大蝦夷農業高校、通称「エゾノー」を舞台にした、荒川弘先生の青春マンガ「銀の匙 Silver Spoon」。この作品に出てくる食べ物の数々に、ずっと憧れていました。
重労働のあとにかっこむ、とれたての卵を使った卵かけごはん。
小麦、チーズ、ベーコン、石窯にいたるまですべて手作りの「うまくて笑いしか出てこない」窯焼きピザ。
強烈に破壊力のあるマンガ飯ですが、いずれも主人公の八軒勇吾をはじめとする登場人物が「自分の手で苦労して食材を作る」背景があってこそのおいしさです。スーパーで買った既製品で再現しても「なんか違う」と満足できないのは、目に見えています。
庭がなく、ベランダで七輪ひとつ使えない、世知辛い集合住宅住まいには、大地に根を張るエゾノーグルメを疑似体験するなんて、夢のまた夢なのでしょうか……。
いや、あきらめない。
「銀の匙 Silver Spoon」に登場するラクレットオーブンでチーズを焼いてみたい
せっかく「それどこ」という場を与えてもらったのだから、連載テーマである「キッチンツール」を軸に何か挑んでみたい。
そこで思い出したのが、10巻に登場する「ラクレットオーブン」です。
(C)荒川弘/小学館
【楽天市場】 銀の匙 Silver Spoonの検索結果
食品科学専門の中島先生が指導し、八軒たちが作ったラクレットチーズが食べごろとなった本巻。“手先が器用でヒマ”な大川先輩が、ラクレット専用の調理器具「ラクレットオーブン」を自作します。
ハーフサイズのラクレットチーズをのせて上から熱源で炙り、溶けた部分を削りつつ食べる……という仕組みです。見た目はデスクライトのよう。
高価な調理器具らしいということはうすうす気付いていましたが、早速検索してみると、一番安い製品でも4~5万円と想像以上にお高い。確実に予算オーバーです。
で、でも、あきらめない……!
我が家にラクレットオーブンがやってきた
ダメ元でそれどこ編集部さんに相談してみると「都内で安くレンタルできるお店がありました」と助け舟が。レンタル! そういうのもあるのか。
というわけで、我が家に2泊3日でラクレットオーブンがやってきました。
パッケージの写真がレトロで味わい深いです。
ややくたびれた箱の使用感から「一体これまでいくつのラクレットを焼いてきたのだろう」「そもそもそんな頻繁にレンタルされるものなのかしら」……と、いろいろ疑問が湧き上がりました。
説明書がなかったので、パッケージの写真を参考に部品を組み立てていき……。
なんとか完成。でかい。
ちなみに大川先輩考案の「リア充皆殺しモード」(ブレーカーが落ちるほど高温になるハイパーモード)は搭載されていません。
楽しすぎるラクレットパーティーのはじまり
ガジェットの話が続きましたが、そろそろ主役のラクレットチーズ様にも登場いただきます。
ラクレットチーズは牛乳から作られるスイスのハードチーズ。「アルプスの少女ハイジ」で、アルムおんじが直火で炙ってハイジのパンの上にのせた、あのチーズとしても有名ですね。
このラクレットチーズを溶かして食べる料理自体も「ラクレット」といい(ややこしい)、スイスやフランスでは一般家庭でもおなじみの伝統料理とのこと。日本でいえば、鍋料理に近い存在なのだとか。
今回注文したのはハーフサイズですが、それでもかなりの重量感です。
オーブンにセッティング。
再現のメインとなるジャガイモや、
各種肉、
野菜、パンなど好きな食材を並べてレッツパーリー。
オーブンの電源を入れるとヒーターが徐々に熱くなり、ラクレットチーズの表面がふつふつと溶け始めます。
チーズを固定する台座の部分は可動式なので、焼けたら熱源からずらして、
このように
ふかしておいたジャガイモにたっぷりと。
チーズは冷えると固まるので、すぐにいただきます。
うんまい……。
一口目、その場にいた全員が一瞬無言になりました。
ラクレットチーズは、外側がカマンベールチーズの香りに似ており、そのままだとわりと匂いがあるのですが、炙って食べるとクセがなくなりました。市販のとろけるチーズより数倍濃厚で、その塩気だけでジャガイモがいくらでもイケます。
グリルしたサーモン&野菜にもたっぷり。
ついでにハイジ気分も味わいたくて、ドイツパンも登場。
しまいには、断面にパンを直接つけて食べる人まで現れる始末。反則だけどうまそう……。
最後のほうは、いい感じに溶けてガウディの建築物みたいになっていました。
ラクレットチーズを「少しずつ、こそげながら食べる」この感じ、同じく憧れの「生ハム原木」にちょっと似ています。残りをラップして冷蔵庫にしまっておけば、いつでもラクレットパーティーが再開できるし、まるで不動産でも所有したかのような、豊かな気持ちになる不思議。
どうせならと、あのソーセージとパンも再現してみた
さて10巻に登場する料理でもうひとつ、食べてみたかったのがこれ。八軒たちが実習で初めて作ったソーセージと、石窯で焼いた稲田先輩のパンが出会ったホットドッグです。
ラクレットパーティーのシメご飯として準備しておきました。
ソーセージは実習シーンの解説を参考に、連載第2回で紹介したソーセージメーカー+羊腸で手作り。
パンは10巻の巻末レシピを参考に、電気オーブンで焼き上げ。
これをマスタードだけで味付けして、PPAP的にドッキングさせます。シンプルだけど贅沢な一品。
これを食べた八軒たちのリアクションと
ホットドッグは飲み物でした。
は名台詞。焼きたてパンだと食感が軽いので、ほんとにするすると入ります。
キャベツ+ケチャップのバージョンも。
とどめにラクレットチーズをかけてみました。当然おいしい!
そんなこんなで、贅沢で楽しいラクレットパーティーは幕を閉じたのでした。
ラクレットチーズをもうちょっと手軽に楽しむ方法
夢のパーティーから一週間。あの巨大なオーブンもすでに返却しましたが、冷蔵庫には残りのチーズがブロックのまま鎮座しています。
そんな状況になることを事前に察してくださったのか、それどこ編集部さんから届いたもう一つのガジェットがこちら。
家庭用の電熱式ラクレットグリルです。「NOUVEL」というスイスのメーカーのもの。
本体とあわせ、鉄板、チーズ用のグリルパン2つ、ヘラ2本がセットになっています。
これはスイス人にとって関西人のたこ焼き器的な存在なのかしら……。一家に一台あったり、ゴルフやビンゴ大会の景品としてお父さんが持って帰ってきたりするのかしら……。
こちらは中央に熱源があり、上のプレートで具材を焼き、下のグリルパンでスライスしたラクレットを同時に焼く、という仕組みです。
チーズがとけたら、具材にかけていただきます。
やっぱりジャガイモは鉄板。
焼きなすとホタテ。
パンとベーコン。
ああ、どいつもこいつもワイン泥棒め。
ラクレットオーブンと違い、こっちは一人用の晩酌など、気軽に使えるのがうれしいです。チーズだけでなく、田楽味噌や焼き鳥を焼くのにも使えるかも……(スイス人に見つかったら怒られそうですが)。
東京郊外というエゾノーとはかけ離れた環境での再現ですが、普段使わないガジェットで本格チーズを堪能して、あの憧れた世界にちょっとは触れられたかな、と自己満足に浸れました。
「マンガ食堂それどこ店」アーカイブ
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