パンケーキに続く「ブーム」を探して、メディアでは毎日のようにさまざまなスイーツが特集されています。
フレンチトーストやかき氷、フルーツサンドなどにスポットが当たるなか、一歩抜きん出ているのが「パフェ」ではないでしょうか。
2015年にはパフェ評論家・斧屋さんによる『東京パフェ学』(文化出版局)が発売。2016年には『Hanako』(マガジンハウス)がパフェ特集を組んだり、オレンジページがムック『パフェログ』を刊行したり。懐かしのホットケーキが「パンケーキ」として生まれ変わったように、パフェも温故知新的に新たな魅力が発見されそうです。
ところで、パフェは家庭のおやつというよりは外食のスイーツというイメージがあります。
私もパフェといえば、子どものころに家族のお出かけなど特別な日に食べるスイーツでした。大人になってからは「自分へのご褒美的&やけ食い用」としてむさぼっています。
「ホクサイと飯さえあれば」魅惑の“セルフパフェ”
そんな「特別な食べ物」という印象が強いパフェですが、鈴木小波先生のマンガ「ホクサイと飯さえあれば」第1巻には、自宅でパフェを作る楽しいエピソードが登場します。
(C)鈴木小波/講談社
【楽天市場】 ホクサイと飯さえあればの検索結果
「ホクサイと飯さえあれば」は、東京・北千住で一人暮らしを始めた大学生の山田文子(ブン)が主人公の料理マンガ。人見知りで妄想癖が激しいブンちゃんが、自炊を楽しむ姿が描かれています。ちなみに「ホクサイと飯」(角川書店)の後継作で、同作の前日譚となっています。
五食目(第5話)で、調理器具が何でもそろうかっぱ橋道具街に出掛け、パフェグラスを発見したブンちゃん。合羽橋の守り神・かっぱ河太郎から「それはパフェグラスではなく聖杯だ」と啓示を受け、「3時のおやつまでにパフェを完成させる」というRPG的ミッションを自らに課します(先ほども説明しましたが、ブンちゃんは妄想癖が激しいのです)。
(C)鈴木小波/講談社
さまざまな困難(?)を乗り越え、完成するのが「聖なるパフェー」。ただお買い物をしてパフェを作る、それだけの話が、ブンちゃんの妄想でワクワクする冒険譚に仕上がっています。
今回はこの「ワクワク」を私も体験してみたいと思います。
聖杯を求めて聖地「かっぱ橋道具街」へ
まずは聖杯を求めて、すべての料理人、そしてアマチュア料理愛好家の聖地、かっぱ橋道具街へ。
ポピュラーなものからマニアックなものまで、今や大抵の調理器具はネットショッピングで手に入りますが、サイズ感や使用感を確かめたいときは、やっぱり現地で現物を手に取るに限ります。
私も、再現料理のために何度か訪れたことはありますが、見るべきところが多すぎて、いつも通りの端まで行きつけたことがないこの地……。今回はパフェグラスを探すミッションですが、果たしてすぐ手に入るのでしょうか。
東京メトロの田原町駅から歩いて5分、コック帽をかぶったニイミの巨大おじさんオブジェが現れたら、そこがかっば橋道具街「西浅草南地区」と「松が谷南地区」の入り口です。
この看板は作中にも出てきましたね。買い出しのついでに聖地巡礼、楽しい。
と、道具街に入ってすぐの洋食器店をのぞいたら、いきなりブンちゃん購入品にそっくりなパフェグラスを発見。
(C)鈴木小波/講談社
これは……完全に一致!!
かっぱ河太郎様のお導きでしょうか……。せっかくなので、かっぱ河太郎像にお参りすると、足元にきゅうりのお供えがありました。
マテリアルをそろえてパフェを構築していく
聖杯が手に入ったら、パフェの材料をそろえます。最近は「パルフェ」と称するオシャンティーなパフェもありますが、日本のトラディショナルなパフェを構成する食材といえばこれら。
コーンフレークにジャム、ヨーグルト、生クリーム、アイスクリーム……。並べてみると、パフェって意外なほどフツーの材料で成り立っているんですねえ。
そして主役となる「旬の果物」は、いちご。
作中の季節はいちごが旬を迎える5月ですが、これを再現したのは12月。残念ながら旬ではありませんが、クリスマスなどのケーキ需要でいちごが出回るので、ちょっとお高めだけど比較的簡単に手に入りました。
それでは、集めたマテリアルをもとに、聖なるパフェーを構築していきましょう。
作り方(※分量は作品を参考にしてください)
- ブルーベリージャム
- ヨーグルト
- コーンフレーク
- アイスクリーム の順にグラスに入れる
- 半分にカットしたいちごをグラスのフチに丸く並べる
- ホイップクリーム(市販品でOK)を絞る&残りのいちごをトッピング
- 「パッキー」*1を飾る
- フレッシュミントを飾って完成
それからパフェのお供になるドリンクは、コーヒーでも紅茶でもなく……ブンちゃんの友人・ジュンが(どこかから)どっさり摘んできたフレッシュミントを使ったハーブティーを再現しました。
園芸店で買ったスペアミントの苗から摘んでよく洗い、ティープレスに入れてお湯をそそぎ、3分蒸らします。
手順は動画でもまとめたのでどうぞ。
「聖なるパフェー」完成!
「見慣れた食卓に、食品サンプルみたいなパフェが屹立する光景」に、これほど非日常感があるとは思いませんでした。
作中の「聖なるパフェー」もおいしそうですが、こちらもおいしそうなビジュアルに仕上がりました。しかし、モノクロのコントラストを生かした鈴木先生の料理絵の美しさよ……。
(C)鈴木小波/講談社
思わぬ「食卓のコスプレ」に興奮して、シャッターをいつもより多く切っております。これなんて完全にコスプレイヤーを撮るカメラマンのような気持ちになっていた一枚。
以前、シャンパングラスを使って「西洋骨董洋菓子店」のパルフェを再現したことがありましたが、本格パフェグラスを使うだけでここまで喫茶店っぽさが出せるのか……。
数十枚撮ったところでふと「あ、アイス溶ける……」と正気に戻ったので、いそいそといただきます。
ブンちゃんにならって女子力無視の箸で……と思ったけど、さすがに食べづらかった。
パフェの語源は、フランス語で「完璧」を意味する「parfait」。
その名の通り、これほど完成時が存在意義の頂点となっている食べ物もないでしょう。食べ進めると、ただ儚く崩れていくビジュアルに反比例して、生クリームもヨーグルトもジャムもぐちゃぐちゃの甘々、カオスなおいしさが増していきます。
甘味の洪水にまみれたあとのミントティーは、想像以上に舌も胃もすっきりさせてくれて、新発見でした。
パフェグラスがあれば、食卓に非日常の扉が開く
聖杯っぽく持ってみた
「自宅でパフェ」は一般的ではない、と冒頭で書きましたが、考えてみればコーンフレーク、ヨーグルト、アイスクリーム、ジャムなど基本の材料は、どれも普段家にあったり、コンビニなどでもすぐに手に入るもの。パフェグラスひとつあれば、簡単に非日常の扉が開くのです。
落ち込んだ時や気分を切り替えたいとき、生け花を楽しむように、季節の果物と好きな材料を組み合わせてパフェを作るというのも、なかなかステキなんじゃないかしら。冒険で手に入れた聖杯は、これからは日用の食器として使っていけたらいいな、と思います。
ちなみに「ホクサイと飯さえあれば」は、上白石萌音さん主演でドラマ化が決定し、2017年1月から放送がスタートしました。「聖なるパフェー」も登場するのでしょうか。
「マンガ食堂それどこ店」アーカイブ
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*1:言うまでもなくあのチョコレート菓子のことですが、作中の表現に準じました