「冷酒」のポイント
- 15℃前後を「涼冷え」、10℃前後を「花冷え」、5℃前後を「雪冷え」と呼ぶ
- 「冷や(ひや)」は常温のお酒という意味で、冷酒ではない!
日本酒と温度の関係
- 体温から±20℃離れていると「心地よくて」おいしいと感じやすい
- 日本酒は冷やすと、香りが穏やかになってクイクイと飲めるようになる
- 逆に温めると甘味と旨味を強く感じるようになる
冷やして飲むのがオススメのお酒とは
- アルコール度数が低め
- フレッシュな香り・味わいのお酒は冷やすのと相性が良い
- 炭酸感のあるお酒も冷やすことで爽快感が生まれる
※銘柄紹介に飛びます
日本酒には初めて見る人からはとっつきにくい専門用語のようなものが存在しています。
聞いたことはあるし知っているつもりなんだけど実はきちんと理解できていない……という人が多そうな「冷酒」というキーワードを解説していきたいと思います。後半では、冷やして飲むのがおいしい銘柄も紹介しますよ。
冷酒、および日本酒と温度の関係について知ると、日本酒を選ぶのも飲むのももっと楽しくなります。
さて、申し遅れましたが私は「しょうゆ愛好家」(最近テレビでこう表現されました)として醤油に関するブログや「醤油手帖」という本を書いている杉村啓です。
醤油などの調味料だけでなく、お酒にまつわる本もたくさん書かせていただいています。ソレドコでは、スパークリング日本酒、甘口と辛口の違い&それぞれのおすすめ銘柄の紹介など、日本酒関連の記事を数々書かせていただきました。
というわけで、さっそく「冷酒」の解説をしていきましょう。
▶辛口好きな方へ。辛口の日本酒特集
▶甘口好きな方はこちらの特集をどうぞ
「冷酒」の解説の前に。温度によって味の感じ方は変わる
冷酒の解説のために、まずは日本酒と温度の関係について説明します。
温度が人の感じ方にどう影響を与えるのか? 私が原作を担当した『白熱日本酒教室』からの抜粋ですが、まずは以下の漫画を読んでみてください。
基本的に、温度による味の変化は体温を中心に考えるといいでしょう。体温に近くなればなるほど、甘味は強くなります。例えば同じジュースでも、キンキンに冷えているときはちょうど良いのに、ぬるくなると「甘すぎる」と感じるものです。
もうひとつポイントになるのは、体温からどのくらい離れているか。だいたい20℃離れると「冷たくておいしい」「熱くておいしい」と感じるのです。体温に近いと「ぬるい」と感じるのですね。
【冷酒】の要点まとめ1「温度についての基礎知識」
- 温度によって味の感じ方が変わる
- 温度が高いと「甘味」「旨味」を感じやすくなる
- 体温から±20℃離れていると心地よさを感じる=「おいしい」と感じやすい
日本酒の味は温度でどう変わるの?
さて、では本題です。お酒の味わいも温度によって変化します。冷やすとどうなるのか、漫画で見ていきましょう。
日本酒はさまざまな温度で楽しめるお酒です。世界のお酒にも温めて飲むものがありますが、お湯割りにしたり、ハチミツやスパイスを加えてカクテルにしたり、という飲み方がほとんど。お酒そのものに手を加えず、温度だけ変えて楽しむのは日本酒の醍醐味ともいえるのです。
そんな日本酒と温度の関係ですが、基本的には「香り」の変化が大きいと覚えておきましょう。香りなどの気体の成分は、液体の温度が低い方がよく溶けます。
つまり、お酒の温度を上げると溶け込んでいた香りが外に出てくるのです。逆に、冷えすぎているとなかなか香りが出てこないことがあります。そんなときは、少しおちょこを手で温めてみましょう。香りが出てきますよ。
【冷酒】の要点まとめ2「日本酒を冷やすとどうなる?」
- お酒を冷やすと香りが穏やかになり、くいくい飲めるようになる
- ただし冷やし過ぎは苦味などが強くなることも。そういうときは酒器を手で温めるなどすればOK
冷酒って何? 冷やとは違うの?
冷酒のうれしいところは、何といってもお手軽なことでしょう。冷蔵庫で冷やして保管していれば、ただ取り出すだけで冷酒を楽しめるのです。手間がなく、飲みたいなと思ったときにすぐに楽しめるのはいいですよね。冷えすぎているなと思ったら、先ほども紹介したように、少し手のひらで器ごと温めましょう。
暑い季節にはもちろんのこと、寒い季節でもこたつに入ってキュッと冷たいお酒を飲むのはたまりません。熱々の料理と合わせても、料理との温度の落差が「心地よい」につながり、おいしく味わえることも多かったりします。
では、お店で冷えたお酒を注文するときはどうしたらいいのでしょうか。「冷や(ひや)」という文言を聞いたことがある人も多いかもしれませんが、冷酒を頼む際には厳密にいうと正しくありません。
実は日本酒は、おいしいとされる温度に名前がついています。この呼び方を覚えておくと便利ですよ。では、また漫画で紹介していきましょう。
Web掲載版(全部無料で読めます)
『白熱日本酒教室』アザミユウコ 原作/杉村啓 | ツイ4 | 最前線
そう、よく聞く「冷や」とは常温のことを指すのです。ちなみに熱いお酒の代名詞とされている「熱燗(あつかん)」、これは50℃ぐらいのことを指しています。
冷たいお酒は総称して「冷酒」です。体温から20℃ほど離れていますね。だから「冷たくておいしい」と感じやすいのです。
【冷酒】の要点まとめ3「温度による呼び方の違い」
- 「冷や」は常温のお酒のことで、冷酒ではない
- 日本酒のおいしい温度には名前がついている。冷酒は「涼冷え(15℃前後)」「花冷え(10℃前後)」「雪冷え(5℃前後)」などと呼ばれている
銘柄紹介
というわけで、今回は「冷酒」で飲んでおいしいと、個人的に感じるお酒、かつ「楽天市場」で購入できるものを紹介します(2020年1月現在)。記事を読まれるタイミングによっては入手できないものもあるかもしれませんが、参考になれば幸いです。
前提として、「冷やしておいしい」というのはどういうお酒か、個人的な考えを書いておきます。
- アルコール度数が低めのお酒
- フレッシュな香り・味わいのお酒
- 炭酸感のあるお酒
難しいのですが、やはり「冷たいことによる爽快感」は欠かせません。そうなると、アルコール度数があまりにも高いお酒はクイクイと飲みにくいのですね。そこで、アルコール度数がやや低いお酒を選んでいます。
また、冷たいことによる爽快感と相性の良い、フレッシュな香りや味わいのお酒や、発泡して炭酸感を感じられるお酒も選んでみました。もちろんこれらの日本酒は温めて飲んでもいいのですが、冷やして飲むのもまた格別というわけです。
こんな銘柄を紹介します
残草蓬莱(ざるそうほうらい)特別純米 出羽燦々60 槽場直詰生原酒(神奈川県・大矢孝酒造株式会社)
「残草蓬莱(ざるそうほうらい)」は「昇龍蓬莱(しょうりゅうほうらい)」を醸す大矢孝酒造のお酒です。
昇龍蓬莱が従来の日本酒のおいしさを追求したお酒としたら、残草蓬莱は近年の流行でもあるフルーティーなお酒など、さまざまなタイプに挑戦している意欲的なシリーズです。
この「残草蓬莱 特別純米 出羽燦々60 槽場直詰生原酒」は、アルコール度数が14%の日本酒です。一般的な日本酒は15%なので、1%だけ低いのですね。1%なんてたいしたことないじゃないかと思われるかもしれませんが、この1%の差でグッと飲みやすくなっているのです。
原酒(貯蔵中に加水していないタイプ)のため、味わいも豊か。口当たりが良いのですが、飲み進めていくとだんだん旨味や甘味が広がっていきます。後味はスッキリしていて、グイグイと飲めてしまうお酒です。
風の森 ALPHA アルファ タイプ1(奈良県・油長酒造株式会社)
「風の森 ALPHA」は、独創的な技術を用いてさまざまな実験を行っているシリーズ。現在はタイプ4まで出ていますが、今回紹介するタイプ1は「次章への扉」という名前がつけられています。アルコール度数14%と低めに仕上がっています。
アルコール度数を低くするのはいくつかの方法があるのですが、一番簡単なのはできあがったお酒の貯蔵時に加水することです。でもそれだと味わいまで薄まってしまうのですね。味はしっかりそのままに、アルコール度数を下げるお酒を造るのは大変難しいのです。
フルーティーな香りや、甘味と旨味もしっかりしていて、これは風の森のお酒だと納得できる味わいです。口当たりもいいのでどんどん飲み進めてしまいそうです。
できたてならではの炭酸感がしっかりとあり、開栓時は注意しなければいけないほど。買ってすぐ開けるのではなく、冷蔵庫の中で1日立てて保管してから開けることをオススメします。
羽根屋 純吟プリズム Hologram Label 究極しぼりたて(富山県・富美菊酒造株式会社)
「究極しぼりたて」は何が究極なの? と思うかもしれません。
この究極しぼりたての究極たるゆえんは、素濾過も含めて濾過を一切行っていない、本当にしぼったばかりのお酒を1本ずつ手詰めしたところにあります。手詰めなので1本ごとの量には個体差があります(記載より少ないということはないけれども、多いものがあるということ)。
【ここで「無濾過」について解説!】
お酒はしぼった後、「おり」と呼ばれる浮遊物や色味(できたてのお酒は透明ではなく山吹色に近いものが多い)を「炭濾過(ろか)」という手法で取り除きます。
ただ、この炭濾過以外にも、珪藻土(けいそうど)や紙フィルターなどを使って濾過をする「素濾過」と呼ばれる作業もあるのです。
「無濾過」のお酒といえども、じつは素濾過を行っているものも多いのです。全く濾過していないわけではないのですね。
そのため、ほんの少しだけおりがありますが、口当たりはとても優しく、スルッと口に入ります。
香りは甘く、ジューシーな甘味と旨味がひろがるのはまさにしぼりたてならでは。後味もスパッと切れ、また一口と手が伸びます。ホログラムラベルのプリズムの煌めきを見ながら、ついつい盃を重ねてしまうお酒です。
彗(シャア)LOVE JOY 純米吟醸無濾過生原酒 オリガラミ(長野県・株式会社遠藤酒造場)
このお酒は、まず名前がいいのです。「彗」と書いて「シャア」と読む。いいですよね。LOVE JOYは太陽に最接近し、消滅しなかった「Lovejoy(ラブジョイ)彗星」から名付けられています。
「おりがらみ」というお酒は、もろみを酒粕と日本酒に分けるときに、どうしても混ざり込んでしまう細かい浮遊物「おり」(主に細かいお米や酵母など)を取り除いていないお酒です。おりが入っている分、味わいが濃厚になる特徴があるのですね。
この「彗 LOVE JOY 純米吟醸無濾過生原酒 オリガラミ」もフルーティーな香りと甘味が強いお酒です。でも、雑味が少ないためか、スッと喉を通り抜けていきます。飲み終わった後にふわっと口の中で広がる余韻も含めて、じっくり楽しめるお酒ですね。
花垣 ShuShuShu 微発泡純米にごり生(福井県・南部酒造場)
「微発泡」と入っている通り、ほんのり炭酸感のあるにごり酒です。
軽快な甘さと、バランスの良い酸、そして舌や喉を刺激する心地よい炭酸感でスルスルと飲めてしまいます。キンキンに冷やして飲むのはもちろん、温めてもかなりおいしかったりします。冷たいか温かいか、両極端の温度がオススメというわけですね。
ちなみに、にごり酒を飲むときには、冷蔵庫で立てて冷やしておきましょう。すると、にごり成分が沈殿し、透明な上澄みができます。
開栓したらまず上澄みを少し飲み、次に蓋を閉めてゆっくりと逆さまにしてにごり酒として飲みます。上澄みとにごり酒の両方を飲み比べできる、1本で2度おいしいお酒なのです。
口に含むとシュワシュワ感を感じますが、開栓時に吹きこぼれるというほど強くはありません。でも念のために、ゆっくりと開けるようにしましょう。吹きこぼれそうならすぐに蓋を閉めて、落ち着くまで待ってからまた蓋をゆるめる、を繰り返して開けてみてください。
▶シュワシュワ感が好きな人はこちら! スパークリング日本酒特集
来福 X 白 活性にごり酒(茨城県・来福酒造株式会社)
「活性にごり」というのは、普通のにごり酒とどう違うのか。
これは、「瓶の中で酵母が生きているかいないか」という違いです。酵母は糖分を発酵させてアルコールと炭酸ガスにします。中で酵母が生き続けているということは、アルコールと炭酸ガスを作り続けているということ。だからシュワシュワした炭酸感が生まれるのです。
名前の「X」は、スペックが完全非公開なところから。精米歩合(59%)とアルコール度数(15%)しか公開されていません。お米も、酵母も非公開なのです。
これは、頭で考えて飲まずに、お酒そのものを感じてもらいたい。「こう飲まなくては」という概念を捨てて、自由に楽しんでほしいというところから名付けられているのです。
そうなると、ここで味わいを言うのは少し野暮かもしれませんが、バナナのようなフルーティーな香りと、濃醇なにごりの旨味が口の中で炭酸とともにはじけるお酒です。
甘めの味わいは、洋食などにも合いそうです。香りを楽しむためにワイングラスで飲んだり、温めて飲んだりしてもいいですね。
雁木(がんぎ)スパークリング 純米大吟醸 発泡にごり生原酒(山口県・八百新酒造)
2019年にラベルデザインを一新した、冬期のスペシャルバージョン。爽やかな甘味と雑味のなさ。シュワシュワとした強めの炭酸感と合わさり、もういくらでも飲めそうと錯覚してしまいそうです。アルコール度数が14%とやや低めなのもポイントかもしれません。
甘めのお酒なのに、炭酸感が強いのと、キレが良いためか、合わせられる料理の幅は広そうです。脂っこい料理でも、口の中をすっきりとさせてくれるでしょう。
食前酒として飲むのも最高なのですが、いろいろな料理とも合わせてみたくなる味わいです。
南方(みなかた)超辛口 純米酒 無濾過 生原酒(和歌山県・株式会社世界一統)
ここまで甘めのお酒を中心に紹介してきましたが、最後は超辛口のお酒を。この「南方 超辛口 純米酒 無濾過生原酒」は、南方熊楠(みなかたくまぐす)*1ゆかりの和歌山県にある世界一統のお酒です。
先ほども説明しましたが、酵母は糖分を発酵させてアルコールと炭酸ガスにします。「超辛口」というのは、どんどん発酵させて糖分をほとんど分解させ、甘味が少なくなっているという意味合いなのですね。
その通り、甘みが少なくスッキリとしたキレの良いお酒です。ですが、米の旨味がしっかりとしているため、一口の満足感は高いです。
温めて飲んでもおいしいのですが、熱々のお鍋にキンキンに冷やしたこのお酒を合わせると、もう最高としか言いようがありません。ぜひお試しください。
ちなみに、「糖質制限しているけど日本酒飲みたいなー」と思っている人には、このような辛口(日本酒度が+)のお酒がオススメ。詳しくはこちらのエントリにまとめているので興味のある人は読んでみてください。
まとめ
お店で提供される日本酒の多くは、冷蔵庫から取り出してすぐに注ぐ「冷酒」なので、日本酒は冷酒で飲むのが基本と思っている方も多いかもしれません。よく冷えた「冷酒」は飲みやすく、温度が心地よいこともあって、本当においしいものです。
もちろん「こういうタイプより、別のタイプのお酒を冷やして飲む方が好き」という人もいるでしょう。今回紹介しきれなかったもの以外にも、冷やしておいしいお酒はたくさんあります。買ってきたお酒はまず冷蔵庫で保管し、一口は冷酒状態で飲んでみるといいですよ。
料理と合わせるだけでなく、単体で少量をクイッと飲んでも満足感が高いのも冷酒のうれしいところ。さまざまなお酒を、冷やして楽しんでみてください!
著者:杉村啓
醤油やお酒といった発酵や調味料をこよなく愛するライター。愛称(?)は「むむ先生」。おいしいお酒やおもしろいお酒の情報を聞きつけると現れたりします。最近では京都の街をふらふらと「いけず石」を求めてさまよっていたりもします。良い「いけず石」を見かけたらぜひご一報を。近著に『白熱日本酒教室』(星海社/漫画版全3巻/新書)、『グルメ漫画50年史』(星海社)、『醬油手帖』(河出書房新社)など。Twitter :https://twitter.com/mu_mu_ ブログ :醤油手帖
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今回紹介したお酒
※2020年3月6日15:30ごろ、記事の一部を修正しました。
*1:南方熊楠は、和歌山県が生んだ博物学の巨星。東京大学予備門中退後、19歳から約14年間、アメリカ、イギリスなどへ海外遊学。さまざまな言語の文献を使いこなし、国内外で多くの論文を発表した。研究の対象は、粘菌をはじめとした生物学のほか人文科学等多方面にわたり、民俗学の分野では柳田国男と並ぶ重要な役割を果たした。生涯、在野の学者に徹し、地域の自然保護にも力を注いだエコロジストの先駆けとしても注目されている。(南方熊楠記念館HPより)