こんにちは、梅津有希子です。だし愛好家として活動しているライターです。
私は昆布だしを使い始めてもう8年。昆布だしがない生活なんて考えられないほど「だし生活」にハマっています。
昆布だしは、とるのに少しだけ手間がかかりますが、何といってもとてもおいしいんです。でも、話を聞くと料理好きな人でも、昆布の種類やそれぞれの特徴まで詳しく知っていて、だしをとっている人はあまりいません。
昆布を知って、昆布だしを上手に活用すれば料理が格段にランクアップするのにもったいない! もっと知ってもらいたい!
実は、丁寧にだしをとっているつもりでも、使っている昆布の種類によってはだしがあまり出ないことも。特に関東でメジャーな「日高昆布」は、だし用途よりもおでんなど食べる用途の方が適しているんです。
そこで、今回は「昆布だしをとれば料理はもっとおいしくなる〜私たちは本当の昆布だしを知らない〜」をテーマに「昆布だしのプロ」にお話をお聞きしました。
昆布の種類から昆布だしを使ったおすすめ料理、おいしい昆布だしをとる方法まで、読んだらきっと昆布だしをとりたくなること間違いなしです。
それに、同じ昆布だしでも昆布の種類が違えば味わいが全く違って面白いんですよ。皆さんもぜひ、「昆布だしの世界」にハマってみてください。
<もくじ>
- 1781年創業、大阪の昆布の老舗「神宗(かんそう)」の9代目社長。関西人にとっては「塩昆布の名店」として名高い神宗は、社を挙げて昆布をはじめとした「だし文化」の普及に努めている。小山さんも自ら、全国各地の「だし教室」などに登壇している。
- Instagram:@kansou_osaka_official
はじめまして。だしが大好きな、ライターの梅津と申します。
はじめまして。「神宗」の小山です。『だし生活、はじめました。』の梅津さんですよね。以前から存じ上げていて、本も拝読していました!
えぇぇ! 本当ですか! とてもうれしいです。この本は、昆布やかつお節でだしをとることに、「面倒」「なんか難しそう」という先入観があった私が、日々、息を吸うようにだしをとるようになるまでの成長記録です。好きが高じて、今では“だし愛好家”としても活動しています。
まさにだし生活を始める前の梅津さんのように、だしをとることに慣れていないような人にもっと昆布だしのおいしさを知ってほしい! というのが私のミッションで、そのためにだしの研究や、全国各地での「だし教室」やセミナー開催など、いろいろな活動をしています。
小山さんはだし教室では自ら講師もされているそうですね。今回のテーマに、これ以上ないくらいふさわしい方です!
昆布にも向き不向きがある。だしをとるのに最適な3種を解説
昆布の中でも「羅臼」「真昆布」「利尻」がだしに◎
ところで、昆布にはどんな種類があるのか、あらためて教えていただけますか?
日本にはだいたいこのような昆布があります。国内の昆布の90%は北海道産で、場所によって採れる種類が違います。
- 利尻昆布
- 羅臼昆布
- 真昆布
- 日高昆布
- 長昆布
- 細目昆布
- がごめ昆布
この中でもだしをとるのに適した昆布はこの3種類で、「三大昆布」「高級昆布」と呼ばれていますよ。
- 利尻昆布(りしりこんぶ)
- 【場所】利尻島や礼文島、稚内市沿岸など北の方で採れる
- 【特徴】色がきれいで、香りがいい
- 【価格】高級
- 羅臼昆布(らうすこんぶ)
- 【場所】知床半島の羅臼町で採れる
- 【特徴】やわらかくて、うま味が濃い
- 【価格】高級
- 真昆布(まこんぶ)
- 【場所】南の函館市近辺で採れる
- 【特徴】甘味がある
- 【価格】天然は高級。真昆布は天然よりも価格の安い養殖が盛んなため、平均単価は下がる
また、昆布には産地とは別に、天然と養殖があります。
- 天然昆布
- 天然昆布は全体的に減っている
- 利尻昆布は天然の方が多い
- 養殖昆布
- 1年養殖、2年養殖がある。出回っているのは1年養殖が多い
- 真昆布は9割以上が養殖、羅臼昆布は天然と養殖が半々くらい
どんな特徴がある? 昆布の味の違いを解説
初心者におすすめは、うま味の濃い「羅臼」
まず初心者はどの昆布から試したらいいでしょうか?
3大昆布は全ておすすめですが、今は物量自体が減って、手に入りにくくなっています。その中では、うま味の濃い羅臼がおすすめですね。「だし教室」では飲み比べをしていますが一番人気です。
羅臼はうま味成分のグルタミン酸が一番多く含まれており、他の昆布に比べて塩分も多めなので、味付けが昆布の塩分である程度済み、調味料も少なくて済みます。
すごく分かります! 私は普段は真昆布をよく使うのですが、たまに羅臼でだしをとると、「おっ! 濃厚だな〜」と感じますね。
昆布のうま味がガツンとくるので、初心者にも「昆布だしって、こんな味なんだ!」「これがうま味なんだ!」ということがよく分かると思います。
だし汁が濁るというデメリットもありますが……。
みそ汁や煮物に使えば全く問題ありませんね(笑)。
羅臼は、真昆布や利尻よりもやわらかいので、他のものより早く、15分程度でだしが出ます。
甘味がある「真昆布」、香りがいい「利尻」
ほかの2つの昆布の特徴も教えてください。
家庭向けには真昆布もいいですよ。味としても、甘味があって分かりやすいですね。
真昆布はバランスがよくて使いやすいですよね。私も普段よく使うのは真昆布です。
真昆布はクセがなく甘みがあるので、誰からも愛される味ですね。
3つとも高級ではあるんですが、この中だと真昆布が一番手に取りやすい価格ですよね。
そうですね、毎日使うとなるとやはり価格も大事ですが、真昆布は一番生活に取り入れやすいかもしれないですね。
利尻は色がきれいですっきり、香りがいい。海藻臭くなくて、塩気が若干あります。
たまに利尻でだしをとると、透き通っていて香りもよく、きれいなだしだなあと思います。おいしいお吸い物が飲みたいときに、「今日はぜいたくに利尻でだしをとっちゃおう」と考えるだけでワクワクします。
天然の利尻はだしをとるのに1時間くらいかかりますが、おいしいですよ。我が家では真昆布と利尻を使い分けています。
違いが分かってくると、自分の好みに合わせて昆布だしをとってみようかな、という気になりますね。
- 利尻昆布
- 香りがいい、塩分少なめ
- 羅臼昆布
- うま味が濃く、塩分多め(その分、調味料が少なくて済む)
- 真昆布
- 甘味がある、クセがない
だしよりも、食べるのに向いている「日高昆布」
私が住んでいる東京では、「日高昆布(ひだかこんぶ)」を見かけることが多いです。
日高昆布は採れる量が多いんですよね。主に関東方面で流通していますが、関西人の間では「だしをとるのにはあまり使わない」と言われている昆布です。
でも、日高昆布のパッケージを見ると、「だしをとるほか、おでんや煮物にして食べてもおいしい」と書かれていることが多くないですか?
日高昆布は、だしはあまり出ませんが、やわらかいため、おでんや煮物など、食べる昆布として最適です。
だしをとるときは、昆布の硬さを知ることが重要なんです。利尻や真昆布はよいだしがとれますが、硬いのでしっかり時間をかけないと、おいしいだしがとれません。
私も自分でだしをとるようになるまで、冬によく作る寄せ鍋のときに、なんとなく昆布を1枚入れたりしていたんですけど、だしが出ているのかどうなのか、正直よく分からなかったんです。
「ぽん酢で食べるから、昆布だしのうま味がよく分からないのかな」と思っていたんですけど、今思えば、スーパーの一番安い日高昆布だったから、あまりだしが出ていなかったのかも……。昆布のことを調べるうちに、日高昆布にもさまざまなグレードがあることを知りました。質のいい日高昆布は、専門店に並ぶことが多いようですね。
和食だけじゃない! 昆布だし「沼人」の使い方
小山さんのおすすめの使い方はありますか?
ミネストローネを昆布だしで作るのがおすすめです。具に鶏肉を入れるなどして、食材からもうま味をプラスして。
昆布だしは、スープやみそ汁、麺類のつゆなど、汁物のグレードが格段にアップしますね。
「昆布だしのミネストローネ」、私もよく作ります! だし生活を始めるまでは、ミネストローネといえば顆粒のチキンブイヨンやキューブ状のコンソメを必ず入れていたのですが、昆布、トマト、鶏肉、きのこなどで十分うま味が感じられますよね。
昆布だしは、和食だけではなく、どんな料理でも味の土台になりますからね。
本当にそう思います。
ベースに昆布だしを使うとコンソメやブイヨンの量も減らせるし、鶏肉や野菜などの食材からの味も出ますからね。ブイヨンは、ほとんどが塩とうま味成分なので、何でもブイヨンの味になってしまいがちですから。
アクアパッツァも昆布だしでぜひ。昆布は表には出ないですけど、料理をランクアップしてくれるのがいいところなんです。
それと、市販のおでんに昆布を一晩入れておくだけで、さらにおいしくなりますよ!
市販のしょうゆに昆布を入れて、「自家製だししょうゆ」を作るのもおすすめです。
昆布に市販のしょうゆを注ぐ(写真提供:神宗)
自家製だししょうゆが完成(写真提供:神宗)
市販のめんつゆも、昆布を入れると別物のようになります。格段においしくなります。
昆布を入れた自家製だししょうゆに挑戦したことがありますが、うま味がしっかりきいておいしかったです。「自家製めんつゆ」はどうやって作っていますか?
私がおすすめしているのは、
- しょうゆ:1
- みりん:1
- だし:4〜5
の割合。甘味も塩分も増えて、冷蔵庫で1週間くらい保存できます。
料理に使うめんつゆはこれでよいですが、そうめんなどのめんつゆを作るときは、これに追いがつおをおすすめします。めんつゆ500㏄に追いがつお2g程度で再度沸騰させ冷やすと、風味、香り、味、全て格段においしさが上がります。
5年かけて到達「おいしい昆布だしをとる方法」
ところで、昆布だしのとり方にはいろいろな方法がありますが、梅津さんはどのような方法でとっていますか?
私は麦茶ポットに水と昆布を入れて、冷蔵庫で一晩から二晩置く「水出し」が多いです。料理を作るためにだしをとるのではなく、冷蔵庫に切らさず常備しておくと、「あー、だしがなかった!」ということもありませんので。
ポットの昆布だしが残り少なくなってきたら、他の保存容器に移し替えて、またポットいっぱいの昆布だしを仕込むというサイクルを8年続けています。
なるほど。水出しもうま味成分がしっかり出て、すっきりしていてそれはそれでおいしいですけれど、もっと昆布らしさを出したいときは、使用するときに
- ポットから使用する分の「水出し昆布だし」を鍋に移す
- ポットの中に入っている(残っている)昆布を一部、鍋に入れる
- 5分くらい火にかける
このように、昆布を入れたまま火にかけるだけで、さらにおいしくなりますよ! 全然違います。
へえ〜!! それくらいならできそう。さっそくやってみます! 他にもおすすめのとり方はありますか?
辻調理師専門学校さんや大学などと5年くらい昆布だしの研究をしていまして、おいしい昆布だしをとるには、
- 60℃のお湯に昆布を入れて1時間待つ
- 80℃のお湯に昆布を入れて30分待つ
という2パターンの結論に行き着きました。ただ、いかんせん温度キープが難しい……。
とある乾物屋さんのポスターでそれに近い方法を見かけて試してみたことがありますが、鍋に水と昆布と温度計を入れて火にかけるまではいいんですけど、温度をキープするのがめちゃくちゃ難しい!
「65℃! 高過ぎる!」「あー! 今度は下がり過ぎ!」などと、一人でわーわー言いながら、ひたすら温度をキープ(笑)。できあがったおだしは確かにおいしかったんですけど、この方法ではとても続けられないと断念しました。
まったくその通りで(笑)。そこで、私が推奨しているやり方は、
- ボウルに100℃のお湯と昆布を入れて、ラップをして30分待つ
ボウルに100℃のお湯と昆布を入れる(写真提供:神宗)
ラップをする(写真提供:神宗)
30分待てばだしがとれる(写真提供:神宗)
という方法です。お湯と昆布の割合は1%程度でいいと思いますので、1リットルに10gくらいですね。昆布のだしが出る温度帯は、50℃以上が圧倒的。この方法だと、50℃以上を30分はキープできますので。
なるほどー! この方法なら30分測るだけなので、失敗なくできそうです。つくづく昆布って、だしのとり方もさまざまですし、いろいろな使い方ができて、本当に奥が深いなあと思います。
最後に聞きたいのですが、昆布の「だし殻」はどうされていますか?
私はそのまま煮物や汁物に入れて炊き、2番だしのような使い方をしています。
1回目でしっかりだしが引けていれば、残念ながら2回目はほとんどとれません。2番だしは大量に昆布だしを使う料理屋さんの文化で、家庭では難しいかも知れません。
なので、煮物などにだし殻の昆布を入れ一緒に炊いて、風味を出すぐらいの使い方がちょうどよいと思います。
私は、キッチンバサミで細切りにして、豚肉と一緒に炒めて食べることが多いです。鍋やスープなどの汁物のときは、そのまま食べちゃいますね。
でも、「残さず全て食べなくては」とは決して思ってはいなくて、頻繁にだしをとると、だし殻が貯まるのは当たり前。一時期は冷凍したりもしていますが、冷凍昆布も増える一方(笑)。
なので、「おいしいおだしをありがとう」と感謝しながら、潔く処分することもしょっちゅうです。
「だし殻を捨てるのが嫌で、だしをとる気になれない」という人もいますけど、それでだしをとらないのはもったいないですよね。ぜひ一度昆布だしをとって味わってみてほしいです。
3種類の「昆布だし」飲み比べてみました
今回、小山さんに教えていただいた方法&おすすめの昆布でだしをとり、あらためて飲み比べてみました。
まずは羅臼から。おお、これは濃厚……!! しっかりと濃いうま味が抽出されていて、かつほどよい塩分があります。
熱々のおだしに乾燥わかめを入れるだけで、インスタント感覚でお吸い物が完成。昆布だし初心者にも、うま味がはっきりと分かると思います。
次は利尻。なんというクリアさ。透明でにごりがなく、とても美しいおだしです。
すっきりとしたうま味で、京都の料理人に愛されているのもうなずけます。きれい〜!
最後は真昆布。しっかりとしたうま味がありながら、羅臼、利尻と飲み比べてみるとやや甘みも感じます。
おみそ汁や湯豆腐、ポトフなど何にでも使いやすい万能な昆布だしです。価格もお手頃で、現在わが家でもっとも出番の多い昆布です。
数年前、まだ昆布初心者だった頃にも飲み比べをしたことがあるのですが、小山さんのお話を聞いてから飲んでみると、また違った感想を持ちました。
初心者のときは、「羅臼は濃い」「利尻は色がクリア」くらいしか分かりませんでしたが、今回小山さんのお話を聞いてから飲み比べてみると、真昆布の甘さなど、それぞれの違いや特徴がよく分かりました。
どの昆布も、だしだけ単体で飲んでもおいしく、「どの昆布を選べばいいのか分からない」という人は、一度飲み比べてみるのも楽しいですよ。
まとめ
昆布の飲み比べを終えて、後日、小山さんに報告してきました。
小山さんに教わった方法でとった昆布だし、いつもよりもおいしく感じました! こんなに簡単なら初めて昆布だしをとる人も続けられるんじゃないかって思います。
小山さんは各地で「だし教室」を開催されていますよね。昆布だしの良さを知ってもらうためにはやっぱり体験してもらうのが一番ですよね。
そう思っています。大人向けだけではなく、幼児や小学生向けの教室も行っているのですが、子どもの反応はすごいですね。「めちゃくちゃおいしい!」と言います。
我々としても、中途半端なものを飲ませても感動しないと思うので、最高級の素材で本物のだしをとります。そうしないと“おだし体験”にならない。
「これだけ感動するだしがとれる」と体験して、知っておくだけでもいいと思うんです。そのうちの何割かの子が大人になったときに、この体験を思い出してだしをとってくれるようになるといいなと思っています。
わが家のだし生活が続いているのは、単純に「おいしいから」なんですよね。子どもの頃に昆布だしのおいしさを味わえるのはうらやましいなあ。素敵な取り組みだと思います。
そう言っていただけるとうれしいです。天然素材でしか完成しない味があるんです。自分はその味が好きでおいしいと思っていて、毎日だしをとり、料理しています。
これからも「だしをとると、間違いなくおいしい」ということを伝えていきます
「だしをとると、おいしい」。私も、シンプルにそう思います。昆布だしのおいしさを知らないなんてもったいない! 逆にいうと、昆布があればなんとかなる。簡単においしいものが作れます。
小山さん、今回は昆布の魅力があらためてよく分かりました。私もこれからもずっと、だし生活を続けていきたいと思います! ありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!
スープや煮物、鍋、炊き込みごはんなど、さまざまな料理のベースにもなり、和食以外にもいろいろ使える昆布だし。
私はだし生活を始めてから料理がおいしくなったと実感しています。それに、自然と塩分が控えめになっていて、体にいい気がします。
本当に自分でとったらおいしい昆布だし。食生活も豊かになるので、皆さんもチャレンジしてみませんか?
料理のプロに選び方を聞く
著者:梅津有希子
編集者・ライター、だし愛好家。北海道出身。著書『だし生活、はじめました。』(祥伝社黄金文庫)では、昆布やかつお、煮干しだしなど、さまざまな実験の末にたどり着いた、挫折しないだしのとり方や、だしのある暮らしの素晴らしさを熱く解説。『世界一簡単なだし生活。』(祥伝社黄金文庫)では、「だしむすび」「あごだし湯豆腐」「だしフレンチトースト」など、うま味たっぷりの簡単だしレシピを紹介する。公式サイト:http://umetsuyukiko.com/
Twitter:@y_umetsu
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