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GWに一気読み不可避。『明日カノ』が描いた、現代を生きる女性たちの“ほろ苦く切ない人間ドラマ”

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推し活をしている人が「これ良い!」と思ったものを紹介しています

明日カノトップ画像

現代に生きる女性たちの、一筋縄ではいかないさまざまな「生き様」を紹介する、をのひなお先生の『明日、私は誰かのカノジョ』。その魅力に迫ります。

仕事終わりのほっと一息つく時間に、そして休日のくつろぎ時間に、ゆっくりと漫画を読みたいという方も少なくないでしょう。

とはいえ、すでに巻数を重ねている作品を今から読み始めるのは大変だし、新作も数が多過ぎて選ぶのが大変だし。「自分の好みに合う作品」をどう選ぶかは悩ましいところです。

そこでソレドコでは、季節やイベントにからめたさまざまなテーマごとに「今読むべき作品」を紹介していきます。そうそうこういうのが読みたかったの……! という作品がきっと見つかるはず。

紹介してくださるのは、漫画をこよなく愛するライター、藤堂真衣さんです。

今日の推し漫画はコレ!:『明日、私は誰かのカノジョ』

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今回のテーマ:ソレドコ編集部より
待ちに待った大型連休。イッキ読み不可避! な引き込まれる漫画、ありませんか?

📗

こんにちは! ライターの藤堂真衣と申します。昔から漫画やアニメが大好きで、大人になった今も少しの暇を見つけては漫画を読み漁る日々を送っています。

▼ソレドコでは「推し活」に関するインタビュー記事も書いています
推し活は“本気の遊び”。「ファン研究」の大学教授に聞く、持続可能な推し活

本連載では、そんな私がこれまでに読んだ漫画のなかから季節やその時々のテーマに合ったもの、さらに注目が集まる話題作など「ぜひ今読んでほしい!」と思う“推し漫画”を紹介します。

今回のテーマは「イッキ読み不可避の漫画」ということで、をのひなお先生の『明日、私は誰かのカノジョ』(以下、『明日カノ』)をピックアップさせていただきました! 実写ドラマ化もされた話題作ですが、2023年に堂々完結。この機会にイッキ読みするのがオススメです。

高リピート率を誇るレンタル彼女、雪に隠された“秘密”

『明日カノ』は、大学生をしながら「レンタル彼女」として働く雪(ゆき)をはじめ、さまざまな境遇にある女性の生き方を描いたオムニバス形式の作品です。

雪は幼いころに母親から虐待を受けた影響で、心に大きな穴を抱えています。誰のことも心から信頼せず、また自分自身をさらけ出すことをしません。

一方でそれは、レンタル彼女としての「強み」にもなっています。ファッションやメイクなどにこだわりがないからこそ、「相手の望む彼女」を演じるのがとても上手。おかげで雪は、高いリピート率を誇る人気のレンタル彼女でもあります。

明日カノコマ画像
(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

日常的なエピソードから、女性を取り巻く社会問題の実像が垣間見られるのも『明日カノ』の特徴。

雪の友人、リナはパパ活をしていてやや男性依存ぎみ。さらに彼氏に隠れて美容整形を繰り返す女性、お金以外を信じることができない女性、推し活に熱中し過ぎている女子高校生など、何かしらの“闇”があるキャラクターが次々登場します。

「女心」の解像度が高すぎる……ごく普通の女子大生・萌がホストにハマるまで

そんななかで、私が特に推したいのは、第4章「Knockin’on Heaven’s Door」に登場する女子大生、真矢 萌(まや・もえ)。

萌は自分のルックスが「並以下」であると感じ、だからこそ量産型のおしゃれからは距離をとって個性的なファッションを好み、それを「自分の信念を持っている」ことだと認識しています。

明日カノコマ画像
(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

そんな萌が行きつけのバーで出会ったのが、本作屈指の人気キャラクター、“ゆあてゃ”こと優愛。

明日カノコマ画像
(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

萌は優愛と知り合ってホストクラブに足を踏み入れ、そこで出会ったホスト、楓(かえで)に惹かれていきます。

当初は「ホストなんて……」と言っていた萌が、楓の掛け値なしの優しさに触れて「こんなに優しくしてくれたから」とお店に足を運び、「営業でしょ」と思いながらも好きになってしまう……。そんな萌の「気持ちの変化」に対する解像度が高過ぎるんです。楓の優しさも、「ただの客なら、こんなことまでしないのでは?」と思わせる言動の連続で、こっちまで惚れてまうやろ!と言いたくなるレベル。

明日カノコマ画像
(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

萌はホストに通うお金を稼ぐため、ファッションを変え、夜の仕事も始め、ついには大学も中退してしまいます。それまでの友人と疎遠になり、身も心も消耗していく萌。破滅への道を歩んでいることは誰の目にも明らかなのに、「もしかしたら、萌は本当に楓と結ばれるのではないか」とどこかで期待してしまう自分がいることに気付かされます。

誰一人「100点満点のハッピーエンド」は訪れないが……

『明日カノ』の登場人物はみんな、つかめない幸せをつかもうと必死でもがいています。自分だけを愛してくれる男性を探すリナ、大好きな担当(推しのホスト)とずっと一緒にいたいと願う優愛、「もしかしたら楓と一緒になれるのかもしれない」とお店に通ってしまう萌。

もちろん雪もその一人で、自分の孤独を受け入れながらも、物語の終盤で再び現れた母に心を揺さぶられ、「もしかしたらお母さんと母娘をやり直せるかも」と淡い期待を抱きます。

結論をいえば、誰一人「100点満点のハッピーエンド」にはならない『明日カノ』。それでも各エピソードの終わりに少しだけ希望が見えるような気がするのは、それぞれにもがき苦しんでたどりついた“現在”が、決して後悔にまみれてはいないから。

私たちの、そして彼女たちの生きていく人生は、漫画のように「END」で終わることはありません。

雪をはじめとする「私」たちの未来が、光にあふれていますように、と祈りたくなる。そんな作品です。

藤堂真衣 SNS:@mai_todo
漫画やアニメ、声優を愛するオタクのフリーライター。好きな作品は『Free!』。圧倒的夜型。