、増粘剤(キサンタン)、ビタミンB1
容器………3
香り………5
色の濃さ…4
粘り気……5
容器に平然と「パンチの効いた味」と書いている。ここまで言わせるんだから本当にパンチの効いた味なのだろう。
何をもって「男が使う」なのかその判断基準がよく分からないが、とにかくまたニンニクと思わしき固形物が浮遊している。
味の方は、やはりニンニクの風味がかなり強い。このニンニク風味の強さは完全にパンチの効いた味なのだと思う。
やはり肉を食べるのに照準を合わせた焼き肉のタレ的な醤油なのだろう、完全にそこに照準を合わせたセッティングだ。これはタコなど淡白なものを食べるためのものではない。肉だ。とにかく肉を貪り食うものだ。そしてそれが「男らしさ」なのかもしれない。
男らしくワイルドに食らう、Fはそこにかっこよさを見出したのかもしれない。
「これを食べきったらあの子に告白する」
パンチの効いたセリフだった。その思いは一途で真っすぐなものだった。
厨房から特大のカレーを持ってあの子がやってくる。遠近感が狂うくらい皿がでかく、氷山のような山になっているライスが見えた。このシーンをイラストにしたら絶対に遠近法の観点でダメ出しを食らう、そんな異様さだった。
「これは絶対に食べきれないだろう」
そう思った。物理法則を無視していると思った。どでかい皿の横には小さな皿が二つあって、片方には入りきらなかったルーが、もう片方にはこれまた入りきらなかったトッピングの納豆が入っていた。
あの子はクリーム色の小さなキッチンタイマーを持っていて、手際よく時間をセットする。
「それでは、20分になります。一粒でも残したら失格、途中で席を立っても失格です」
事務的な口調でそう告げた後、ついに挑戦が始まった。
「まずは頂上の辺りを一気に食べてから追加のルーと納豆を入れるんだ!」
僕のアドバイスと同時にFはものすごい勢いで米だけをかっ込み始めた。その様子はとてもワイルドで男らしかった。けれども、あの子はもう別のテーブルに注文を取りに行っていたので、そんなFの勇姿を見ていなかった。見ていたとしても「すごくお米食べてる! かっこいい!」とはならないと思うけど。
8分ほどで半分以上のライスが消えた。ものすごいペースだった。もしかしたらいけるかもしれない。そんな希望みたいなものが見えていた。
さすがにその後はややペースが落ちたが、残り5分という段階になって100gほどのライスを残すのみとなった。1,200gは食べたわけだ。まさかここまで来るとは思わなかった。
しかし、そこでFの動きが完全に止まる。まるで燃料の切れたロボットのように微動だにしなくなってしまった。
「どうした? あとちょっとだぞ!」
二人ともキッチンタイマーに目をやる。残り4分30秒。いける! しかし、同時にとんでもないものまで目撃してしまった。
「納豆入れるの忘れてた!」
キッチンタイマーの横には、開始当初から全く触れられることのなかった別皿の納豆がそのままの状態で鎮座しておられた。完全に投入し忘れていたのだ。ここで納豆の分だけ分量が増えるのはかなり痛い。単純に残りの量が倍くらいになる感覚がした。心理的にかなりきつい。見ているだけの僕ですら心が折れそうだった。
「納豆とかルーは残してもいいんじゃないか? だって“一粒でも残したら”って言ってたぜ、それって米粒って意味だろ? それに本来はないはずの追加トッピングなわけだし、残してもいんじゃないか?」
「いや、でもよく考えたら納豆も粒だぜ、だから一粒でも残しちゃまずいんじゃないか」
僕とFでルールの見解が分かれることになった。店員さんやあの子に聞いてみればよかったんだけど、レジの処理に忙しそうだったのでそれも叶わなかった。
「もう混ぜる! それで一気にいく!」
Fは決意した。残ったライスと納豆、ルー、一気にかき混ぜる。茶色の納豆ボールみたいなものが出来上がって、うねうねと糸を引き、新種の生物みたいになっていた。
「いくぜ! 男、藤田の生き様を見よ!」
Fは訳の分からない言葉で自らを鼓舞し、一気に納豆ボールを口に運んだ。
「だめだあああ、おれ納豆食べられないんだった。匂いが無理」
Fは弱々しく言った。なんで納豆トッピングを追加したんだよ。
「食べられないものを乗り越えて達成した方がかっこいいと思って」
それは大いに議論の余地があるところだが、それ以前に彼女はその雄姿を見ていない。忙しそうにレジを打っている。
ピピピピというキッチンタイマーの無情なる音と、納豆ボール、それだけを残してFの挑戦は終わりを告げた。
塩味…3
甘さ…2
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★
No. 064 えびつゆ(チョーコー醤油)
品名:つゆ(希釈用)
原材料:しょうゆ(本醸造)(大豆(遺伝子組換えでない)・小麦を含む)、砂糖、みりん、食塩、干しえび、醸造酢、酵母エキス、魚貝エキス、こんぶエキス、乾しいたけ
容器………2
香り………1
色の濃さ…1
粘り気……1
あのときの僕はどうかしていたのかもしれない。醤油を買っているつもりで、なぜか「つゆ」を購入していた。なんでそんな間違いを犯してしまったのだろう。届いた「つゆ」を見て、ええいせめて「つゆ風しょうゆ」であってくれ、ままよと祈る気持ちでラベルを見たがしっかりと「つゆ(希釈用)」と書かれていた。つゆじゃん。
味わってみる。うん、やっぱりつゆじゃんこれ。
ただ、けっこうタコの刺身に合う感じで思いのほか満足してしまった。「つゆ」なんだけどね。
塩味…1
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★(つゆ)
No. 065 燃えろカープ 鯉くち醤油(五日市醤油製造)
品名:しょうゆ加工品
原材料:脱脂加工大豆、小麦、アミノ酸液、食塩、糖類(三温糖 、ぶどう糖)、調味料(アミノ酸など)、アルコール、ビタミンB1
容器………2
香り………3
色の濃さ…5
粘り気……2
広島人はなんでもカープグッズにしてしまう習性があるのだけど、醤油までもがカープグッズになっていた。しかも「こいくち」→「鯉くち」らしい。ふうん。
味の方は正統派「こいくち」しょうゆ。驚くくらいに正統派だった。塩味や旨味等がしっかりとバランスをとっており、その絶妙な調整に舌を巻く。あらゆるシーンで使える味に仕上がっているが、タコの刺身に合うかというともう一手、何かが足りない。
色がかなり濃いが、黒に近い。どうせカープグッズにするのならば赤味を重要視した色合いを目指してもよかったはずだ。「ず~っと赤い」とか書いてあれば最高だったのかもしれない。
塩味…3
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 066 燃えろカープ たまごかけ醤油(五日市醤油製造)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(本醸造)、かつおだし、みりん、たんぱく加水分解物、砂糖、かつおぶしエキス、食塩、清酒
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
広島人はなんでもカープグッズにしてしまう習性があるのだけど、たまごかけごはん醤油までもがカープグッズになっていた。
卵かけごはん用にセッティングした醤油ということで、色合いは薄くなっており、おそらくだし風味の味を追加していると思われる。ただ、原材料に清酒と表記されているのはなんとも珍しい。
味の方は、かつお節エキスによる旨味がかなり前面に出ている。確かにこれで卵かけごはんを食べたらおいしそうだ。ただ、タコの刺身に対した場合、可もなく不可もなくといった評価になってしまう。なぜなら口の中で味が消え去るのが早いからだ。だしで追加された旨味は消え去るのが早く、そこがタコの刺身にとって致命傷になる。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 067 さしみしょうゆ(ホシサン)
品名:さいしこみしょうゆ(混合)
原材料:アミノ酸液、脱脂加工大豆、小麦、食塩、果糖ぶどう糖液糖、砂糖、水飴、カラメル色素、アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア)、ビタミンB1
容器………2
香り………3
色の濃さ…5
粘り気……3
漆黒と言えるほどに色が濃い。色が濃く、粘り気と甘みがあるのが「さしみしょうゆ」の特徴だが、この醤油にもその特徴がしっかりある。
味の方は、甘みと旨味はそこまで強くはない。「さいしこみしょうゆ」*3を使っているのでもう少し旨味が強いのかと思ったがそうではなかった。若干ではあるがアルコールの風味が強く出ているような気がした。本当にわずかで、僕はあまり気にしないが、これが苦手な人はいるかもしれない。
そう、苦手な人というのはあらゆるものに対して存在する。問題はそれとどう接するかなのだ。
「納豆が苦手なのに納豆をトッピングしたんですか?」
Fの話に彼女は驚いているようだった。
「ええ、トッピングした納豆の分だけかっこつけようとしたのだと思います。いいところを見せようとしたのでしょう。それってすごくバカですけど、そういうものじゃないですか? 好きな人にいいところを見せたいって。それは偽りの自分ではないですよ」
彼女は、北海道旅行の際にマイ醤油を見せられなかった、それが偽りの自分だと言った。けれども、単純にそれは違うと思ったのだ。
しばらく沈黙の時間が流れた。おそらく雑魚寝している大広間みたいな客室からだろうけど、おっさんの大きなイビキだけが聞こえてきた。
「Fさんは彼女とはどうなったのですか?」
沈黙を破るように彼女が切り出した。即座に答える。
「何もありませんでした」
いちおう、納豆ボールで敗れた後に連絡先を書いた紙を渡したらしいが、その後、なんの音沙汰もなかったらしい。まあそりゃそうだろうという感じだ。
また沈黙が訪れた。
時計を確認すると、もう深夜と言っても過言ではない時間だった。そろそろ寝ないと明日に支障があるかもしれない。もともとはもっと早い時間に眠るはずだったが、ついついこんな時間になってしまった。たぶん、彼女もそうで早く寝た方が良いのではないだろうか。
「そろそろ……」
そう切り出そうとすると、かぶせるようにして彼女が口を開いた。
「お酒、飲みませんか?」
その言葉は、まるで眠ることを拒否しているようにも思えた。
塩味…2
甘さ…2
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 068 丸大豆醤油 もろみの雫(直源醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………5
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……2
めちゃくちゃかっこいいオシャレ容器だ。僕は権威に弱いのでこういうものは外観だけですごみを感じてしまう。
開封してみてかなり香りが強いと感じた。あたり一面に醤油の香りが広がる。それが他の醤油に比べて一段強い。
味を見てみると、まず深い味わいが感じられた。モワッと強い旨味が襲ってくるのだけど、次の瞬間、この強い旨味はいくつかの旨味が連なっていたものなんだと理解する。その中にタコの刺身の旨味もすっと空席に座るように入っていき、同じように強烈な旨味を共同で演出する。若干ではあるが、発酵の時に生じたであろうアルコールの後味があるのだけど、それが苦手でないのならかなり評価は高い。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 069 国産有機醤油 濃口タイプ(ヤマキ)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:有機大豆(国産)、有機小麦(国産)、食塩
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
埼玉県神川町の醤油メーカー、ヤマキの醤油だ。
城峯山(じょうみねさん)より湧き出る名水「神泉水」を使用とのこと。この神泉水は同じヤマキからミネラルウォーターとしても販売されているようだ。
旨味が強い。しかもぱっと口の中で広がるタイプの旨味だ。これだけ強い旨味は、有機栽培原料であること、また木樽仕込みであることが関係していると思われる。
半面、塩味や甘味はほとんど感じないので、ちょっと味わいが一辺倒な印象は受ける。言い換えるともう少し味の奥行きをつけると完璧にタコの刺身に合う醤油になると思う。それでも十分にタコの刺身に合う。
塩味…1
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 070 だししょうゆ こい色しょうゆ仕立て(キッコーマン)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(本醸造)(大豆(遺伝子組換えでない)、小麦を含む)、ぶどう糖果糖液糖、砂糖、食塩、ほたてエキス、かつおぶしエキス、みりん、酵母エキス、にぼし、こんぶ、調味料(アミノ酸等)、アルコール、酸味料
容器………2
香り………1
色の濃さ…2
粘り気……3
キッコーマンのだし醤油。微妙にとろみがあるので、おそらく薄めての使用を前提としている。パッケージを見ると、煮物への使用をメインに考えているようだ。
味わってみる。なるほど。“だし”がかなり絶妙に絡んでタコを引き立ててくる。原材料を見ると「かつお」「にぼし」「ほたて」「こんぶ」といわゆる四大だしが入っている。これらが互いに衝突せず、破綻がなく味が一体化するようにかなり考えて調合されている。良い配合を見つけるのになかなか苦労したのじゃないだろうか。
そして、そこに第五成分として本来の素材、つまりタコの旨味が入ってくるが、それでも破綻しない。きっちりと合う醤油に仕上がっている。ただし、正直に言ってしまうと最初の1切れはうまいと感じるが、3切れ目くらいから次第に飽きてきそうだ。
塩味…2
甘さ…2
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 071 かぼす醤油(だし醤油)(ユワキヤ醤油)
品名:しょうゆ加工品/(かぼす醤油)
原材料:しょうゆ(本醸造)、果汁(かぼす)、糖類(果糖ブドウ糖液糖、砂糖、はちみつ)、魚醤、甘味料(ステビア、甘草)、調味料(アミノ酸等)、アルコール、ビタミンB1 (原材料の一部に小麦・大豆を含む)
容器………5
香り………3
色の濃さ…4
粘り気……2
醤油が緑色の紙で包まれている。ただそれだけで権威のように感じてしまうから僕は単純なのかもしれない。
大分産のかぼすをふんだんに投入したとのことだが、見た目、香りともに通常の醤油とそう変わらない。本当にかぼすが入っているのだろうかと考えてしまうほどだ。
味の方は、実に面白いものだった。口に含んだ瞬間、あれ、普通の醤油、と思ったら次の瞬間、パーっと柑橘類独特の風味が口の中に広がる。なんとも表現しがたいが、表現するなら清涼な醤油を味わっている感覚だ。そしてその後味がいつまでも口の中に爽やかなものとして残る。
こういった清涼な味わいは一歩間違うと物足りなくなりがちだが、なんともタコの刺身に合う。むしろタコの方がこの醤油に合わせにいっているような感覚すらあるのだ。素晴らしい。
塩味…2
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 072 湯布院長寿畑 椎茸のいっぱいはいっちょるジュレ寒天 九州甘口・旨口醤油(サンヨーコーヒー)
品名:醤油加工品
原材料:醤油(小麦を含む)(国内製造)、砂糖、醗酵調味液、かつお節エキス、昆布エキス、椎茸、食塩、寒天/甘味料(スクラロース)
容器………2
香り………2
色の濃さ…3
粘り気……4(ジュレ)
正式名称が「湯布院長寿畑 椎茸のいっぱいはいっちょるジュレ寒天 九州甘口・旨口醤油」らしいのでもはや昨今のライトノベルみたいな長さだ。
名前の通り、ジュレ状の固形物が容器の底にたまっているので、振りすぎるほどによく振ってから使用する必要がある。
味の方だが、九州、大分湯布院の醤油ということで甘口醤油に仕上げているが、そこまで明確な甘さは感じない。なぜかというと、ジュレ化された椎茸が醤油内に多く含まれていて、椎茸由来のまろやかな旨味が味の大部分を占めるからだ。さらにジュレ化することで、最初の一口で最も味が強くなるのではなく、徐々にその旨味が染み出してくる。その味の変化はタコの刺身をドラマティックに演出してくれる。
これはお酒のつまみとしてもかなり優秀な味を演出できると思う。そう、お酒が欲しくなってくる味だ。
あの時も彼女は同じように酒を欲した。
「お酒、あっちの自販機に売っていませんでしたっけ?」
彼女がそう言った。
船内にはジュースの自動販売機に並んでカップラーメンの自販機、ポテトなどのスナック類を売る自販機に、お酒の自販機があった。たしか、缶ビールと酎ハイを売っていたと思う。
「ちょっと買ってきますね」
彼女が立ち上がろうとしたが、僕はそれを引き留めた。
「お酒なら僕、持っています。少し多めに持っていますのでこれを飲みましょう。全く冷えてないですけど」
お酒をかっくらって寝ようと思っていたので、何本か持ってきていた。それを飲もうという提案だ。
反対側の通路では同様に眠れないおばさんたちが酒盛りを始めたので、まあ、フェリー内ではよくある風景なのかもしれない。
「あ、じゃあ、わたし、おつまみを出しますね」
彼女はカバンの奥底からスーパーのビニール袋に包まれた何かを出した。見るとそれは春巻きが7個くらい入っているパックだった。こんなこともあろうかと総菜を買っていたようだ。その春巻きのパックにはどういったブランド戦略か分からないが「鳳凰」と書かれた金色のシールが貼られていた。
(なんで春巻きに鳳凰なのだろう)
そう思ったが言わないでおいた。
プシュッという音をお互いに立てて極めて小さな声で乾杯をした。その声はごくごく小さく深夜の海に吸い込まれていったようにも思えた。
塩味…2
甘さ…3
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 073 一騎醤油 再仕込醤油 蘭(緑屋本店)
品名:さいしこみしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆、小麦、食塩、糖類(水あめ、砂糖)、アルコール、カラメル色素、調味料(アミノ酸等)
容器………3
香り………3
色の濃さ…5
粘り気……3
蓋のところに紙がかぶさっていて高級感がある。これだけで特別な醤油みたいな感じがするから不思議だ。
やはり「さいしこみしょうゆ」特有の濃厚な見た目だ。色が濃く、とろみがある。それは二度の醸造を経る製法をとるためだ。
一般的な「さいしこみしょうゆ」の味わいと同じく強い旨味かと思われたが、最初の感覚としては甘みが強く旨味が弱めかと感じた。けれども後からジワジワと旨味が出てきて、やはり特有の強い旨味となった。この深い旨味はやはりタコの刺身に合う。甘みが強いと言っても甘ったるいといった類の甘みではないので、後味としても非常に心地よい。
塩味…1
甘さ…3
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 074 和紫(なごみむらさき)(フンドーキン醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(本醸造)、たんぱく加水分解物、砂糖、糖みつ、食塩、水あめ、みりん、かつおエキス、こんぶエキス、調味料(アミノ酸等)、アルコール、カラメル色素、甘味料(ステビア、甘草) (原材料の一部に小麦を含む)
容器………2
香り………3
色の濃さ…3
粘り気……3
フンドーキンのだし醤油だ。
かなり甘口に寄せただし醤油という印象だ。このあたりは九州の醤油メーカーならではといったところか。もちろん、だし醤油なので希釈して使用することを想定しているのだろう、一定以上のとろみがある。ただ色の濃さはそこまでではなかった。
甘さとだしの相性はよくて、決してくどくない甘さがだしの旨味を引き立たせる。もちろん、煮物などの味付けを想定したものだろうが、不思議とこの味わいはタコの刺身に合う。個人的にはもう少し塩味が強ければ完璧な配合だった。
塩味…2
甘さ…4
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 075 井上 古式じょうゆ(井上醤油店)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(国内産)、小麦、食塩
容器………3
香り………3
色の濃さ…2
粘り気……1
島根県の醤油。やや強い香りだが、それが明らかに醤油といった典型的な香りではなく、独特の香ばしさがある。むしろ醤油の香りとは正反対の柔らかい香りだ。そして色味もやや薄い。
味の方だが、驚くほど深い。あえて表現するなら何かが抉られるような味わいだ。まろやかでありながら力強い旨味。それがまるで醤油の旨味がタコに溶け込んだようにすら感じるのだ。口の中でその溶け込んだ旨味がタコから染み出してきと、噛むごとに味わいが深まっていく。タコに合うという概念を超越して置き去りにし、タコと一体化した感覚すらある。そんな醤油だ。
塩味…2
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 076 黄金ソルト(熟成醤油)(室次醤油)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(大豆・小麦を含む)、さば、タピオカ
容器………4
香り………0
色の濃さ…2(粉)
粘り気……0(粉)
またもや粉状の醤油が登場してきた。名前の通り、「黄金」の粉なので、もはやかけらも醤油感がない。
原材料をみて驚いたが、タピオカが入っているらしい。ちょっとした流行の最先端が垣間見えてしまった。もちろん、昨今のタピオカブームの前からこちらの醤油が製造されていたのだろうとは思う。
「天然醸造しょうゆ」と「さば」のうまみ・コクを高めた減塩醤油「旨醤(うましょう)」を粉末化したものとのこと。粉末化することでこれまで使えなかったシーンで醤油の味わいを付加できるし、持ち運びも簡単という考えかもしれない。現にこのビンはかなり小さくなっており、携帯するのに向いている。
最初の一口めは「きなこ?」と感じてしまい、ほとんど味がしなかった。ほのかに甘みが香る程度だった。その後、口の中の水分に粉末が溶けていくに従って醤油の味わいが染み出てくるのか、次々とピストン輸送のごとく醤油がやってくる。ただ、想像するより味は濃くないので、ちょっとした味付けのアクセントなどに使うのが良いのではないだろうか。
もちろん、小さいビンなので携帯をし、出先でちょっと味を調えるという使い方もできる。
そう、これくらい小さなビンならば彼女も携帯しやすかったのではないだろうか。
「これ、かけるとおいしいんですよ」
ひょんなことから乾杯をし、お酒を飲む僕と彼女。目の前にはスーパーの春巻きだ。
彼女はまたバッグから1リットルの醤油を取り出し、春巻きにかけた。この船に乗ってすぐ、この場所でそうしていたように、あのバカでかい醤油をかけた。
そこまで言うのならばと春巻きを味わってみる。味わってみると、醤油の色味は薄いがそれ以上に塩味が強かった。ただその味がすっと消えるように感じた。まるでそれは未練なく潔く身を引く恋の終わりのようでもあった。切なくも、儚くもあった。ただ、その感想を彼女に伝えることはできなかった。
塩味…2
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 077 海の精 国産有機たまりしょう油(海の精)
品名:有機/オーガニックたまりしょうゆ(本醸造)
原材料:有機大豆、食塩、米焼酎
容器………3
香り………3
色の濃さ…5
粘り気……3
色が濃い。とにかく濃い。これは「たまりしょうゆ」の持つ特徴だが、それでもこれは極度に漆黒だ。この醤油は愛知県の醤油で、愛知・岐阜・三重の東海三県は「たまりしょうゆ」の産地として知られている。つまり本場の「たまりしょうゆ」ということだろう。こいくちしょうゆなどは大豆と小麦を用いて製造されるが、たまりしょうゆの場合は大豆のみで製造される。それによって得られるとろみと、コクのある旨味が特徴だ。
見た目から濃厚な塩味を想像するが、意外なほど塩味は濃くない。かといってそっけない味かというとそうではなく、そこに塩味はあるのに、かぶせるようにして深い旨味で上書きされていくのだ。これがこの醤油の味わいを深いものにしている。
この大豆本来の旨味と思われる味わい深さは「たまりしょうゆ」という製法だから出せるのだろう。もちろん、特徴であるとろみも刺身に向いており、しっかりとタコの刺身を彩ることができる。
塩味…2
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 078 福寿 百年蔵生じょうゆ(浅利佐助商店)
品名:さいしこみしょうゆ (本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩、米 ※遺伝子組換え大豆は使用しておりません。
容器………4
香り………3
色の濃さ…4
粘り気……4
細長いビンでかっこいい。こういうこじゃれた容器を使う醤油はどうしてもその味に期待してしまう。
旨味が桁違いに強くて深い。もともと「さいしこみしょうゆ」は旨味が強くなる製法だが、それを差し引いてもかなりの強さだ。原料に含まれる「米」にはあきたこまち米麹を使用しているとのことだが、それがこの丁寧な味わいに現れているのだろうか。
水、大豆、米、全てにこだわった原料で、さらに「さいしこみしょうゆ」の製法を採用することにより圧倒的に深い味わいを実現している。タコの刺身どころではなく、あらゆるシーンでも使えるオススメの醤油だ。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 079 四穀(よんこく)しあわせ醤油(ちば醤油)
品名:しょうゆ様調味料
原材料:脱脂胡麻、食塩、粟(あわ)、稗(ひえ)、黍(きび)
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
こちらも大豆や小麦といった原料を使わず、醤油を表現した商品だ。
胡麻と、粟(あわ)、稗(ひえ)、黍(きび)の雑穀を原料として醤油の風味を実現しているということだ。容器から出してみて驚いたが、しっかりと醤油独特の香りが再現されている。当たり前の醤油としての香りがそこにある。
味の方も、かなり醤油に近い味わいだと思う。よくぞここまでという感嘆の声をあげそうになった。若干ではあるが味に深みがなく、一番後ろで支える背骨となる味わいが不足しているように感じるが、それはこの醤油の事情を知っているから感じることだ。普通に味わったら一般的な醤油と思うだろう。
大豆、小麦を使わずにこれだけ醤油に近づけるのは離れ業ではないだろうか。
塩味…2
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 080 くんせいしょうゆ(安本産業)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(脱脂加工大豆、小麦、食塩)、みりん、調味料(アミノ酸等)、アルコール
容器………4
香り………4
色の濃さ…3
粘り気……1
エアレーション*4によって燻煙を醤油に送り込んだ燻製醤油とのこと。おそらく燻製にした影響だと思うが、醤油とは異なる香りがする。上質な木材に囲まれた時のような、いい木材を使っているロッジに入った時のような落ち着く香りが漂ってくる。この香りの時点で醤油からは大きく逸脱している。まさか醤油の香りでリラックスするとは思わなかった。
味のほうも燻製の影響がかなり強い。これまで醤油では味わってこなかった類の旨味があり、口の中に高級木材のような香ばしさが広がる。今までの醤油体験とは異なる味わいと感覚なので、これまで醤油を使っていた料理全般でこれを使えば異なる味を演出できるだろうと思う。なかなか面白い体験だった。
ただ、後味的にずっと口の中が燻されているような煙っぽい味わいが残る。早い話、口の中が煙たい。そこはタコの刺身を味わう場合はちょっとマイナス評価になってしまう。
「口の中を燻されている」
それはこういう状態を言うのかもしれない。
彼女が持参してきた醤油で春巻きを食べ、酒も進んだ。ちょっとしか飲んでいないが彼女はそこまでお酒に強くなかったようで、酔っぱらってしまったように見えた。そして突如として困ったことを言いだしたのだ。
「彼氏と復縁できるでしょうか?」
そんなことを言われても、できるとも言えないし、できないとも言えない。復縁すべきではないとアドバイスする権利もないし、復縁すべきとアドバイスする権利もない。その質問にはなんだか口の中を燻されているような気まずい感覚がした。
「スマホがつながるようになれば……」
そう呟いてスマホの画面を確認する彼女。こちらのスマホも確認したが、まだまだ張り付いたように圏外だった。
なんだか妙に重苦しい気配がした。揺れ動くこの船を目に見えない何かが重圧となって抑えつけているように感じた。
「全然関係ないですけど、ビーチバレーボール大会がありましてね」
僕は何かを誤魔化すように話し始めた。きっと答えを避けたのだろう。重圧から解き放たれたのか船が大きく揺れはじめ、缶チューハイの空き缶が倒れて転がった。
塩味…3
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 081 昆布醤油(湯布院 乙屋)
品名:しょうゆ加工品
原材料:新式醤油、みりん風調味料(かつおエキス、昆布エキス)、砂糖、調味料(アミノ酸など)、甘味料(ステビア)(原材料の一部に小麦、大豆を含む)
容器………3
香り………3
色の濃さ…2
粘り気……3
原材料表記に「新式醤油」と書いてある。ここにきて全く聞きなれない醤油が登場してきた。調べてみると、これはタンパク質原料を薄い塩酸で加水分解したものを原料に発酵させて醸造する醤油とのことらしい。色の濃さはそこそこだが、予想以上にとろみが強い。
味の方は、とにかく商品名に「昆布」と入っているだけあって昆布の旨味が強い。これでもかと昆布の旨味が口の中を占拠してくる。おそらくかなりの量の昆布エキスが入っているのではないだろうか。
強い昆布の味に誤魔化されそうになるが、冷静に味わってみるとそれ以外の醤油としての味わいがやや薄い。若干の甘みを感じるが、それ以外は全て昆布に上書きされている印象だ。とにかく昆布が大好物! という方にはベストな選択となるが、タコの刺身に合わせるとなると、もう少し醤油的な味わいも欲しいところだ。
塩味…1
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 082 井上こはく(井上醤油店)
品名:うすくちしょうゆ (本醸造)
原材料:米、大豆、食塩、小麦
容器………3
香り………2
色の濃さ…1
粘り気……1
島根県の奥出雲、井上醤油のうすくちしょうゆだ。
やはりうすくちしょうゆは根本的にタコの刺身に合う。けれどもこれはさらにその上をいく。強い塩味という「うすくちしょうゆ」本来の特徴を持ちながら、その塩味が決して出すぎず、かといって物足りなくもない絶妙な配分に仕上がっている。
もちろん、その絶妙なる塩味の背後にある旨味も程よいものがある。その配合が絶妙すぎる。そういった味わいも重要だが、なにより、この井上醤油の醤油が持つ独特の風味が気持ち良い味を演出しているのである。
塩味…3
甘さ…2
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 083 これはうまい(大久保醸造店)
品名:かつを風味調味料
原材料:こいくちしょうゆ(本醸造)、みりん、砂糖、宗田節、カラメル色素、かつを武士、さば節、醸造酢、調味料(アミノ酸等) 原材料の一部に小麦・大豆・米を含む
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
商品名が「これはうまい!」である。ずいぶんと自信たっぷりの商品名だ。ここまで宣言されると、ふふん、お手並み拝見といったとこかしら、という姿勢で臨まざるを得ない。長野県松本の製造会社の醤油とのこと。
まず外観だが、日本酒かと思うほどに無骨な感じがするビンに目が行く。ラベルを見るとこいくちしょうゆをベースとした「かつを(こう表記されている)風味調味料」とのこと。
味わってみると、確かにかつを(こう表記されている)の風味がかなり出てくる。全体的に薄い味に仕上げているが、それによってかつを(こう表記されている)の味わいが鮮明になる。対比の問題だ。確かにこれはかつを(こう表記されている)風調味料だ。
この味わいがタコの刺身にちょうどよく、商品名に負けてはいない「うまさ」だと思うが、タコの味を生かしているかというとそうではなく、やや、かつを(こう表記されている)に頼りすぎな部分が否めない。
頼りすぎ、といえばFの話だ。
あのカレー屋での惨劇からしばらくして、何度かFに会うことがあったが次第に疎遠になりつつあった。たまに電話で会話することはあったが、その間隔もどんどん広がっていた。
そんなある日、突如としてFが電話をかけてきて、突拍子もないことを言いだした。
「おれ、アメリカに行こうと思う」
話を聞くと、自分の現状を打破するにはアメリカに行くしかないと強く思ったようだった。
ただ、そこにビジョンはあまりなく、アメリカに留学に行くのか、働きに行くのか、ホームステイするのか、ブロードウェイを目指すのか、それとも単なる旅行なのか、そういった要素は一切聞かれなかった。ただアメリカに行くとだけ言うのだ。
「アメリカに行けばなんとかなる」
その思いだった。完全にアメリカに頼りすぎである。いくら自由とビッグドリームの国、アメリカでも行っただけで自動的になんとかなったりはしない。
ただ、いくら忠告しても聞く耳を持たないだろうから、そういった小うるさいことは言わなかった。
「それでさ、一つ頼みがあるんだけど」
Fは少し言いづらそうにして切り出した。
「一緒にビーチバレー大会に出場してほしい。お前背が高いからできるだろ」
「なんで?」
ちょっと話がよく見えなかった。意味が分からなかった。落ち着いて話を聞いてみると、アメリカに行くには渡航費用が掛かる。いろいろな準備にも金がかかる。向こうで生活の基盤を整えるのも金がかかる。そこで目を付けたのが地元で行われるビーチバレーボール大会の優勝賞金である。そこで一気にアメリカへの費用を稼ごうと考えたらしい。
すごいな、優勝する気でいるのもすごいけど、アメリカの渡航費用を賄えるくらいの賞金が出るんだ。そんなゴージャスな大会が我が地元で開催されるなんて誇らしい。300万円くらい賞金が出るのかしら、となかば興奮して尋ねた。
「優勝賞金15万円」
あまりにビーチバレーボール大会に頼りすぎである。たぶんこれではアメリカ資金を賄えない。
ただ、Fがどうしてもというし、賄えないと説明するのも大変そうなので、出場することにした。こうしてアメリカ渡航を賭けたFの闘いが始まったのだった。
塩味…2
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 084 湯浅醤油(二度仕込)(小原久吉商店)
品名:さいしこみしょうゆ (本醸造)
原材料:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、アルコール
容器………5
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……4
醤油発祥の地と言われる紀州、湯浅の醤油。高級感しか感じない包み紙が印象的だ。この紙もペラペラした紙ではなく厚手でかなり手触りのいい紙。きっと高価だ。この時点ですさまじいオーラを感じる。外観の方は、色も黒く、香りも強い、おまけに粘り気もある。
素朴な味というか、醤油という概念が少し変わる味だ。醤油としての押し出しがなく、果たしてここに醤油は存在したのだろうかと感じてしまうほどなのに、醤油の味はあるのだ。まろやかを通り越した素朴なやわらかさがある。
ともすれば、味が薄いとなりかねないが、そうではなく決して味は薄くない。ただ、その味わいがあまりに自然で醤油を意識することを忘れてしまう。これはちょっとびっくりしたな。醤油でこういう味を表現できるってのは、まだまだ醤油の世界は奥が深い。
塩味…2
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 085 樽仕込み 再仕込み醤油 鶴醤(ヤマロク醤油)
品名:再仕込み醤油
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………3
香り………3
色の濃さ…5
粘り気……3
小豆島の醤油メーカー「ヤマクロ」の自信作ともいえる再仕込み醤油だ。長い年月をかけて仕込んだ極上の醤油である。その手間が値段に現れており、145mlで540円(2020年1月現在)となかなかの値段になっている。これはもはや高級醤油と言っても過言ではない。
再仕込み醤油の特徴そのままに色が黒く粘り気がある。キレとコクのある深い旨味はさすがといったところだ。醤油としてかなり優秀だが、タコの刺身を対象とした場合は、その旨味が必ずしもプラスになるとは限らない。むしろ最高級の旨味によってその他の味が薄れてしまっているのが少し気になるところだ。
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 086 こんぶのおしょうゆ(ワダカン)
品名:しょうゆ加工品(調味料)
原材料:しょうゆ(本醸造)、糖類(果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖)、食塩、昆布、昆布エキス、アルコール、調味料(アミノ酸等)、酸味料、甘味料(甘草)、(原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……1
創業120年、青森県十和田市の老舗醤油メーカー、ワダカンの醤油だ。
醤油に昆布を投入し旨味を強めたものという印象が強い。記載がないが、おそらくベースとなる醤油は「こいくちしょうゆ」で、そこからあえて塩分を落としていると思われる。と思ったら塩分25%カットとしっかり記載されていた。これはおそらく昆布の味わいとの衝突を避けてのことだ。
しっかりと強い昆布の味わいが印象に残る。これらの味わいはタコの刺身にしっかりマッチするが、一つ難点をあげるとその味の持続性だろう。最初の一口はかなり昆布の味がするが、それからすっと消えてしまう。比較的長いこと口の中にとどまるタコの刺身のような食材だと物足りない感じがしてしまう。
物足りない。あの日のFもそう言っていたような気がする。あれは何だったのだろうか。
Fのアメリカ行きを賭けたビーチバレーボール大会は、地元の海岸で行われた。広大な砂浜を会場に、そこにネットを立てて行われることとなった。
「3人目はどうしたの?」
ビーチバレーは2人でプレイする競技だが、大会の規定で3人での登録を義務付けられていた。
「もう呼んである」
まさか武田先輩を呼んでいるのかと思ったが、武田先輩も誘ったものの「子供が生まれたばかりだから」と断られてしまったらしい。代わりに召喚されたのは、Fの仕事場の後輩の男の子だった。竹下君というらしい。
めちゃくちゃなもやしっ子な感じで、無口な感じだったが、これでメンバーがそろい、なんとかビーチバレー大会に出場することになったのだ。
「物足りねえなあ」
試合会場に到着し、一回戦の対戦相手を見たFは大胆不敵にもそう言った。敵として力不足、そういって相手を煽りだしたのだ。僕も竹下君もFもビーチバレーどころかバレーもあまり分からない。おまけに竹下君はもやしっ子だ。自転車で転んで右手も捻挫していると言っていた。そんなメンツで挑みながらも、Fは不敵に笑っていたのだ。
どこからそんな自信が湧いてくるのか。言い知れぬ不安感みたいなものが僕の心に生じていた。
塩味…1
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 087 特級本醸造しょうゆ(ワダカン)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩/アルコール、調味料(アミノ酸液等)
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……2
こちらも青森県の老舗メーカー、ワダカンの醤油。色が透き通っていて清涼な印象を受ける。
味の方も清涼な特徴を持っており、クセがないまろやかな旨味が印象に残る。飛びぬけて特徴的というわけではないが、全体的にバランスよく仕上がっている。この味わいがタコを味わう上では重要だ。
しかし、最も驚いたのがその口当たり。タコの表面を覆う醤油が、口の中でタコの動きをアシストする。まるでタコの刺身が口の中で踊っているようだった。
比較的リーズナブルな値段(300mlで108円、2020年1月現在)でこの味わいは大満足の逸品だ。
タコの刺身が口の中で踊るような醤油、そう、あの日の僕たちも確かに踊っていた。
灼熱の太陽に照らされた砂浜は熱された鉄板のようだった。サンダルを脱いでその熱砂を踏みしめると、足の裏の皮膚が焼け焦げるような感覚がした。
「あちっ、あちちっ、あちっ」
と砂浜の上で踊る僕もFも竹下君も、とてもじゃないがビーチバレーで戦えるとは思えなかった。
会場には、そんな砂浜の熱さをものともしない猛者どもが15万円欲しさに集結していた。どいつもこいつも金の亡者だ。
だいたい30組くらいのチームがいたので、なかなか規模の大きい大会だったと思う。開会式の間も砂が熱くて僕たちだけ踊るように動いていたのだけど、他の猛者どもは早くも臨戦態勢だった。
トーナメント表が配布され、一回戦の会場に移動しようと砂浜を歩いていると、僕らの行く手を遮るように3人の男が立ちはだかった。
「あれ~、もしかしてFじゃない?」
3人は絵に描いたように嫌な感じのやつで、写実的な作風を持っている新進気鋭の画家に嫌な奴を描いてくれって依頼したらこの3人の絵が上がってくるであろう、そんな雰囲気の連中だった。どうやらFの中学時代の同級生らしいのだけど、その雰囲気から良い関係でなかったことが伺えた。
「まあ、がんばってよ、藤田ちゃん」
男たちはFをバカにしたようにして笑い、去っていった。
「トーナメント表によるとあいつらとは2回戦で当たる。絶対に負けたくない」
Fは唇を噛み締めながらそう言った。2回戦はとんでもない死闘になる。とんでもないことなる。僕も唇を噛み締めた。いつのまにか砂の熱さは気にならなくなっていた。竹下君は捻挫した右腕が痛いと言っていた。
塩味…2
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 088 吟撰さしみたまり(盛田)
品名:たまりしょうゆ(本醸造)
原材料:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、糖類(ぶどう糖果糖液糖、砂糖)、カラメル色素、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草)、保存料(安息香酸Na)
容器………2
香り………2
色の濃さ…4
粘り気……3
愛知・三重・岐阜の三県で主に作られる「たまりしょうゆ」、この盛田という会社も愛知の会社だ。この会社、これまでにも何本か出てきた小豆島の「マルキン」を吸収合併しており、マルキンブランドの醤油も手掛けている。
たまりしょうゆを刺身専用にセッティングした商品ということで、色味や甘さを調整する成分が入っている。もちろん「たまりしょうゆ」特有の強い旨味があり、それにプラスした甘みが心地よい。とろみもあるので刺身によく絡むし、タコの刺身にしっかりマッチする。
なにより「たまりしょうゆ」「さしみしょうゆ」としては比較的リーズナブル(150ml 139円、2020年1月現在)なところもうれしい。
うれしい。そう、確かにうれしいと思ったのだ。
一回戦のコートに行くと、既に対戦相手がいた。それが完全なるおっさん3人組で、どう見ても普段運動とかしていないだろという連中だった。腹とか出てるし、砂の上でジャンプとかできるんですかねえ。砂の上って足を取られるので想像以上に体力を消耗するけど、最後までやれるんですかねえ。と思った。
「勝ったな」
「ああ」
僕も竹下君も、完全に楽勝だ、うれしい、ラッキーだ、と舐めてかかってそんな会話をしていたが、Fは違った。
「物足りねえなあ」
相手にとって不足である。そう言ったのだ。優勝してアメリカに行く、二回戦で因縁のやつらを倒す、それにはこんな一回戦など眼中にない、そんな並々ならぬ熱意を感じた。
こうして、Fの因縁と夢を賭けた戦いの火蓋が切って落とされたのだった。Fの滾(たぎ)るように熱い想いと共に。
塩味…2
甘さ…3
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 089 サクサクしょうゆ(キッコーマン)
品名:タレ(フリーズドライしょうゆミックス)
原材料:なたね油、フリーズドライしょうゆ(大豆、小麦を含む)、ごま、粒状大豆たん白、ローストオニオン、砂糖、フライドガーリック、オニオンパウダー、食塩、ごま油、フライドオニオン、しょうゆ、酵母エキス、小麦発酵調味料、魚醤パウダー、こしょう、粉末しょうゆ/加工でん粉、酸化防止剤(ビタミンE)
容器………1(スプーンがないと取り出せない)
香り………5(ガーリック)
色の濃さ…5(粉)
粘り気……0(粉)
食べる醤油、ということで開けてみると予想以上にサクサクのものが出てきた。これはもう何かをつけて食べる類の醤油ではない。粉でもない。これはもう固体だ。よって、タコの刺身につけるのも難しいので、逆にタコの刺身でこの塊を包み込んで食べた。
味わいとしては決して悪くない。醤油の旨味とガーリックのテイストがバランスよく存在し、いくらでもいけちゃいそうな、やめられない止まらない感じがある。ただ、味は良いが形状は絶対にタコの刺身には合わない。
ツルンとしたタコの刺身と、このサクサクの塊が相性最悪で、口の中で別の個体として存在する。つまりサクサクを味わうのにタコの刺身邪魔だな、という感じになる。これはごはんなどに入れると最高にうまい。ごはん何杯でもいけるやつだが、タコの刺身に合うかと言われると、自信をもって合わないといえる。
塩味…2
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★
No. 090 樽仕込み 丹波黒豆醤油 菊醤(きくびしお)(ヤマロク醤油)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………2
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……3
丹波黒豆を原料に使用した醤油。色は薄いが独特の粘り気がある液体だ。原料に増粘剤の類が見られないので、発酵によって得られた粘り気ということだろう。
深みとコクがある旨味とは正反対の、あっさりとしたキレのある旨味だ。日本刀のようにシャープな味わいが徐々に変化していき、残響のように口の中に残る。気が付くとタコの刺身を食べ終わっている。そんな刹那的な味わいだ。うまい。
塩味…3
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★★
No. 091 特選低塩丸大豆うすくちしょうゆ(ヒガシマル醤油)
品名:うすくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(国産)、小麦(国産)、食塩(国産)、米(国産)/アルコール
容器………3
香り………2
色の濃さ…1
粘り気……1
最初の一口めはありがちな「うすくちしょうゆ」の味だと思った。典型的味わいである強い塩味がきたからだ。ただ、そこからが違った。その塩味がスッと消えていくのだけど、それと同時に後から後から旨味がやってくる。かぶせるようにやってくる。
いつの間にかあれだけ強かった塩味が旨味に置き換わっている。この味の変化はこれまで経験したことがないものだ。そういった変化の中でタコの刺身が消費されていくので、一口ごとに味わいが変わっていき、まるでファッションショーのようにその装いを変えていく。まるで夢でも見ているかのような、嘘みたいな体験だった。
嘘みたい、といえばビーチバレー大会だった。
Fのアメリカ行きの夢を賭け、因縁の相手との戦いも含んだ大会、その一回戦は明らかに運動不足と思われるおっさん集団だった。完全に楽勝だった。
「アメリカに行くぞ!」
試合前に円陣を組み、Fがそう声を上げた。
「おう!」
円陣とは不思議なもので、やればテンションが上がってくる。勝たなければならない。そう思った。
いよいよ試合が始まる。いこう、因縁を乗り越えて夢の向こう側へ。そんな気分だ。
歩きだした僕たち。
戦った。
そして嘘のようにボロ負けした。アホみたいにボロ負けした。ちょっと記憶が薄れているのだけど、下手したら1点も取れていなかったかもしれない。それくらいボロ負けした。嘘みたいにボロ負けした。運動不足気味のおっさんたちに。ボロ負けした。
「嘘だろ、どんな国の映画を見ても、どんなシナリオを見てもこれは2回戦で因縁のあいつらと戦う流れだろ。そこで乗り越えるなり挫折するなりして成長する流れだろ」
そう思ったが僕らは戦うことすらなく敗退することとなったのだ。竹下君は右腕が痛いとずっと言っていた。
塩味…4
甘さ…1
旨味…4
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 092 寺岡家のたまごにかけるお醤油(寺岡有機醸造)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ(大豆、小麦を含む)(国内製造)、砂糖、みりん、かつお節エキス、食塩、こんぶエキス、かきエキス、酵母エキス、しいたけエキス/アルコール
容器………2
香り………1
色の濃さ…2
粘り気……1
これで何本目か分からないが、世の中には「卵かけごはん」に特化した醤油が結構あることが分かった。今回の記事にもかなり登場してきたはずだ。そしてまたもや「卵かけごはん専用醤油」の登場だ。
この種の醤油の多くが「だし」を投入することで醤油に味わいをプラスしているが、これもその例に漏れず「だし」を投入したもののようだ。
味の方だが、他と比べてかなり強い「だし」と感じた。ほぼ醤油の成分が感じられず、これは「だし」なんじゃないか、と思うほどのバランスだ。「卵かけごはん」には最良のセッティングだと思われるが、これで刺身を食べると刺身が負けてしまう。これがここまで「卵かけごはん専用醤油」を味わってきて感じた真実だ。これが核心と言ってもいい。
そして、僕はついに核心に迫ることになった。何の核心かというと、船の中の彼女、その彼女が抱く苦悩の核心だ。
「結局、ビーチバレーは負けたんですね」
少し酔っている様子の彼女はそう言った。船の揺れも手伝ってか、酔いに至るまでが早かったように思う。
ただ、彼女は「なぜ、いまここでそんな話をするのか?」という疑問を隠そうともしない表情を見せていた。
彼女はこの船に乗ってすぐ、彼氏から別れを切り出され、スマホが不通となった。さまざまな会話を交わし、彼女は「自分の何が悪かったのか」「よりを戻すべきなのか」そんな核心めいた話を始めた。
僕はそれを遮るようにして、ビーチバレー大会の話を始めた。それは全く関係ない話題のように思えたかもしれないが、僕の中では大きく関連があるように思えた。だから話したのだ。彼女との会話の中で僕自身もそのことに気が付いたのだ。
僕はゆっくりと切り出した。
「結局、最終的には“言葉を尽くしたのか”に行きつく気がするんです」
彼女はまた不思議そうな表情を見せた。
「僕は彼氏とあなたのことよく分からないですし、よく分からないおっさんが出すぎた真似だってことは重々に承知しているんですけど、話を聞いて“言葉を尽くしていない”って思ったんです」
少しだけ間をおいてさらに続けた。
「ずっと、Fの話をしていたんですけど、Fの周りの人、僕も含めて誰もFに言葉を尽くしてなかったなあって思ったんです。僕もやっと気が付きました」
Fに留年を告げた人は言葉を尽くさず、事務的に伝えただけだった。武田先輩はメローイエローがあると嘘をついたFに対して言葉を尽くさなかった。もっと言い聞かせてもよかった。告白されたカレー屋の子は言葉すら返さなかった。アメリカに過度の期待を持っているFに僕は言葉を尽くして忠告しなかった。思えばずっと、あらゆる場面で彼に対峙した多くの人は、Fに言葉を尽くしていなかった。
「誰も言葉を尽くしてくれない中で、Fはどんな気持ちだったのかなあって。それって彼氏とあなたもそうなのかなって思いました」
船が大きく揺れた。波が荒い部分に入ったのだろう。彼女は押し黙っていた。ずいぶんと饒舌なものだが、たぶん僕も酔っていたのだと思う。お酒と、自分に。
「ただ、それって、あなたと彼氏も言葉を尽くすべきだった、みたいな月並みな言葉になりそうじゃないですか。説教くさいやつ。でもたぶん、そうじゃないんですよね」
僕がそう言い終わると彼女は真っすぐとこちらを見た。僕はその顔に向かって付け加えるようにしていった。
「言葉を尽くさないことは悪いことじゃないはずです」
彼女は黙っていた。少しだけ間をおいて切り出す。
「それを踏まえて聞いてください。Fの最後の話です」
もう一度、船が大きく揺れた気がした。まるで動揺しているかのように。
塩味…2
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 093 豆しょう 再仕込醤油(ヤマヒサ)
品名:二度仕込醤油(かけ醤油)
原材料:大豆、小麦、食塩
容器………2
香り………4
色の濃さ…5
粘り気……3
ビーチバレー大会に敗れ、Fのアメリカ行きの夢は潰えたかのように思えた。けれども、Fは諦めていなかった。
「釣り大会に出るぞ!」
どこから見つけてくるのか知らないが、今度は地元の釣具屋が主催する釣り大会に目星をつけてきた。24時間の間に釣り上げた釣果で優劣を競う大会だ。釣りが盛んな地域だけあって、その商品が豪華なことで知られており、なかなか高価な参加費を取られるが、高級な釣具やアウトドアグッズが商品としてラインアップされていた。
その中でもFが狙ったのが「大物賞」と呼ばれる部門だった。種類は何でも良いので、とにかくでかい魚を持ってきたやつが優勝、という非常に分かりやすいものだった。本当に何でも良いようで、友人の寺沢君は過去にこの大会でダツと呼ばれる細長い蛇のような魚を釣り上げ、本当に細長いのでサイズだけは異常に長く出てしまい、優勝した経験があった。
この大物賞は釣り大会における花形的な存在で、野球のオールスターゲームにおけるホームラン競争みたいな一面があった。だから商品がどんどん豪華にインフレしていき、ついには15万円の現金になったのである。
「15万円あればアメリカに行ける」
Fの鼻息は荒かった。本当に不思議なのだけど、アメリカにも、15万円にも無限の可能性を見出しすぎである。
僕は家にあった一式3,000円程度の安物の釣り竿で参戦したが、会場に現れたFはかなり豪華な釣りセットを持参してきた。
そんな高価なものどうやって手に入れたんだと聞くと、なんでも武田先輩から借りてきたらしい。
あの恐怖の武田先輩は最近では釣りにはまっているらしく、高価な道具をそろえていたそうだ。大物賞を射止めるにはその高価な道具が必要と考えたFは借りることにしようと考え、行動に移した。相変わらずの行動力だ。
最初は渋った武田先輩だったが、あまりにもFがしつこいものだから根負けして貸すことにしたようだ。なぜか、借りるにあたってFと武田先輩でお互い一発ずつ殴り合うという謎の儀式を経たらしいが、何をしたいのかよく分からなかったと言っていた。僕もよく分からなかった。
ただ釣りセットどころか高級そうなウェアとかまで貸してくれたそうだ。
こうして、Fのアメリカ行きを賭けた24時間耐久釣り大会が始まったのだった。
(「二度仕込み醤油」と表記されているが、おそらく「さいしこみしょうゆ」のことだろう。
香りも強く色が濃く、粘り気もある。「さいしこみしょうゆ」の特徴が如実に表れている。少しまろやかな印象を受ける旨味が全体を占めており、それが全体としての味わいを柔らかいものにしている。
味わいとしては強いのだけど、それが無理に押し出すようなものではないのですんなりとタコの味わいを感じることができる。つまりタコの刺身に合うといえる。)
塩味…2
甘さ…1
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 094 久世福商店 和歌山の樽仕込み醤油(サンクゼール)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:大豆(日本(遺伝子組換えでない))、小麦(日本)、食塩(日本) (原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………4
香り………3
色の濃さ…4
粘り気……4
夕方に差し掛かるまでに、僕もFも何匹かの魚を釣り上げていた。ただそれらはいずれも小物で、とてもじゃないが大物賞を狙えるものではなかった。
「やっぱりそのダツってやつ釣らないとな」
過去にダツを釣って優勝した寺沢君の話をしたものだから、Fはずっとダツ狙いだった。正当にチヌだとかタイだとかの大物を狙うのではなく、蛇みたいなトリッキーな魚、ダツ狙いである。
日が暮れて、夜がやってきた。
岸壁で釣っていた僕たちは、その岸壁を照らす明かりを頼りに釣りを続けていた。ただ明かりを照らされているのはあくまでも岸壁だけで、その先の海は真っ暗な闇そのものだった。夜の闇と黒い海、それはなんだか恐怖すら感じるものだった。
「ちょっと小便してくるわ」
そういってFは竿を置くとそのまま立小便をしに藪の中へと消えていった。岸壁の後ろ側は空き地になっていて、そこにはもう使わなくなった廃船が打ち捨てられていた。その横が雑草が伸び切った藪になっていて、そこで立小便をしていた。その時だった。
「ぎゃーーーー!」
静かな夜の海にFの悲鳴が響き渡った。
急いで駆けつけると、廃船の横でうずくまっているFがいた。見ると頭から血を流している。
廃船の中をショートカットしていくと藪が茂る立小便スポットへと絶妙の近道になるのだけど、その際に廃船の柱か何かで頭を打ったようだった。悪いことにその端が折れていて鋭利な断面を見せていたので、そこでスパッと切ってしまったらしい。
「病院に行こう。大会パンフレットに救急病院の案内が載っていたはずだから」
そう言うが、Fは首を縦に振らない。
「ここで病院行ったらリタイアじゃんか。俺は大物賞を取るんだ。アメリカに行くんだ」
「でも血が止まらないじゃん」
「大丈夫だ、釣り針と釣り糸で傷口を縫ってくれ」
むちゃくちゃを言うな。
結局、釣りウェアみたいなもので傷口を塞いで様子を見ることになった。みるみるとそのウェアが血に染まっていく。たしかウェアも武田先輩に借りた高価なものだったはず。温度調節がすごくて夜の海でも安心、みたいなやつだ。そのウェアがみるみると血に染まっていく。大丈夫なのかなと思うが、まあ洗って返せば大丈夫だろう。
「俺は絶対に大物賞とってアメリカにいくからな」
武田先輩のウェアを血に染めながら釣り竿を振るF。どうしてそこまでして、と思うが、もう僕は何も言えなくなっていた。
そこに一台の車がやってきた。
(醤油発祥の地として知られる和歌山、湯浅の樽仕込み醤油だ。杉樽で1~2年かけて熟成されたものらしい。まずビンやラベルのデザインが洗練されていると感じた。色も濃く、香りもある程度あって粘り気もある。かなり本格派な佇まいだ。
味の方は、やはり本格的な旨味がある醤油である。まろやかで上品さすら感じる旨味だ。ただし、その強い旨味が消え去るのも早い。少し厚みがあるタコの刺身だった場合は、噛み続けるうちにスッと味が消えてしまうので少し物足りなく感じる部分がある。けれども、最初に感じる旨味は極上なので、その部分をカバーすることができる。)
塩味…2
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 095 久世福商店 信州三原屋 食卓の減塩元気しょうゆ(サンクゼール)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ、酵母エキス、アルコール (一部に大豆、小麦を含む)
容器………3
香り………2
色の濃さ…1
粘り気……1
夜の岸壁をスポットライトのように照らす街灯があった。その真下に一台のミニバンが停まった。
「武田先輩だ」
Fがそう言った。あんな攻撃的な、矢沢永吉と長渕剛がせめぎ合うような車に乗っていたのに、いまはファミリカーに乗っているんだ。
その武田先輩はどうやら僕らの応援に来たみたいだった。なんだ、いいところあるじゃん、と思うと同時にめちゃくちゃ焦った。
「その血を止めているウェア、隠した方がよくないか?」
「なんで?」
「だってそれ武田先輩に借りたやつだろ。血だるまじゃねえか」
「そうか、やっべ」
急いで外し、血だるまのウェアをクーラーボックスの中に隠す。幸いにも傷は浅かったようで、もうほとんど血も止まりかけていた。
「よー、お前ら、差し入れにコーヒー買ってきたぞー! 釣れてるかー?」
武田先輩が能天気な感じで近づいてくる。
「あれ、おまえ頭から血が出てない?」
武田先輩はさすがにバイオレンスな臭いに敏感らしく、Fの流血にすぐ気が付いた。
「ええ、ちょっと、まあ、かすり傷ですから」
Fが歯切れ悪く答える。まさかあんたの高価そうなウェア、血だるまですよ、とは言えない。
「どれどれ釣れてるかー?」
武田先輩がクーラーボックスを開こうとする。ダメだ。そこには血だるまのアンタのウェアが入っている。ダメだ。
「いや、一匹も釣れていません、一匹も釣れていません。おまけにすごい臭い魚が釣れていますから開けない方がいいです」
僕も支離滅裂な言い訳をする。釣れたのか、釣れていないのか、どっちなんだ。
「なんだよ、しょぼいなー!」
武田先輩がそう口にした瞬間だった。Fが大きく叫んだ。
「なんかきた!」
見ると、Fの竿が、いやFが武田先輩から借りてきた竿が大きくしなっていた。
「絶対に来た。大物だこれ。ダツだ! 絶対にダツだ!」
僕らが狙っていためちゃくちゃ長い魚、ダツ。大物賞をとるべく狙っていた長い魚、ダツ。それがついにやってきた。
「落ち着け、落ち着いてリールを巻け!」
武田先輩が叫ぶ。
「ゆっくりゆっくりだ」
僕も叫ぶ。
「うおおおおおおお! だつうううううううううううううう」
Fが叫んだ。
ついに僕らの心が一つになった。
「いけーーーー!」
武田先輩が叫んだその瞬間だった。
ブツン
本当にそんな音がはっきりとした悪意を持って夜の海に響き渡った。糸が切れ、あれだけしなっていた竿は真っすぐに戻り、海の闇だけが静かに笑っていた。
「アメリカが行っちまった……」
Fのその言葉が夜と海の闇に呑まれて消えた。
(信州長野の三原屋の減塩醤油。食塩を50%以上カットということらしい。
味の方は、確かに減塩であると感じるほどに塩味が薄い。かといって全体の味が薄いかというとそうでもなく、それをカバーしていて旨味が強いかというとそうでもない。非常に風味に富んだ味わいと言えば適切だろうか。
原料中に含まれる「酵母エキス」がこの不思議な味わいのカギを握っていると思われる。清涼な風味でしっかりとタコの刺身に合う。)
塩味…1
甘さ…1
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 096 いつでも新鮮 大豆ペプチド 減塩しょうゆ(だし入り)(キッコーマン)
品名:しょうゆ加工品
原材料:大豆発酵分解調味液(大豆ペプチド含有)、しょうゆ(大豆・小麦を含む)、食塩、昆布/アルコール、酸味料、調味料(アミノ酸等)、ビタミンB1
容器………4
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……4
遠くに明かりが見えた。おそらく漁船だろう。夜の空と黒い海の境界線にポツポツと、まるで目印でもつけるかのように白い明かりが並んでいた。僕らは黙ってその光景を見ていた。
「惜しかったな」
武田先輩が沈黙を破る。その言葉からしばらくおいて、Fが弱々しく言い放った。
「やっぱりアメリカは無理なんですかねえ」
仕掛けを付け替えた竿を握り、がっくりとうなだれる。
「無理なことはないだろ」
武田先輩がフォローする。その瞬間だった。
本当に何もなかった。手応えも気配も、予感すらもなかった。何もない状態で一式3,000円の安い釣りセットを構えていた僕は、そろそろ餌を付け替えるか、とリールを巻き、水面から仕掛けを上げたその時だった。
「なんかついてる?」
暗い水面にキラリと光る何かが見えた。さらにリールを巻き取る。それは剣のようにも見える魚だった。うっそ、何も手ごたえなかったけど。なんかついてる。
「ダツだ!」
Fが叫んだ。
「アメリカだ!」
さらにFが叫んだ。
何の気なしにあげた僕の仕掛けに、アメリカが付いていた。
「でかいぞ! とにかくでかいぞ!」
夜の岸壁は一気に騒がしくなった。ただ僕はその瞬間にあることを思い出していた。昔、寺沢君がダツを釣って大物賞をもらった時は、ダツに噛まれて手から大量出血していた。仕掛けを外そうとしたときに噛まれたのだ。ダツは長く鋭く尖ったアゴを持っており、さらにそこには鋭利な歯がついている。おまけに獰猛で凶暴だ。釣り上げた時こそ細心の注意を払わなければならない。
「布だ、噛まれないように何か布で包め!」
Fがうおー、とクーラーボックスから布を出し、仕掛けにぶら下がっていたダツを包んだ。それは高価そうな武田先輩のウェアだった。
「てめー、それ俺のウェアじゃねえか、しかも血だるまじゃねえか!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ、アメリカが釣れましたよ! アメリカですよ!」
夜の岸壁はますます騒がしくなっていた。
(キッコーマンの醤油だ。「血圧が高めの方に向けた機能性表示食品」ということだ。容器にサイコさすら感じる勢いで細かい文字でビッシリと何かが書かれている。おそらく機能性表示食品だからだろう(義務付けられている表示がある)。
こちらも50%の減塩を達成していると表示されている。まず見た目は普通の醤油だが、減塩醤油には珍しくとろみを持った性状だった。
まろやかで風味豊かな旨味がある。「だし入り」と表記があるので、そのだしによってもたらされた旨味だろうと思う。全体的な味わいとして“だし入り”醤油と変わらないが、少しだけ後味に独特のものを感じた。)
塩味…1
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 097 久世福商店 信州三原屋 昆布醤油(サンクゼール)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ、昆布 (原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………3
香り………2
色の濃さ…2
粘り気……2
また、空と海の暗い境界線に明かりが増えていた。そして、東の空も白々と明るくなり、その境界を鮮明なものにし始めていた。
武田先輩はぷんすかと怒りながら帰った。それでも僕らは岸壁に腰掛け竿を振るった。クーラーボックスの中に数匹の小魚とダツ、そして血だるまの武田先輩ウェア。
もう大物賞はいただいたようなものだ。少し余裕が出てきた僕たちは気軽に言葉を交わしていた。
「どうしてアメリカに行きたいん?」
僕はそんなことを聞いたと思う。その問いにFは答えなかった。
「英語とか大丈夫なん? 言葉が通じないとやばくない?」
また尋ねる。Fは留年、いやジャックポットするくらいなので、英語はダメかもしれない。それが心配だった。Fはこの問いには答えた。
「通じようが通じまいが、あまり変わらないよ」
僕はその言葉の意味がその時は全く分からなかった。
「この海の向こうのアメリカなら、なんでもあると思うんだ。この海の向こうにさ」
Fは真っすぐと海を見つめてそう言った。僕はその言葉を“この海は日本海だから、向こうにあるのはアメリカじゃなくて韓国だなあ”と考えながら見守っていた。
「とりあえず、お前が釣り上げたダツ、俺に貸してくれな。いつか絶対に返すから」
いつか確実にダツを返されても困るなあと思いつつ、その申し出を了承した。
「とりあえず、大物賞の15万円でアメリカに行く準備を整える」
そう言った。
東の空は白さを増していき、眩しいほどの太陽が昇ってきた。波まではっきり見えるほどの海に血まみれの武田先輩ウェア、空は嘘みたいに青く澄んでいて、海と空の境目は明白に水平線としてそこに存在していた。
正午になった。いよいよ釣果を持ち寄って計測をする時がやってきた。
公園に置かれたテントに参加者が集まりつつあった。あれから大した釣果はなかったが僕らは自信に溢れていた。なにせダツだ。細長い魚で長く尖ったアゴを入れれば70cmはあろうかという長さだ。この大会の大物賞は長さでのみ決められる。チヌなどの魚で70cmといえばとんでもない大物だ。そんなもの釣れるはずがない。
僕らのダツの計測が始まる。
68cmだった。会場に大きなどよめきが走った。
「勝ったな」
「ああ」
僕らはそんな会話をしたと思う。その次の瞬間、さらに大きなどよめきが起こった。
「79cm!」
別のおっさんがダツを釣り上げており、さらに僕らのダツよりも長かった。負けた。完全に負けたのだ。
というか、大物賞とは完全に名ばかりで、3位くらいまで全部ダツだったので、完全にダツ同士の闘い、ダツ賞になり果てていた。そして、僕らはそれに負けてしまった。
結果、Fは大物賞ではなかった。それでも大物賞部門で2位だった。2位の商品は、どでかいクーラーボックスだ。
「クーラーボックスじゃあアメリカに行けないよな」
「武田先輩にあげたらいいじゃん。ウェアのお詫びとして」
そんな会話をしたと思う。見ると、Fは力なく笑っていた。
そしてその顔が、僕が見たFの最後の姿だった。
(日高昆布が一片まるごと入ったこだわりの昆布醤油とのことだ。昆布がそのままでごろっと入っているわけではなく、あくまで一本分の量が入っているということなのだろう。
味としては、ベースとなる醤油のまろやかさに、昆布の旨味が上手に乗っている印象を受ける。これら二つの風味が無理なく一体化しており、心地よいハーモニーを実現している。どちらの味わいが前に出てるわけではなく、あくまで同じ強度で存在することにこの心地よさがある。)
塩味…2
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★
No. 098 久世福商店 信州三原屋 減塩醤油(サンクゼール)
品名:しょうゆ加工品
原材料:しょうゆ、砂糖・異性化液糖、酵母エキス、アルコール(原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………3
香り………3
色の濃さ…2
粘り気……1
「どうして最後なんですか?」
彼女が不思議そうに尋ねた。
「別にFが死んだとかそういうわけじゃないんですけどね、連絡が取れなくなりました」
彼女が不思議そうに首をひねる。
「僕もよく分からないんです。けれども、多分ですよ、多分なんですけど、ダツを返すって約束を果たせないからじゃないかなって思うんです」
あの日、僕とFは岸壁の上で約束をした。「絶対に返すからダツを貸してくれ」そう言って僕が釣ったダツで2位になった。返されても困るんだけど、Fはそのダツを返せないからバツが悪くて僕と連絡を取らなかったんじゃないか。それから10年以上、連絡を交わしていない。
「そんなことってあるんですか?」
彼女の言葉に僕は即座に答えた。
「あるじゃないですか。男女の関係だって、考えられないくらい些末なことで連絡を取らなくなって終わったりしますよ」
その言葉に彼女ははっと息をのむ仕草を見せた。
「そして、さっきも言ったように“言葉を尽くさなかった”ことが原因だと思うんです」
Fの周りの人たちはFに言葉を尽くさなかった。思い返すと、先生や友人、親だって、本当に言葉を尽くしてくれる人がいなかったような気がする。そんな中でFはどんな気持ちだったのだろうか。
「通じようが通じまいが、あまり変わらないよ」
そう言ったFの言葉、あの時は意味が分からなかったけど、もしかしたら誰も言葉を尽くしてくれないから、言葉が通じようが通じまいが変わらない、そんな意味なのかもしれない。
「ダツなんて返さなくていいよ、ごめんダツ返せない、そうやって言葉を尽くせば今だって連絡を取っていたかもしれない。でも、僕らはそれをしなかったんです」
僕の言葉に彼女は小さく頷いた。
「つまり、わたしも彼氏ももっと言葉を尽くすべきだった、そうすれば別れることもなかった、そういうことですか?」
僕は首を横に振った。
「さっきも言いましたが、そんな月並みなことじゃないんです」
窓の向こうの空がうっすらと明るくなりつつあった。
(信州、長野の三原屋の減塩醤油。
本来、減塩醤油とは化学的な力で塩分を取り去る方法を採っており、どうしても不自然な味わいになりがちだ。けれども、この醤油は桶火入れという技術を応用して、減塩しており、新しいタイプの減塩醤油として自然な味わいを実現している、と書いてあった。桶火入れとは密封式ではなく開放式の桶で醤油を加熱する伝統製法のようだ。
確かに、ごくごく自然に塩を減じた味が実現できていると感じる。歪な味わいとは程遠い感覚で、初めからこうであったような感覚がある。かといって、味が薄いと感じるのではない不思議な感覚だ。やはり独自の製法がこの自然な味のバランスに現れているのではないだろうか。これはどんな食材にも合いそうな味わいだ)
塩味…1
甘さ…1
旨味…3
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 099 久世福商店 薩摩甘口醤油(サンクゼール)
品名:こいくちしょうゆ(本醸造)
原材料:糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)、脱脂加工大豆、小麦、食塩、アルコール、調味料(アミノ酸)、甘味料(ステビア、カンゾウ)、カラメル色素、ビタミンB1(原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………4
香り………4
色の濃さ…4
粘り気……3
「よく言うじゃないですか、ちゃんと話し合うべきだった、言葉を尽くすべきだった、分かり合うべきだった、まるでそうしないことが悪みたいな。絶対にそうする義務があるみたいな。でもね、それってどう考えても無理じゃないですか?」
なぜなら、どんなに有能な人間であっても、関係する人全てに真摯に向き合い言葉を尽くし、完全に分かり合うことなど無理だから。そんなことをしていたら途端に手が回らなくなってしまう。
「だから、人は自然と、言葉を尽くす人と尽くさない人を区別しているんですよ。だから言葉を尽くさないことが悪いことだと思わないです。頭の中で選別して、そうしなくちゃならないんですからね」
「僕もFも、一緒にいろいろな経験をしたが、お互いに言葉は尽くしてはいなかった。友人であっても、核心的場面で言葉を交わすことはなかった。それは悪いことではなく、そうであるから仕方がないんです」
「言葉を尽くさないことは悪いことじゃない」
彼女は僕の言葉を繰り返した。
「醤油だってそうじゃないですか? 数ある醤油の中から気に入った醤油をマイ醤油として1リットル容器で持ち歩いている。そこまでする醤油を選んでいるんです。でも全ての醤油を等しく愛せと言う人はいないでしょ。醤油ってめちゃくちゃ種類ありますよ。自分の中で選別する、それは悪いことじゃない。それは人も醤油も変わらないんじゃないでしょうか」
彼女がマイ醤油のボトルに目線を移す。
「言葉を尽くしてくれない相手に言葉を尽くし、尽くしてくれるようになるまで頑張るのも生き方です。でも、それはきっと苦しい。たぶんお互いに苦しい。だから僕は、無理をせず自然と僕が言葉を尽くすことができて、向こうも自然と言葉を尽くしてくれる、そんな相手がいいですね」
いま、これを読んでいる誰かも、来ない相手からのメールを、LINEの返信を、既読を、何かのアクションを待ち焦がれているかもしれない。それはきっと尊い気持ちなのだろうと思う。けれども、一度だけ立ち止まって考えてみるのもいいのかもしれない。
相手は自分に言葉を尽くしてくれているだろうか。自分は言葉を尽くせているだろうか。できていなくても無理にそうする必要はない。無理にそうしてもらう必要もない。
まるでお気に入りの醤油が見つかるかのごとく、そうできる人も、そうしてくれる人もできるはずだ。みんな誰かを受け入れ、誰かに受け入れられて生きているのだ。言葉を尽くすってそういうことだ。無理をする必要なんて絶対にない。
(容器がオシャレでよい。甘口醤油ということでカラメル色素で色味をつけて色濃いものにしている。同時に粘り気も持たせているので、かなり刺身に絡みそうだ。
しっかりとした甘さ、という印象だ。今回は南九州の醤油をほとんど取り上げていなかったので、ここまでの甘さは久々だ。最初に甘さを感じ、その甘さが消えた後に、その対比としてタコの旨味を鮮烈に感じることになる。こんなに旨味があったのか、と感動を覚えるほどだ。
味をつけるのではなく、味を引き出す甘味という点でかなりポテンシャルが高い。)
塩味…1
甘さ…4
旨味…2
タコの刺身にオススメ…★★★★
No. 100 久世福商店 究極の醤油(サンクゼール)
品名:醤油
原材料:醤油(脱脂加工大豆、小麦、食塩)、たまり醤油(脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩、砂糖(さとうきび)、甜菜、みりん(もち米、米こうじ、醸造用アルコール、糖類、食塩、酒精) (原材料の一部に大豆、小麦を含む)
容器………3
香り………5
色の濃さ…2
粘り気……1
いつの間にか眠っていた。椅子に座ったままの態勢で、深い深い眠りについていた。
「まもなく、大阪南港に到着します。下船の準備をお願いいたします」
そんな船内放送が流れ、目が覚めた。机の上は片付けられており、目の前に彼女はいなかった。
窓の外は、目の奥が痛くなるほど明るくなっており、すぐ近くに陸地と町並みが見えた。その中を滑るようにフェリーが走っていく。船内も身支度を整える人で俄かに騒がしくなっていた。
大阪南港に到着し下船する。12時間ぶりに踏みしめる陸地の感触だ。フェリーからはすさまじい勢いで車やトラックが下船してくる。その傍らに徒歩で乗船した人の集団があり、そこに彼女の姿があった。
「昨日はどうも。あれ、今日になるのかな」
「ありがとうございました」
そんな会話を交わす。
質問すべきかどうか迷っていると、それを察したのか笑顔で答えてくれた。
「彼氏というか、元彼氏に連絡するのやめました。到着するずいぶん前からスマホは使えるようになっていたんですけど、やめました。ちょっと期待していたんですけどね、スマホが不通の間に彼から着信やメッセージがあるんじゃないかって。つながるようになったらそれが一気に来るかと思ったんですけど、何もなかったので吹っ切れました」
彼女は笑っていた。
「もっと私に言葉を尽くしてくれる人にしますね。もちろん私も言葉を尽くせるような人に」
僕は笑顔で答える。
「しょうゆうことです」
笑顔でそう答えると、彼女も笑顔で返した。
「ひとりでUSJでもいってきまーす」
そう言って笑顔で手を振る彼女に問いかける。
「あ、ぼく東京に移動するだけなんで暇なんですよ。一緒に行きましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
何が大丈夫なのか言葉を尽くさなかったが、断られてしまった。
「まあ、しょうゆうことだよなあ」
バスを待ちながらそう呟く。
どこかの船が鳴らした汽笛が少しだけ遠くで鳴り響いていた。大阪南港の潮の香りは、あの日、Fと約束を交わした岸壁の香りによく似ていた。
(「究極の醤油」をテーマに試作を繰り返し、たどり着いた醤油とのことだ。名前もそのままズバリ「究極の醤油」である。本醸造生醤油と五分生引きたまり醤油の2種の醤油をブレンドし熟成させることで、生醤油の特性を生かし、まろやかで濃厚な究極の醤油をつくる製造方法とのこと。
まず香りが豊かだ。封を開けた瞬間から濃厚な醤油独自の香りが周囲を包む。
味の方は、かなり奥行きのある旨味と感じた。これが2種の醤油をブレンドしたからなのかは不明だが、一瞬感じると旨味と、その直後に感じる旨味が別物で、レイヤーのようにして存在する。その差分がなんともいえない立体感につながっている。
風味豊かな味わいと、芳醇な香りが口の中にあり、タコの刺身をアシストしていく。確かに「究極」といっても差し支えない味だ。)
塩味…3
甘さ…2
旨味…5
タコの刺身にオススメ…★★★★
まとめ
100本の醤油を味わい、そのレビューを書きました。どれも本当においしく、素晴らしいものでした。日本って本当に醤油が豊富、味覚が豊かな国なんだなんだなあと感動すら覚えました。
そして恒例の「もっともタコの刺身に合うと感じた醤油」ですが、今回は本当に悩みました。甲乙つけがたく本当に悩みました。とても1本には絞れませんでしたので、今回は2本挙げさせてもらいます。まずはこちら。
No. 075 井上 古式じょうゆ(井上醤油店)
醤油と食材が一体になるという新感覚の味でした。
そしてもう一本がこちら。
No. 068 丸大豆醤油 もろみの雫(直源醤油)
異次元の旨味でした。醤油本来の味わいを抑えつつ、そこから飛びぬけた旨味です。
まだまだ醤油の世界は広くて奥深い、そう感じる今回の100本レビューでした。
※今回使用した醤油は、全て自分で使いたかったのですが、賞味期限がありますのでそういうわけにはいきません。よって隣近所におすそ分け、さらには親戚の農家がニンニクの醤油漬けを大量に作るので醤油が大量に必要、というので標準的な醤油はそちらに寄贈することにしました。未開封のもの(楽天市場には2本セットなどの販売があるので、大量にある)は近隣の子ども食堂に寄贈することにしました。
おわり
おまけ:今回レビューした醤油をリストにしてみました
著者:pato
テキストサイト「Numeri」管理人。ストロングゼロ(ダブルレモン味)と稲村亜美さんを愛するおっさん。
Twitter:@pato_numeri
企画・編集:ヨッピー、ソレドコ編集部
ソレドコでTwitterやってます!
今回紹介した商品
「ヤマサ しょうゆ 本醸造」を詳しく見る
「ヤマサ 新味醤油」を詳しく見る
「ヤマサ 鮮度生活 丸大豆しょうゆ 特選」を詳しく見る
「ヤマサ 鮮度生活 塩分控えめしょうゆ」を詳しく見る
「マルキン こいくちしょうゆ」を詳しく見る
「マルキン うすくちしょうゆ」を詳しく見る
「キッコーマン あごだししょうゆ」を詳しく見る
「有機丸大豆の吟選しょうゆ」を詳しく見る
「福寿 国産丸大豆しょうゆ」を詳しく見る
「超特選減塩醤油 チョーコー」を詳しく見る
「超特選 有機醤油 うすくち」を詳しく見る
「フジダイ しょうゆ」を詳しく見る
「特級 正田のしょうゆ」を詳しく見る
「濃口醤油 まるはら」を詳しく見る
「北海道昆布しょうゆ 塩分カット ヤマサ」を詳しく見る
「ホシサン うす塩」を詳しく見る
「紫峰」を詳しく見る
「ホシサン あまくち醤油 くまモン」を詳しく見る
「透明醤油 フンドーダイ」を詳しく見る
「下総醤油」を詳しく見る
「鮮度生活 味なめらか絹しょうゆ」を詳しく見る
「えんどうまめしょうゆ」を詳しく見る
「奇跡の醤」を詳しく見る
「ホシサン うすくち」を詳しく見る
「ホシサン こいくち」を詳しく見る
「有機純正醤油 こいくち」を詳しく見る
「かけても、つけても。」を詳しく見る
「伊賀越 天然醸造製法 ゆっくり熟成醤油」を詳しく見る
「本醸造あまくち ホシサン」を詳しく見る
「ヤミー・ザ・パクチーのパクチー醤油」を詳しく見る
「茜醤油」を詳しく見る
「鶏たたき専用たたき醤油」を詳しく見る
「削りたて一本釣り鰹 かけしょうゆ」を詳しく見る
「豆腐が旨い! だし醤油」を詳しく見る
「純むらさき」を詳しく見る
「生国産しょうゆ イチビキ」を詳しく見る
「キッズ かけ醤油 ホシサン」を詳しく見る
「高級割烹しょうゆ 本膳 ヒゲタ」を詳しく見る
「ハローキティ おいしいしょうゆ」を詳しく見る
「ハローキティ 卵かけごはんしょうゆ」を詳しく見る
「ソイソルト 三年醸造」を詳しく見る
「さしみしょうゆ ヤマサ」を詳しく見る
「超特選むらさき生しょうゆ」を詳しく見る
「金笛 濃口醤油ボトル」を詳しく見る
「イオントップバリュ」を詳しく見る
「ABC ケチャップマニス」を詳しく見る
「生詰無添加 丸大豆生しょうゆ」を詳しく見る
「天然醸造木樽醤油」を詳しく見る
「道民の醤油 北海道丸大豆」を詳しく見る
「道民の醤油 日高昆布」を詳しく見る
「芳醇天然かけ醤油」を詳しく見る
「はじめての減塩 だし醤油」を詳しく見る
「にんにく醤油 だし醤油」を詳しく見る
「鮮度ボトル アルコールフリー醤油」を詳しく見る
「木樽仕込 国産丸大豆使用醤油」を詳しく見る
「秘伝万能 だし これ一本」を詳しく見る
「寺岡家の納豆にかけるお醤油」を詳しく見る
「超特選うすむらさき 生」を詳しく見る
「超特選有機醤油こいくち密封ボトル」を詳しく見る
「実生ゆずかけぽん」を詳しく見る
「男が使うにんにく醤油」を詳しく見る
「えびつゆ チョーコー醤油」を詳しく見る
「燃えろカープ 鯉くち醤油」を詳しく見る
「燃えろカープ たまごかけ醤油」を詳しく見る
「さしみ ホシサン」を詳しく見る
「丸大豆醤油 もろみの雫」を詳しく見る
「国産有機醤油 濃口タイプ」を詳しく見る
「だししょうゆ こい色しょうゆ仕立て」を詳しく見る
「かぼす醤油 ユワキヤ」を詳しく見る
「椎茸のいっぱいはいっちょるジュレ寒天」を詳しく見る
「一騎醤油 再仕込醤油「蘭」」を詳しく見る
「和紫」を詳しく見る
「井上 古式じょうゆ」を詳しく見る
「黄金ソルト」を詳しく見る
「海の精 国産有機たまりしょう油」を詳しく見る
「百年蔵生じょうゆ」を詳しく見る
「四穀 しあわせ醤油」を詳しく見る
「くんせいしょうゆ」を詳しく見る
「昆布醤油 湯布院乙屋」を詳しく見る
「井上こはく」を詳しく見る
「これはうまい 大久保醸造店」を詳しく見る
「湯浅醤油 さいしこみ」を詳しく見る
「鶴醤」を詳しく見る
「こんぶのおしょうゆ ワダカン」を詳しく見る
「特級本醸造しょうゆ ワダカン」を詳しく見る
「吟撰 さしみたまり」を詳しく見る
「サクサクしょうゆ」を詳しく見る
「菊醤」を詳しく見る
「特選低塩丸大豆うすくちしょうゆ」を詳しく見る
「寺岡家のたまごにかけるお醤油」を詳しく見る
「豆しょう 再仕込醤油」を詳しく見る
「和歌山 樽仕込み醤油」を詳しく見る
「信州三原屋 食卓の減塩元気しょうゆ」を詳しく見る
「いつでも新鮮 大豆ペプチド 減塩しょうゆ」を詳しく見る
「信州三原屋 昆布醤油」を詳しく見る
「信州三原屋 減塩醤油」を詳しく見る
「薩摩甘口醤油」を詳しく見る
「究極の醤油 久世福商店」を詳しく見る
*1:現在は愛知県のメーカー、盛田の完全子会社。
*2:醤油は、その熟成過程でアルコール発酵が起こります。また日持ち向上を目的として一定量のアルコールを加えることがあり、市販品の醤油で平均2.82%程度※ のアルコール分が含まれています。 ※ (財)日本醤油技術センター発行「醤油の研究と技術40、No.1、63(2014)、同41、No.2、162(2015)」「同42、No.5、365(2016)」濃口本醸造醤油分析表平均値より算出(【楽天市場】伊賀越 鮮度ボトル アルコールフリー醤油(150ml)【伊賀越】:楽天24より)
*3:国内生産量は約1%で、食塩分は約16%。 しょうゆを2度醸造するような製法をとるため「再仕込み」しょうゆと呼ばれます。一般的に色が濃く、どろりと濃厚な味に仕上がります。価格も高いことから、多くは卓上調味料として、主に刺身や鮨に用いられます。(中略)麹をタンクに仕込むとき、食塩水を合わせるべきところを、ほぼ同じ塩分濃度の「生揚げ(きあげ)しょうゆ」を合わせて仕込みます。ふつうのしょうゆは加熱処理(火入れ)しますが、この生揚げしょうゆと呼ばれるしょうゆは加熱処理がされていません。酵素がまだ活発に活動している生のしょうゆを食塩水の代わりに仕込むのです。別名甘露しょうゆと呼ばれています。(キッコーマンHP「しょうゆの種類と特徴」より)
*4:液体中に空気を強制的に吹き込むこと。