初めまして、四川省公認の四川料理の専門家・中川正道です。
外食しにくい状況もあって、「そろそろおいしい麻婆豆腐を食べたい……」と禁断症状が出ている人も多いのでは。
麻婆豆腐はお店で食べるものというイメージの人も多いかもしれませんが、ぼくは正直、全部自分で作っちゃいます。慣れてしまえば麻婆豆腐をゼロから作るのはそんなに難しくないのですが、「調味料を集めるのが大変」「自分にはハードルが高くて諦めた」という声をよく聞きます。
そんな人でも大丈夫! 市販の「麻婆豆腐の素」でも本格的な味は楽しめるんですよ。
「麻婆豆腐の素」というとレトルトを思い浮かべますよね。レトルトは日本式の麻婆豆腐が多いから、四川のような麻婆豆腐は食べられないと思っている人もいるでしょう。
でも最近は技術が進歩したのか、はやりを取り入れたのか、レトルトも本格的なものが多くなっています。それに、レトルトタイプだけじゃなく合わせ調味料タイプもあって、こちらにも本格的な味が楽しめる商品があるんです(「麻婆豆腐の素」の分類で詳しく説明します)。
今回は四川料理マニアのぼくが選んだ、本格的な「麻婆豆腐の素」を紹介していきます。
四川の麻婆豆腐は、ほぼ例外なく「麻辣(マーラー)」。花椒(ホアジャオ)などの「麻(しびれる辛さ)」と唐辛子の「辣(ヒリヒリする辛さ)」です。日本のお店でも近年「麻辣麻婆豆腐」が楽しめるようになりましたよね。
そうした本場の麻婆豆腐の味を探し求める人のために、「麻」と「辣」を4段階(🔥、🔥🔥、🔥🔥🔥、🔥🔥🔥🔥)で表現してみました。
本題に入る前に、少しだけ自己紹介を。ぼくは2000年初頭に四川省の成都へ語学留学し、現地のIT企業で働きつつ、4年間ほど滞在していました。4年間、朝から晩まで四川の人と一緒に四川料理を食べた結果、四川料理にどハマり! 2002年からほぼ毎日、四川料理を食べています。
家では納豆に自家製のラー油をかけるし、火鍋もゼロからスパイス配合して作ります。こんな生活を続けて18年。いつしか四川料理はライフワークとなりました。麻婆豆腐はおよそ1000食以上食べています。
「麻婆豆腐の素」の分類
麻婆豆腐の素は大きく分けて2つに分類されます。- レトルトタイプ
- 豆腐さえ準備すれば作れる
- 簡単に作れるので家庭の味方
- コスパ、手軽さを重視したい人にオススメ
- 例:丸美屋「麻婆豆腐の素」
- 合わせ調味料タイプ
- 麻婆豆腐の調味料を配合した醤(ジャン)
- 豆腐、ひき肉、トロミをつける片栗粉を用意する必要がある
- 本格的な味を重視したい人にオススメ
- 例:ヤマムロ「陳麻婆豆腐」
それぞれのタイプごとに、本格的な「素」を紹介していきます。
- 手軽に本格的な麻婆豆腐を食べられるレトルトタイプ
手軽に本格的な麻婆豆腐を食べられるレトルトタイプ
まずは豆腐だけ用意すればいい、簡単なレトルトタイプの麻婆豆腐の素を紹介します。
ピリッとした辛味でバランス良し「新宿中村屋 辛さ、ほとばしる麻婆豆腐」
【麻:🔥🔥】
【辣:🔥🔥】
カレーで有名な新宿中村屋ですが、実は麻婆豆腐の素も本格的。豆板醤(トウバンジャン)の味を引き立て、ピリッとした辛味でバランスも良い。備え付けの花椒もかければかなりいい香り。辛い料理が好きな大人の方に食べてほしい逸品。
四川の麻婆豆腐のうまみを感じる「麻辣王豆腐の素」
【麻:🔥🔥】
【辣:🔥🔥🔥】
「麻辣王豆腐」は全日本麻婆豆腐愛好家連盟の方がオススメしているお店で、評判も良いです。そのお店が監修した商品がこちら。実際に食べてみたら、四川の麻婆豆腐のうまみを感じさせる完成度が高い麻婆豆腐の素。特にひき肉に牛肉を入れているところに、こだわりを感じさせます。仕上げのトロミは自分でつける必要あり。
中華街でオススメの店「京華樓 麻婆豆腐の素」
【麻:🔥🔥】
【辣:🔥🔥🔥】
「横浜中華街でオススメの四川料理屋を教えてください」と知り合いからよく質問が来ます。そんなときに答えているのがこちらの「京華樓」。昔、横浜近くに住んでいたとき、よく通っていました。ちなみに厨房からは四川語が聞こえます(笑)。お店で食べる麻婆豆腐と比べてみると、豆腐と餡の一体感がなくちょっと劣りますが、コクがあり京華樓らしい味。
本場の味を再現した合わせ調味料タイプ
麻婆豆腐は基本的に「豆板醤」、「豆鼓(トウチ)」、「甜面醤(テンメンジャン)」、「ニンニク」、「唐辛子」、「花椒」の調味料とスパイスを合わせて作ります。ただそろえるのが大変……。そういうときに使えるのが合わせ調味料。ちょっと手間がかかりますが、レトルトよりさらに本格的な味を試してみたい方にオススメです。
豆板醤のコクがおいしい「エスビー食品 李錦記 四川式麻婆豆腐の素」
【麻:🔥】
【辣:🔥】
李錦記(リキンキ)とは香港発祥の調味料ブランド。ひき肉をしっかり炒めて、合わせ調味料を混ぜる。後はさいの目で切った豆腐を入れて、煮込むだけ。豆腐の水分だけで作ります。化学調味料無添加なのもいいですね。味は少し甘めですが豆板醤のコクがおいしい。万人受けする味です。
一番好きな素! 現地の味を再現した「ヤマムロ 陳麻婆豆腐」
【麻:🔥🔥🔥】
【辣:🔥🔥🔥】
ぼくが一番好きな麻婆豆腐の素。それもそのはず、四川省成都にある麻婆豆腐発祥の「陳麻婆豆腐」が成都の工場で作り、ヤマムロが輸入している合わせ調味料です。味も見事に現地の陳麻婆豆腐の味を再現。余分な甘味もないので、辛い麻婆豆腐を食べたいときにオススメです。1箱に3つ合わせ調味料が入っているので、コスパも良い。
一番辛く一番しびれる、激辛マニアに食べてほしい「好人家 麻婆豆腐調料」
【麻:🔥🔥🔥🔥】
【辣:🔥🔥🔥🔥】
これも四川省で作っている麻婆豆腐の合わせ調味料。この麻婆豆腐の素が一番辛く、一番しびれました。激辛マニアにぜひ食べてほしい。
「好人家(ハオレンジャー)」は中国全土で人気の合わせ調味料ブランドです。製造しているのは天味食品という成都の食品企業で、2019年に上海証券取引所に上場。中国の食品業界から新たなビリオネア夫妻が誕生したとして、話題になりました。以前、縁あって工場視察に行ったことありますが、近代的な整備で、豆板醤の自社工場があるなど桁違いの大きさでした。これから日本へ進出するようなので、楽しみです。
<おまけ・冷凍タイプ>
麻婆豆腐の素ではありませんが、既に調理済みの冷凍タイプの商品があります。若干割高ですが、簡単にお店の味が楽しめます。その中から一品だけ紹介します。
全体的にバランスが良い名店の味「麻婆豆腐(古樹軒オリジナル)」
【麻:🔥】
【辣:🔥🔥】
湯せんするだけで食べられる超手軽な麻婆豆腐。まろやかで食べやすく、中華的な香辛料の香りも良い。後味の辛さとしびれも心地良い。全体的にバランスが良い味。
作っているのは中華食材大手卸の中華・高橋。2,000人以上の中華料理人とのコネクションがあり、さまざまな中華食材を開発している企業です。
「素」に足すだけ、麻婆豆腐をさらにおいしくする方法
「麻婆豆腐の素」だけでも十分おいしいですが、足すだけで麻婆豆腐の香りや辛味が増す技を教えましょう。簡単なので試してみてくださいね。
食欲アップに、豆腐の上に大量の花椒を
作った麻婆豆腐の上に大量の花椒をかけてみましょう。本場・四川省ではものすごい量の花椒を豆腐の上にかけて食べます。花椒は食欲を促進させるのでオススメです。
「花椒」を詳しく見る辛さを求めるなら、出来上がる直前にラー油をたっぷり
麻婆豆腐が出来上がる直前にラー油をかけると香りが良くなり、おいしくなります。辛味の調整もできるので、辛さを求める方はたっぷりラー油をかけましょう。
ラー油でオススメなのが中国西安出身のペンギンさん夫婦がつくった、辺銀食堂の「石垣島ラー油」。沈殿した唐辛子と石垣島のスパイスが混ざりあい唯一無二の味わいです。
「ラー油」を詳しく見る見つけたら買うべし! 香りがガツンとくる葉ニンニク
四川省の麻婆豆腐で必須なのが葉ニンニクを入れること。ただ、葉ニンニクは日本ではほとんどなく、入手が困難。たまに道の駅やスーパーで売っています。楽天にもあるようです。
もし葉ニンニクを見つけたら、ぜひ購入し、麻婆豆腐に入れてみてください。ニンニクの香りがガツンときて、おいしさが倍増します。
たくさん作って余ってしまったら、相性抜群の麻婆カレーに
大量に麻婆豆腐を作って残ってしまった……。そんなときは麻婆カレーを作りましょう。麻婆豆腐をベースに少し水を入れて量を増やし、カレールーを入れて味付け。麻婆豆腐もスパイスをたくさん使っているので、カレーとの相性は抜群です。
カレールーは市販のルーで構いません。ぼくがよく使うのはエスビー食品の「ゴールデンカレー 辛口」。スパイスの香りが良く愛用しています。
「カレールー」を詳しく見る【麻婆豆腐の歴史】知るともっとおいしくなる
かなり駆け足で麻婆豆腐の素と、おいしくするTipsを紹介してきましたが、日本の麻婆豆腐の歴史を知っていますか?
麻婆豆腐が生まれたのは清朝末期の1862年、四川省成都のとある食堂です。実に150年以上の歴史があるわけですが、日本ではどのように広がったのでしょう。
日本式の麻婆豆腐を広めた四川飯店、丸美屋
1958年、四川省出身の陳建民氏が来日、四川飯店を創業します。
当時の日本はあっさりとした華僑系の料理(広東料理や福建料理など)しかない状況で、刺激的な四川料理はなかなか受け入れられません……。陳建民氏は苦心し、日本人でも食べやすい四川料理をたくさん編み出します。例えば、汁あり担担麺やエビチリ。そして、ちょっと甘い麻婆豆腐もその一つでした。
そして、高度成長期の1971年、中華料理専門店でしか食べられなかった麻婆豆腐を家で食べれるようにしたのが丸美屋のレトルト「麻婆豆腐の素」です。ひき肉入り+トロミ粉がついていて、豆腐さえ用意すれば簡単に作れます。この商品のおかげで、日本の家庭で麻婆豆腐が作られるようになりました。まさに画期的な商品ですね。
陳麻婆豆腐の上陸、本場の「麻辣」が浸透
中華料理店や家庭で日本式の麻婆豆腐は食べられるようになりました。しかし、本場の味は日本ではまったく食べられてきませんでした。そんな中、四川省成都にある麻婆豆腐発祥の店「陳麻婆豆腐」の本場の味にほれ込んだのが、日本の飲食会社FBDの社長です。
「この味を日本で出したい!」と現地の国営企業に直談判。世界初となる陳麻婆豆腐の正式なのれん分けを受けます。そして、2000年、ついに陳麻婆豆腐が日本へ上陸しました。
2000年以降、激辛ブームの後押しもあり、本格的な辛くしびれる麻婆豆腐を提供するお店が増えてきました。麻婆豆腐の上にかける花椒の輸出量も右肩上がり。また麻婆豆腐専門店や麻婆麺、麻婆カレーなど、さまざまな料理が生まれていきます。
2018年には花椒がブームとなり、しびれる「麻(マー)」を楽しむ「マー活」という言葉も生まれました。そして、2019年からしびれて辛い「麻辣」という四川を代表する味が浸透。コンビニやスーパーを中心に至る所で目にするほど。スマホの文字変換で「マーラー」と打ったら、「麻辣」と変換できるぐらいです(笑)。
麻婆豆腐を入り口に、深淵なる四川料理の世界へ
ぼくは今、「麻婆豆腐を含め四川料理を広めたい」と思い、活動しています。こんなふうにおいしい麻婆豆腐の素を紹介するのも活動の一環です。
4年間の四川省滞在後、日本に帰国し、ぼくはある事実を知ります。それは「本当の四川料理が日本では全然知られていない!」ということ。
そこから、「こんなにもおいしい四川料理を知らないのはもったいない!」という熱い問題意識が生まれ、四川料理を普及させる活動を13年間ほど行っています。
具体的な活動内容は以下の5つです。
- 四川の食文化が分かるWebメディア「おいしい四川」の運営
- SNSで四川料理情報をシェア
- 四川料理のイベント企画
- 食べ手と作り手をつなぐコミュニティ「麻辣連盟」(メンバー1,000名以上)の運営
- 四川料理を極めるオンラインサロン「四川料理研究部」の運営
四川料理を普及させる活動はどんどん拡大し、仲間たちが増え、2017年から「四川フェス」という大型の食フェスを主催するまでになりました。四川フェスは過去3回開催し、累計20万人を動員。昨今の花椒、麻辣ブームのきっかけとなりました。
四川料理の普及活動をしているぼくの思いとしては、麻婆豆腐を入り口にして、まだ日本に浸透していない本当の四川料理が日常的に食べられる世界がきたら最高! と考えています。
庶民的な四川料理
麻婆豆腐を代表とする四川料理ですが、ほかに日本人でなじみのあるメニューと言えば、
- 回鍋肉(ホイコーロー)
- 棒棒鶏(バンバンジー)
- 青椒肉絲(チンジャオロース)
- 麻婆春雨(四川では螞蟻上樹)
- 麻婆茄子(四川では魚香茄子)
- 担担麺
といった料理がメジャー。なんとなくお米が食べたくなるラインアップですよね。そう、四川料理はごはんが進むような庶民的な料理が多いのです。
「世界で一番食べられているのは四川料理」
世界で一番食べられているのは四川料理である――。これはぼくの主張です。
一般的に世界三大料理は、
- ヨーロッパの筆頭である「フランス料理」
- アジアの筆頭である「中国料理」
- アラブの筆頭である「トルコ料理」
と定義されています。
この3つの中で一番食べられているのは間違いなく国の人口が多い「中国料理」です。
その中国料理の中で、四大料理と言われる料理があります。
- 四川料理:四川と重慶を中心とした、しびれて辛い料理。麻婆豆腐、回鍋肉など。
- 広東料理:素材のうまみを生かす、あっさりとした料理。飲茶、酢豚など。
- 山東料理:小麦文化圏、北京料理を含む。ニンニクたっぷりの醤油味。北京ダック、餃子。
- 江蘇料理:上海料理を含む。味付けは淡泊、砂糖を多用するのが特徴。トンポーロー、小籠包。
この四大料理の中で一番食べられているのは四川料理です。理由は庶民的な家庭料理が多いからです。簡単にできるし、食材も安い。味もパンチがあるし、分かりやすい。
なので、「四川料理は世界で一番!」というのがぼくの考えです。
四川料理は何千と種類があります。ぼくらが知っているのはほんの一部なのです。
麻婆豆腐はほんの入り口にすぎません。ぜひ、深淵なる四川料理の世界へ足を踏み入れてください!
著者:中川正道
四川省公認(2016年に四川省政府から四川料理の達人と認められた)の四川料理の専門家、麻辣連盟総裁、時色株式会社代表兼デザイナー。2002~2006年まで四川省に滞在、四川料理に魅了される。2012年に単身、四川省へ行き、四川の仲間たちと200店舗の四川料理店を食べ歩き「おいしい四川」サイトをリリース。2014年に「涙を流して口から火をふく、四川料理の旅」を出版。累計20万人を動員した四川フェス主催。昨今の花椒、麻辣・シビ辛ブームの火付け役。サイト:おいしい四川
Twitter:@Amazing_Sichuan
「スパイスの世界」を極めたくなったら
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今回紹介した商品
「新宿中村屋 辛さ、ほとばしる麻婆豆腐」を詳しく見る
「麻辣王豆腐の素」を詳しく見る
「京華樓 麻婆豆腐の素」を詳しく見る
「エスビー食品 李錦記 四川式麻婆豆腐の素」を詳しく見る
「ヤマムロ 陳麻婆豆腐」を詳しく見る
「好人家 麻婆豆腐」を詳しく見る