こんにちは。ライターの斎藤です。みなさん「小諸七兵衛」というそばを知っていますか?
一見、なんの変哲もない長野県の乾麺そばなのですが、「おいしい」ということで大人気になりました。人気に火がついてからは品薄の状態が続いていたことも(いまでは普通に買えます)。
僕も流行りに乗って食べてみたら確かにうまい。長野にいなくても、これが乾麺でストックできるのはすごいことだ……と思いつつ、3日連続で食べてしまったので、全然ストックにならなかったんですが……。
小諸七兵衛をブレイクさせたのは「DEEN」のボーカリストで、そばマニアの池森秀一さんです。
池森さんは毎日そばを食べるという習慣を16年間続けていて、最近は自分自身のそばブランド「池森そば」のプロデュースもしています。
さらに池森さんはツアーに出かける際に、全国各地のそば屋さんで、個性のあるそばを食べているとか。
さて、そんな池森さんなら全国各地のおいしくて個性があるそばを知っているんじゃないだろうか……? 小諸七兵衛だけ食べていても全然いいんだけど、乾麺のご当地そばの世界をもっと知りたい。
そんなわけで今回は池森さんに、麺に特色があるおすすめのご当地そばを6種類教えてもらって、一緒に食べ比べました。
そんなにそばに詳しくない僕にも、味の違いがすごくよくわかったし、どれもすごくおいしかったですよ!
そして、この取材を通して僕は池森さんの「そばに対する愛情」を思い知ることになります……。
【池森さんと全国のそばを食べてみよう】
池森さん「100種類以上の乾麺そばを食べてきた」
池森さんは毎日そばを食べられていると聞いていますが、食べているのは、ほぼ乾麺のそばですか?
そうですね。最初はビルドアップした筋肉を落とすために食べていました。筋トレにハマっていたことがあって、一時期は格闘家のような体になっていたんです。でも、それってどうもDEENのイメージと違うよね……(笑)。
そこで筋肉を落とそうと思って。その時に食べはじめたのが乾麺のそばです。筋肉は落ちたのですが、それ以降もずっと食べ続けています。
いままでに何種類くらいの乾麺のそばを食べてきたんでしょうか。
数えてはいないけど、少なくとも100種類以上食べているのは確実ですね。特に、『マツコの知らない世界』に乾麺そばマニアとして出演して以降、全国いろいろなメーカーからそばが送られてくるんですよ。
あの番組以来、池森さんに「そばマニア」としてのイメージが定着しましたよね……。
今回、地方の個性的な乾麺のそばということで、選んできました。「乾麺のそばなんて……」なんて思っている人は多いと思うし、確かにイマイチなものもあるんだけど、今回僕が紹介するのはどれも個性がすごいですから。
個性か……。僕にもわかるかな。
地域によっては、独特のつなぎを使っているケースがあって、それは食べていてすぐにわかりますよ。
それに、そば粉そのものの味わいも違います。その土地で作られているそばを食べると、天候、土、風……そういう景色が見えてくるような気がするんですよ。これは僕だけかもしれないけどね。
それから、麺自体は変わってはないんだけど、ちょっとおもしろい発想の商品も紹介します。
……風景か。それでは池森さんと、おすすめのそばを食べながら解説していただこうと思います。
あ、今日は僕がそばを作りますから。
えっ……。編集部の方で調理したものを順次食べていただきながら、池森さんが斎藤さんに解説していただくという段取りを想定していたのですが……!
いいから、いいから。僕はもういっぱい食べているから、そんなに食べなくてもいいんです。斎藤さんも、編集さんも、カメラマンさんも、みんなで食べましょう。今日は僕がおもてなしします。みんなでそばパーティーだ。
あ……。早い!
突然ですね……。
ものすごいスピード! この写真で伝わりますかね……。
手慣れていますね。なんで腰にエプロンを着けているんだろうと思っていたんだけど、作るつもりだったんですね……。
今回の撮影とは別ですが、池森さんの手際のよさを見られる動画です
全国から取り寄せた乾麺を一緒に食べてみよう
そんなわけで、お言葉に甘えて、池森さんが茹でてくれた乾麺たちを「もりそば」でいただきます。
1. 自然芋(じねんじょ)そば
長野県長野市のそばです。自然薯と布海苔(ふのり)が入っています。布海苔をつなぎに入れるのは、新潟の「へぎそば」と同じですが、自然薯が入ることで独特の粘りが出てきますね。
ちなみに、布海苔というのは赤っぽい海藻の一種です。
これは一口食べてすぐに、海苔の味が来ますね。……そして、噛んでいくと、どんどんと海苔の味が出てくる感じ。
そばって香りの食べものだと思っていましたが、これは明確に「味」がありますね!
食べもの食べて「味がありますね!」って言っているの、コメントとしてすごい。
自然薯って聞いて、ちょっとびっくりしましたが、食べやすいですね。
そう、自然薯の味はあまり感じないんですよね。ただ、食感が変わる。
かなり個性が強くて、普通の乾麺のそばと全然違いますね。早くも1品目で理解しました。
2. 妻有(つまり)そば
さっきの自然芋そばは「自然薯」と「布海苔」が入っていました。この妻有そばは「布海苔」だけが入っているんですね。
そうです。こっちには自然薯が入っていない分だけ、そば粉の個性が立っています。
本当だ。さっきに比べると、そばの香りがありますね。続けて食べるとわかる。
そうそう、布海苔は入っているんですが、そこまで布海苔の味が前面に来ないです。その分「そば畑が見えてくる」というかね……。
そば畑か……。
やはり、そばのつなぎとして使うなら、小麦粉よりも布海苔の方がおいしいんでしょうか?
おいしいというかね……。布海苔をつなぎに使うと味わいが「簡単には終わらない」という気がします。
「簡単には終わらない」。かっこいい……。
3. 新富倉そば
信州飯山 新富倉そば(枡田屋)
- 地域:長野県
- 特徴:北信濃で古くから伝わる製法で作られており、オヤマボクチという植物の葉の繊維がつなぎに入っている
- 価格:2,200円前後(税込)(160g×2個)
これはね、オヤマボクチという、ヤマゴボウの一種の葉っぱが使われているそばです。まず匂いを嗅いでみてください。「大地」が感じられると思います。
……本当だ。脱穀した後の糠(ぬか)みたいな香りがします。
そうでしょう。これは味わいがすごいんです。食べてみてください。
……これは、そばの味が強い! メチャクチャに強い! ものすごい迫力です。
そう! 迫力があるんですよ。いい言葉使うじゃない。
おいしいですね。私は高級なお店の味がすると思いました。
オヤマボクチの葉っぱが入っているのに、青臭いような感じはしないですね。この葉っぱのおかげで、そばの味がブーストされているような印象を受けます。
味も強いし、歯ごたえもあるし、香りもあるし、全部が強い。「そばを食べた感」がすごいです!
長野県の北信濃に伝わる独特な製法のそばです。ついこの間、同じ製法で作られているおそばを、現地で食べました。おいしかったですよ。それでこの乾麺も買いました。
家でこれを食べられるのはすごくいいですね。
4. 信州 更藪蕎麦
更科そばと藪そばを一つのパッケージにしたものです。この麺自体は特殊というわけでもないんだけど、長野発祥の更科そばと、江戸前の薮そばを組み合わせるっていうのがおもしろくて持ってきちゃいました。こういう新しい流れもいいよね。
一束50グラムになっていて、2束でちょうど一人前。相盛りにすると、盛り上がりますよ。
そもそも「更科」と「藪」ってなんですか?
更科はそばの実の一番内側にある部分を使ったそばですね。色が白っぽくなります。藪は実の外側の方を挽いた粉を使うから色が濃くなる。
確かに、たまにそば屋さんで「白いそば出てくるな~」と思っていたんです。あれは更科だったということか……。
更科と藪って、原則的にはゆで時間が違うんですよ。藪の方が時間がかかる。だから、更科と藪を両方置いてあるお店でも、相盛りまではやっていないことが多いんです。
なるほど……。オペレーション大変ですもんね。
ところが、この乾麺は更科も藪もゆで時間が同じなんです。だから家庭でも簡単に相盛りが作れる。これは大変な企業努力だと思います。本当に素晴らしいですね。
相盛りは違いがわかっておもしろいです。更科の方が上品な感じだけど、藪もうまい。
相盛りを食べることで、そばの知見が増えていくような感じ……。
ちなみに更科と藪をまぜてゆでて、一緒に食べるのもいいんです。これはゆで時間が同じだからできる。面白いところですよね。
5. 祖谷(いや)十割そば
これは十割そば。そば粉がたくさん入っている乾麺は最近増えています。十割もそこまで珍しくはないです。
すると、池森さんがあえてこのそばをピックアップした理由は……?
そばって、だいたい東日本の寒い地域で作られていることが多いんです。厳しい気候の方が、そばの実が甘くなると言われているんです。でもこれは、徳島県の祖谷(いや)地域で作られています。ちょっと暖かいところ。
すると、他のそばに比べて、あまり甘くない、ということですかね。
ところが、そういうわけでもないんですよね(笑)。ちょっと甘みの種類が違う気がするんです。寒いところで生まれる甘さと、暖かいところで生まれる甘さって違うような。僕の勝手なイメージかもしれないけどね。
なるほど……。正直なところ「甘さの違い」みたいなところは全然わからないですが、かなり本格的な味がしますね。はっきり言って、相当おいしいです。
十割そばが乾麺で食べられるのが驚きです。これを備蓄しておけるのはすごい。
そして、食感が今までのそばと全然違いますね。もそっとしているというか、やわらかい。
口の中で溶けていくようでしょう。十割そばってつなぎがないからね。ちなみに、十割そばを「かけそば」にすると、すぐに「へこたれちゃう」んです。食べていて終盤はおじやみたいになっちゃう。そば好きはそれをスプーンで食べるのも好きなんですけどね。
それから、十割そばをゆでたら、これも飲んでもらわないと! そば湯です。
なにこれ、チョーうまい!
……僕はこれまでそば湯なんて、おいしいと思ったことはなくて。健康のために飲むものだと思っていました。でもこれはうまいです。
しみいりますね。寒い日に自販機で買いたくなる~。
これも十割そばのいいところですよね。いいそば湯ができるから。
池森そば のどごしのへぎそば
最後に、僕がプロデュースしている布海苔入りのそばです。布海苔を入れたそばは新潟が本場なので、新潟のメーカーに作ってもらっています。
ずっともりそばだったけど、これは池森おすすめの「岩のりそば」で!
おお、いままでと全然違うの出てきた!
海苔の香りしますね!
海をイメージして作りました。そばには布海苔が入っていますし、つゆには岩のり(バラのり)をたっぷり!
梅干しも入っていますね。
梅干しはのり弁をヒントに入れてみました。好きな大きさに潰しながら食べてみてください。
これは、全部の味わいが調和しているというか……。渾然一体となって来ますね!
「渾然一体」! いいセリフだね。おれが言ったってことにしてください(笑)。
(しませんでした)
おいしい……。
なんというか、酒飲みたくなる味ですね……。
これで日本酒飲みたくなる……。いや、日本酒飲んだ後にシメに食べた方がいいかな……。どちらにしても強烈に日本酒を連想してしまう味ですね。
「岩のりそば」の作り方はこちらの動画でチェックできます
そばつゆは何を使ってる?
そばを一通り食べ終えた後で、今回使ったそばつゆも紹介させてください。
にんべん つゆの素
どこでも買いやすいオーソドックスなつゆ。そばの味がわかりやすい。今回の試食も基本的にはこれで食べていました。
マルトモ 昆布かつおつゆ
一般的に売られているつゆですが、こちらは通販の方が手に入りやすいかも。
温かいそばを食べるときは、「にんべん つゆの素」とこの「マルトモ 昆布かつおつゆ」を2対1の割合にするのが池森さんのおすすめ。最後に食べた「のどごしのへぎそば」もそうして食べていました。
池森つゆ
池森さんブランドのそばつゆ。辛口と甘口の2種類があり、どちらもストレートタイプです。お店で食べるようなかなり本格的な味がします。今回の試食の後半はこちらで食べていました。
なお「祖谷十割そば」のそば湯はこちらで飲んだのですが、そば湯がおいしかっただけでなく、このつゆを使ったのもおいしかった理由でしょう。
生麺にはない、乾麺のそばのよさ
いやー。うまかったですね。
どれもおいしかった……。
本当に作ってもらって恐縮でした!
みんなで食べた方が楽しいでしょう。そばって、「とっつきにくい」とか「むずかしそう」って思われがちじゃないですか。でもそうじゃなくて、「乾麺でもおいしいそばが簡単に食べられるよ」ってことを、ここにいるみんなにも知ってほしかった。
十分に理解しました。乾麺のそばはうまい。
パスタやそうめんは、お店で出す物でも乾麺を使っているじゃないですか。
でもおそば屋さんが乾麺を出すことってないですよね。まだ一般には、「そばの乾麺」というイメージが少ないんだと思います。
パスタやそうめんは、乾麺と生麺のよさがそれぞれあるってことが知られています。うどんだと「稲庭うどん」は乾麺ですよね。でもそばにはそういうの聞いたことないですね……。
乾麺は、生麺のそばを乾燥させて作るんです。その過程で味が凝縮されておいしくなるんじゃないか……と僕は思うんだけれどもね。生麺よりおいしい乾麺もたくさんあるし。
それから、こんなふうにいろんな地域の個性的なそばを食べられるのも乾麺ならではですね。生麺ならこうはいかないわけで。
うん、それは確かにそうですね。
乾麺の可能性ここまでとは思っていませんでした。……それにしてもお腹いっぱいだ。
そばなんて「たくさん食べた」と思っていても、4時間もすればすぐに満腹感薄れますよ(笑)。
そしたらまたそばを食べられるかも(笑)。
そばって「別腹」みたいなところありますからね。
確かに、今回の試食もどんどん食べてしまった……。今日は本当にありがとうございました!
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お話を聞いた人:池森秀一さん
DEENのボーカリスト。2021年12月現在までにシングル47枚、コンセプチュアルマキシシングル4枚、アルバム35枚、29枚の映像作品を発表。2021年7月7日に34枚目のアルバム『TWILIGHT IN CITY ~for lovers only~』、同年12月22日に35枚目のアルバム『シュプール』をリリース。音源制作、ライヴツアー開催と精力的な活動を続けている中、昨今ではさまざまなメディア出演により「蕎麦好きミュージシャン」として名を馳せる。全国の蕎麦を食べ歩くのはもちろん、乾麺の蕎麦の魅力を日夜発信し、自身の名を冠した「池森そば」もプロデュース。著書に『DEEN池森秀一の365日蕎麦三昧』がある。
Twitter:@DEEN_Official
Instagram:@ikemori_shuichi
公式ブログ:DEEN 池森秀一 公式ブログ
YouTube:信州戸隠 池森そば 赤坂店
著者:斎藤充博
指圧師・ライター・マンガ家などをしています。昼寝とビールが好きです。
Twitter:@3216
撮影:関口佳代
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今回紹介した商品
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「池森そば のどごしのへぎそば」を詳しく見る