J-POPアーティストが好きで、推しが最近アジアでも人気になっている!なんていう方も多いはず。それもそのはず、近年、アジアでのJ-POPの人気は右肩上がりで、K-POPと比較するとまだまだ少ないのですが、アジア各国の国別シェアも伸びてきています。
そんなアジアでのJ-POPの状況を、江戸川大学で音楽ビジネスを教えている関根直樹先生に伺いました。関根先生は、ソニー・ミュージックエンタテインメント在籍時、アジアでの日本人アーティストのライブやプロモーションを数多く手がけられていました。
アジアでJ-POPは現在どのように受け入れられているのでしょうか?またJ-POPの未来についても、詳しく伺っています!
お話を聞いた人:関根直樹
上智大学外国語学部英語学科卒。ニューヨーク大学大学院で音楽ビジネスを体系的に学ぶ。ソニー・ミュージックエンタテインメントでプロデューサーとして邦楽宣伝・A&R業務に携わり、ライブエグザムでチーフ・プロデューサーとして日本人アーティストの海外興行エージェント・ツアーマネジャーおよび海外のアニメ・音楽フェスティバルの制作業務を手掛ける。音楽ビジネスセミナーのゲストスピーカー、日経クロストレンド、リアルサウンド等メディアへの寄稿など実績多数。日本ポピュラー音楽学会会員。
ーー関根先生はソニー・ミュージックエンタテインメントでどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
関根先生:会社には、1989年から30年以上在籍していました。入社して最初の仕事はアイドルの宣伝で、松田聖子、宮沢りえ、近藤真彦といった方々を担当していました。その後は、テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアでのプロモーションを経て、海外から来日したアーティストの渉外業務にも携わり、通訳のような仕事もしていました。
ーーすごい方々の名前がさらっと出てきた!
関根先生:その後、アメリカのニューヨーク大学へ1年間留学し、音楽ビジネスを学ぶ機会がありました。留学時代から、アジア市場の可能性を強く意識するようなり、自分の中で大きなテーマになっていったんです。当時、日本ではまだアジア市場をターゲットにした動きは少なかったのですが、私は「次はアジアだ」と確信しており、大学でも中国語を英語で学んでいましたね。
帰国後、アジア全域で日本のどのアーティストを現地でリリースし、CDを販売していくかを戦略的に考える部署に、8年ほど所属することに。当時はまだCDが主流で、現地でのCD製造や販売ライセンスの交渉が仕事の中心でした。
しかし、2000年代半ばに入るとCDの売上が下降し始め、ダウンロード配信へと徐々に移行していくのを肌で感じるようになっていきました。そして、ライブやコンサートといった興行ビジネスへのシフトが求められる時代に移行していきます。その中で、デビュー間もない中孝介(あたりこうすけ)を中国でプロモーションし、映画出演やコンサートを実現させたことが一つの成功例でしたね。
ーーアジアでも日本国内同様にCDの時代が終わりを迎え、ダウンロード配信やライブコンサートの時代に移行していったのですね。その後は、コンサートなどの興行のお仕事を中心にされていったのでしょうか?
関根先生:そうですね。その後、当時高校生だったガールズバンドのSCANDAL(スキャンダル)をアメリカの音楽業界のコンベンション・SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)へ出演させたり、フランス、香港でのライブを手がけたりしていましたね。
2013年にはソニー・ミュージックエンタテインメントが共同出資してできたZeppライブ(現・ライブエグザム)というコンサートプロモーターの会社へ。そうして本格的に海外でのライブ事業に携わるようになったんです。
東南アジアの「アニメフェスティバルアジア」や韓国の「ペンタポートロックフェスティバル」というフェスにアニソンアーティストやさまざまなジャンルのアーティストをブッキングをしました。現在でもアジア圏でのアーティストのライブをブッキングエージェント、ツアーマネジャーとして手がける一方、江戸川大学で音楽ビジネスや経営論などを中心に講義しています。
アジアで今J-POPがアツい!現在の人気とその理由
ーーアジアでのJ-POPの人気について、現状をどのようにご覧になっていますか?
関根先生:現在、アジア全域でJ-POPの人気は確実に高まっています。私が手がけたライブの現場でも大きな変化がありました。
例えば台湾では、コロナ禍以前は年間100組ほどの日本アーティストがライブを行っていましたが、最近ではその倍以上のアーティストが現地でパフォーマンスをしていると思われます。台湾のライブ会場は以前よりも予約が取りにくく、1年以上前からスケジュールを確保しなければならないほどです。
ーーコロナ禍で大きな変化があったんですね。
関根先生:2010年代以降、スマートフォンの普及に伴って、音楽配信のプラットフォームサービス(サブスクリプションサービス)やSNSの利用が徐々に進み、コロナ禍での巣ごもり需要をきっかけにさらに普及が進み、大衆化されました。
それは日本国内だけでなく、アジア、さらには世界中で同時に起こった現象であり、現在のJ-POP人気に大きな影響を与えています。私自身もマーケティングデータを目にすることがありますが、コロナ禍を挟んだここ数年で日本の音楽の流通量やトラフィックが圧倒的に伸びているのを感じますね。
特にSNS、なかでもTikTokのようなショート動画配信プラットフォームの利用者が急激に増えたことが重要です。アーティスト自らが直接ファンに音楽を届ける場として活用され、J-POPが日本を超えてアジアや世界中に広がるきっかけになりました。
ーーコロナ禍以降でのSNSやストリーミングサービスの普及がJ-POPの広がりにつながったのですね。J-POPが人気を得ている要因として、他国の音楽にはない魅力や独自性があると思うのですが、それについてはどうお考えですか?
関根先生:さまざまな要因がありますが、大きく3つを挙げたいと思います。
1つ目は、日本の音楽シーンの豊かな歴史が築いてきた演奏技術です。1950年代から続くグループサウンズやバンド文化が脈々と根付いており、「ミュージシャンシップ」を大事にする歴史があるので、多くのアーティストや演奏者が非常に高い技術力を持っています。それを支える音響や照明、演出といったスタッフの技術力も含め、日本のライブや音楽制作は非常に高品質ですね。
2つ目は、ジャンルの多様性です。日本にはアニソンやアイドル、ボーカロイド、青春ロックなど、世界的にも珍しいほど細分化されたジャンルがあります。この音楽の多様性が多様なリスナー層に響いているのだと思います。
3つ目は、アニメ文化の存在です。日本のアニメが海外市場で急速に成長し、その主題歌や挿入歌が親しまれることで、J-POPアーティストの楽曲が自然に広がる現象が見られています。
これら以外の細かい要因ももちろんありますが、この3点がJ-POPがアジアや世界で受け入れられ、リスナーを魅了している大きな理由だと考えています。
アジアのライブ現場でもサイリウムを振る
ーーライブ文化についても伺いたいのですが、アジアでの日本人アーティストのライブは、日本のライブと比べてどのような違いや特徴がありますか?
関根先生:アーティストによってさまざまなので一概には言えませんが、日本のライブ文化が現地に浸透しているケースも多いですね。例えば、サイリウムやコール&レスポンスの文化は、現地のファンが事前にYouTubeなどで予習し、ライブで実践する姿がよく見られます。アイドルのライブでは、推しのカラーに合わせてサイリウムを振る光景は日本のライブとほとんど変わりません。
日本人アーティストの話ではありませんが、中華圏では現地のアーティストが観客席に降りてファンと握手をするなど、非常にファンとの距離感が近い演出が見られます。地域ごとの工夫や特徴は面白いと思いますね。
ーー推し文化はアジアでも一般的になっているのですね。
関根先生:そうですね。K-POPはすでに「ファンダム」という形で推し活を体現していますよね。韓国ではアーティストの誕生日に合わせて街中のビジョンやカフェでファンが企画するイベントなどもよく見られます。こういった推し活はアジアだけでなく世界中で同時多発的に生まれてきた印象です。
J-POPの未来は?
ーーJ-POPはK-POPのようにアジアだけでなく世界を席巻する未来があると思いますか? また、そのためには何が必要だと思いますか?
関根先生:何をもって「世界を席巻する」と定義するのかは難しいですが、すでに一部のアーティストたちは世界に近づいていると思います。例えば、BABYMETAL(ベビーメタル)やONE OK ROCK(ワンオクロック)は動員数やファンベースで世界中に広がっており、藤井風もピアノ一つで世界中に受け入れられているのもすごいと感じますね。
これらのアーティストたちは、新しいジャンルを切り開き続けており、日本語の歌詞の良さを活かした楽曲も魅力的です。例えばCreepy Nutsのように英語歌詞を含む楽曲もありますが、日本独自のリズムやノリが受け入れられるケースも多いです。
また、SNSを活用して現地ファンとのコミュニケーションを行い、実際に現地で継続的に活動することがファンとの絆を深める鍵になります。一度きりの訪問で終わらせるのではなく、継続的に活動を行うことが重要です。この継続性を大切にするアーティストやそのチームが、最終的に最も強い存在になるのではないでしょうか。
ーーJ-POPのグローバルな活躍の鍵は、日本語歌詞の良さを活かすことと、現地での継続的な活動というローカル性が大切なのですね。興味深いお話をありがとうございました。さらなる発展が楽しみです!
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