筋肉や食をこよなく愛する人のためのYouTubeチャンネル「マッスルグリル」。YouTube界に突如現れ、約1年で登録者数を18万人まで伸ばしています。
運営メンバーは2人。“リアル刃牙(バキ)”の異名を持ち、ボディビルやフィジーク【※1】の大会で数々の優勝経験を持つシャイニー薊(あざみ)さんと、総合格闘技団体「パンクラス」に所属し、ライト級2位にランクインするほどの実力者であるスマイル井上さんです。
※1 フィジークはボディビルと同様に、筋肉を審査対象とする競技。筋肉の大きさが評価されるボディビルに対し、フィジークでは全体の筋肉のバランスが評価される
競技の上ではスマイル井上さん(左)は「井上雄策」、シャイニー薊さん(右)は「薊優希」とそれぞれ本名で活動
(左)スマイル井上さん (右)シャイニー薊さん
2人の食事管理術を聞く上で外せないのが、YouTubeで180万回以上も再生されている究極の減量食「沼」の存在。
究極の減量食として紹介されている「沼」。その見た目から「沼」というネーミングに
(YouTubeチャンネル「マッスルグリル」より)
見た目はヤバいですが、この「沼」はいい筋肉を作り上げる上で、とても理にかなった食事だったのです。そんな沼を中心に、筋トレと食事の考え方、沼の減量食としてのスゴさ、食事制限やトレーニングを続けるコツについてお伺いします!
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※聞き取りづらいところはテロップとあわせてどうぞ!
体脂肪を落としたい、いい筋肉つけたい……
どうすればいいですか?
体重ではなく「消費カロリー」と「摂取カロリー」を管理する
左奥:シャイニー薊さん、左手前:スマイル井上さん。聞き手は私、暇さえあれば筋トレ系のYouTubeチャンネルばかり観ている、うないいちどう(写真右)が担当します
いい筋肉を作るには食事も重要と聞きます。ボディビルダーやフィジーカーは、大会前に減量して体をバキバキに仕上げていきますよね。減量期間中の食事の計画はどのように立てているんですか?
コンテストに出るために何度も減量してきたので、自分の場合は一日の摂取カロリーを1,800kcalにすると、800kcalずつ代謝するっていうデータがあるんですよ。エクセルで計画表を作っていて。みんなだいたい体重で考えるんですけど、自分はカロリーで考えます。
エクセルで作られた減量の計画表。基礎代謝(体を動かさなくても消費するカロリー)と運動による消費カロリーを足して一日の「総消費カロリー」を算出。総消費カロリーとの差が800kcalになるよう摂取カロリーをコントロールしている
体重で考えてました。体重計に乗って、昨日より減ったとか増えたとか。
脂肪を1kg落とすのには7,200kcalの代謝が必要なので、800kcalの代謝を続ければ9日間で1kg落ちますよね。4kg落とすなら36日間。これが分かると、コンテストの日から逆算して減量のスタート時期を決められます。ボディビルダー的には、これが大事なんです。
格闘技においても減量はつきものですよね。井上さんも沼は食べますか?
コンビニの商品の栄養成分表示を見て、カロリーを計算しながら減量することもあるんですけど、計算のしやすさや値段、手軽さを考えると沼が一番ですね。
沼を変わった料理だと思ってる方がほとんどだと思うんですけど、ネーミングと壊れた炊飯器(後述)が印象的なだけであって、普通においしいんですよ。
トレーニング強度を上げるには、タンパク質よりも炭水化物が重要
「一日に必要なタンパク質摂取量は、体重からキロを取ったぶん」という話があるじゃないですか。例えば80kgの人だと、80gのタンパク質が最低限必要だと。筋トレしてる人は、その1.5倍以上は摂らないと筋肥大しにくいとか。
みんなタンパク質で筋肉を維持してるって思いがちなんですけど、実はそうではないんですよ。筋肉はトレーニングで維持するものなんです。だからいい筋肉を作りたいなら「トレーニングの強度を上げる(負荷を高める)」ことを意識してほしいんですよね。炭水化物はエネルギーになるので強度を上げられるんですけど、タンパク質だと、あんまり強度を上げられないんですよ。
こんな筋肉の人に言われたら信用するしかない
ボディビルダーは「カーボアップ」といって、炭水化物をたくさん摂って筋肉を張らせるんですよ。ということは、筋肉への影響が大きいのは、タンパク質よりも炭水化物ですよね。タンパク質を抜いたときのトレーニングは普段とそんなに変わりません。でも、炭水化物を抜いてトレーニングした日は最悪です。だから、自分はあんまりタンパク質を摂ってません。
それは意外でした。筋トレ初心者ほど、タンパク質にばかり目がいってしまう気がします。
経験上、自分には無駄なんですよね。おならが臭くなるだけです。それと、炭水化物って減量にも必要なんですよ。自分はいろいろ試して、炭水化物を抜くと痩せないことに気づいたんですよね。
糖質制限が流行っていて、米を控えている人も多いと思いますが。
調理師として病院で働いていたこともありますけど、実際、患者さんに痩せてもらうために計算して米を出していました。
炭水化物の摂りすぎはよくないにしても、タンパク質や脂質とのバランスを見つつ、きちんと摂取するべきってことですよね。
糖質を制限をすると一時的に、筋肉に含まれている水分が落ちるんですよね。私は試合前の計量に向けて、水抜きという作業をやるんですね。サウナに入って、炭水化物をカットして、5kgくらい減量します。でも計量の翌日に、簡単に10kg戻せるんですよ。
すごい。
階級制の格闘技をやっている人は、意図的にリバウンドさせるケースが結構あるんですよね。体を大きくして試合に出たいから。それは正解なんですけど、ダイエット的には不正解ですよね。脂肪が落ちてるわけではなく、筋肉に蓄えられている水分が一時的に落ちてるだけなので。
【マッスルグリルの食事管理術 ポイント1】
- 「消費カロリー」と「摂取カロリー」を管理しよう
- 炭水化物を摂ってトレーニング強度を上げるべし
究極の減量食「沼」ってそんなにスゴいの?
カロリー計算を追求した結果、最適なのは「沼」だった
先ほどから話に出ている、減量食の「沼」。ネーミングがすごいですよね。食べ物につける名前じゃない。
「米」を詳しく見る
「乾燥ワカメ」を詳しく見る
「干し椎茸」を詳しく見る
「オクラ」を詳しく見る
「鶏むね肉」を詳しく見る
「カレー粉」を詳しく見る
「塩」を詳しく見る
「炊飯器 10合炊き」を詳しく見る
カレー粉を入れ始めてから、見た目が沼みたいになってきて。それで名付けたんです。前は春雨や煮干しを入れていたので、沼というよりもゴミみたいな感じで。
カレー粉のおかげでゴミから沼になれたんですね。
オクラを入れると鶏むね肉がすごく柔らかくなることに気づいたそう
(YouTubeチャンネル「マッスルグリル」より)
そもそも、どういう経緯で沼が生まれたんでしょうか?
自分は減量をテキトーにやって失敗してきて、それで「カロリー計算」にたどり着いたんです。カロリー計算を前提に、沼ができたという感じです。
どういう計算をするんですか?
自分の場合は、一日の摂取カロリーを1,800kcalに設定すると体が仕上がるので、1,800kcalになるように沼の食材と量を調整しています。
炊飯1回分の沼を一日ですべて食べきれば、1,800kcalってことですよね。それは確かに計算がラクですね。1回の調理で済むし。
一食一食、計算してると大変なんですよ。なので、狙いどおりのカロリーになるように、ラクに作れないかなと考えて。学級給食や病院調理師として働いていた経験があったので、食材の組み合わせや栄養素、うまみなどの知識はあったんです。
シャイニー薊さんは服部栄養専門学校を卒業後、調理師として働いていた
総カロリーが1,800kcalになり、かつマクロ栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)がトータルで100%になるような食材の組み合わせを考えて、「これを炊飯器でいっぺんに炊いちゃえばいいんじゃないか」と思いついて。それからは自分の筋肉の仕上がりを見ながら、食材を入れ替えて、今の沼になっていきました。
ボディビルダーってパサパサしたものを食べがちなんですけど、沼はパサパサしてない、カロリー計算が1回で済む、小分けにして持ち運びやすい、食べていれば計算どおりに体重が落ちていく……自分の中では減量においてマストな食べ物です。
炊飯器にガムテープを貼り、分量をメモしておく。卵を食べる場合は、沼の食材の量を調整する
(YouTubeチャンネル「マッスルグリル」より)
おいしくてトレーニング強度を上げられることが重要だと気づいた
いまの沼に落ち着くまで、どんな失敗や試行錯誤がありましたか?
最初は「食欲を抑える」ことが課題だったので、わざとまずくしていました。煮干しを長時間煮込むと味と食感がバッタになるんですよ。とにかく苦い。あと、今はわかめですけど、その当時はひじきを入れていて。これも苦い。
どんどん苦くなっていきますね。
あと、米を入れるとうまくなっちゃうから春雨にして。それで食欲を抑えようとしてたんですけど、まずいもの食べると、おいしいもの食べたくなっちゃうんですよ。
大失敗だったんですね。
そうです。それで、おいしくてトレーニング強度を上げられる食材にしようと考えが変わって。米は春雨よりもうまくて、トレーニング強度も上げられるから入れ替えて。わかめを入れたらダシが出てうまくなることに気づいて、レギュラー入りさせて。食材を少しずつ変更していって、今の沼に落ち着きました。
シャイニー薊さんの炊飯器はフタが壊れて閉まらない
(YouTubeチャンネル「マッスルグリル」より)
減量はつらいってよく聞きますけど、そんなつらい時期に余計なストレスがかからないように、手軽に作れて効率的な沼が重宝しているってことですよね。
本当にそうです。減量中に手の込んだ調理を毎日するのってめんどくさいんですよ。最近だと鶏肉を冷凍のささみに変えて、もっと手間を省いています。
いりぬかや小麦粉などを重石にしている
(YouTubeチャンネル「マッスルグリル」より)
沼の栄養はどうなんでしょうか? 例えばビタミンやミネラル、鉄分などは不足しないんですか?
沼のみでも栄養素が足りなくなることはないです。みんなに聞かれるんですけど、実際、主要な栄養素ってタンパク質と脂質と炭水化物だけなんですよ。それにビタミンやミネラルは微量栄養素といって、そこまでたくさん摂らなくちゃいけないものでもない。ご飯にも鶏肉にもわかめにもしいたけにも入ってます。必要なのはあくまでもカロリーで、栄養失調になる人はカロリーが足りていないんです。
脂質の大切さに気づき、沼にオリーブオイルが加わる
沼の味付けは、塩ですよね。調味料を変えることはないですか?
薊さんは沼にカレー粉を入れますけど、私はあんまり入れないですね。代わりに、みそやしょうゆ、白だしを入れることが多いです。薊さんのレシピは結構味が薄めだと思うんですよね。私は濃いほうが好きです。
ただ、最近はあまり沼は食べてなくて、水分量を減らしてセメントにしたり、マグマを作ったり。
沼の食材や味付けを変えると、呼び方が変わる。「マグマ」はトマトリゾットのような料理
野菜はオクラだけですよね。食物繊維はそれで十分なんですか?
しいたけやわかめにも水溶性食物繊維が含まれるので、十分ですよ。
野菜を変えてもいいんじゃないですかね。厳密には0kcalではないですけど、低カロリーなのでカウントしなくてもあまり問題ないというか、自由度高いですよね。
野菜はなんでもいいです。自分もたまにフードプロセッサーでみじん切りにした玉ねぎや人参を入れて、もっとカレーっぽくするときもあるので。
沼は脂質が低いから、沼とは別に、卵から脂質を摂ってるんですよね。
最近は卵じゃなくて、オリーブオイルを沼に入れて食べてますね。
脂質って、あんまりよくないイメージがありますよね。
自分も前はよくないって思ってました。たしかにトレーニングに対して脂質は無駄なんですよ。でも代謝機能に対しては脂質も摂らないと絶対にダメだと、最近考えが変わったところです。摂らないと体重も落ちづらくなるし、肌もかさかさになるし、便秘になっちゃうし。
沼にオイル入れると食べる量が減っちゃいますよね。脂質1gで9kcalだから、40gで360kcal。そのぶん米や肉の量を減らさないと。でもオリーブオイル40gなんて腹の足しにもならないじゃないですか。
沼全体で1,800kcalにするから、オイルを40gにすることで、米は250g、鶏肉はだいたい540gに減らすことになるね。でも減量なんて腹減って当たり前なんだし、俺はそれで十分なんだよ。
【マッスルグリルの食事管理術 ポイント2】
- 「沼」は減量にこれ以上ないくらい便利!
- もしも飽きたら味付けと野菜を変えよう!
- 脂質もないがしろにせず適量を摂ろう!
ハチャメチャな筋トレ、徹底した食事管理……
どうして続けられるんですか?
サラダチキンを買うくらいなら、家で沼がいい
減量期以外の食事の計画は、どのように組み立てていますか?
自分は正直、外食か沼ですね。
外食か沼。なんかすごい言葉ですね。
外食だと「シズラー」か「もうやんカレー」に行きます。それ以外のものはあんまり口にしないですね。減量期以外もボディビルのことを多少考えなければいけないですし。もちろん調理したくなったらスマイルを家に呼んで食べさせるんですけど、自分のためだったら沼でいいやって感じですね。やっぱり沼がうまいんですよ。
じゃあ、毎日うまいものだけを食べてることになるんですね。
沼も毎日おいしく食べている
(YouTubeチャンネル「マッスルグリル」より)
食べることについて深く考えてない人って多いと思うんですよ。腹減ったらコンビニで目についたものを買って食べるとか。ボディビルダーは食べられる量が限られている期間が多いので、何を食べるかに執着してるんですよね。
執着?
自分の場合は、食材をどう一番おいしく食べるかに執着し始めたんですね。例えば鶏肉だったら、茹でるよりも低温でじっくり焼いたほうがやわらかくてうまいので、その調理法で食べたいです。
最近は低温調理器の「BONIQ(ボニーク)」で調理するのにハマっている
だから時間がないからといって、コンビニでサラダチキン買って食べることは絶対にないですね。それだったら、まっすぐ帰って沼食べます。
無理だと思うことを「習慣」にしてるから、無理せずにできている
減量中、沼以外のものは食べないんですか?
はい。目的の体に到達するまでは、同じやり方でやらないとストレスになっちゃうので。中途半端に自分にご褒美をあげて、それで目的が達成できないとすべてがつらいですからね。
目的がしっかりしているからこそ、続けられるんですね。
もし体が仕上がらなくても、とにかく自分で決めたことをやりたいんですよ。それができなくて仕上がらなかったのと、やったけど仕上がらなかったのでは、ストレスがまったく違ってくるので。
自分で決めたことをやる。胸に響きました。
シャイニー薊さんは、高負荷高回数の独自トレーニング(通称:破茶滅茶)をすることで有名。これも自分で決めたことだから続けられる
自分は「コンテストのため」と目的に一貫性があるので、2カ月ずっと沼でもストレスがゼロなんですよ。食事制限は自分が決めたことなので、そこに対してストレスを感じるくらいならボディビルやめます(笑)。
お菓子などの嗜好品を食べたくならないですか?
お菓子は食べないように気をつけています。みんな感覚が鈍っていて気づいてないと思うんですけど、本当は嗜好品を食べると衝撃がすごいんですよ。脳が「うまいっ!」って。パッケージの原材料名に添加物の名前がいろいろ書いてあるじゃないですか。結局あれが脳に「おいしい」っていう指令を出してるんですよ。そしたら「それ食べてればいいじゃん」ってなっちゃうんで。
軽い依存症みたいな状態ですね。
それに甘んじてしまうと、定期的に嗜好品を欲する生活になっちゃうんですよ。逆に、その状態から沼の生活に戻るのは大変です。3日連続で食べたら一生戻れないと思います。それぐらい自分の中で嗜好品は怖い存在ですね。
筋トレを突き詰めていくと、「嗜好品が怖い」というところまで行き着くんですね。
ボディビルって結局、「習慣」なんですよ。みんなが無理だと思うことを習慣にしてるから、無理せずにできている。だから習慣にできなくなった時点で引退だと思うんですよね。甘いものが好きすぎるけど我慢してボディビルをやっている、それだと続けられないじゃないですか。
【マッスルグリルの食事管理術 ポイント3】
- ボディビルダーは食に執着している
- 「習慣」になれば無理せず続けられる
仙人のような筋トレ生活を送り、食材をおいしく食べることに執着するシャイニー薊さん。そんな薊さんを撮影し、編集や企画、ツッコミ役、試食係としてマッスルグリルの活動を支えるスマイル井上さん。
マッスルグリルは2人の絶妙なコンビネーションが面白く、食や筋肉に関心のある人はもちろん、そうじゃない人でも、ポジティブな気持ちをもらえるチャンネルです。絶対に面白いからみなさんも観てみて!
最後に補足しておくと、今回伺ったお話はあくまでも「毎日めちゃくちゃ筋トレしていてムキムキの人」の経験がもとになっています。体の状態や生活スタイルは人によって異なるので、そのまま真に受けるのではなく、参考にしながらいろいろ試して、自分に合った食事と筋トレの仕方を固めていくのがいいかと思います!
お話を聞いた人:マッスルグリル
筋肉や食をこよなく愛する人のためのYouTubeチャンネル。スポーツジム勤務時に同じ職場で出会ったシャイニー薊(あざみ)、スマイル井上の2人で運営している。「やりたい事を、ゆる~く全力で、真面目に不真面目に」がモットー。現在はスポーツジムのプロデュースやセミナー講師、イベントの主催、アパレルなど活動の幅を広げている。
YouTube:マッスルグリル
Instagram:@musclegrill
スマイル井上 Twitter:@inoyu_c5
聞き手:うないいちどう
コンテンツメーカー・ノオト所属のライター&編集者。気さくな人柄。筋肉に興味関心がある。
Twitter:@EinsWappa
撮影:小高雅也
ダイジェスト動画の制作:はてな編集部
※2019年12月3日15:10ごろ、記事の一部を修正しました。
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