こんにちは。「無駄づくり」と称し、無駄なものを作ってインターネットで発表している藤原麻里菜です。
わたしは、「オンライン飲み会脱出マシーン」や「Twitterで『バーベキュー』とつぶやかれるとわら人形に五寸釘が打ち付けられるマシーン」など、自分だけが必要なニッチな発明品を作っては一人でニヤニヤする活動をしています。
いや、わたしのことなんてどうでもいいんです。これを見てください。
こちらは、わたしの作った工作ではありません。「世界を変えるのではないか」と震えながら購入した「まかせ亭」という製品です。ここでみなさんにクイズです。
「まかせ亭」は「自分の代わりに何かを作ってくれるマシーン」ですが、一体何を作ってくれるものだと思いますか?
「コーヒー」とか「炭酸水」とか「パン」とか、そんな声が聞こえてきますが、ぜんぜん違います。そんなもんじゃない。もっと人類の歴史に挑戦するような、反骨精神やアンチテーゼを感じるものですよ。
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カップ麺でした。
そう、「まかせ亭」は自動的にカップ麺を作ってくれるマシーンなのです。水を入れてスイッチを押すと、お湯をわかし、自動的に注水してくれます。
「いらね~」って思った人も多いと思います。わたしもその一人でした。でも、「まかせ亭」を知った後、カップ麺を作るたびに「まかせ亭があったらな……」と思うようになり、頭の中が「まかせ亭」でいっぱいになって、いつのまにか買っていることでしょう。
人類は、当たり前を”疑い”、それを”革新”することで発展を遂げてきましたが、まさにそういうことです。「まかせ亭」は、そういうことなのです。
無駄づくりは、「なくてもいいけど、あったら楽しい」という軸で物を作っているのですが、その精神がふんだんに込められた製品だと、勝手にシンパシーを感じもしました。
「まかせ亭」の他にも
うつぶせでマンガを読みながらポテチを食べられる「うつぶせ寝クッション0(ゼロ)」や……
顔全体を覆って完全に花粉をガードする「花粉ブロッカー2」など……
そんなニッチな商品をたくさん作って販売しているところといえば、そうです。
サンコーレアモノショップ です。
秋葉原にある「面白くて役に立つ」グッズを取り扱うサンコーの直営店舗。海外から輸入した製品を販売するだけでなく、自社開発した製品も取り扱っている。以前はPC関連グッズが多かったが、近年では生活雑貨や家電などを幅広く取り扱っている。
今日は、サンコーレアモノショップを運営するサンコー株式会社さんにお邪魔して、広報の﨏(えき)晋介さんと企画開発部の尾崎祥悟さんにサンコーさんの製品について、お話をお伺いします。
※取材は、新型コロナウイルス感染対策を講じた上で実施しました
無駄づくり、商品化できませんか?
今日はよろしくおねがいします。あの、突然で大変恐縮なのですが、インタビューの前に提案をさせていただいてもよろしいでしょうか。
わたくしが今まで作った無駄なものの中で気に入ったものがありましたら、ぜひサンコーさんで商品化していただけないかなあなんて思っておりまして……。
藤原さんの「無駄づくり」は存じ上げていますが、弊社で商品化ですか……!
ありがとうございます。では、始めさせていただきます。
飲み会で焼き鳥を串から外すとき、なかなかスムーズに外せないことってありますよね。そこで、わたしはこの発明品を作りました。
飲み会などで、焼鳥を串から外さずに食べると社交性がないと思われるのが嫌なので、「スムーズに串から外せるけれど職人の苦労が表示されるマシーン」を作りました。https://t.co/BlZR4NJdPF pic.twitter.com/zKrWkG4ako
— 藤原 麻里菜 | Marina Fujiwara (@togenkyoo) April 12, 2018
「焼き鳥をスムーズに串から外せるけれど、画面に職人の苦労が写されるマシーン」です。焼き鳥をセットして串を引くだけで、力をかけずにきれいに串から外れるのですが、職人が苦労しながら串打ちしている映像を見なければならないというデバイスになります。こちら、どうでしょうか。
「自家製焼き鳥メーカー2」という、焼き鳥を家で楽しめる製品はサンコーで作っているのですが……。
家庭用焼き鳥マシーン。じっくりと串を回転させることにより、中までしっかり火が通る。煙も少ないので自宅で気軽に調理できる。買ってきた焼き鳥の温め直しにも有能!
「自家製焼き鳥メーカー2」を詳しく見る
あ! じゃあそれと抱き合わせで売れますね。
そもそも僕は焼き鳥を串のまま食べますね。
僕も、飲み会で頼むときは、自分の分を確保した注文をします。
はい。分かりました。大丈夫です。では、もう一つご提案させてください。
日本の未だに続く印鑑文化に辟易(へきえき)していませんか? 印鑑を押す作業がめんどくさい……。そんなときに使える発明を作りました。「印鑑シューター」です。
ピストルを撃つ気分で印鑑を押すことができるマシーンでして、これを使うことで印鑑を押す作業も楽しくなるに違いありません。
ハンコをかっこよく押せるマシーンを作りました pic.twitter.com/gmBU66LdeT
— 藤原 麻里菜 | Marina Fujiwara (@togenkyoo) September 1, 2020
これはいいですね……。
うちでも「消毒液バスターガン」という製品を出しているのですが、やっぱりピストルとかって楽しいですよね。
ガンタイプのミストスプレー。充電式で楽に楽しく消毒液を散布することができる。水を入れると掃除や水やりにも使えてとても便利!
「消毒液バスターガン」を詳しく見る
弊社の社長に撃ってもらいたいですね。稟議書に向かって。
いいですね。それなら承認とれますね。
めちゃめちゃ好反応をいただけてうれしいです。よろしくおねがいします。あとでロイヤリティーの相談させてください。
無駄づくりとサンコーの共通点は「困りごとを解決する態度」
「無駄づくり」を見ていただきありがとうございました。「無駄づくり」は「なくてもいいけど、あったら楽しい」という軸でものを作っています。スタンスは少し違うと思うのですが、勝手にシンパシーを感じています。
実は藤原さんの「無駄づくり」には共感することが多いです。サンコーがアイデアを製品化するときの基準の一つとして「お客さんの困りごとをちゃんと解決できているか」があるんです。そのためには「困りごと」を観察する必要があるのですが、その視点が我々と似ていると思うんです。
自分自身の生活の中でいろいろな「困りごと」が起こりますが、それって、自分のことだけじゃないですよね。実は、みんなが同じように困っていたりする。
焼き鳥の串を外すのも、ハンコを押すこともそうじゃないですか。
でも、多くの人は困りごとを解決しようと視点にならないんです。藤原さんは「無駄づくり」を通して「困りごとを解決しよう」という態度を示していますよね。そこには深く共感します。
うれしいです。いままでわたしは自分の作っているものを「無駄」だと思っていました。でもサンコーさんのようにわたしも商品化をしていけば、無駄じゃなくて普通に人々の役に立てるかもしれないですね……。
アイデアってどう考えてるの?
サンコーさんはたくさんの製品を世に送り出していますよね。どれくらいの数になるのでしょうか?
自社で開発をしている製品は年間10アイテムほどで、OEM(他社が製造した製品をサンコーとして売り出すもの)などを含めると年に100アイテムくらいになります。
多……!
ちなみに藤原さんはどのくらいのペースで「無駄づくり」を作っているんですか?
私は週に1個作っています。
藤原さんもすごいですね……!
サンコーさんのすごさを引き出せたら、というつもりの質問だったのですが……。確かに私も多いですね……。
サンコーさんでは企画はどうやって考えられているのでしょうか? もしかして、変な物を考えるスペシャリストみたいな人がいるんですか……?
アイデアはですね、従業員全員で考えています。サンコーには、週に1回、1つ以上はアイデアを提出する決まりがあるんです。従業員は35人いるので、最低35個はアイデアが集まります。
集まったアイデアを掲示板に張り、また従業員同士で「これいいなー」とか「こうしたらもっとよさそう」といった意見交換をして、アイデアを広げつつ、最終的には商品企画委員会の中で決定する……といった流れです。
ちなみに、良いアイデアに対しては賞が授与されて、ちょっとした賞金がもらえます。
わたしも週に1個「無駄作り」を作っているので分かるのですが、ノルマがあって考えなきゃいけない状況になるからこそ、みんなが気づかない問題に気づけることってありますよね。
そうなんです。今まで当たり前だと思っていることを疑問に思う。そして、「それって、どうやったら解決できるんだろう?」と、視点を変えながら考えていくことが商品開発につながりますね。
一つの目的”だけ”に集中する
では、アイデアから実際に商品に落とし込む際に注意していることはありますか?
「一つの商品には一つの機能を持たせる」ことですね。
例えば、この「高速弁当箱炊飯器」もそうです。これは、お米と水を入れてスイッチを押すだけで、14分ほどでご飯が炊けるお弁当箱の形をした炊飯器です。
お弁当箱の形をした炊飯器。最大1合の炊飯が可能。0.5合を約14分、1.0合を約19分で炊くことができる。
「高速弁当箱炊飯器」を詳しく見る
短時間で、手間がかからず、炊きたてのご飯が食べたい。その目的を叶えるために、最善の解決方法を考えて商品化しました。
たぶん、他のメーカーさんだとたくさん機能をつけると思うんですよ。でも、うちはそういうことはしなくて、この商品もオンとオフのスイッチが一つだけです。機能がない分、操作の手間もなくて値段も安くすることができるんです。
これ、めっちゃ欲しいんですよね……! ちょっとだけ炊けるのいいじゃないですか。
あとは、コンセプトとして「役に立つ+面白さ」を重視しています。面白さっていうのは、笑えるっていう意味だけではなくて「こう解決するんだ!」とか「その手があったか!」みたいな面白さも含んでいて。
問題を解決することができて、さらに使っていてワクワクする。これを両立できる商品を心がけています。弊社には「アイロンいらーず2」という商品があるのですが、あれはまさに「問題解決」と「おもしろさ」を両立できている分かりやすい例だと思います。
服に取り付けて70~80度の温風を出すことにより、服を乾燥させる。さらに風圧で服のシワを伸ばすことができる。
「アイロンいらーず2」を詳しく見る
衣服が温風でふくらんでいくの、確かに「問題解決」と「面白さ」の両方がありますね。
開発側は大変では
商品開発の尾崎さんは、アイデアを実際の設計に落とし込む役割ですよね。正直、「こんなん無理だろ」みたいなアイデアを投げられることもありますか?
あります。ドラえもんの道具みたいな企画とか、「そんな無茶な」ってものも多いですね。
でも、表面的に考えると技術的に不可能なことでも、その悩みや困りごとを掘り下げていくことで、別の角度から解決方法が見つかることが多いです。
なので、どんなことを振られても大喜利的に答えられるように、視点の引き出しというか、そういうものは多く持つようにしています。
そういう視点はよく分かる気がします。例えば「ドラえもんの四次元ポケットみたいなものを作って」みたいな無茶なこと言われても、単にたくさんはいる収納グッズが必要なだけなのかもしれませんよね。
それから、技術的な引出しを多くするために、家電が不要になったら、分解して中身を見てから捨てます。「あ、この仕組みは使えるな……」とか、いろいろ勉強になるんです。なるべく、粗大ゴミのままでは捨てないようにしていますね。*1
物を作る身として、かなり分かります。わたしも誰かが作ったものから技術のヒントをもらうことが多いです。あと、分解できないものの中身を妄想するのも好きです。おそば屋さんの店先にある、そばを箸で上下させている看板とか……。
あー。分かります。「この中にどうやって機構を収めているんだろう?」って妄想しますよね。
では、今まで開発した中で、いちばん思い入れのある商品はありますか?
「あせしらーず」という製品です。
ドライヤーの中央から温風、周囲からは冷風が同時に出る。これにより、髪を乾かしながらも、頭皮は熱くなりにくい。頭にかく汗を抑えながら髪を乾かすことができる。
「あせしらーず」を詳しく見る
温風がでているドライヤーの周りから冷風が送られてくるアタッチメントをつけるという企画で、その構造を考えていました。
思い入れがあるっていうのは、入社してはじめての仕事がこれだったからです。
入社してはじめての仕事が、ドライヤーの周りから冷たい風をだす仕事だったんですね。
そうです。はじめての仕事だったので、「かっこいいやつ作るぞ!」と熱が入っていたのですが、これが限界でした。
いやいや!未来の銃みたいで、めちゃめちゃかっこいいです。わたしはこれ推していきたいですね。
最大のヒット商品と、ぜんぜん売れなかったものの話
サンコーさんでいままでに一番売れた商品はなんですか?
2020年に発売した首につけるクーラー、「ネッククーラーNeo」です。
左右に小型の冷却プレートを搭載し、首の両側にある頚動脈を冷やすマシーン。熱くなった体を効率的に冷やすことができる。
「ネッククーラーNeo」を詳しく見る
首にかける扇風機をつけている人はよく見ると思います。これは電気を加えると冷える半導体を使っていて、内側にある金属のプレートが外気温からマイナス15度の冷たさになるんです。給電するモバイルバッテリーにもよるのですが、最大20時間使用することができます。
おおお! 暑い夏の日に、コンビニで買ったよく冷えたペットボトルを首につけたときのあの気持ちの良い冷たさ……。
こういう首につける系の製品も、最初は”おもしろガジェット”って感じでしたが、今では市民権を得て、みんな普通につけていますよね。
そうなんですよ。首につける扇風機に関しても、2017年くらいにサンコーが販売し始めたんですが、そのときは、日本で他に販売しているところは見かけなかったですね。
でも、その翌年あたりから他のメーカーで、よりオシャレなデザインのものが販売されるようになって、徐々に浸透してきたように思えます。
サンコーさんが首につける扇風機のパイオニアだったんですね。
冷却プレートで冷やすネッククーラーは2020年に発売したのですが、きっと2021年は他のメーカーからも似た商品がたくさん出てくると思います。
競合が出るからカテゴリーが浸透していくんですね……。めちゃ勉強になります。では、まったく売れなかった商品を教えてください。
これです。親指型スタイラス「指のび〜る」です。
言っちゃ悪いですが、売れなさそう……。
売れませんでした。2014年に発売したものなのですが、その頃ちょうどスマホが大きくなってきた時期だったんですね。で、スマホを片手で操作していると指が届かない問題があるなと気づきまして……これを作りました。
1,000個作ったのですが、まったく売れず、どんどん値下げしていって、どうにか売り切った商品です。
無駄なものを作っているので、わたしはその辺の感覚がバカになっているかもしれないのですが、機能を聞くと「便利じゃん」って思いました。なんで売れなかったんでしょうか……。
指にこだわりすぎたからだと思います。なぜか「指のリアルさ」を開発に携わっている人全員が追い求めてしまいました。
リアルな指のものって売れないんですね。勉強になります。わたしも「無駄づくり」で指が出てくると、こだわってしまいがちなので……。
「無駄なもの」は無駄ではない
新しいスマホとか家電を見ていると、最先端の技術によって生活がどんどん効率化されていっているなと感じます。
わたしは「無駄づくり」をやっているので、そういった”効率化”にアンチ的な立ち位置だと思われることも多いのですが、そうでもなく、効率化された先に訪れた”余白”をどう無駄に使うか、ということを考えるために「無駄づくり」をしています。
サンコーレアモノショップで、高速弁当炊飯器を買いました。話を聞いていたらめちゃめちゃ欲しくなってしまったので……。変といえば変な商品なんですけど、びっくりするくらい便利で、でもやっぱり変で、毎日「お弁当箱が炊飯器だ〜」と興奮しながら使っています。
役に立たないものも見ようによっては役に立つとか、ニッチな需要をついてブルーオーシャンを狙うとか、そういうことではなく、単純に自分が欲しくて、ワクワクするものを作り続けていきたい。そして、そういうものが生活の”余白”を彩ってくれるはずです。
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『考える術』という”考えること”にフォーカスした本をこのたび出版しました。アイデアというのは、自分が生きやすい世界を作る魔法みたいなものだと思います。ばかばかしいくらい真っ正面から問題に向き合ってみたり、ひねった視点で見てみたりして、今まで考えもしなかったような新しいアイディアを生み出す。そんな方法を一冊にまとめました。
「考える術 人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71」を詳しく見る
なお、サンコー本社でのプレゼンでは大好評だった「印鑑シューター」ですが、その後特に製品化の話は進んでいません。
そんなサンコーレアモノショップは楽天にもショップがあります。気になる人はこちらからどうぞ。
サンコー本社およびサンコーレアモノショップでの写真撮影:関口佳代
その他の写真撮影は著者によるもの
著者:藤原麻里菜
頭の中に浮かんだ不必要なものを何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2016年、Google社主催の「YouTube NextUp」に入賞。2018年、「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。総務省異能vation採択。でも、ガールズバーの面接に行ったら「帰れ」と言われたことがある。
Twitter:@togenkyoo
ブログ:藤原麻里菜のブログ
YouTube:無駄づくり / MUDA-ZUKURI - YouTube
ソレドコでTwitterやってます!
今回紹介した商品
「まかせ亭」を詳しく見る
「うつぶせ寝クッション0(ゼロ)」を詳しく見る
「花粉ブロッカー2」を詳しく見る
「サンコーレアモノショップ 楽天市場店」を見る
「自家製焼き鳥メーカー2」を詳しく見る
「消毒液バスターガン」を詳しく見る
「高速弁当箱炊飯器」を詳しく見る
「アイロンいらーず2」を詳しく見る
「あせしらーず」を詳しく見る
「ネッククーラーNeo」を詳しく見る
「考える術 人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71」を詳しく見る
*1:*家電リサイクル法に基づく4品目は捨てることが禁止されています。また、安全のために分解を禁止されている家電もあります。尾崎さんはプロの目で分解して捨てられる家電を判断していますが、一般の方が家電を分解して捨てる際には十分に注意してください。