こんにちは、少年Bと申します。自他共に認めるぶどうマニアです。
さて、皆さんは「ぶどう」というと、どんな品種をイメージしますか? 巨峰? デラウェア? それともシャインマスカット? パッと名前が出てくるのはこんなところでしょうか。
でもそれだけじゃありません! 日本では生食(生のままで食べること)用として60種類以上の品種が栽培されています。ぶどうは最も幅が広いフルーツと言っても過言ではないんです 。
そして、品種ごとに色も形も大きさも、そして味も全然違う! 日本のどこかに、まだ知らぬ好みドンピシャのぶどうが眠っているかもしれないんですよ……! 楽しいに決まってますよね。
今回は、そんな奥深い世界に魅せられた3人のぶどうマニアが集結。某伝説級マンガになぞらえ、「天下一ぶどう会」を開催しました!
……といっても死闘を繰り広げるわけではないのですが、例えるなら亀仙人が悟空やクリリンと戦う師弟対決のような熱気があります。
佐藤明彦さん(研究者代表)
近畿大学教授。30年間、農研機構にてぶどうと柿の育種(新品種開発)に携わる。関わった代表的な品種はシャインマスカット、クイーンニーナ、サニールージュなど。人生で衝撃を受けたぶどうは「巨峰」。
林慎吾さん(生産者代表)
林ぶどう研究所・所長。「果物王国」岡山県に在住。大のぶどうマニアでもあり、有名無名を問わず、100種類以上のぶどうを栽培しているほか、育種、情報発信にも力を入れている。マスカットジパングの開発者。思い出のぶどうは「ピッテロビアンコ」。
少年B(消費者代表)
年間100房以上のぶどうを食べるライター。10年にわたってさまざまなぶどうを食べまくってきたぶどうマニアで、ぶどうの同人誌を作ったり、各メディアでぶどうの記事を書いたりするなど、ぶどうの魅力を布教している。「サニールージュ」に出会い、ぶどうの沼に。
佐藤さんは今をときめく「シャインマスカット」の育成に関わった研究者。林さんは「マツコの知らない世界」出演歴もある生産者。そして、わたしはぶどうが好き過ぎてぶどう同人誌を作ってしまった消費者。
自分で言うのもなんですが……それぞれの立場を代表する、ぶどうの知識やぶどう愛が「すごい人」が集まっている!!! こうやって多面的にぶどうを語り合う機会はめったにありません。ワクワクしてきたぞ!!!
全体を通して登場する品種はなんと20種近く。これで「気になるぶどうがなかった」なんて言わせませんよ!? それでは2時間に及んだ怒涛のぶどうトークをご覧あれ!!!
いま食べてほしい「推しぶどう」はコレだ!
今日は「天下一ぶどう会」にお集まりいただき、ありがとうございます。
別にバトルするわけではないんですが、必殺技を繰り出すように、ぶどうの知識とぶどう愛を披露していただけたらと思います。
よろしくお願いします!
佐藤さんも林さんも「ぶどう界」のすごい人なのでご一緒できて光栄です。 でも「ぶどう愛」ならわたしも負けませんよ。
早速ですが、皆さんがいま消費者に食べてほしい「推しぶどう」を挙げていただこうと思います。
すみません。3種類と言われてたのに、どうしても選べず、わたしだけ4種類にしてしまいました(笑)。
こうして見てみると、
- 佐藤さん:「シャインマスカットとそのルーツ」
- 林さん:「マスカットジパングとそのルーツ」
- 少年B:「シャインマスカット以降の新品種」
がテーマになっていそうですね。
では、みなさんにそれぞれの推しぶどうを熱く語っていただきましょう!
- 【シャインマスカット】香り・食べやすさ・粒の大きさ、全て優秀な「奇跡のぶどう」
- 【スチューベン】とにかく甘い! 「はちみつぶどう」の異名を持つぶどう
- 【マスカット・オブ・アレキサンドリア】さわやかな香りとジューシーさ、岡山の代表品種
- 【ルーベルマスカット】誰もが「おいしい!」と言うが栽培が難しいぶどう
- 【マスカットジパング】1万分の1の確率で誕生した、皮ごと食べられる大粒の種なしぶどう
- 【マスカ・サーティーン】シャインを正統な形で進化させた、甘さと上品な後味
- 【クイーンセブン】キャンディ感覚、最も糖度が高いと言われるぶどう
- 【BKシードレス】硬めの食感&濃厚で甘くてジューシー
- 【クイーンニーナ】プリッとした硬めの歯ごたえがおいしい
※【甘さ】【香り】【酸味】【食感】の星の数は、もっとも馴染みのある「巨峰」をオール3とし、少年Bの独断と偏見で評価したものです
※【酸味】の星の数は、酸味が多いか少ないかを示しています
【シャインマスカット】香り・食べやすさ・粒の大きさ、全て優秀な「奇跡のぶどう」
【甘さ】★★★★★
【香り】★★★☆☆
【酸味】★☆☆☆☆
【食感】★★★★☆
【交配】安芸津21号(スチューベン × マスカット・オブ・アレキサンドリア) × 白南(カッタクルガン × 甲斐路)
最初に選んだのは、私が育種に携わった「シャインマスカット」(以下、シャイン)です。もう読者の皆さんも食べていると思いますが、収穫時期や産地によって見た目や味が違うので、ぜひ食べ比べてほしいと思っています。
- 育種(いくしゅ)……交配などによって今ある品種にない特性を持つ新品種を作り出すこと。品種改良。
シャインマスカットは本当にすごい! ぶどうは品種同士を掛け合わせて新品種を開発しますが、シャインの祖父母に当たる品種はみんな、いいところと悪いところが両極端な品種ばかりなんです。そのいいところだけを受け継いでいる「奇跡のぶどう」ですよね。だから本当においしいし、ある種ぶどうの一つの理想形とも言える。
- シャインマスカットの「家系図」……シャインマスカットは安芸津21号(スチューベン × マスカット・オブ・アレキサンドリア) × 白南(カッタクルガン × 甲斐路)の交配によって誕生した。
シャインに通信簿を付けるとすると「オール4」ぐらいだと思いますよ。香りは「マスカット・オブ・アレキサンドリア」、粒の大きさは「藤稔(ふじみのり)」、種の抜けやすさは「ピオーネ」と、個々の要素で見るともっと優秀な品種は他にあります。
だけど、一つも「1」がないのがシャインの強みなんです。「1」があると、なかなか栽培が広がっていかないので。
バランスがいいですよね。こんな品種はそうそうできないですよ。今や全国どこでも栽培しているメジャーな品種になりましたが、産地によって戦略が違いますよね。
私が住んでいる岡山はシャインマスカットの中でもこだわった高級志向の「晴王」(はれおう)というブランドぶどうを作っています。
岡山は見た目というか、粒の大きさや色を重視していますよね。黄色っぽいシャインじゃなくて、緑色にこだわっているというか。
香川も考え方が岡山に近くて、緑色のシャインを出していますね。長野や山梨は粒の大きさや緑色の鮮やかさよりも完熟にこだわって、糖度の高いものを出しています。
香川産「シャインマスカット」を詳しく見る
長野産「シャインマスカット」を詳しく見る
山梨産「シャインマスカット」を詳しく見る
シャインは熟すとどんどん緑から黄色になっていくんですが、緑色のものは何と言ってもマスカットの香りが高く、さわやかな味わいです。完熟して黄色くなったものは、まろやかでとにかく甘い。
産地ごとに特徴が出る部分だと思うので、ぜひいろいろ食べてみてほしいです。
シャインマスカットは語ろうとするとこれだけで終わってしまいそうなので(笑)、またあとで時間をとります。
【スチューベン】とにかく甘い! 「はちみつぶどう」の異名を持つぶどう
続いては「スチューベン」。シャインの母方のおばあちゃんに当たります。ぜひシャインと食べ比べてほしいなと思って選びました。
主に11月末から2月にかけてスーパーに並ぶ小粒のぶどうですね。甘くておいしいです。
スチューベンはニューヨーク農業試験場で作られた品種です。東北や北海道に似ている環境なので、ニューヨーク生まれの品種は、日本でも露地栽培できる場合が多いんです。そういうわけで、昭和30年代に日本に入ってきたスチューベンは、現在青森を中心に栽培されています。
- 露地栽培(ろじさいばい)……ハウスなどの施設を使わず、屋外の畑で栽培する方法。
昔は作っていたこともありますが、栽培しやすいぶどうという印象があります。
そうなんです! スチューベンの「栽培のしやすさ」がなければシャインは生まれなかったんですよ。シャインと食べ比べて、どれだけ味が変化したかを感じてもらえれば。
よく「はちみつぶどう」なんて言われますが、とにかく甘くて、変なクセがなくて、おいしい。小粒で、皮は厚くて種もあるのが欠点なんですが、アメリカ系で一般的に流通している品種では一番好きです。
- アメリカ系……ぶどう属には数多くの種があり、主にヨーロッパのヴィニフィラ種、アメリカのラブラスカ種とその交雑種が知られる。一般的にヨーロッパぶどうの方が味や香りはいいが栽培は難しく、アメリカぶどうはその反対の特徴を持つ。日本では巨峰などの雑種が主に栽培されており、シャインマスカットはヨーロッパぶどうに近い雑種。現在の日本では純粋なアメリカぶどうはほぼ流通しておらず、ここでは「アメリカぶどうの特徴を色濃く残す雑種」の意味で使われている。
分かりやすい甘さで、砂糖みたいな味がするので、日本の消費者には受け入れられやすいと思いますね。スチューベンの甘さにマスカットの香りや食感を載せたのがシャインなので、シャインを初めて食べたときに「中にスチューベンがいる!」って思いました(笑)。
【マスカット・オブ・アレキサンドリア】さわやかな香りとジューシーさ、岡山の代表品種
「マスカット・オブ・アレキサンドリア」(以下、アレキ)、「推しぶどう」で唯一、2人(佐藤さんの3番目、林さんの2番目)の意見が被りました。紀元前からの歴史……これは、すごいぶどうですよ。
私がアレキを推したいポイントは、何といっても岡山の代表品種ですし、味・香り・果汁感のバランスが絶妙というところです。
アレキならではの良さはどういうところでしょうか?
最近のぶどうはパリッとしていて、果汁が少なめの品種が多いですよね。アレキには今のぶどうにはないジューシーさがあると思います。
品質という点で私が強調したいのは、何と言っても香りの良さです。香りに関してはシャインよりもアレキの方がいいと思っているので、ぜひ楽しんでほしいですね。華やかで、バラの花のような、他には代えがたい香りがするんです。
確かに、味や香りに関しては今でも一級品です。かんだときに、鼻に抜ける香りがさわやかで、幸せな気分になる品種ですよね。
アレキは現在も生産量の95%が岡山で作られている、まさに岡山を代表すると言ってもいい品種です。なぜ他の産地では作られないんでしょうか。
あくまでも栽培環境の問題なので、ハウスがあればどこでも作ること自体はできると思います。ただ、施設維持という観点では、岡山は北と南に山地があり、台風を防げます。そういったところがハウス栽培に向いているということはあるかもしれません。
あとは岡山の先人が栽培技術を確立してくれたのが大きいと思います。いかに手間をかけられるかどうかがアレキ栽培のカギですよね。水分のコントロールとか病気の予防とか、うまく管理をしなきゃいけない。
日本でぶどう栽培が本格的に始まったのは明治時代のことなんです。鎖国が解かれて、海外からぶどうが入ってきた。ただ、アレキなどのヨーロッパぶどうは日本の気候に合わず、ほとんどが全滅してしまったんです。
そんな中、唯一残ったのが、岡山のガラス温室で栽培されていたアレキなんです。だから、岡山の方々の努力がなければ、今のアレキはもちろん、その子どもや孫に当たる数多くの品種、もちろん、シャインも生まれてこなかったでしょう。
現在の日本の高級品種はほとんどがアレキの血を引いていますからね……。
【ルーベルマスカット】誰もが「おいしい!」と言うが栽培が難しいぶどう
【甘さ】★★★★★
【香り】★★★★★
【酸味】★☆☆☆☆
【食感】★★★★☆
【交配】甲斐路 × 紅アレキ
続いては私のイチ推しぶどうですね。「ルーベルマスカット」は私の師匠が育種された品種。皮ごと食べられて、味・食感・香りなど全てのバランスが絶妙な赤いぶどうです。
- マスカット……一般的には緑のぶどうのイメージが強いが、実は色は無関係。「ルーベルマスカット」のような赤いマスカットのほか、黒いマスカットもある。海外ではマスカット特有の香りがあるものをマスカットと呼んでいるのに対し、日本では、マスカットの香りの有無にかかわらず、アレキなどマスカットブドウを親にしているものをマスカットと呼んでいる場合もある。
わたしのよく行くぶどう園の方も、「味や香り、食感の全てでシャインマスカットに勝てる数少ない品種の一つ」と言っていました。本当においしいですよね。
共感してもらえてうれしいです。でも、本当に栽培が難しいんですよ……。それもあって、岡山ではほとんど作られていません。
ただ、自分で作ってみて「おいしいな」と思ったので推しました。
食べれば誰もが「おいしい!」って言うと思うくらい、本当においしいですよね。
でも、岡山では兄弟品種の「マスカットビオレ」の方が多い印象がありますね……。ルーベルは勝沼のイメージです。
そうですね。岡山だとビオレが徐々に増えつつあります。ですが、こちらも簡単に栽培できるわけではありません……。
とはいえ、ルーベルもビオレも、シャインマスカットとはまた違った魅力を持つ品種なので、ぜひとも食べてみてほしいですね。私たちもがんばって作りますので!
【マスカットジパング】1万分の1の確率で誕生した、皮ごと食べられる大粒の種なしぶどう
【甘さ】★★★☆☆
【香り】★★★★☆
【酸味】★★☆☆☆
【食感】★★★★☆
【交配】ロザリオビアンコ × アリサ(ルーベルマスカット×リザマート)
林さんの3番目は「マスカットジパング」(以下、ジパング)。林さんご自身が育種したぶどうですね。
はい。「アリサ」というぶどうの子どもで、「アリサの子どもを作りたい」と片っ端からかけ合わせてできた品種なんです。
皮ごと食べられる種なしぶどうで、マスカットの香りが楽しめます。非常に大きい粒も推しポイントです。
これは変わったぶどうで、通常はありえない変異をしたんですよね。この両親からは、本来は生まれつきの種なしぶどうができることはないはずなんです。
出願時にけっこう聞かれましたね。本当に親はこの品種なのかと聞かれたので、DNAも見てもらって。
それでDNA鑑定の結果、親は間違いないと。このような変異はぶどうでは初めて見ました。
当然、そんなのは狙ってできることではないので、たまたまできてしまったという……。1万分の1の確率で誕生しました。
これも「奇跡のぶどう」ですよね! 現在は岡山県限定の品種として流通していますが、なぜですか?
アレキの成功経験がある岡山県で、地域限定の品種にして、ちゃんとブランドを作っていこうとしたのがジパングです。
ジパングは高級ですが、ネットでも流通するようになってきましたよね。この記事を読みながら食べていただきたい……!
【マスカ・サーティーン】シャインを正統な形で進化させた、甘さと上品な後味
【甘さ】★★★★☆
【香り】★★★★☆
【酸味】★☆☆☆☆
【食感】★★★☆☆
【交配】ロザリオロッソ × シャインマスカット
では、わたしの推しを紹介させてください。まずは「マスカ・サーティーン」です。
シャインの子どもで、ごく最近出てきた品種ですよね。
はい。シャインの子どもも数多く出てきていますが、今後来るのはこれじゃないかなと思っています。シャインより皮が薄く、鼻に抜けるマスカットの香りも強い品種です。甘さに加えて上品な後味もあって、極めておいしいぶどうです。
個人的にはシャインを正統な形で進化させた品種と思っていて、シャインの次世代品種として、ぜひおすすめしたいですね。
シャインと比べても遜色ないですか?
このマスカ・サーティーンは、シャインより実が若干やわらかいんです。そこは好みが分かれるかもしれませんね。あと、ネーミングがちょっと……(笑)。たくさん種をまいたうちの13号だったのでサーティーンになったそうなんですが、もうちょっといい名前をつけてあげて! と思いました。でも、味は最高にいいですよ。
味さえ良ければ、名前は商品名としていくらでもつけられますから!
【クイーンセブン】キャンディ感覚、最も糖度が高いと言われるぶどう
【甘さ】★★★★★
【香り】★☆☆☆☆
【酸味】★☆☆☆☆
【食感】★★★★☆
【交配】シャインマスカット × マニキュアフィンガー
続いては「クイーンセブン」です。小粒ですが皮ごと食べられ、現在一般的に流通している品種の中では最も糖度が高いと言われているぶどうですね。とにかく甘いぶどうです。
山梨県でぶどうを研究している、志村葡萄研究所で育成された品種ですね。シャインの子品種をたくさん作っている研究所ですが、その中でも特徴的な品種だと思います。
種がなくて皮ごとサクサク食べられてしまうので、キャンディ感覚でいけちゃいます。見た目に華やかさがあるとか、すごく特徴があるわけではないんですが、ぜひ食べてみてほしいですね。
見た目でいうと、同じく志村葡萄研究所の「マイハート」とか「富士の輝」(ふじのかがやき)の方が特徴的ですもんね。
▲マイハートの粒。先端のへこみがハートに見える
マイハートは面白いですね。こちらもシャインの子どもで、粒がハート形をした赤いぶどう。見た目もかわいいので、これから人気が出るんじゃないかと思っています。
見た目に特徴がある品種は消費者に人気もあって強いですよね。
富士の輝は黒い大粒のぶどうで、見た目にもインパクトがあるので、贈答用などに使われていますよね。高級品種なので、金銭的にあまりたくさんは食べられないんですが……。
【BKシードレス】硬めの食感&濃厚で甘くてジューシー
次は「BKシードレス」です。ワインにも使われる「マスカット・ベーリーA」(以下、ベーリーA)と巨峰を掛け合わせた種なし品種です。親はどちらも古くから歴史のある品種なんですが、そうとは思えないほど今の消費者の好みに合った硬めの食感で、味も濃厚で甘く、ジューシーなんです。
食べやすくておいしく、栽培もしやすい品種ですよね。私もこれから伸びてくるのではないかと思っています。
ベーリーAも黒砂糖っぽい濃厚な味がしますから、それを引き継いでいるんでしょう。
ベーリーAは酸味もそれなりにありますが、甘さも濃厚ですもんね。ただ、BKシードレスは個人的には作り手によって味が大きく左右される印象があるんです。ものすごくおいしいものと、まぁまぁなものの差が激しくて。食感まで全然違ったので……。
作り手の腕は確かに出るかもしれませんね。新しい品種だと、まだ栽培技術が確立されていない場合もあります。
【クイーンニーナ】プリッとした硬めの歯ごたえがおいしい
【甘さ】★★★★★
【香り】★★★☆☆
【酸味】★☆☆☆☆
【食感】★★★★★
【交配】安芸津20号(紅瑞宝 × 白峰) × 安芸クイーン
ラストの「推しぶどう」は「クイーンニーナ」(以下、ニーナ)です。先ほどのBKシードレスと同じ「巨峰系」です。
赤系のぶどうは着色が難しいんですが、ニーナは色がつきやすい品種なので増えていますよね。市場でも目にする機会が多くなるんじゃないでしょうか。
- ぶどうの色……色によって「赤ぶどう」「黒ぶどう」「緑ぶどう」に分けられる。きれいな赤ぶどうを作るのは高い技術が必要。
ニーナの育種担当者です、ありがとうございます(笑)。ニーナは実が硬くて、プリッと食べられるものを目指して作った品種ですね。巨峰系の交配はどうしても子供の実がやわらかくなりがちなんですが、これだけは硬くなったので驚きました。
わたしの好きな品種、だいたい佐藤さんが関わってる! 同じ巨峰系で着色のいい赤品種でも、「竜宝」(りゅうほう)や「紅富士」(べにふじ)なんかはとろっとろですからね。あれはあれでおいしいんですが、流通が難しいので、主に直売所でしか買えないという。
ニーナはいちごみたいな香りがするし、味も面白いです。
失礼ですが、ニーナは「安芸クイーン」の後継品種ということで、当初は「色付きのいい安芸クイーン」ぐらいにしか思われていなかったと聞いています。でも、実際に食べてみたら、特徴は全然違うけど、すごくおいしかった。
安芸クイーンは実の硬さはないけど、とても甘くてジューシーですもんね。
安芸クイーンの方は巨峰に近い印象ですよね。硬くて歯ごたえのあるニーナとは、かなりイメージが違うと思います。これも食べ比べてみてほしいですね。
巨峰系は皮ごと食べられる品種が少ないですが、やっぱり日本のぶどうのリーダー的存在だと思うので、シャインと切磋琢磨して伸びていってくれたらうれしいですね。
ぶどうマニアが脱帽する「偉大なぶどう」「革命的なぶどう」
研究している私でも驚くことがありますが、ぶどうはどんどん新しい品種が出てきますね。
種から育てても、3年から5年もすれば実がなるので、新品種を作りやすいですからね。
#葡萄の家系図、完成しましたー。元画像はかなり大きいのですがTwitterだと縮小されちゃうのかな?桃の家系図と同じくクレジット消さなければご自由にお使い頂けるので、どうぞよろしくお願いしまーす🍇\(^o^)/🍇
— 🍑豊洲市場ドットコム🍣 (@tsukijiichiba) October 28, 2017
協力&応援ありがとうございました! pic.twitter.com/4X0aCGL8fj
今はこんなにたくさんのおいしい品種に囲まれていますが、その裏には偉大な品種・革命的な品種がありました。ここからはそれについて語り、さらに「ぶどう沼」の深みへと行きましょう。お二人が思う「偉大なぶどう」「革命的なぶどう」は何でしょうか?
巨峰が「革命的なぶどう」だと思います。
「偉大なぶどう」は巨峰、「革命的なぶどう」はネオマスカットですね。
わたしも「偉大なぶどう」は林さんと同じで巨峰。「革命的なぶどう」はマスカット・ベーリーAとシャインマスカットの二つです。
3人全員の口から「巨峰」が出ました!
【巨峰】半世紀にわたって日本のぶどう界の中心に立つ
私は、全ての品種は育種者の努力によって作られた偉大な品種だと思っているので、「革命的だ」という点で巨峰を推します。
育成者の大井上康先生の「先見の明」、そして巨峰は現在も多くの大粒品種の親になっているというのが理由です。
- 大井上康(おおいのうえ・やすし)……1892-1952年。大正・昭和期の農業学者、民間育種家。「巨峰」の生みの親として知られる。静岡県に「大井上理農学研究所」を設立し、本格的にぶどうの研究に打ち込んだ。「巨峰」の命名は研究所から見える富士山にちなんだもの。
降雨の多い日本では、ぶどうの栽培はもともと難しかったといいます。ところが、巨峰は栽培特性も良く、適地も多いなど、日本が他の生産国と比べて克服できていなかった部分に風穴を開けた品種だと聞いています。
大井上先生は、ヨーロッパ系の品種とアメリカ系の品種を掛け合わせたら味と栽培性を担保できるのではと考えました。オーストラリアから、ヨーロッパぶどうの「センテニアル」という大粒ぶどうの枝を苦労して輸入されたんですよ。
その苦労のおかげで、今の日本のぶどうがあるんですね。
世界でもかなり特殊な、粒が大きい日本独自のぶどうジャンルを作ったきっかけとなる品種ですよね。
そうですね。大粒のぶどう同士を掛け合わせれば大粒の品種が生まれるだろうという、まさに先見の明が生んだ奇跡です。巨峰をもとにして生まれた品種はいわゆる「巨峰群」と呼ばれていますが、独自の発展を遂げたのは巨峰のおかげですね。
アメリカぶどうとヨーロッパぶどうを掛け合わせるのは今でこそ常識ですが、それを考えたのがすごいです。品種は、はやり廃りがありますが、長きにわたってずーっと真ん中を走ってきたという品種の力もすごいですよね。
巨峰、戦時中生まれの品種ですもんね。いまだにとして生き残っている息の長さも偉大です!
巨峰が発表されたのはいくつか説があるようですが、どちらにせよ生まれてから90年近い歴史がありますね。
90年近くとは……。本当に偉大な品種ですよ。
【ネオマスカット】正当に評価されていない、ぶどう界の「しくじり先生」
続いては林さんが「革命的なぶどう」として挙げた「ネオマスカット」(以下、ネオマス)です。
私がネオマスを選んだ理由は2つあります。一つは、栽培が難しいアレキを日本の環境で育てられるように改良した品種だから。もう一つは、今ある品種の中で、ネオマスがないと生まれてこなかった品種が多いからです。
例えば、シャインのおじいちゃんである「甲斐路」(かいじ)はネオマスの子どもなんです。
「推しぶどう」で名前が出たルーベルやビオレ、アリサやジパングも甲斐路系統なので、ネオマスがなかったら生まれなかった品種ですよね。
それに、ネオマス自体の味もすばらしいのに、正当に評価がされていないと思います。
不遇の品種ですよね。完熟で食べると本当においしいのに。香りもあって。
完熟したネオマスは、アレキと遜色ないですよ。アレキよりちょっと粒は小さいですが、本当においしいです。
ただ、緑ぶどうの宿命で、早く出荷すればするほどお金になるんですが、完熟にならないと味がのらないので消費者にそっぽを向かれてしまう。
緑のぶどうは目で見ても熟しているかいないかが分からないから、かつては未熟でも早くに出荷してしまった農家が数多くいたとか。
巨峰とかの黒いぶどうなら色で見分けがつきますからね。農家も緑の巨峰を売るわけにはいかない。でも、緑ぶどうは販売できる……。
その結果、「ネオマス=すっぱくてまずい品種」というイメージが消費者に残って、人気が一気に落ちてしまったと聞きました。うちの親も「ネオマス? あのまずいやつでしょ」なんて言ってましたから。
本当においしいのに残念です。
シャインの出始めの頃、「ネオマスの二の舞にするな!」というスローガンがあったんです。ネオマスの生産量の落ち込みをグラフにして農家さんに見てもらって、「収穫基準を守ってください」とずっとお願いしていました。今は皆さん、糖度を守って出荷してくれていると思います。
そういうエピソードも込みで食べてほしいですね。
『しくじり先生』みたいですね。俺みたいになるな! って。再評価されてほしい品種の一つです。
【マスカット・ベーリーA】生食もできる、ワイン用にも使える「二刀流」
わたしからは「革命的なぶどう」として2つ挙げさせていただきます。「推しぶどう」で少し話が出ましたが「マスカット・ベーリーA」を。生食もできるし、ワイン用にも使える品種という点で革命的だなと。
古い品種なので、生食用としてはさすがに数を減らしてきましたが、国内の赤ワイン用品種としてはいまだに最もメジャーな品種です。
ベーリーAのすごいところは収量性ですよ。普通、たくさん成らせると色付きが悪くなるんですが、この品種はたわわに実っても色がよくつくという特性があるんです。ベーリーAを育成するまで、育種者の川上善兵衛さんもとても苦労されたと思います。病気にもかなり強いので、いまだに交配に使われています。
- 川上善兵衛(かわかみ・ぜんべえ)……1868-1944年。新潟県上越市の「岩の原葡萄園」の創業者。本格的なワインづくりを追求し続け、「マスカット・ベーリーA」などを世に送り出した。「日本のワインぶどうの父」と呼ばれる。
調べてみると、川上さんは、農家の生活を向上させようとしてこの品種を作ったようなんですよね。「ものすごくおいしい」とか「酒質が飛びぬけてる」わけじゃないけど、たくさん採れて、生食用として出せなかったものはワインにもできる、「この品種を作ればみんなが楽になるんだ」と。
そういう育種者の思想というか、情熱も含めて、すごい品種だなと思います。
兼用種で、今も知名度があるものはこれくらいですよね。巨峰とも通じますが長い間使われて魅力が色あせないのはすごいと思います。
【シャインマスカット】わずか数年で「種なし・皮ごとブーム」を巻き起こす
そして、もう一つ「革命的なぶどう」として「シャインマスカット」を挙げます。
ここまでさんざん話してきましたが、ぶどうの消費量・販売量を押し上げただけでなく、「種なし・皮ごと食べられるぶどう」ブームを巻き起こし、海外ぶどうの輸入量まで大幅に増加した点は革命的だと思います。
輸入ぶどうが増えているんですか?
ちょっと古いデータしかないんですが、シャインの人気が出た2010年ごろからちょうど輸入ぶどうが増えているというデータがあるんです*1。オーストラリアからの輸入が解禁されたという部分も大きいんでしょうが、海外は種なし皮ごと食べるのが基本ですから。
そんな中、皮が食べられず、種もある「レッドグローブ」だけが目立って輸入量が落ちているのは、シャインの人気と無関係ではないのかな、と思っています。
興味深い話ですね。
それに、シャインは世に出てから、わずか数年で一気に市場の中心に行きましたよね。こんな品種は過去に例がありませんよ。例えばピオーネは1957年に生まれていますが、生産が拡大したのは90年代になってからです。普及に30年以上かかっています。
栽培面積も右肩上がりというデータもあります!*2
そう考えると、改めてシャインのすごさが分かってきますよね。
「推しぶどう」の探し方
ここまでで20種類ほどの品種が登場しました。読者の方も一つぐらいは気になるぶどうが見つかったのではないかと思うのですが……自分好みの「推しぶどう」に出会うおすすめの方法はありますか?
何も知らない状況からネットで買うのは難しいと思うんですよ。名前だけ見ても、どんな品種なのか分からないじゃないですか。
ただ「食べ比べセット」といった多品種の詰め合わせ商品も増えているので、そこから好きなものを探してくのもいいと思います。品種ごとに味・香り・食感などの違いがあるので、それが分かると楽しめるようになりますよ。
それでおいしい品種に出会えるならいいですよね。好きな品種が決まったら、次からは指名買いができますし。あとは、ちょっと知らない品種に挑戦してみるとか。
自分なりの思い入れが生産者の方にはあるので、ぶどう園に行ってお話をうかがって、思い入れがあるものを食べてみるのがいいんじゃないでしょうか。
わたしもぶどう園で沼にハマったのでぜひ行ってみてほしいなと思います。同じ地域でも園によって品種の差や農家さんの腕もあるので、2~3軒ハシゴしてみてほしいですね。
消費者にとってはストーリーも大事ですよね。歴史とかエピソードとか、そういった部分から興味を持つこともあります。
「かわいそうなネオマスカットあります!」とかですね。本当に不遇なんですよ。おいしいのに。
そういう説明をしてあげれば、不安も払拭していけるでしょうね。気になって買ってくれる人もいるでしょうし、そこから横の広がりも生まれますよね。「ネオマスと甲斐路の親子セット」とか。
実は、ぶどうの生産額ってこれまで1,000億円前後で、果物の中ではみかんとりんごに次いで第3位だったんです。ところが農水省の統計を見てみたら、最新版ではぶどうが1,700億円で1位になっていました。
これにはかなり驚きましたが、私たちもぶどう業界を盛り上げていきたいですね。
それはすごい!
その一方で生産者としては危惧していることがあって……。実はシャインが人気になって以降、岡山でもアレキがかなり減ってきています。シャインはアレキと比べると、作るのもだいぶ楽ですから。
しかも高く売れるから、畑のぶどうを全部シャインに植え替えた、なんて話も聞いたことがあります。それだけすごい品種ということなんですが……。
個人的には「たくさんいろんなものが食卓にあった方がいい」と思っているんです。
豊かさとは何かと考えたときに、私は「選択肢があること」だと思うんですよね。シャイン一択になってしまうより、色々な品種があった方がいいんじゃないかと。
他の品種が減ってしまうのは、寂しいですよね。
本当にそうですよね。「シャインマスカットだけじゃない」ぶどうの魅力を、研究者・生産者・消費者それぞれの立場で伝えるべく、がんばっていきましょう!
2時間にわたった「天下一ぶどう会」。まだまだ話したりなかったのですが、ぶどうの多様性や奥深さが伝わったでしょうか?
今回紹介できなかったぶどうもいっぱいあります。そして、これからも新たな品種が生まれるのがぶどうの世界。ぶどうマニアとしては変わったものを見つけたらぜひ食べてみてほしいな、と思います。品種との出会いは一期一会ですから。
ぜひ皆さんの「#推しぶどう」も教えてほしいです。
それでは、次回の「天下一ぶどう会」でまたお会いしましょう。
特産フルーツのおいしさを知ってほしい
著者:少年B
直売所巡りとインターネットが大好きなフリーライター。めずらしい野菜や果物を見つけるとテンションが一気に上がるという特徴を持つ。年間10回以上観光ぶどう園に通うぶどうマニアでもあり、愛が高じてとうとうぶどうの同人誌を作ってしまいました。買ってください。Twitter:@raira21
ソレドコでTwitterやってます!
今回紹介した商品
「シャインマスカット」を詳しく見る
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「竜宝」を詳しく見る
「安芸クイーン」を詳しく見る
「ネオマスカット」を詳しく見る
「甲斐路」を詳しく見る
「ぶどうの食べ比べセット」を詳しく見る
*1:農林中金総合研究所「生鮮ぶどうの輸入増加と国内消費」(https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri1905re1.pdf)
*2:農林中金総合研究所「顕著な変化が見られるぶどうの主要品種と輸入」(https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri1807re1.pdf)