世田谷区に位置し、東急田園都市線と、東急大井町線の2路線が通る二子玉川。駅のすぐそばには多摩川が流れており、東京23区内でありながら、落ち着いた雰囲気が漂う街です。さらに近年は駅前の再開発が進み、「二子玉川 蔦屋家電」や「H&M」などが入った複合施設「二子玉川ライズ」がTVや雑誌で取り上げられ、注目を集めています。
この「それ どこで買ったの?」を運営している楽天も、2015年9月に「二子玉川ライズ」へと本社を移転します。
今どきのカフェや、高級なレストランも次々とでき、日々変わっていく二子玉川ですが、変わらない風景もあります。
それは「玉川タカシマヤ」のすぐ裏にある二子玉川商店街。昔から二子玉川に住む人々の暮らしを支えてきたこの商店街には、さまざまなお店が軒を連ねています。二子玉川を訪れ、その温かさに魅了された「それどこ編集部」の2人が、とっておきの5軒を紹介します。
西河製菓店
「二子玉川商店街」の入口すぐにあるのが、1967年(昭和42年)からこの土地で和菓子店を営む西河製菓店。“商店街の顔”ともいえる、人気の和菓子店です。親子二代で切り盛りしています。
店頭に立ち、手際よく和菓子を包むのは息子さんの奥さん。パティシエを志し進学した製菓学校で、息子さんと知り合ったそうです。目指していた世界とは“真逆”ともいえる和菓子店に嫁いで19年。結婚を決めた当時の心境を伺ったところ「和菓子も大好きだったので、結婚するときはうれしかったですね」と笑顔で答えてくれました。
「『二子玉川駅を降りたら私の声が聞こえる』って言われてるのよ~。『笑っていいとも!』にも出たことあるの」と話す、名物お母さんとパシャリ。お店には、出演時にもらったという笑福亭鶴瓶さんの色紙が飾られていました。
ショーケースに並ぶ、素朴な和菓子たち。添加物は一切使わず、すべて手作業で作っています。1番人気は、北海道産の有機栽培赤えんどう豆を使用した「豆大福」(税別120円)。
大きな豆が練りこまれたやわらかい餅の中に、やさしい甘さのつぶあんが入っています。
「くず桜」(税別120円)は、本葛を100%使用した夏の限定商品。冷蔵庫で冷やすと硬くなってしまうので、なるべく早めに食べるといいそう。定番の「みたらしだんご」(税別80円)は、あぶった香ばしい団子と、甘辛いタレの相性が絶妙です。
お店には、いなりずしや太巻きなどの“ご飯もの”も置いてあります。和菓子屋さんにおすし? と不思議に思い聞いてみたところ、昔ながらの和菓子屋さんではよく取り扱っているそう。お揚げをお店で煮込んでいる「いなり」(税別70円)は、嫁ぐ前はいなりずしが苦手だったという奥さんも大好きという一品。
「うちのお店で作っている和菓子は、保存料や人工甘味料が入っていません。日持ちはしませんが、もともとはそれが“自然”なこと。決して特別なものではないけれど、そうじゃないものが世の中に増えてきたからこそ、安心して食べてもらえているのかなと思います(奥さん)」
【西河製菓店】
- 世田谷区玉川3-23-29
- 9:00~19:00(なくなり次第終了)
- 月曜休(ほか月に2回ほど休)
鮎ラーメン
西河製菓店を後にし、商店街をまっすぐ進むと見えてくる「鮎」の文字が書かれたちょうちん。ここは、全国でも珍しい、鮎を使ったラーメンが食べられるお店です。店名はストレートに「鮎ラーメン」。
カウンターだけのこじんまりとした店内は、お昼どきや週末ともなれば、すぐさま満席に。並ばずに食べたい! という方は、平日の開店直後ならスムーズに入店できる可能性が高いとのこと。
「鮎ラーメン」は、もともと二子玉川でレストランを開いていた創業者が、鮎の名産地である岐阜県の出身だったことから誕生しました。しかし、スイカのような独特の風味がある鮎の調理は難しく、また海水魚に比べ“ダシ”があまり出ないことから、開発には3年の月日を要したと言います。
それでも鮎にこだわった理由は「他にやっているところがないから」。独創性を追い求め続け生まれた、こだわりのメニューです。
お店で使用されている鮎は、馬瀬川や宮川など、岐阜県の川で採られたものが中心。20cm前後の鮎を一夜干しにし、あぶってラーメンの上に乗せます。今回注文した「鮎マルゴトラーメン※正式名称は「マルゴト」の箇所が、◯(マル)の中にゴト」(税込1,000円)は、その名の通りラーメンの上に鮎が丸々1匹乗っています。「鮎ラーメン」(税込600円)は1/4、「鮎ゴトハーフ」(税込800円)は1/2と、メニューによって鮎のサイズが異なります。
焼いた鮎と鶏ガラ、香味野菜などでとったスープで塩ダレを溶いた、さっぱりと透明感のある1杯。ひと口、ふた口と食べ進めると、あぶった鮎の香ばしさが次第にスープになじみ、味に奥行きが増します。男性客はもちろん、女性客が多いという話もうなずける味わい。
細めのちぢれ麺にスープがよく絡みます。鮎は丁寧に骨が取られており、頭から丸ごと食べられます。するすると胃に入っていくので、あっという間に食べ終わりました。
「おすすめだから、食べてみて」
と出されたのは、鮎の骨からとったダシで白米を炊いた「鮎姫ゴハン」(税込200円)です。残ったスープに浸しながら食べると、びっくりするほどおいしい……! ほか、スープに使った鮎の身をほぐして混ぜた1日50個限定「鮎焼きおにぎり」(税込200円)もあります。
鮎の旬は夏。鮎ラーメンも、一番おいしい季節は夏とのことなので、ぜひ来訪してみては。
※今回紹介したメニューはディナータイムのみの提供です
※9月末までランチタイムは「鮎涼ラーメン」を提供
【鮎ラーメン】
- 世田谷区玉川3-15-12 玉川3丁目マンション102号室
- 11:30~14:00、18:00~25:00(いずれもスープがなくなり次第終了)
- 年末年始のみ休
焼鳥専門店 ふらっと
二子玉川商店街から少しだけ中に入ると見えてくる、ハワイアンな建物。「サーフショップかな?」と思いきや、実は焼鳥屋さんなんです。
……焼鳥屋さんです。
二子玉川で生まれ育ったご主人は、高校生のころから波に乗り続けているという生粋のサーファー。鎌倉の焼鳥屋で修行したあと独立し、フラダンスが趣味の奥さまと、大好きなハワイをイメージしたお店をオープンしました。
「自分たちが好きな空間を作れるのが、個人店の面白さですから。仕事していて気持ちいい環境を目指したら、ハワイだったんです。お店がオープンして1年くらいは、お客さんに毎日『なぜハワイなのか』と聞かれ続けていました(笑)(ご主人)」
2012年にお店がオープンして、今年で4年目に突入。そのアットホームな雰囲気から、地元住民の行きつけのお店として定着しました。2階には座敷席もあり、平日は“ママ会”、休日は家族連れなどで賑わいます。お店がコンパクトなため、隣りに座ったお客さん同士が仲良くなることも多いのだとか。
お店で提供する焼鳥は20種以上。日によって、さえずり(食道)などの希少部位もメニューに並びます。すべて国産鶏を使用しており、1つ1つ串に手刺しし、国産の備長炭で炭火焼きにします。お酒の種類が豊富で、焼鳥用に作られた日本酒などを常備。ほか490円均一で提供している焼酎も人気です。
「鶏もも肉のタタキ」(税別750円)は、新鮮な九州地鶏を使用。添えられたゆずこしょうを少し付けて食べると、お酒が進みます。
「おまかせ5本盛」(税別690円)は、店主おすすめの串が運ばれてきます。この日は「かわ」「ぼんぼち(テール)」「つくね」「ささみ梅肉」「ねぎま」の5本。ほとんどのお客さんが注文する、定番のメニューです。単品だとレバーなども人気だとか。
「うちのお客さまは温かくていい人ばかり。理想のお店だなって思います(ご主人)」
【焼鳥専門店 ふらっと】
- 世田谷区玉川4-10-1
- 月~土17:00~24:00(LO23:00ごろ)、日・祝17:00~23:00(LO22:00ごろ)
- 不定休(月曜休みの場合が多い。要問い合わせ)
藤屋ベーカリー・ジュン
1980年(昭和55年)にオープンした「藤屋ベーカリー・ジュン」は、二子玉川に住む人たちと共に成長してきたパン屋さんです。毎日、たくさんのお客さんがここでパンを買って、仕事や、学校や、家へと向かいます。
決して広くない店内に並ぶのは、約80種のパンたち。食パンにはじまり、サンドイッチ、コッペパン、揚げパンなど、さまざまな種類のパンがそろっています。1日の中で、最もたくさんパンが並ぶのは、お昼の12時30分ごろ。それでも、次々にお客さんがやってきてはパンを買っていき、あっという間に少なくなってしまいます。
食パンの袋に印刷されている「ミネラル」という文字は、パン生地に使用している“ミネラルウォーター”をもじっています。今ではコンビニやスーパーで気軽に変えるミネラルウォーターも、当時は珍しかったそう。
お店の定番メニューは、きゅうりがたっぷり入った「やさいサンド」。ご主人が毎日、トントン、トントンときゅうりを切って作っています。TVで紹介された際には、岡山県や鳥取県からわざわざ買いに来た人もいたそう。
どのパンも素朴でほんのり甘く、手作りの具材やクリームはやさしく味付けされています。毎日食べられる、生活に密着したパンという印象を受けました。
“脱サラ”したのち、パン屋さんで1年間修行をし開業したご主人。結婚して53年目を迎える奥さんと、36年このお店を守ってきました。
「そのころ、パンブームだったから、パン屋をやろうと。もともと金属関係の仕事をしていたもんで、金属を触っていた手でパンをこねるのは、感触が違ってね。全部が苦労でした」
開店当時から使われている、パンを入れる木箱。焼きたてのときは水分を吸ってくれ、逆に焼いてから時間が経ったときはパンを保湿してくれる優れもの。木の色味とかすれた「藤屋ベーカリー」の文字が、このお店の歴史を物語っています。
「これだけ長くお店をやってこれたのは、やっぱりお客さんのおかげ。小さいころお母さんに連れられて来ていた子どもが大きくなってからも買いに来てくれたり、遠くの土地に引っ越した方が『どうしても食べたくなって』と言ってお店を訪ねてくれたり。常連さんと一緒に、年をとってきたなあと思います」と話すのは奥さん。
レジには、お客さんとの会話の内容をメモしたレシートが置かれており、1枚1枚嬉しそうにめくりながら、思い出を語ってくれました。
家でも仕事でも、ずっと一緒にいるというおふたり。最後に夫婦円満の秘訣(ひけつ)をご主人に聞いたところ「仕事が忙しいからケンカしているヒマがないです(笑)」と答えてくれました。
【藤屋ベーカリー・ジュン】
- 世田谷区玉川4-8-4 深志ビル1F
- 7:00~20:00
- 木曜休
炭火焼肉 スップル
「藤屋ベーカリー・ジュン」から少しだけ歩くと、「炭火焼肉 スップル」の赤い看板が見えてきます。芸能人や食通も訪れる、二子玉川の名店です。
もともとこの場所では、オーナーの親友が焼肉店を経営していました。しかし、2006年にオーナーがお店を引き継ぎ「炭火焼肉 スップル」として新たに生まれ変わりました。現在は義理の息子さんと2人で営業しています。
テーブル席5つのみの店内は、平日でもほぼ満席。週末は予約すらすぐに埋まるそうです。
一部のメニューを除き、ほとんどのメニューで和牛を使用。備長炭を使い七輪で焼きます。
脂身と赤身のバランスがほどよい「カルビ」(税別950円)。ふわっとやわらかく、肉の甘みが感じられます。
「上ハラミ」(税別950円)は、噛めば噛むほど肉の旨みを感じられる一品。
常連の人気が高い「大阪ホルモン」(税別600円)は、牛の小腸のこと。口に入れるとプリプリの脂身から、甘い脂がじゅわっとあふれます。
「FUTAKOTAMAGAWA CITY」と書かれたTシャツが素敵なオーナー。二子玉川でお店をやっていて、感じたことを聞いてみました。
「二子玉川は飲食店をやるには難しい土地。お客の舌が肥えてるし、いいものを出さないと納得してもらえない。でも、気に入ってくれればとことん使ってもらえるいいお客さんがいる所ですよ」
2015年2月には、三軒茶屋に2店舗目となる「焼肉 じゅうじゅう」をオープンしたそう。どんなお店か聞いたところ「ここよりいい肉使ってるよ。値段もいいけど(笑)」と答えてくれました。
【炭火焼肉 スップル】
- 世田谷区玉川4-10-20
- 月・水~金18:00~24:00、土・日・祝17:00~24:00
- 火曜休
二子玉川のお店を巡ってみて
今回、二子玉川のお店を取材してみて感じたのが、街や人の優しさと温かさ。お店の人はもちろんのこと、取材中に出会ったお客さんが「このお店おいしいから!」「ここは本当にいい店だよ」と、口々におっしゃっていたのが印象的でした。最後の取材を終え二子玉川をあとにするころには、「いい街でしたね……(それどこ編集スタッフA)」「本当にいい街でした……(それどこ編集スタッフB)」と二子玉川を称える言葉が自然とこぼれました。
駅前でのショッピングもよいですが、二子玉川に訪れた際はぜひ「二子玉川商店街」に足を延ばしてみてください。