こんにちは。醤油研究家として醤油に関するブログや『醤油手帖』という本を書いている、杉村啓といいます。
実は醤油などの調味料だけでなく、お酒にまつわる本もたくさん書かせていただいています。原作を担当したマンガ『白熱日本酒教室』(講談社)は無事完結し、最終巻となる第3巻が2019年10月に発売されました。
今回は、進化していく日本酒の中でも特に注目を集めている、オススメの「スパークリング日本酒」を紹介したいと思います。飲みやすいものから、アルコール度数の高い上級者向けのものまで、テーマ別に10本を選んでみました。いずれも通販で購入できます。それぞれにぴったりなおつまみも紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
スパークリング日本酒は、炭酸を含んだ日本酒のこと
スパークリング日本酒とは、簡単にいうと「炭酸が含まれている日本酒」です。その中でも、さまざまなタイプがあり、大きく「活性にごり系」「瓶内二次発酵系」「炭酸ガス注入系」に分けられます。
この違いを理解するために覚えてもらいたいのが、「糖分が発酵すると、アルコールと炭酸ガス(二酸化炭素)が生まれる」ということです。
日本酒だけでなく、お酒は発酵して出来上がります。アルコールを生み出すには糖分が必要で、その糖分を菌が醸してアルコールにしているのですね。
日本酒の造り方をおおざっぱに説明すると、お米が分解されて糖分になり(ずっともぐもぐご飯をかんでいると甘くなるのと同じ原理です)、糖分が菌で発酵されてアルコールと炭酸ガスになる……という流れです。新酒で作り立ての日本酒にちょっと炭酸感があるのは、このときの炭酸ガスがお酒に残っているからなのですね。通常は貯蔵して寝かせたりしている間に炭酸ガスが抜けていきます。
ということを念頭において、どうやってお酒に炭酸ガスを加えて「スパークリング日本酒」にしているのかを解説しましょう。
1……「活性にごり系」は、発酵中のお酒をろ過せずそのまま瓶詰めするタイプ
活性にごり系は、時間がたつと発酵が進んで甘味が減っていくのが特徴です。通販では入手しにくいということもあって、今回は紹介していません。
2……「瓶内二次発酵系」は、瓶入りの日本酒に酵母や糖を入れて炭酸ガスを生み出すタイプ
瓶内二次発酵系も、時間がたつと発酵が進みます。ですが、活性にごりより発酵のスピードはゆるやかです。発酵がなるべく進まないように、冷蔵保存が必要なのもポイントですね。低温だと発酵はゆっくりと進んでいきますので、味が変わるのもゆっくりになるのです。
3……「炭酸ガス注入系」は、瓶入りの日本酒に炭酸ガスを注入するタイプ
炭酸ガス注入系は、瓶の中で発酵が進まないので、時間がたっても品質が安定しているのが特徴です。元のお酒に「火入れ」という加熱殺菌がされていたら、無理に冷蔵保存をしなくてもいいのがうれしいところです。
シーン別に紹介! オススメのスパークリング日本酒10選
ちょっと難しい話がありましたが、ここからは私がオススメするスパークリング日本酒を紹介していきましょう!
紹介するスパークリング日本酒
【1】まずは定番! 初心者に飲んでほしいスパークリング日本酒3本
【2】女子会で盛り上がる! パッケージがかわいいスパークリング日本酒5本
【3】上級者も満足間違いなし! 度数が高い人気銘柄2本
【4】炭酸水を混ぜるだけ。スパークリング日本酒の作り方
【1】まずは定番! 初心者に飲んでほしいスパークリング日本酒3本
スパークリング日本酒を初めて飲むという人には、定番の「すず音」を含む3本をオススメしたいです。
1998年に誕生した「すず音」は、スパークリング日本酒の先駆けとなったお酒です。グラスに注いだときに立ち上がるきめ細やかな泡立ちが涼しげで、鈴の音を連想させるところから「すず音」と命名されました。
1999年にテレビで取り上げられてから人気が広がり、それを受けてさまざまなスパークリング日本酒が生まれるという、ちょっとしたブームが起こりました。何を隠そう、私も日本酒にハマったきっかけがこの「すず音」だったりします。初めて飲んだときに「え、日本酒ってこんな味わいが出せるの? 想像よりも懐が深い飲み物なのでは」と思ってあれこれ飲むようになり、今に至るのです。
上品な甘さと爽やかな甘酸っぱさは、食中酒として飲んでも料理の味を邪魔しません。もちろん、食前酒としてそのまま飲むのもオススメです。瓶内二次発酵系で、実は同じ株式会社一ノ蔵から出ている「ひめぜん」というお酒を瓶内二次発酵させています。
「すず音」にはさまざまな期間・数量限定品があります。この「幸せの黄色いすず音」もそのひとつ。紅花の花弁から抽出した色素でミモザイエローに色づいた「すず音」なのです。執筆時はたまたまハロウィンが近かったため、さらに限定のハロウィンボトルを入手できました。中身は普通の「幸せの黄色いすず音」と同じです。
味わいとしては、「すず音」よりも若干甘酸っぱさが増して、より癖がない感じで飲みやすいです。ぜひ「すず音」と一緒に飲み比べをしてみてください
「すず音」も「幸せの黄色いすず音」も、後味がきれいで炭酸の爽快感があるため、意外と油っこい料理ともよく合います。それこそ唐揚げとも合わせられます。でも、これ! というものを選ぶとしたら、クリームチーズが一番でしょう。
スパークリング日本酒の礎を築いたのが「すず音」なら、近年のスパークリング日本酒ブームを起こしたのが「澪」と言えます。2011年に発売され、2013年から全国のコンビニエンスストアなどに販路を拡大したところ、爆発的な人気となりました。
炭酸ガス注入系のお酒なのですが、ちょっと特殊な造り方をしています。このタイプの多くは最初から低アルコールになるようにお酒を造り、炭酸ガスを加えているのですが、「澪」はそうではありません。まず、普通に(度数が高めの)日本酒を造り、アルコール度数5%になるまで水を加えて、炭酸ガスを入れているのです。以前、宝酒造の方にお話を伺ったところ、加水して日本酒が薄まっても酸味と甘味が出せるようになるまで、開発に6年ほどかかったのだとか。
元のお酒を火入れしているため、常温流通できるようにしているのもポイントです。冷蔵庫に入れなくても冷暗所であれば保管できますが、飲むときにはきっちり冷やすのがオススメです。
味わいを調整しているので、フルーティーな香りと甘味がありつつも、後味はスッキリ。いわゆるキレのある甘味ですが、甘過ぎないため、料理にも合わせやすいですね。
これはおつまみというよりオススメのアレンジ方法なのですが、「澪」で一番気に入っているのは、フルーツを入れて「フルーツポンチ」にしてしまうことです。いつもキャンプをするたびに、澪の大瓶とカットフルーツを買っておいて「澪ポンチ」を作り、みんなで楽しんでいます。
【2】女子会で盛り上がる! パッケージがかわいいスパークリング日本酒5本
パッケージが華やかで女性の方にもオススメなのは、ネーミングもかわいい「黄桜 ピアノ」をはじめとするスパークリング日本酒です。
瓶内二次発酵で生まれた細やかな泡がまるで心地よい音楽を奏でるように軽やかにはじけることから、「黄桜 ピアノ」と名付けられました。リンゴのような、爽やかで甘めの香りがします。
味わいは甘いのですが、香りから感じるよりは甘過ぎず、後味がスッキリしているので、味が濃い料理とも合わせやすいです。甘味がやや強めのお酒を食中酒にするのが苦手な人は「黄桜 ピアノ」で合わせてみるといいでしょう。ただ、甘味が控えめな分、「お酒感」が少し前に出ています。お酒感が苦手という人は、それこそ「澪」などの方が好みかもしれません。口当たりはとてもなめらかで、クイクイいけます。
余談ですが、黄桜は京都の会社なので、毎年夏に行われる祇園祭の宵山(本祭の前日までに行われる祭)期間に屋台を出しています。そこでは、氷と共に「黄桜 ピアノ」を大きなプラカップに1本まるごと入れて、500円で販売しているのです。まずは、この「黄桜 ピアノ」を確保して祇園祭グルメを楽しむ、というのが私の恒例となっています。
祇園祭の屋台で売られているアレを……というわけにはいきませんので、他の物を。味わいが強い料理とも合うと紹介しましたが、ほんのり甘めのお菓子との相性も抜群です。クッキーをつまみながら「黄桜 ピアノ」を堪能するのもいいですね。
水面に浮かぶ泡を意味し、炭酸入りのお酒であることをイメージしてつけられた「うたかた」。漢字で書くと「泡沫」です。その由来の通り、炭酸ガスを注入したタイプのスパークリング日本酒です。
「和」をモチーフにした瓶は、月桂冠と同じく京都を中心に展開しているテキスタイルブランド「SOU・SOU」とのコラボ。飲み終わった瓶を一輪挿しにも使えるように、とデザインされています。
味わいは全体的に控えめで、ほんのり甘く、炭酸もそれほど強くありません。フルーティーな香りと主張し過ぎない味わいのおかげで、気がついたら飲み干しているし、飽きずに飲み続けられます。こちらも、料理と合わせやすいのがいいですね。
フレーバーも「ゆず」と「りんご」がありますので、飲み比べをしてみるのも楽しいですよ。
味の濃い料理と合わせやすいのですが、特に塩気のある生ハムとの相性が良かったです。生ハムを一口食べ、よく冷やした「うたかた」をクイッと飲むと、また生ハムが欲しくなり……と、エンドレスでいけちゃいますよ!
「五橋(ごきょう)」という人気の日本酒を醸(かも)している酒井酒造の「発泡性純米酒 ねね」は、瓶内二次発酵系のきめ細かく柔らかな泡が心地よいスパークリング日本酒です。「ねね」と文字が重なったラベルデザインもかわいいですね。金箔入りの「発泡性純米酒 ねねゴールド」もあります。
口当たりが良く、強過ぎない上品な甘味とフルーティーな酸味があり、飲むと口の中でふわっと風味が広がっていきます。料理と合わせるのもいいのですが、そのまま食前酒のように飲むのもいいですね。
合わせるなら、フルーツがオススメです。「ねね」の風味にフルーツの甘味や酸味が加わる相乗効果で、より芳醇な味わいになります。
名前の通り、鹿のラベルがかわいい「春鹿 発泡清酒 ときめき」。瓶内二次発酵で生まれた炭酸が口の中ではじける感覚が、心地よさとスッキリ感を出しています。こちらも料理と合わせやすいスパークリング日本酒ですね。
甘酸っぱくて、後に残らない爽やかな味わいで飲みやすいのですが、意外と「お酒感」が強いです。日本酒感というよりは、お酒感。この記事で紹介しているパッケージがかわいい系のスパークリング日本酒がアルコール度数5%前後なのに対し、この「春鹿 発泡清酒 ときめき」は7%前後あるということもあるかもしれません。
いわゆる「お酒が好き」な人に特にオススメしたいです。ときめきます。
お酒感が強いおかげか、濃い味わいのものと合わせやすいです。サラミなどの味が強いソーセージ系を食べ、そっと「春鹿 発泡清酒 ときめき」を飲む。なるほど、これは名前の通りだ! となります。
瓶内二次発酵系の「月うさぎ ナチュラル」は、人気銘柄「梅乃宿」を造っている梅乃宿酒造のスパークリング日本酒です。
炭酸感は弱く、微発泡といっていいほど。甘味はあるものの甘過ぎず、酸味もそれほど強くなく、スッキリとした後味になっています。いい意味で日本酒らしくないというか、香りもフルーツ感というよりは、花のような香りです。おかげで、料理を選ばず何にでも合わせやすくなっています。もちろん、そのまま食前酒のように飲んでもおいしいです。
ライムを一滴しぼると後味が変わるので、飲むときにはぜひ試してみてください。一緒に「ピーチ」「ブルーベリー」といったシリーズを飲み比べるのも楽しいですよ。
味が強い料理というよりは、少し繊細な味わいのものとよく合います。フルーツよりはフルーツトマトですね。特にフルーツトマトのサラダなどは、バッチリの好相性を見せてくれます。
こんな日本酒も口に合うかもしれません
▶おすすめの甘口な日本酒をマニアが選んでみました
▶フレッシュな味わいが楽しめる新酒たち
【3】上級者も満足間違いなし! 度数が高い人気銘柄2本
上級者にオススメなのは、度数が高い、人気銘柄から派生したスパークリング日本酒「獺祭 純米大吟醸 スパークリング45」などです。
日本で最も有名なお酒のひとつと思われる「獺祭」の瓶内二次発酵系スパークリング日本酒が、「獺祭 純米大吟醸 スパークリング45」。2019年に発売開始されたばかりです。数字の45は、精米歩合という、お酒を醸すときに使ったお米をどれだけ精米したかを表しています。玄米を100%として、45%になるまで精米したということですね。同じ獺祭の「磨き二割三分」は23%まで精米したということになります。
今まで紹介してきたスパークリング日本酒よりは、かなり「日本酒」寄りなので、そこまで甘いわけではありません。ですが、同じ精米歩合の「獺祭」に比べると、ほのかに甘味を感じます。その甘味と、酸味、コク、すっきりとした後味のバランスがかなり良く、さすがの一言。とても飲みやすいです。アルコール度数は14%ほどと、普通の日本酒と同じぐらいあるので、飲みやすいからといってぐいぐいと飲むのはやめましょう。
ちなみに、瓶には「振らないように」「よく冷やして」といった注意事項を書いたペーパーがかかっていました。発泡力が強いので、シャンパンのように吹き出すことがあります。開けるときは注意書きに従うようにしましょう。
何にでも合わせやすいのですが、肉料理よりはお刺身の方がいいと思います。しめ鯖とかも相性が良さそうですね。
コンビニエンスストアなどで買えるお酒の中では「最強」の名をほしいままにしていた「ふなぐち菊水一番しぼり」。そこに炭酸ガスを加えたのが「ふなぐち菊水一番しぼり スパークリング」です。長らく新潟県内先行販売だったのですが、本稿執筆中(2019年11月)に県外出荷開始のニュースが飛び込んできました。やったー!
特筆すべきは、フルーティーな香りと濃厚な旨味、そしてアルコール度数19%の「ふなぐち菊水一番しぼり」にそのまま炭酸ガスを加えたことでしょう。アルコール度数19%のスパークリング日本酒というのは、そうそう他では飲めません。
もちろん味わいも、そのままです。しぼりたて生原酒のフレッシュな香りと、濃厚な旨味とコク。それがそのまま炭酸で飲みやすくなっているのです。本当に、度数が高いので一気に飲まないように注意してください。
濃厚でガツンとくる味わいなので、それに負けない強い味のおつまみが合います。スパークリングではない「ふなぐち菊水一番しぼり」と同様に、イカの塩辛などはとても合います。
【4】炭酸水を混ぜるだけ。スパークリング日本酒の作り方
今まであれこれ紹介してきましたが、スパークリング日本酒は、普通の日本酒に炭酸水を加えて自作することもできます。辛口のお酒が好きだけれども、スパークリング日本酒は甘めのものが多くて悩ましいという人は、自分で好みのお酒に炭酸水を加えてみるといいでしょう。
最近では、レモンやライムのフレーバー付き炭酸水も売られています。そのほか、例えばカルピスソーダのような乳酸飲料の炭酸に日本酒をちょっと加えると、おいしいお酒になりますよ。
日本酒はどうしてもあまりいじっちゃいけないと思われがちですが、炭酸水を加えても問題ありません。特にアルコール度数が高くて濃厚なお酒は飲み続けていると、いわゆる飲み疲れを起こしてしまうこともあります。そんなときに水や炭酸水を加えると、またおいしく飲めるのです。ぜひ試してみてください。
今回はさまざまなタイプのスパークリング日本酒を紹介いたしました。いわゆる「お父さんが晩酌で飲むお酒」というイメージからは離れたものが多く、また1本当たりの分量も300ml前後と飲みきれるものが多くなっています。
普段からお酒を飲む人の中には、こういうタイプのお酒が好きで、こういうものを中心に飲む……という、自分なりのスタンスがあるかと思います。私のスタンスはというと、「なんでも飲む」です。日本酒専門店へ行って飲むこともあれば、コンビニエンスストアで売られているパック酒も飲む。お店で知らないお酒があったらとりあえず飲んでみます。
節操がないと言われればそうなのですが、今の日本酒は本当に面白く、進化を続けているので、どんどん飲んでも全く飽きないし、知らないお酒を飲むのがとても楽しいのです。そういったことを繰り返しているうちに、好きが高じていつの間にかお酒の本をたくさん書くことになりました。
先ほどもチラッと出てきましたが、今の日本酒はとても面白いです。甘やかな香りで飲みやすいものや、口の中でふわっと消えていくようなお酒、どっしりとして旨みが強く味の強い料理にも負けないもの、和食や珍味だけでなくフレンチやイタリアン、さらにはカレーなどにもばっちり合うお酒など、さまざまなタイプのお酒が次々と生まれています。
もちろん晩酌にぴったりの伝統的なタイプもレベルアップしていて、おいしさを増しています。どうです? 面白そうだと思いませんか?
日本酒が苦手という人も、まだ飲んだことがなかったら一度スパークリング日本酒を飲んでみてください。意外な味わいが楽しめるはずです。
それこそ、初めて「すず音」を飲んだ私のように衝撃を受けたら、ぜひ他のタイプのお酒も試してみてください。そこから日本酒にハマっていただけたら、日本酒を応援している身としては、これほどうれしいことはありません。楽しい日本酒ライフを過ごしてください!
こちらも口に合うかもしれません
著者:杉村啓
醤油やお酒といった発酵や調味料をこよなく愛するライター。愛称(?)は「むむ先生」。おいしいお酒やおもしろいお酒の情報を聞きつけると現れたりします。最近では京都の街をふらふらと「いけず石」を求めてさまよっていたりもします。良い「いけず石」を見かけたらぜひご一報を。近著に『白熱日本酒教室』(星海社/漫画版全3巻/新書)、『グルメ漫画50年史』(星海社)、『醬油手帖』(河出書房新社)など。Twitter : Twitter
ブログ : 醤油手帖