夏と聞いて思い浮かべる食べ物といえばなんだろうか。
私はカレーやそうめん、そのあたりがパッと浮かぶ。
カレーといえば2016年に公開された映画『セトウツミ』で、主人公の男子高校生が「しょうきち! はよ帰りぃや。今日カレーの初日やで」と母に言われて「何日か続くの前提やん……」とガックリ肩を落とす姿がなんとも愛らしくもおかしく、印象に残っている。
この映画を思い出した後、これがカレーではなくそうめんだったらどうだろう、とふと考えてみた。カレーは何日でも食べられるけれど、そうめんは毎日食べるという発想になかなか結び付かないように思う。
そこで一緒に暮らす恋人に
「カレー、何日食べ続けられる?」
と試しに聞いてみると
「毎食は嫌だけど、一日一食ならひと月は余裕」
と言うので
「じゃあ、そうめんは?」
と尋ねてみる。すると
「美味しいよね。でも毎日は飽きちゃうかなあ」
と。
ふむ。
カレーに比べて“飽きる”というイメージが強いように感じるそうめん。
お中元でいただくことも多く、私の職場にも毎年届く。「ウチにもいっぱいあるし、めんつゆで食べるばっかりで飽きちゃって使い切るのが大変なのよね」と眉をひそめる先輩から、快く譲り受けることもあった。
そうめんは手軽な食材だけど、夏が終わる前に余らせて、そのまま冬眠させてしまうというのも分からなくもない。けれども、食べ方さえ工夫すればいくらでも楽しめるはず。つゆにつけるだけじゃなくてもいい。野菜と組み合わせたり、揚げたりしてもきっと美味しいだろう。
そこで今回は、そうめんの可能性を探ってみるために、さまざまな食材を組み合わせたそうめんのアレンジ料理を味わっていこうと思う。まずは一週間、やってみようじゃないか。
1日目:昆布炊き梅と冬瓜のすり流しそうめん
まずは昆布の香りを含んだ梅干しと冬瓜の冷たいスープを。たったこれだけだけれど、するりと胃に収まって夏バテにも効く。
昆布は10cmほどに切り、サッと水にさらしてふやかす。梅干しをのせ、弱火でじっくり焼くと昆布のいい香りが漂ってくる。
冬瓜は夏が旬だ。冬まで保存がきくことからこの名が付いたという。その姿はまるで可愛いウリ坊。
皮をむき、ひと口大に切ったら、ひたひたの水でスッと箸が通るまで煮る。あとは冬瓜を約半量ミキサーにかけて冷やす。100mlの水に大さじ4ほどの冬瓜のすりおろしと、白だし大さじ1を加えて、スープの完成。ヴィシソワーズを作る時の行程から着想を得た。
梅をほぐして泳がせれば金魚鉢のようで、ほら涼やか。
ミキサーにかけなかった分の冬瓜は白だしに浸しておひたしに。冬瓜とズッキーニは、我が家の夏のおひたし二大巨頭で、どんな料理の邪魔をすることもないから重宝している。
この夏の始めの三連休は夏風邪をひき、恋人とふたりで熱を出してこんこんと寝込んだ。
グッタリ眠って連休にもったいないことをしたと悔いていたら、恋人が「一緒にいっぱい眠れて幸せだ」と寝ぼけ眼にこぼしていて価値観が変わった。元は私が連れてきた風邪だったけれど「最初から覚悟してたよ」と言ってくれて救われた。
少し食べてはまた眠り、昼と夜が定かではなかった。
何時間眠ったか数えるのをやめた頃にぬるくなった氷枕を変えて、麦茶と、梅の味がするそうめんをすすった。今年の夏は、ふたりで引いた風邪が一番最初の思い出かもしれない。
2日目:桃雪そうめん
続いては10分で完成するお手軽な桃雪そうめん。まだ風邪がすっきりせずヘトヘトだったけど、コンビニ飯に逃げなかった自分を褒めてあげたい。
そうめんを美しく盛り付けたい時は端を縛って茹でるといいみたい。水にさらして冷やし、盛り付ける直前に紐を切る。結び目を底に、螺旋状に巻けば巻き貝のように滑らかな曲線を描く。
すりおろした山芋100gに、ほぐした明太子を和える。かき混ぜたものを先ほどのそうめんにとろりと流し込めば、淡い桃色のゲレンデのように見える。
大和芋は粘りが強いので、山芋がベストだと思う。トッピングは海苔とセロリの葉で。
3日目:ベトナム風そうめんとそうめんの生春巻
熱も引いて、病み上がりにとにかく汗をかこうということになった。
イメージは、ベトナム料理のフォー。用意したシャンタンスープに、とびきり辛くするために砕いたピッキーヌ(唐辛子の一種)を5本も投入した。鶏モモ肉は昆布と共に炊く。あっさりとしたスープに溶け込んだカプサイシンが身体の内側から皮膚を突き刺して、汗と一緒に全てが流れるような気がした。
春雨の代わりに、そうめんを使って生春巻も作った。
パプリカ、キャベツなどの生野菜、そして忘れちゃならないパクチー。それからイクラを包んだ。レモンをしぼって、ひと口サラダ感覚で食べられる。
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4日目:そうめんのかき揚げ丼
on the ライス。炭水化物 on 炭水化物 is ジャンク界の正義。焼きそばパンやマクドナルドのグラコロ……と同じ風情がある。
主役は昨晩の余ったそうめん。茹でた麺が余ってしまったら、少しの油をまぶしておけば翌日も美味しく活躍してくれる。水気が出てしまっている場合は軽くキッチンペーパーで押さえてあげる。
ボウルに、そうめん、薄切りにした玉ねぎ2分の1、3cmに細切りした人参、2〜3cmに切りそろえた春菊(or 三つ葉 or 大葉)、炒りごま大さじ1を入れて混ぜる。全体がなじんだら小麦粉小さじ2を振り掛けてさらに混ぜる。
天ぷら粉をまぶして170度ほどの油で揚げる。1本1本がカラリと揚がっていていい具合。熱々のうちに軽く塩を振って出来上がり。
さらに、だし醤油、砂糖、みりんを3:2:1の割合で混ぜて、甘じょっぱいタレを作る。これを上からかけ、かき揚げをパリパリと崩しつつタレでふやけた甘いお米をかき込む。あまい、うまい。
5日目:華麗なるカレイのカレーつけめん
私はカレイの縁側が大好きなのだが、そんなカレイの縁側がとろとろに煮込まれた、酒呑みに朗報の缶詰がある。
それがこの「カレイの縁側・醤油煮込み」。美味しいに決まってる。鮭の中骨水煮、鰻の骨をカリッと揚げた「うなぎボーン」や骨には目がない私だが、こればっかりは骨抜きだ。
カレイのうま味がたっぷり溶け込んだ缶詰の油を鍋に注ぎ、輪切りにした茄子を焼いていく。しんなりとしてきたら水をひたひたに注ぎ、カレーのルーと縁側を加えるだけでつけだれが完成。
かつお節などの魚粉を加えると、より一層和風の良さが引き立っていい。めんつゆだれと食べ比べるとこれがまた楽しい。
残った縁側は舞茸と一緒に炊き込みご飯にしたら、これもまた絶品だった。
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6日目:そうめんのひと口ピーマン焼き
お弁当のおかずにもいけるそうめんのひと口ピーマン焼き。
納豆1パック、茹でたそうめん3分の1束、しらす約20gをよく混ぜる。
テフロン加工のフライパンに、溶けるチーズ、厚めに輪切りしたピーマンをのっける。そこに先ほどの混ぜたそうめんを詰め、中火で焼く。チーズがとろけて広がってきたら、ピーマンの縁に寄せてあげるとふたになってgood。
フライ返しでひっくり返して、そうめんがカリカリに焼けたぐらいが食べ頃。ふりかけをかけても楽しいかもしれない。そうめんをお米に変えたり、具材を変えてみたり、ピーマンをトマトやパプリカにしてみたり、アレンジして色々作ってみようと思う。
7日目:鯛とイクラの冷汁風そうめん
最終日に作るのは、鯛とイクラの冷汁風そうめん。材料を盛り付けるだけだから、仕事帰りでもパパッと贅沢ごちそう気分。
そうめんの上に鯛、イクラ(利尻昆布だしいくらを使用)、きゅうりを味噌和えした冷汁をかけていただく冷やし海鮮そうめん。この夏、我が家で定番化している冷汁は瓶ひとつでできる上に、そのまま保存もできて重宝している。
冷汁の材料に使うきゅうりは、ピーラーで1本を薄切りにする。瓶に味噌、熱湯を各大さじ1加えてよく混ぜておく。ここにきゅうりを加え、よくシェイクするだけ。
このまま冷蔵庫に保存して、サバ缶と合わせて冷汁にするも良し、冷奴にのせるも良し。魚との相性が良くて、夏に使える憎いやつだったりする。
仕上げに柑橘系のポン酢を回しかけると、ご馳走である。
お中元でもらった後に冬眠しがちというイメージのあるそうめんは、こうして味わい尽くされていった。お腹が膨れ、気持ちも満たされる。
§
7日間たっぷりそうめんを味わった翌日の月曜日は、恋人とふたりで有休を取っていた。
翌日が休みの日曜日の夜なんて最高に贅沢だ。
家で夕飯を食べた後、夜の新宿で映画を観て、駅へ急ぐ遊び疲れた若者たちの顔を尻目に、何の憂いもなく帰りの電車に揺られた。
人気のないホームで、恋人が繋いだ手を上にかかげる度にくるりと回ってダンスした。
一緒に暮らして間もなく1年が経つ。
左側が決まって私の定位置で、出かける時も眠る時も右手を預けている。
思い返してみれば、今では眠っていても無意識に手を握り返してくれる。
横に自分がいることが自然なことのようで嬉しい。
著者:おりえ
美味しいごはんとお酒が好き。年上の恋人とふたり暮らし。焼酎が飲みたくなれば屋久島へ飛び、タジン鍋が食べたくなればモロッコに、ビールが飲みたくなればベルギーまで行きました。最近気になっているのは昔ながらの中華料理店です。
Twitter:@orie13a
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