ライターの小野洋平と申します。兄はパン屋を営んでいます。
さて、そんなパンだけでなく、お菓子作りの材料や、料理の調味料としても欠かせない冷蔵庫の常備食品「バター」。少し加えるだけでもリッチな味わいにもなることから、時短レシピの味つけに使われることも多い印象があります。
しかし、国内外限らずたくさんのバターがあるものの、その種類や味の違いをきちんと理解している人はそう多くないのでは? 筆者も、結局いつも同じものを選んでしまいがちです。
各バターの特徴や、味の違いを知っていれば、バター生活はもっと充実するはず。そこで今回は、これまで150種類以上のバターを食べてきたという、バターマニアの長尾絢乃さんをお招きして、知っておくとバター選びの選択肢がぐっと広がる基本知識と、使用用途毎に相性のいいお取り寄せバターを教えていただきました。
バターマニア・長尾絢乃さんに聞く、バターの基本
今回、バターに関するあれこれをお聞きするのは、テレビ番組『マツコの知らない世界』(TBS)に「バターマニア」として出演するなど、さまざまなメディアでバターに関する情報を発信されている長尾絢乃さん。
お話を伺った方:長尾絢乃(ながお あやの)さん
主に製菓・製パンの材料を取り扱う株式会社富澤商店でバターなどを取り扱うオンラインショップを担当。観光牧場にて約10年勤務の後、株式会社富澤商店に入社。これまでに食べてきたバターの種類は150種類以上。旅行先では、必ずその土地のご当地バターをチェックするのが習慣になっているとのこと。
長尾さんは、もともと牛が好きだったこともあり、畜産関係の大学に通っていたとのこと。学生時代の実習で訪れた牧場で、初めて搾りたての牛乳のおいしさに感動し、牛乳をはじめとする乳製品全般に愛着を持つようになったのだそう。
さらに、現在の仕事に就いてからいろんな種類のバターを食べる機会が増えたことで、乳製品の中でもバターの奥深さに夢中になっていったとのこと。
この日の取材はオンラインで実施
香りを楽しむなら「発酵バター」。日常使いなら「非発酵バター」を
まずは、バター選びをもっと楽しくするために知っておきたい「基本」について教えていただきます。つい同じものを選んでしまいがちですが、バターは大きく分けて
●発酵バター(有塩 or 食塩不使用)
●非発酵バター(有塩 or 食塩不使用)
に分けられるのだそう。
バターは原料になる生乳を加工して作られるのですが、その際、原料になる生乳に乳酸菌を加えて発酵させて作られるものが「発酵バター」。それ以外のものが「非発酵バター」になります。ヨーロッパなど海外で作られているものは発酵バターが主流ですが、スーパーなどで並ぶ、ナショナルブランドのバターは非発酵バターが多いですね。日本国内では「非発酵バター」が主流のため、通常「バター」というとこの「非発酵バター」のことを指します。
発酵バターは乳酸菌を加えて発酵させているため、ほのかな酸味が感じられるほか、奥行きのある味わいと、豊かな香りが楽しめると思います。イメージとしては、ヨーグルトの味を思い浮かべてください。特にバターの香りを楽しみたい焼菓子などには、発酵バターを使うのがオススメです。発酵バターと比較すると、非発酵バターの方が一般的にクセのない風味と言われています。
「有塩」or「食塩不使用」はお好みで。ただ、お菓子作りなどには食塩不使用タイプがベター
また、発酵バター、非発酵バターの中でも、食塩を加えて作る「有塩バター」、食塩を加えない「食塩不使用バター」があるようですが、使い分けはどうすればいいのでしょうか。
有塩・食塩不使用に関しては好みもありますが、例えば、「材料の計量」が重要になるお菓子作りで有塩バターを使ってしまうと、塩の分量が狂ってしまうので、食塩不使用バターを使うのがベター。一方で、トーストなどでバターを食べる場合は、少し塩分があると味が引き立ちますから有塩バターが良いとされています。調味料として使う場合も、有塩バターの方が使いやすいように思います。
ちなみに、有塩バターの塩の割合(食塩相当量)はメーカーによって異なるため、ぜひ食べ比べて違いを楽しんでほしいですね。ちなみに、一般的なバターの塩分量は約1.5%です。
ただ、私自身は料理で食塩不使用タイプを使うことも多いです。こだわりの岩塩やハーブソルト、マジックソルトなどを振りかけて自分好みの塩気をつくるのも楽しいですよ。
★おさらい★
- 「発酵バター」と「非発酵バター」の違い
- 製造過程で乳酸菌を加え発酵させたものが発酵バター。それ以外は非発酵バター
- 海外では発酵バター、国内ブランドでは非発酵バターが主流
- 有塩タイプ or 食塩不使用タイプの使い分け
- 基本的にはお好みでOK
- ただし、お菓子作りなどには食塩不使用タイプがおすすめ
トースト、炒めもの、そのまま(!?)……。長尾さん厳選! 用途別・推しバター8
バターの基本的な違いは分かったところで、ここからは「バターごとに相性のいい使い方」を日頃考えるという長尾さんに、「トーストと相性◎」「炒めものにはこのバター!」など、用途別のおすすめバターを教えてもらいました。とはいえ、大きく「バター」という点では全て同じようにも思いますが……そんなに違いがあるのでしょうか。
バターは牛の品種や育て方、餌によっても味が変わります。食べ比べていくと、一つひとつ違いがあって、知れば知るほど奥が深いですよ。「このバターの特徴だったら、こういう使い方が合うだろうな」って考えるのも楽しいですね。
トーストをはじめ、炒め物やお菓子作りなどさまざまな用途があるので、バターを使い分けるとより楽しめますし、その料理や食品のおいしさが引き立ちます。
今回は、特徴をイメージしやすくするために長尾さんにそれぞれ「コク度」「塩気度」「香り」の3つの項目で5点満点で点数を付けていただいているので、それらも参考にぜひ自分の好みに合うものを試してみてください。ちなみに、各項目の基準は以下の通り。
筆者も試食しました
それでは早速、用途別のおすすめお取り寄せバターはこちらです!
トーストに塗るなら「香り」or「バランス」が大事
トラピスト修道院 トラピストバター
北海道にある「トラピスト修道院」の製酪工場で作られているトラピストバター。中世由来の伝統製法を駆使した発酵バターで、とにかく香りが良いです。
味自体はすごくはっきりしていて、ミルキー感が引き立っています。バタートーストとして食べると、“バターを食べている”という満足感がありますよ。ちょっと贅沢なトーストを楽しみたい時にもいいですね。食パンだけでなく、ハード系のパンとの相性もバッチリです。
塩気度…★★★
香り…★★★★★
よつ葉乳業株式会社 よつ葉 パンにおいしい よつ葉バター
よつ葉乳業株式会社は北海道の酪農家によって作られた会社ですが、お取り寄せだけでなく、比較的どこでも手に入りやすいブランドかと思います。実は、私が大学時代実習で訪れた牧場が「よつ葉乳業」に生乳を卸している牧場だったんです。いわば、私がバターにハマるきっかけとなった思い出の味ですね。
パンと一緒に楽しむなら、こちらの空気を混ぜ込んだホイップバター「パンにおいしい よつ葉バター」がオススメです。ホイップしているので、滑らかに塗ることができ、従来のバターよりも優しい口溶けが魅力ですね。また、ほどよい塩味とミルクの優しい風味がパンの味をより引き立ててくれます。パンもバターも、両方の味わいをバランスよく楽しみたいときにオススメです。
コク度…★★★★
塩気度…★★★★
香り…★★★★
パンケーキに乗っけるならまろやかな塩気のものを
株式会社佐渡乳業 佐渡バター
佐渡島の農場で育てられた新鮮な牛乳を使い、バターチャーン製法(※)という伝統的な製法で作られた「佐渡バター」はコクが強く、塩分は控えめ。食塩不使用タイプのものもありますが、有塩タイプのものはミネラル豊富な佐渡海洋深層水塩を使用しており、優しくまろやかな味が特徴ですね。
そのため、パンケーキに乗せるとメープルシロップやはちみつとうまく混ざり合い、甘さを引き立ててくれます。佐渡島産のバターは、あまり知られていないですし、少量生産のためとても貴重。機会があれば一度は召し上がっていただきたいバターです。
コク度…★★★★★
塩気度…★★★
香り…★★★★
※バターチャーン製法……「チャーン」と呼ばれる昔ながらの伝統的な装置を使った製法。自動ではなく、職人が操作しながら作るため通常よりも手間がかかる製法
炒めものに使うなら「バランス」感を意識
大山乳業農業協同組合 大山バター
鳥取県産の生乳(白バラ牛乳)を使用し、バターチャーン製法で丹念に練り上げたバターです。
塩気はきちんと感じるのですが、炒めものに使うと塩っ気が際立ち過ぎず、バターならではのマイルドな味にまとめてくれます。食材になじみやすい、まろやかな香りも魅力。個人的には、これを使ったほうれん草のソテーがおいしかったです。バランスのいい、万能タイプのバターだと思います。
コク度…★★★★★
塩気度…★★★★
香り…★★★
パン作りの材料にするなら素材の味を引き立ててくれるバターが◎
よつ葉乳業株式会社 よつ葉バター 食塩不使用
※写真は150gサイズのもの
先ほどのホイップバター同様「よつ葉バター」は、食材の味を邪魔せず、さらにおいしくしてくれます。特に、手作りパンの材料として焼き上げた時の相性は抜群。私はシンプルなパンを焼くときは必ずこちらを使います。こだわりの小麦粉を使ったり、パンの中にくるみやレーズンを入れたりしても、ちゃんとまわりの材料の味わいを引き立てる優れものです。
お値段もリーズナブルなので、パン作りにはもちろんですが、こだわりのバターデビューしたい方にはうってつけかと思います。
コク度…★★★★
塩気度…(食塩不使用タイプのためなし)
香り…★★★★
焼き菓子作りの材料にするなら発酵バターの「香り」がピッタリ!
南日本酪農協同株式会社 高千穂 発酵バター
※写真は「高千穂 食塩不使用バター」
九州で生産された生乳を原料に、数種類の乳酸菌を用いて発酵させた風味豊かなバターです。しっかりしたコクと、スッキリした味わいが売りですね。
お菓子づくりに使うと、オーブンで焼き上げた時の香りがたまりません。焼いている時の香りだけでもよだれが出ますよ(笑)。私はクッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子には、必ず「高千穂 発酵バター」を使っています。
コク度…★★★★★
塩気度…(食塩不使用タイプなのでなし)
香り…★★★★★
究極!? そのまま食べるなら……
なかほら牧場 なかほら牧場のピュアグラスフェッド バター
そのまま食べるって、ちょっとびっくりしてしまうかと思いますが、おやつのような感覚で、一度ぜひスプーンに乗せて味わってみてほしいです。
その中でも、こちらのピュアグラスフェッド バターはぜひ一度試していただきたい! 食べてみると分かるのですが、ミルク感が強く「バターっぽくないバター」なんです。
なかほら牧場の乳牛は牛舎ではなく、山で放牧させて育てているんです。牛本来の主食である草を食べさせることで「βカロテン」などの成分がミルクに移り、黄味がかった乳白色になっているのが特徴。
また、バターならではの香りが口いっぱいに広がります。バターコーヒーにしてもおいしいですよ。
写真上がピュアグラスフェッド バター。たしかに、色が濃い!
コク度…★★★★★
塩気度…(食塩不使用タイプのためなし)
香り…★★★★
エシレ エシレ バター(有塩/食塩不使用)
※写真は食塩不使用タイプ
今回、唯一の外国産バターで、世界各国のロイヤルファミリーや三ツ星シェフにも愛用されている高級品です。私も家族にバレないようにこっそりと、少しずつ味わっています(笑)。
フランスのバターは日本のものよりも香りが独特な印象で、一味違うミルキーさも感じられます。発酵バター特有の香りも抜群ですし、バターの味を壊さないギリギリの塩加減も絶妙なんです。自分にご褒美をあげたいときは、エシレバターに決まりです。そのまま食べる、という点では有塩タイプの塩っ気もおいしいのですが、食塩不使用バターのミルキーさもぜひ一度そのまま食べて味わっていただきたいですね。
コク度…★★★★
塩気度…★★★★★
香り…★★★★★
おいしいバターをおいしいままで。保存方法のすすめ
お気に入りのバターに出会ったら、できることならそのおいしさをずっとキープさせたいものです。長尾さんが実践しているバターの保存方法を教えてもらいました。
すぐ使うもの以外は冷凍保存1カ月程度を目安に使い切りましょう。ずっと入れていると冷凍庫の匂いが移ってしまいます。それと、賞味期限は未開封の状態での期限になるため、一度開けてしまったら早めに食べる方がおいしくいただけますよ。
それと、商品によっては使用していないものもありますが、バターを包んでいる銀紙って水分が飛びやすいんです。また、使っていく内に破れてきて、そこから空気に触れて劣化が進んでしまうため、冷蔵の際はできればバターケースを使うのをおすすめしたいです。特に私がオススメしたいのが、木のバターケース。まわりからの温度の影響を受けづらく、一定の温度を保ってくれる利点があります。
ちなみにわが家では、日常使いとして450gの大きい業務用サイズの食塩不使用バターを購入することが多いので、まず4分割にカットし、1つはバターケースに入れて冷蔵庫へ、もう1つは薄くスライスした後、ラップに包んで冷凍で保存しています。そして、残りの2つはダイス状にカットし、チャック付きの袋に入れて冷凍保存することが多いです。
スライス状はトーストなどに乗っける用。ダイス状はパンやお菓子作りに便利です。小さいダイス状にしておくと計量もしやすく、分量を調節しやすいのでオススメです。
★バターの保存方法おさらい★
- すぐ使うもの以外は「冷凍保存」がおすすめ
- 冷凍保存でも1カ月程度を目安に使い切ろう
- 冷蔵する場合は「バターケース」を使っておいしさをキープ
試食中の筆者
「バターってどれも同じでしょ」と思っていた筆者。でも、お話を伺い、実際に試食してみると本当に味が違いました(特に「そのまま食べる」でオススメされた、なかほら牧場のピュアグラスフェッド バターは、いい意味でバターっぽくなく、デザート感覚でいけました)。
いつも同じものを選んでしまいがちだけど、用途ごとに数種類をストックしておくことで、食の楽しみがぐっと広がりそうです。いろいろと試して、お気に入りを見つけたくなりました。
撮影/小野奈那子
著者:小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれの埼玉育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。最近は浅草地下街にハマっています。
Twitter:@onoberkon
やじろべえ:https://www.yajirobe.me/