「カレー」と名が付くもの全てを愛するカレー研究家のスパイシー丸山です。
手軽に食べられるカレーと言えばレトルトカレーですが、大手メーカーだけでなく一般的にはあまり知られていないメーカーもたくさん存在するのがこの世界。意外なメーカーが人気商品を手掛けていたりするので、知れば知るほど沼にハマってしまいます。
▼以前「高級レトルトカレー」を紹介した記事を書きました
レトルトカレーの進化が止まらない! カレー沼の住人オススメの本当においしい「高級レトルトカレー」10選
そんな知られざるメーカーの中でも、カレーマニアから注目を集めているのが宮城県にある「にしき食品」。
初めて「にしき食品(NISHIKIYA KITCHEN、旧「にしきや」)」という名前を聞いた方もいるかもしれませんが、同社はマニア以外は理解できないであろうマニアック過ぎるインド料理を次々とレトルト化するなど、その存在感はまさにオンリーワン! です。
「インドカレーシリーズ」を詳しく見る以前から気になることがたくさんあったので、このほど開発部次長の佐藤瑠恵さんにレトルトカレー開発の裏側を探るインタビューを決行!
「なぜこんなにマニアックな商品を作ってしまったの?」「社内で一番人気のインドカレーは?」など、質問をいっぱいぶつけてみました。
インタビューを通して、読者の皆さんにも同社の魅力を知ってほしいと思います!
「よく分からない名前のインドカレーに挑戦してみたい気持ちはあるけど、ちょっと不安……」という人のために、佐藤さんと私それぞれで、おすすめカレーのセットリストも作成! お取り寄せの参考にしてみてくださいね。
それではレトルト食品メーカー、にしき食品のカレー沼へGO!
お話を伺った人:佐藤瑠恵(さとうりえ)さん
2005年、株式会社にしき食品入社。商品開発部に配属され、開発一筋17年目。現在は商品開発部次長。趣味はアウトドア、バーベキュー、食べ歩き旅行。得意料理は「えびマヨ」。
公式サイト:NISHIKIYA KITCHEN
Twitter:@nishikiya
カレーマニアも絶賛。にしき食品の「インドカレー熱」がすごい
32種類まで作った「インドカレーシリーズ」
NISHIKIYA KITCHEN(旧「にしきや」)の代名詞と言えば「インドカレーシリーズ」です。一体どれだけの種類があるのでしょう?
最も多いときで32種類まで作りました。
「今年はこういうカレーを出そう」とチームの中で決めて、レシピを立てて、ある程度のたたき台を作ります。その後は実際にインドに行って食べてみて、スパイスの香りなどを学んで商品に落とし込む。そんな感じで、年に6~8品ずつ商品化するというのを5年やってましたね。
こんなにたくさん作っていたのは技術力を上げて進化していきたいという思いがあったからなんですが、種類を出し過ぎましたね(笑)。
でもこのおかげでノウハウが貯まり、今もおいしいインドカレーを作れています。
32種類も商品化したということは、インドカレーシリーズには一定の需要があったということですね。主にどういう人が買われていたのですか?
やはりインドカレーマニアの人たちでした。日本人だけでなくインドの方が買ってくださることもあって、「うちの奥さんよりもおいしい!」と「サンバル」を褒めてくれたことがあったんです。
インドの人にも褒めていただけるなんて。ちょっとガッツポーズしちゃいました!
えっ!それはすごい!奥さんのサンバル(南インドで日常的に食べられている豆と野菜のカレー)より、にしきやのサンバルの方がおいしい!最高の褒め言葉ですね。
マニアの方からはお褒めの言葉をいただく一方、マニアック過ぎるので一般消費者から苦情は来なかったのですか?
商品名もマニアックなので「どんな料理なのか分からず選べない」というお声はよくいただきました。
そうした意見を受けて、2019年にアイテム数も絞ってリニューアルしました。今は商品名も変えて、売り上げの上位の9品に絞って出しています。
お別れとなってしまったカレーたちも……。「奥さんよりおいしいサンバル」は9品の中に残れなかったんですよね。
サンバルはギリギリ残るか残らないかくらいのところだったのですが、今回は、泣く泣く発売を見送ることになりました。
インドのベジから学んだ「ダシを使わなくてもコクは出る」
肉入りのカレーがメジャーな中で、野菜のみのベジカレーを販売するというのは、カレーを愛するぼくでさえ衝撃でした。インドカレーマニアからにしきやさんが注目されたのも、そういうマニアックさからですよね。
振り返ると、インドカレーシリーズにはベジの商品も結構あったじゃないですか? 先ほどお話に出たサンバル、ラッサム(南インドで食べられている辛くて酸っぱいスープ)もありましたし、今に続くコザンブ(酸味のあるサラっとしたカレー)も。作るにあたり大変なことはありましたか?
ダル(豆カレー)系はレトルト後に豆の形をいかに残すかという点で苦労しました。手作りだと残りますが、工場に落とし込むとなるといろいろとしなければいけないことがあるので。
ベジ系のレトルト化は難しそうなイメージがあります。
ベジは何でコクやうま味を付けるかが難しかったですね。インド料理は素材を煮込んで凝縮して仕上げていくものなので、ダシを使わないんですよね。
でも、野菜のみでもしっかり素材を使えばコクのあるカレーが作れると分かりました。それは私たちにとって新しい発見で、ベジ料理からすごく学ばせていただきました。
「ラッサム」を詳しく見る
「ダル」を詳しく見る
輸入品に納得できずに、原料まで日本で作ってしまった
ちなみに、インドカレーシリーズの第1号作品はどれになるんでしょう?
「ココナッツチキン」です。南インドのカレーで、今まで使ったことがなかったカレーリーフというスパイスがないと現地の味になりません。原料を探すのが本当に大変でした。
カレーリーフ! 結局、原料はどうされたんですか?
乾燥のカレーリーフだとインドから輸入で入ってくるんですね。ただ、フレッシュなあの香りは生のカレーリーフじゃないと出なくて……。乾燥を使えば簡単に作れますが、私たちが求めている味ではなかったので、自分たちでカレーリーフを作ることにしました。
実はカレーリーフ栽培までしていた! 後になってこの事実を知り衝撃を受けましたが、第1号作品からだったのですね。
最初は沖縄産のカレーリーフがあったのでそれを使っていましたが、安定供給が難しいので、地元の宮城県蔵王町の農家さんにお願いして作っていただくことになりました。
沖縄で栽培されていることから分かるように、あれは南国の植物で。東北で栽培するのは難しかったのでは?
そうなんです。なので、ハウスを一棟建てて栽培しています。蔵王は寒くて冬になるとカレーリーフの葉が落ちてしまうので、その前に収穫して、冷凍保存をしながらフレッシュに保ったものを使用しています。
農家さんも未知の植物だったので苦労されたようで、最初の年は量も全然採れなかったですね。剪定(せんてい)の仕方や育て方を一緒に研究してくださって、今は安定的に量が採れるようになり、いろんな製品に使っています。
カレーリーフは知らない人にとっては「葉っぱが入っている」程度の認識で評価されづらいポイントだと思うのですが、周りの反応はどうでしたか?
食べてもらえればおいしさは伝わるので、どちらかというと周りの反応はそんなに気にしないというか。私たちは現地の味、本場の料理を皆さんに伝えたいという思いで、原料も妥協せずに作りたかったんですよね。
自分たちが納得いくものをまずは作ろうと。
具材でいうとインドのカッテージチーズのパニール。輸入したものを使っていると思ってましたが、パニールも自分たちで作っているんですよね?
最初はインドからの輸入品で試作しましたが、海外産だと添加物が入っていたり、思っているような味や食感にならなかったり。
そこで、ヨーグルトや乳製品をいただいていた地元の蔵王酪農センターに「パニールというインドのチーズがあるんですけど作れないですか?」と相談をしてみたところ快諾していただき、作ってもらうことになりました。
すぐにイメージ通りのチーズは作れましたか?
作れませんでしたね。レトルトをかけると固くなり過ぎたり、逆に柔らかくなり過ぎたり、食感の部分が難しくて。配合等を試行錯誤し、1年かけてようやく完成しました。
カレーリーフに続きパニールも!蔵王で完結しているところに驚きました。
生産者の顔が見えるのも安心安全につながりますよね。何かあったときにはすぐ対応してもらえるので、地元の企業と一緒にやれるのは心強いです。
「カレーの沼人」2人が厳選したおすすめセットリスト
「どんな料理なのか分からず選べない」という声があったと伺いましたが、おすすめのセットリストがあると選びやすくなると思うんですよね。
そこで今回は佐藤さんと、僭越ながら私がNISHIKIYA KITCHENのレトルトカレーからおすすめ商品をセレクトして発表しあいたいと思います! カレーの沼人2人がDJよろしく選んだセットリストです!
【にしき食品・佐藤さんのセトリ解説】ベースの外国料理の良さを生かし「カレーらしさ」を残す
佐藤さんのセレクトは「世界の料理シリーズ」の3品。ハワイの「ガーリックシュリンプカレー」、ジャマイカのジャークチキンを落とし込んだ「ジャークチキンカレー」、あとはタイの「カオマンガイカレー」。こういうユニークなオリジナルカレーもにしき食品さんのすごい部分だと思います。
このセトリ『世界の料理をアレンジカレー』は、各国の個性豊かな料理の特徴を生かしながら、NISHIKIYA KITCHENの技術でカレーにアレンジした3商品です。
まだ出会ったことのない料理や味にチャレンジしたい方におすすめです。世界の料理をベースに、他にはない新しい味を手軽にお楽しみ頂けます。
オリジナリティあふれてますかね(笑)。
ベースの外国料理の味がありながら、ちゃんと「カレーらしさ」を残して着地させているのがぼくは好きなんですよね。「カレーらしさ」はどういうふうに考えているんですか?
「レモンクリームチキンカレー」もそうなんですが、「カレーなの? カレーじゃないの?」は難しくて、そこは私たちも悩んでいます。カレーらしさを残しつつ、その料理の良さも1袋に詰めるというところですかね。
確かにレモンクリームはカレーと言われればカレーっぽいけど、さっぱりしていて。「なんだろうこの食べ物」みたいな味ですね。
例えば、ジャークチキンだったらジャークチキンの良さ、オールスパイスを使った鶏肉料理なのでカレーにオールスパイスを入れてその風味を出します。カオマンガイであればタイなので唐辛子と味噌のコク、辛さ、甘さ、酸味を意識して作ります。
その料理の良さを生かしながら、私たち独自のカレーに仕上げいくようにしています。
インドカレーシリーズと違ってお手本がないところもポイントで、完全に自分たちのさじ加減になりますよね。
正解がないので、売って反応を見る感じですね。開発だけでなく、営業サイド、販売サイド、そしてお客さんの意見も聞きながら、何かあればブラッシュアップしてリニューアルするようにしています。
【スパイシー丸山さんのセトリ解説】人気ナンバーワン商品もセレクト
ぼくのセットリストは名付けて『南インドスペシャル』。
全て南インドで食べられているカレーで、南インド料理が好きだけどなかなか食べに行けない人、食べたことがないけど興味がある人に向けて選んでみました。
「ケララフィッシュ」の再現度の高さには驚かされました! ただ、魚のココナッツミルク煮のような料理なのでカレーとしては理解されづらいような。社内でのリアクションはどうでしたか?
最初は社内でも「???」な人が多かったと思います。
でもインドカレーは食べ続けるとハマっていく魅力があって、スパイスが好きになっていくじゃないですか?
そんなこともあってか、今では社内投票のナンバーワンが「ケララフィッシュ」で、実は売り上げもインドカレーシリーズでは一番なんです!
えっ! あのケララフィッシュが! 時代は変わっていくものなのですね。
ケララフィッシュは以前はメカジキを使っていたんですが、2019年のリニューアルでキハダマグロに変えたんです。魚を変えるだけでスパイスの香り方もかなり変わってくるので、そこでも苦労しましたね。
「ベイガンティルマサラ」もいい商品ですよね。
ゴマベースなので日本の方になじみやすく人気があります。
日本のインド料理レストランでゴマを使った料理を出しているところはほとんどないような。これはどこの料理をベースにしたものですか?
南インドのナスのカレーで、タミル料理をベースにしています。インド料理を知らない方でもゴマの風味が合ったのか、結構売れ行きも良いです。
「コザンブ」は濃厚なココナッツミルクと酸味のバランスがめちゃくちゃ好みでした。
タマリンドの量を調整し、酸味を抑えて食べやすくしています。具材には、食感を楽しめるレンコンやヤングコーンを使用しています。
仕事でも食べ歩く。開発担当者がハマった「南インドカレー沼」「ベジカレー沼」
食べ歩きで出会った南インドカレーに衝撃を受けた
ここまで聞いてきた中でも、佐藤さんの「カレー沼」が垣間見えました。そもそも、カレーを好きじゃないとここまでできないと思うのですが、自社製品に限らずカレーやインド料理はお好きなんですか?
もちろん大好きですよ。インドカレー、特に南インドのカレーが好きですね。インドカレーは仕事をし始める前からもともと好きでしたが、2010年くらいから仕事で食べ歩きも頻繁にするようになりました。
都内のお店を回っているときに南インドのカレーを食べて、「こんなカレーがあるんだ!」と衝撃を受けたのが、南インドカレーにハマったきっかけです。
なるほど。食べ歩きも含めてインド料理とじっくり向き合うきっかけはあったんですか?
カレーは弊社でいろいろ作っていましたが、もっとおいしいカレーを作りたいと思ったんですね。カレーのルーツはインドじゃないですか。だったらインドカレーを極めてみよう、インドカレーについてしっかり学ぼうと思ったのが始まりです。
さまざまなインドカレー、インド料理を召し上がってきたと思うのですが、その中でも特にお気に入り! というものはありますか?
サンバルです。カレーではないですが炒め料理のポリヤル、アルゴビ(ジャガイモとカリフラワーのドライタイプのカレー)もとってもおいしかったので忘れられないですね。素材の味を生かしたベジのカレーが特に好きなんです。
ノンベジ(ノンベジタリアンの略、肉や魚を使った料理の総称)だとポークビンダルー(豚肉を使ったインド・ゴア州発祥のカレー)。酸っぱ辛くてご飯にも合うってところがいいですよね。
やっぱり! ベジのカレーが大好きだったんですね! あれだけの数の商品が出たのも納得です(笑)。
いまは南インドのベジが少ないので、今後また出していきたいなと思っています。インドカレーシリーズは20種類くらいまでは増やしていきたいですね。5月には以前出していた商品をブラッシュアップして2品発売します。
リニューアルした「NISHIKIYA KITCHEN」。今後のレトルトカレーの展望
この3月、にしき食品の自社ブランド「にしきや」が突然「NISHIKIYA KITCHEN」に生まれ変わりビックリしました! 何かきっかけはあったんですか?
コロナの影響でおうちご飯がとても増えて、レトルトはこういう非常時に必要とされるんだなと改めてすごく感じたんですね。
自分たちがどういったものをお客様に提供すべきかをもう一度見直そうということになり、今回のリニューアルを始めることになりました。
世界中のごちそう、料理を、レトルトパウチという小さな鍋に詰め、にしきやという「台所」から、日本中に料理をお届けする。
そんな日本のキッチンのような存在になりたい、という想いでブランドを一新しました。
その中で、弊社の得意料理が「カレー」ですね。
アイテム数や味のベースは変わっていないようですが、これから少しずつレトルトカレーの方向性は変わっていくのでしょうか?
今後も多くのお客様に喜んでいただけるように、カレーの種類を増やしていきたいと思っています。
「世界の料理を『カンタン』に。」というテーマを掲げて、インドをはじめとした世界各国の料理をカレーで表現していきたいと思っています。
今後のレトルトカレーの展望を教えていただけるとうれしいです。
おうちでカンタンに、世界のさまざまな料理をカレーで楽しめる商品を増やしていく予定です。
また、コロナ禍でもおうち時間をより充実できるカレーの手作りキットや、家族等の複数人数でも楽しめるサイズ感の検討など、世の中の流れも意識しながら、オリジナリティも発揮していきたいです。
自社ブランドの歴史はまだまだこれからです! まずは日本中の皆さまに「NISHIKIYA KITCHEN」のカレーを知っていただけるように頑張っていきたいですね。
これからどんなブランドに成長していくのか今からワクワクしちゃいますね! 今日は貴重なお話をいっぱい聞かせていただきありがとうございました!
こちらこそありがとうございました!
もっとお話が聞きたかったのに、あっという間に終了の時間がやってきてしまいました。
にしき食品のカレーのガチっぷりには以前から注目していましたが、想像以上に「カレー沼」は深かった! レトルトカレーの中には、こんなにもたくさんのストーリーが詰まっていたとは!
サンバルが本場の人に絶賛されていたことや蔵王でのカレーリーフ栽培など、どんどん飛び出す衝撃エピソードに、ただただ驚くばかりでした。
今後は「おうち時間を楽しめる商品開発を」とお話されていましたので、楽しめるカレー製品に期待したいですね。
「にしきや」から「NISHIKIYA KITCHEN」に生まれ変わったこのタイミングでインタビューができたのもカレーが導いてくれた華麗なるご縁。にしき食品ファンとして、これからも勝手に(笑)応援していきたいと思います。
著者:スパイシー丸山
インド料理からおうちカレーまで精通する次世代のカレー研究家。日本野菜ソムリエ協会カレーマイスター養成講座講師。レシピ、食べ歩き、商品情報など、カレーにまつわるさまざまなトピックを日々発信している。レシピにも定評がありS&B食品のプロアマ問わないレシピコンテスト「レッチャグランプリ」ではグランプリを受賞。著書に「初めての東京スパイスカレーガイド(さくら舎)」がある。「マツコの知らない世界」他メディア出演も多数。ブログ:カレーなる365日
Twitter:@spicy_maruyama
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今回紹介した商品
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「ケララフィッシュ」を詳しく見る
「コザンブ」を詳しく見る
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