「それどこ」読者のみなさん、はじめまして。ライターの朽木誠一郎です。
今回、それどこ編集部から「泡盛をテーマにした記事」を依頼され、グンマーこと群馬県に行ってきました。群馬って、
こういうイメージだと思いますが、ここはよくネットでネタにされる群馬県と長野県の県境、毛無峠。実際の様子は下の写真でどうぞ。
画像:PIXTA
僕が大学生活を過ごした群馬県の県庁所在地、前橋市です。まあ、よくある地方都市ですよね。都会ではないけど、そこまで田舎というわけでもない。
前橋市は詩人の萩原朔太郎の故郷で、キャッチフレーズは“水と緑と詩のまち”。市内には広瀬川をはじめとするいい感じの河川が流れていて、とてものどかです。
なぜ「泡盛」がテーマなのに「群馬の前橋」なのかというと、この依頼をもらったときに、僕が学生時代によく飲んでいた「泡盛カクテル」のことを思い出したんですよね。
青春時代の思い出が詰まった前橋は、僕にとって第二の故郷。しかし“諸般の事情”(後述します)により、大学卒業以来、一歩たりとも足を踏み入れておりませんでした。
取材がお盆の時期ということもあり、重い腰を上げて3年ぶりに“帰省”することに。大学時代に親しんだ「泡盛カクテル」を味わい、ついでに後輩と昔話をしてきました。
人が帰省をしないことにはそれぞれ理由があるはず。でも、僕は「これからはもっと群馬に戻ってこようかな」と思った、今回はそんな話です。
思い出の前橋グルメといえば「泡盛カクテル」と「ラーメン」
群馬県は小麦の生産が盛んなことから、うどんや焼きまんじゅうなど、小麦粉を使った料理がメジャーです。なかでも学生時代に特にお世話になったのが、ラーメン。
上京してからあちこちでラーメンを食べ歩きましたが、ラーメンに関してのみ言えば、正直「群馬よりおいしいと思うこと、あんまりないなあ」という印象です。
例えば、ここ以上の担々麺には未だ出会えていない「担担麺専門 たんさゐぼう」。にんにくフレークとチーズのトッピングがベストマッチな熊本ラーメン「麺屋 双喜」。
そして、僕が勝手に前橋一の豚骨ラーメンだと思っている「食彩麺酒房 響」(以下、響)。僕が通っていた大学のキャンパスにめちゃくちゃ近いんですよね。徒歩数分。学生時代はかなりの頻度で入り浸っていました。
前述の「泡盛カクテル」はここで提供されてます。ということで取材依頼の電話をかけ、常連だった旨を伝えると、「そういうことなら」と快諾。ひさしぶりの帰省にそわそわしながら、新幹線と在来線を乗り継ぎ、前橋へ向かいました。
「来てみて 食べてころ〜」と主張する豚 pic.twitter.com/gk3H2AAH5q
— 朽木誠一郎 (@amanojerk) 2016年8月12日
共食い系のゆるキャラに出迎えられてギョッとしたり、想像以上に変わっていない街並みにホッとしたりしつつ、18時開店の響に到着です。
第二の故郷で、懐かしい味と、懐かしい人に出会う
こちらが響の外観と店内。ラーメン店というよりは、雰囲気のある居酒屋さんという感じです。取材とはいえ、そろそろいい時間。早速「泡盛カクテル」を頼んじゃいましょう。
見るからに涼しげな、薄いブルー色のお酒。これが泡盛をベースにしたカクテル「残波(ざんぱ)トニック」です!
琉球泡盛の「残波」をトニックウォーターで割り、ブルーキュラソーを混ぜています。店長さんいわく「多分うちのオリジナル」とのこと。
泡盛はオン・ザ・ロックで楽しむ方も多いと思いますが、泡盛の本場・沖縄では、水割りなど、割って飲むのが一般的なのだそうです。
【楽天市場】 残波の検索結果
【楽天市場】 トニックウォーターの検索結果
【楽天市場】 ブルーキュラソーの検索結果
泡盛をトニックウォーターで割ることでキレが増し、独特の後味も飲みやすくなります。ブルーキュラソーの青い色と相まって、めちゃくちゃ爽やかな飲み心地!
この残波トニックは実は当時の彼女のお気に入りでもあり、よくこれで乾杯していたので女子ウケもいいかもしれません(その後、僕はこっぴどくフラれてしまいましたが)。
こちらは店名を冠する「響らぁめん」。久留米ラーメンをベースにした豚骨スープはとことん濃厚で、細麺によく絡みます。味の説明はいらないですよね、めっちゃうまい。
そしてこの「どて飯」。白ご飯に煮込んだ牛すじと半熟卵を乗せ、甘辛いタレとたっぷりのネギをぶっかけた最強サイドメニューです。
学生の食欲とは旺盛なもの。ラーメンにミニどて飯がついてくるセットがあるのに、当時はわざわざ単品で、一番大きいサイズを注文するほど。
ということで当時と同じ注文をしたのですが、想定よりもかなり大きい。3年前のおれすごいな、食べきれるかな。とりあえず、いただきます。
ラーメンをすすって……。
どて飯をほおばり……。
残波トニックで流し込む!
最高! こってりした味付けのメイン料理に、ノド越しさっぱりの残波トニックがよく合います。東京でも飲めたらいいのに。
ほどよくお酒が回ってきたあたりで、呼び出した後輩が合流しました。調子こいて頼みすぎた分をおいしくいただいてもらおうと思います。
僕は学生時代、当時大学になかった陸上部を創設した経緯があり、彼は数代下の主将です。
自分の弱みみたいな部分はあまり人に見せたくないものですが、そうしないとわかってもらえないこともありますよね。今回はおいしいお酒に酔った勢いで、この機会にいろいろと打ち明けてしまうことにしました。
- 卒業以来、一度も部活に顔を出してないですよね?
- そうだね。
- どうしてですか?
- うーん、ひと言で言えば、「逃げた」からなんだけど。
- 何から「逃げた」んですか?
- いや、おれ医療業界的には国試浪人中の立場じゃん?(注:このタイミングで説明しますが、僕は医学部を卒業したものの、医師国家試験に不合格となり、ライターをしています)
- それは、そうですね。
- 医学部を卒業したら、普通は医者にしかなれないでしょう。だから、国試浪人期間に社会勉強がしたくて、この3年ライターとして医療とぜんぜん関係ないことをしていたわけで、それは多分医療から「逃げた」んだと思う。
大ッ嫌いだったんですよね、田舎のキャンパスも、そこで威張る医者も、医者にしかなれない将来も、そこにまっしぐらに進む雰囲気も。だけどそれは地方医療の一側面でしかなくて、医療そのものとは違うって、最近医療系の取材をしていて痛感した。今回ひさしぶりに帰省して、涙が出るほど懐かしかった。
— 朽木誠一郎 (@amanojerk) 2016年8月13日
- 一時期は「もう医者にはならない」と思っていたし、インタビューとかでも何度かそう言ったこともあるし、お世話になった先生たちや先輩たちにも、真面目に医療者になろうとしている後輩たちにも、合わせる顔がなくて。
- じゃあ、どうして今回、帰省したんですか?
- 「泡盛の企画」で残波トニックを思い出した、というのもきっかけなんだけど、実は別に理由があって。少し前に奨学金を完済したんだよね。
- いくらですか?
- 300万。
- 300万!?
1枚229,000円×12枚の領収書
- 「医学部を卒業したのに医者にならない」ことの代償だね。当時、学費と生活費を自分で出していたから。で、間が悪いことに、国試浪人1年目にその返済がスタートしちゃって、今年の3月が返済期限で。
- よく返済できましたね。
- それはもう、今の会社とか、取引先のおかげで本当にありがたい。でも、この返済があるから意地になって「もう医者にはならない」と言っていたのもあるんだよね。この300万は医者になれば給付、つまり返済しなくてよかった奨学金だから。
- 自分の選んだ道を正解にしたい、みたいな気持ちですよね。
- うん。そのために目立とうとしたり、イキがったり、最初のうちは尖ろうとしていたんだけど、そんなんじゃぜんぜんお金が稼げなくて。社会人1年目の年収、返済額より少ないくらいだから。
- (笑)。返済できないですよね。
- でも、コツコツ結果を積み重ねるようにしていたら、どんどんいい仕事を回してもらえるようになって。フリーになって、転職して、今があるんだけど。返済が終わって、ようやく生活に余裕が戻ってきたときに、やっぱり医療に貢献したいと思ったんだよね。
- あ、じゃあ、また受験するんですか?
- そう、その挨拶回りもあって帰省した。受験するって決めたら心の折り合いがついたから、手始めに後輩を呼び出した、と。
- ありがとうございます(笑)。
- めちゃくちゃ怒られたけどな、先生たちには。
- 国試の勉強も大変ですしね。ライターの仕事はどうするんですか?
- 今は仕事の合間に勉強している状態。もともと物を書く仕事に憧れていたから、この仕事は本当に楽しいし、平行して一生続けたいので。医者×ライターで自分にしかできない価値を生み出せればいいなと思っているよ。
(左)調子をこいていた大学時代の僕 (右)笑顔でコロッケを食べる今の僕
- さっき「合わせる顔がない」って言ってましたけど。
- うん。
- 少なくとも部活の後輩としてはそんなこと気にしてないですよ。
- ぐぬぬ。
- だって、そもそも朽木さんが陸上部を作らなかったら、僕は大学で陸上やってないですし。それは現役部員やOB・OGもみんなそうなので。
- おだてなくてもおごりだよ? 経費だから。
- いやいや(笑)。
- でもまあ、自分が気にしているほど周囲は気にしていないってことかね。
- それに、先輩はいつまで経っても先輩ですから。
- 後輩もいつまで経っても後輩だもんな。
- なので、気が向いたらいつでも帰ってきてください。
- ありがとう。
そんなこんなで幕を閉じた今回の群馬への帰省。する前はものすごくハードルが高いように思えたものの、終わってみれば何てことなかったというか、よかったです。
思い出の「残波トニック」の力を借りることで、シラフでは話しにくい、超個人的な事情も話すことができました。正直、これを人に話すかどうかはかなり悩んだのですが、今はとてもスッキリしています。
みなさんにも、もし、しばらく食べていない味や、帰っていない場所、会っていない人がいたら、次の休みでも足を運んでみるといいかもしれません。
大学時代と同じメニュー食ったらマジの胃もたれでヤバイ。これが、老い……。
— 朽木誠一郎 (@amanojerk) 2016年8月13日
ただし、時間はそれなりに流れているので思わぬダメージを受けることがあります。ご注意ください。
「食彩麺酒房 響」へのアクセス
著者:朽木誠一郎 (id:seiichirokuchiki)
ライター・編集者。地方の国立大学医学部を卒業後、新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクション・有限会社ノオトで基礎からライティング・編集を学び直す。現在はMac Fan「医療とApple」連載中。紙媒体はプレジデント/WIRED/書籍の編集協力 、ウェブ媒体はForbes/現代ビジネスなどで執筆。ブログ「あまのじゃく日記」では書きたいことを自由に書きます。
Twitter / ポートフォリオ